ゴンサレス・ビアス(González Byass)は、スペインアンダルシア州カディス県に拠点をおくシェリー生産者(ワイナリー)。代表銘柄の「ティオ・ペペ」で知られている[1]。日本への輸入元はメルシャンキリン)であり[2]、メルシャンはスペイン語姓であるGonzálezも英語読みしたゴンザレス・ビアスと表記している。

ゴンサレス・ビアス
業種 食品業(ワイナリー
設立 1835年
本社 アンダルシア州カディス県
製品 ワイン
ウェブサイト 公式サイト

歴史 編集

1835年、23歳だったマヌエル・マリーア・ゴンサーレス・アンヘルによってワイナリーが設立された[2][3]。叔父のホセ・アンヘル・デ・ラ・ペーニャ(ペペ叔父さん)はシェリーの利き酒の名手であり、若い甥にワイナリー設立の助言を与えた[3]。初年度の輸出量は10樽程度だったが、3年後には819樽にまで増加させた[3]。19世紀半ばにはイギリス人ワイン販売代理業者のロバート・ブレイク・ビアスを共同経営者に迎え、ゴンサーレス家とビアス家の姓をとってゴンサレス・ビアス社となった[2]

ペペ叔父さんは辛口のフィノを愛好しており、自分が飲むためのフィノを自ら熟成し、樽には「ティオ・ペペ」(ペペ叔父さん専用樽)と書いていた[2][4]。1844年に試験的に「ティオ・ペペ」をイギリスに出荷したところ大好評を得て、やがて世界的なベストセラーとなった[2]。1837年に立ち上げられた「ティオ・ペペ」用のソレラ熟成システムは現在まで途切れることなく続いている。

19世紀半ばにはメディナセリ公爵から300年以上前に造られた桜材の樽を16個購入し、この桜材の樽はアモンティリャード「デル・デュケ」のソレラ熟成システムの基となった[2]。1862年には女王イサベル2世がヘレスを訪れ、ゴンサレス・ビアス社はスペイン王室御用達のシェリー生産者となった[3]。1870年頃には樽数が10,000樽を超え、ヘレス最大のシェリー生産者としての地位を確立した[3]

マヌエル・クリスプロ・ゴンサーレス・イ・ソト英語版などの第2世代は事業内容を拡張した[5]。ゴンサーレス家は1988年に単独での支配権を得た。

ゴンサーレス家はシェリーの生産だけでなく、イギリスのスポーツであるポロの導入、スペイン初の芝面のテニスコート導入、植物栽培におけるスペイン初の電気照明と流水設備導入、スペイン初の鉄道敷設計画など、スペインの様々な工業・文化革新に関与した。1862年に女王イサベル2世がワイナリーを訪問した際には、ギュスターヴ・エッフェルの設計によるラ・コンチャ(貝殻)と呼ばれるワイナリーが建設された。このワイナリーの周囲にはすべての輸出国の国旗が入った樽が飾られている[2]

アンダルシア州カディス県サンルーカル・デ・バラメダにある本社は、キリスト教徒の大聖堂とイスラーム教徒のアルカサルに隣接している[2]。1963年には本社の敷地内に、3階建てで28,000樽を収容する巨大な「ティオ・ペペ」用のワイナリーを建設した。このワイナリーの屋根には、稼働中のものとしては世界最大の風向計が立っている。1972年には80,000樽を収容する「ラス・コパス」と呼ばれる別のワイナリーを建設した。

1982年にはスペイン最高の赤ワイン産地であるリオハ地方に進出し、ボデガス・ベロニア社を傘下に収め、スティルワインの製造にも乗り出した[3]。1997年にはボルドー・メドック地区シャトー・マルゴーで醸造責任者を務めていたポール・ポンタリエをボデガス・ベロニアの醸造アドバイザーに迎えた[3]。1998年にはビアス家がゴンサレス・ビアス社の経営から撤退したが、社名は変更していない。

現在のゴンサレス・ビアス社はゴンサーレス家の第4世代と第5世代によって運営されており、マウリシオ・ゴンサーレス=ゴードン・イ・ディエス英語版などが経営を担っている[5]。2004年にはグルーポ・ビップスと手を組み、マドリードに「ティオ・ペペ」という名称のレストランを8店舗開店させたが、2011年までには閉店している。2006年にはラ・マンチャ地方にワイナリーを設立し、最新設備でスティルワインの「アルトサーノ」シリーズ(赤/白)を生産している[3]。2008年にはビーニャス・デル・ベロという著名なワイナリーを買収した。

広告 編集

スペイン第二共和政下の1935年、マドリードのプエルタ・デル・ソル広場に面した建物に、ソンブレロ(山高帽)を身につけてギターを抱えた男が描かれた「ティオ・ペペ」の看板が導入された。この看板は広場の象徴的存在となり、2011年に建物の改装の際にいったん外されたが、その後この建物をApple社が買収し、完全に撤去することを決定した[6]。看板の撤去を行わないよう求める50,000筆以上のオンライン署名が集まり、ゴンサレス・ビアス社は建物の所有者と交渉した結果、広場に面してはいるが約130m離れた別の建物の屋上に看板を設置することを決定した[6]。約80年前の看板と比べてスリム化・軽量化が図られ、2014年に再設置がなされた[6]

ゴンサレス・ビアス社のワイナリーに保管されているシェリー樽には、ウィンストン・チャーチル(イギリス首相)[3]フアン・カルロス1世(スペイン国王)、アイルトン・セナ(F1ドライバー)、皇太子徳仁親王(日本国皇太子)など、各界の著名人が訪問した際にサインを残している。ゴンサレス・ビアス社はワイナリーを一般に公開しており、連日見学者で大盛況となる[7]。ゴンサレス・ビアス社のワイナリーはフランスのシャトーなどとは異なって宮殿風である[7]

商品 編集

シェリーはソレラ熟成システムと呼ばれるシェリー独特の熟成方法を用いるため、一般的には様々な年度のシェリーをブレンドしたものが出荷されるが、ゴンサレス・ビアス社は単一醸造年度のワインを樽熟成させたヴィンテージ・シェリーも販売している[8]。ラ・マンチャ地方のワイナリーからはスティルワインの「アルトサーノ」シリーズを生産している。

ティオ・ペペ 編集

代表的なシェリーの銘柄としてフィノの「ティオ・ペペ」があり[6][9]パロミノ種から生産される「ティオ・ペペ」は辛口シェリーの代名詞的存在である[10]。「ティオ・ペペ」とは「ペペおじさん」の意であり、創業者のおじの名前が由来である[5]

「ティオ・ペペ」は1888年4月4日に商標登録されているが、スペインで初めて登録された商標である[4]。スペイン人の80%が認知しているブランドであり、辛口シェリーでは販売額トップを誇る[4]。は食事とともに提供される辛口シェリーとしての地位を確立しており、日本人では吉田茂(政治家)や松田優作(俳優)が愛飲していた[11]

主要な銘柄 編集

  • ティオ・ペペ(フィノ)
  • デル・デュケ(アモンティリャード)
  • エル・ロシオ(マンサニーリャ)
  • アルフォンソ(オロロソ)
  • ソレラ1847(クリーム)
  • サン・ドミンゴ(ペイル・クリーム)
  • ノエ(ペドロ・ヒメネス)
  • アルトサーノ(スティルワイン、赤/白)

受賞 編集

2010年の国際ワイン&スピリッツ競技会英語版では年間最優秀ワイン生産者に選ばれた[12]。2014年の国際ワインツーリズム賞では最優秀ビジターセンターに選ばれた[13]

脚注 編集

  1. ^ Kissack, Chris. “Gonzalez Byass”. 2012年8月16日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 明比淑子 2003, pp. 96–97.
  3. ^ a b c d e f g h i ゴンザレス・ビアス社の歴史 キリン
  4. ^ a b c ドライシェリーの代名詞「ティオ・ペペ」 キリン
  5. ^ a b c Juan Pedro Simó (2010年7月5日). “175 años de constancia” (Spanish). El Diario de Jerez. 2014年5月8日閲覧。
  6. ^ a b c d Iconic Tío Pepe sign is returned to Madrid’s Puerta del Sol El País, 2014年4月22日
  7. ^ a b 鈴木孝寿 2004, pp. 144–147.
  8. ^ 中瀬航也 2003, pp. 84–86.
  9. ^ Up to 20 people worked in the final touches to put the advertisement in place on the top of number 11, Puerta del Sol, with the help of a crane Euro Weekly News
  10. ^ 中瀬航也 2003, p. 194.
  11. ^ 中瀬航也 2003, pp. 194–244.
  12. ^ González Byass gana el galardón a la mejor bodega del mundo Diario de Jerez (スペイン語)
  13. ^ Wine Tourism Awards Drinksint

参考文献 編集

  • 明比淑子『シェリー、ポート、マデイラの本』小学館、2003年。 
  • 鈴木孝寿『スペイン・ワインの愉しみ』新評論、2004年。 
  • 中瀬航也『シェリー酒: 知られざるスペイン・ワイン』PHP研究所〈PHPエル新書〉、2003年。 
  • 中瀬航也『Sherry - Unfolding the Mystery of Wine Cultur』(株)志學社、2017年。 

外部リンク 編集