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サクラエビ(桜海老、学名:Lucensosergia lucens)はサクラエビ科に属するエビの一種。深海に生息する小型のエビである。

サクラエビ
Sergia lucens by OpenCage.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 軟甲綱 Malacostraca
: 十脚目 Decapoda
亜目 : 根鰓亜目 Dendrobranchiata
: サクラエビ科 Sergestidae
: Lucensosergia
: サクラエビ
L. lucens
学名
Lucensosergia lucens
(Hansen1922)[1]
シノニム
英名
Sakura shrimp[2]
さくらえび 素干し[3]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 1,305 kJ (312 kcal)
0.1 g
4.0 g
飽和脂肪酸 0.59 g
一価不飽和 0.63 g
多価不飽和 0.75 g
64.9 g
ビタミン
チアミン (B1)
(15%)
0.17 mg
リボフラビン (B2)
(13%)
0.15 mg
ナイアシン (B3)
(37%)
5.5 mg
パントテン酸 (B5)
(23%)
1.16 mg
ビタミンB6
(16%)
0.21 mg
葉酸 (B9)
(58%)
230 μg
ビタミンB12
(458%)
11.0 μg
ビタミンE
(48%)
7.2 mg
ミネラル
ナトリウム
(80%)
1200 mg
カリウム
(26%)
1200 mg
カルシウム
(200%)
2000 mg
マグネシウム
(87%)
310 mg
リン
(171%)
1200 mg
鉄分
(25%)
3.2 mg
亜鉛
(52%)
4.9 mg
(167%)
3.34 mg
他の成分
水分 19.4 g
コレステロール 700 mg

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[4]。殻つき
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

目次

特徴編集

成体体長40mm前後。体は透明だがい色素を多く保持し、生体は透き通ったピンク色に見える。「海老」の和名はここに由来する。2対の触角のうち第2触角は体長以上の長さがあるが、額角は短い。5対の歩脚のうち、第2・第3歩脚が鋏脚に変化し、第4・第5歩脚が短い。体表には約160個の発光器が並んでいる。発光器(とされていた器官)がじっさいに光を放つことは未確認であったが[5]ストロボを当てるなどの刺激による微弱な発光の測定に成功している[6]

産卵期は5月から11月[7]で、メス交尾後に800 - 2300個程[7]を水深20-50m[7]海中に放出する。寿命は15ヶ月ほどで、孵化後1年で成熟し、産卵後2-3ヶ月でぬとされる[8]

シラエビ Pasiphaea japonica は外見・生態・利用法までサクラエビに似るが、エビの分類上では全く別の系統に分けられる。

分布編集

日本では駿河湾および近接の東京湾相模灘五島列島沖に分布するが、漁獲対象となっているのは駿河湾のみである[8]。2019年2月22日に、長崎県五島列島沖に生息していることが日本台湾の研究グループの調査などで明らかになった。見つかった場所は、福江島の南約40㎞ (深さ約380m)地点。2017年5月に偶然発見された。西日本での発見はこれが初めて[9]。また、台湾東方沖[10]、西南沖にも生息し、中国語で「櫻花蝦」、「發光(正)櫻蝦[11]台湾語で「Hoe-khak-á(花殻仔)」[12]の名で呼ばれ、近年は漁獲対象となっている。

深海の中層を群れで遊泳する[8]。昼間は水深200-300mほどにいるが、夜には水深20-50mぐらいまで浮上する日周鉛直運動を行う[8]。海中を浮遊するプランクトンデトリタスを捕らえて食べる。一方、天敵は、外洋性のハダカイワシイカなどがいる。

漁業編集

日本国内の水揚げ量の100%は駿河湾産で、主要な漁期は4月から6月まで(春漁)と10月から12月(秋漁)。6月11日から9月30日までは繁殖期にあたり禁漁、冬はエビが深くにいるため休漁である[8]

サクラエビ漁の歴史は浅く、1894年(明治27年)に由比漁師が、アジ網引き漁をしていたときに網が深く潜ってしまい、そのとき偶然にも大量のサクラエビが捕れたことが始まりとされている[8]。由比港漁協の由比・蒲原(42組84隻)と大井川港漁協の大井川(18組36隻)、計3ヶ所の基地に100隻の許可証を持つ漁船がある[8]

サクラエビ資源を守るため、静岡県サクラエビ漁業組合所属のすべての漁船が一緒に漁に出て漁獲調整を行い、水揚代金を全船でプールして、利益を分け合うあう「プール制」が、1977年に完成し今に至っている[13]

由比漁港(静岡県静岡市清水区
期間限定で、漁港内でかき揚げ丼などが食べられる。サクラエビ・シラスなどの関連商品を取り扱う直売所も併設され、毎年5月3日にサクラエビ祭りが行われる[14]
大井川港(静岡県焼津市
1940年(昭和15年)、蒲原町(現静岡市清水区)の加工業者が大井川町(現:焼津市)に工場を建設。

地域団体商標として、由比サクラエビと駿河湾サクラエビが登録されている。

輸送中、水槽酸欠になりやすい」「輸送のストレス有毒アンモニアを発生しやすい」などの理由で、静岡県外などで生きたサクラエビを入手するのは困難だったが、「酸素ナノバブルを水中に増やす」、また「アンモニア分解して窒素を取り除く微生物を利用する」などの対策によって、試験段階ではあるが、数日間程度なら生かしたまま輸送することが近年では可能になってきている。

台湾でも小規模な漁がされている[8]。1980年代に日本で不漁となったことから、代替産地を探した結果、漁獲対象となった。主に台湾南西の屏東県小琉球周辺海域と東部の宜蘭県亀山島周辺海域、台東県大武郷沖の3ヶ所が漁場となっている。

2018年から駿河湾で続く不漁編集

2018年、春漁(4月10日〜6月3日)の19日間の出漁での水揚げ量は、記録が残る1986年以降で最低の約312トンとなったため、予定より早く打ち切った[15]。不漁の原因は、2017年に水温の高い黒潮が大蛇行して湾に流れ込まなかったため、産卵する親エビが減少した、と考えられていた[15]。同年秋漁(11月12日〜)は、12月10日の資源調査で水揚げに適さない体長35ミリ以下の稚エビ(0歳エビ)が63~76 %を占めたため、12月13日に打ち切られた[16]。史上初めて一度も出漁しないまま秋漁を終えた[16]

2019年の春漁は、3月24日から6月5日の予定[17]を早めて5月31日に打ち切られた[18]。31日夜に水揚げされたサクラエビは、産卵エビがこれまでより明らかに多く含まれていることを目視で確認したことに因る[18]。この春の漁獲量は約85トンで、不漁の昨年をさらに大きく下回った[18]

由比港漁協は、サクラエビの不漁に富士川水系の濁りが関係していて、堆砂が進む早川上流の雨畑ダムが濁りの主因、と指摘。駿河湾に流れ出る放水路の懸濁物を静岡県が調査したところ、基準値25 mgを超える427 mgだった[19][20]。1967年に完成した雨畑ダム(山梨県早川町)は民間が管理する発電用のダムで、堆砂率は93 %となり[21]国土交通省は「堆砂による上流部の河床上昇により浸水被害が発生しているため。」「ダムの安全性及び機能への影響が認められ、直ちに措置を講じる必要がある。 」としている[22]

静岡県が設置した有識者による「『森は海の恋人』水の循環研究会」では、日本軽金属が管理する雨畑ダムの水は複数の水力発電施設で使われた後、同社蒲原製造所(静岡市清水区)の放水路から駿河湾に流れ出て、堆砂が海底湧水の出口をふさいでいる、という仮説が提唱され、播磨灘のように海洋生態系に影響が出ている可能性が指摘された[23]。同研究会は今後3年かけて不漁の原因などを探ることを確認した。

利用編集

産地近くでは、軽く塩ゆでした釜揚げサクラエビとして鮮魚店に出ることもある。一般には生サクラエビ(冷凍)や干しエビ(干物)として流通する。 生でワサビ醤油で食べたり、釜揚げ素揚げかき揚げ(かき揚げ丼・天丼)などで食べる[24]。干しエビには独特の食感と味わいがあり、お好み焼きかき揚げなどに使われる。また、干しサクラエビをかき揚げなどの具に使う際、使用前にフライパンで軽く炒ると格段に香りが増すといわれる。サクラエビの漁が行われる漁師町近辺では「沖あがり」と呼ばれるサクラエビと豆腐ネギすき焼き風のだしでさっと煮た漁師料理がある[24]。なお、一般に安価で出回っている干しエビの多くはアキアミなど、別の種が多い。静岡県を代表する水産物の1つであるが、静岡県のプライドフィッシュには選ばれていない[25]

台湾の屏東県東港鎮では「東港三宝」と称する名産品のひとつに挙げられ、天日干ししたものが様々な方法で食されており[注 1][26]、地元料理としては、サクラエビ炒飯(「櫻花蝦炒飯」)が名物となっている他、「肉粿」と呼ばれるで作る点心の一種の具の一つとして欠かせず、白菜の煮物に加えたり[27]、焼きビーフン焼きそばに加えたりもする。他に、ゴマ海苔アーモンドなどと合わせたスナック菓子やふりかけに加工されて流通している。

注釈編集

  1. ^ クロマグロアブラソコムツの魚卵のからすみ風(「油魚子」)と合わせて「三宝」。

出典編集

脚注
  1. ^ Vereshchaka, Alexander L.; Olesen, Jørgen; Lunina, Anastasia A. (2014). “Global diversity and phylogeny of pelagic shrimps of the former genera Sergestes and Sergia (Crustacea, Dendrobranchiata, Sergestidae), with definition of eight new genera”. PloS one 9 (11): e112057. doi:10.1371/journal.pone.0112057. 
  2. ^ a b c Sergia lucens”. ITIS. 2011年5月4日閲覧。
  3. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  4. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
  5. ^ 羽根田弥太 『発光生物』 恒星社厚生閣、1985年。 
  6. ^ Omori et al. (1997), p. 175–182.
  7. ^ a b c 鈴木久美子; 中田力; 大森信「【原著論文】駿河湾産サクラエビSergia lucens (Hansen) の産卵生態に関する研究 (1):卵巣内卵の成熟過程,交尾および一尾の産卵回数の一試算 」『日本プランクトン学会報』 第59巻第1号20-29頁、2012年 doi:10.24763/bpsj.59.1_20
  8. ^ a b c d e f g h Uchida & Baba (2008).
  9. ^ 長崎沖にサクラエビ生息 100個体超採取、漁場開発に可能性”. 静岡新聞. 静岡新聞社 (2019年2月23日). 2019年2月24日閲覧。
  10. ^ 大森信; 浮島美之; 村中文夫 「台湾東港水域で発見されたサクラエビ」、『日本海洋学会誌』 第44巻第6号261-267頁、1988年。doi:10.1007/BF02302568https://doi.org/10.1007/BF02302568 
  11. ^ 發光(正)櫻蝦”. 台灣物種名錄. 2012年5月13日閲覧。
  12. ^ 調味櫻花蝦/包”. 東港區魚會. 2012年5月13日閲覧。
  13. ^ 大森 信(東京海洋大学名誉教授) (2015-02-20). “駿河湾サクラエビ漁業の今日”. Ocean Newsletter (笹川平和財団) 349. https://www.spf.org/opri/newsletter/349_3.html 2019年7月31日閲覧。. 
  14. ^ 静岡県/由比港漁協直売所”. 2013年5月7日閲覧。
  15. ^ a b 沢井秀之 (2018年6月6日). “サクラエビ不漁 漁打ち切り、競り価格高騰”. 中日新聞. https://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2018060602000096.html 2019年7月31日閲覧。 
  16. ^ a b “サクラエビの秋漁打ち切り 出漁なし、史上初”. 静岡新聞アットエス. (2018年12月14日). https://www.at-s.com/news/article/economy/shizuoka/577409.html 2019年7月31日閲覧。 
  17. ^ 不漁のサクラエビ、春漁3月24日から予定 操業不透明  ”. 日経新聞 (2019年2月13日). 2019年7月31日閲覧。
  18. ^ a b c “駿河湾のサクラエビ春漁 記録的不漁で打ち切り”. 産経新聞. (2019年6月1日). https://www.sankei.com/life/news/190601/lif1906010019-n1.html 2019年7月31日閲覧。 
  19. ^ 富士川濁り、支流からか サクラエビ不漁で静岡県が水質調査”. 静岡新聞アットエス (2019年2月14日). 2019年7月31日閲覧。
  20. ^ 富士川濁り、支流からか サクラエビ不漁で静岡県が水質調査  堆砂がひどく進む雨畑ダムへの疑い”. 水源連 (2019年2月16日). 2019年7月31日閲覧。
  21. ^ 豪雨被害を拡大!?あなたの町のダムは安全か クローズアップ現代(2019年7月10日)
  22. ^ あなたの町のダムは安全か? クローズアップ現代(2019年7月10日)
  23. ^ サクラエビ不漁原因、3年かけ探る 静岡県有識者研究会が初会合”. 静岡新聞アットエス (2019年7月31日). 2019年7月31日閲覧。
  24. ^ a b 佐々木たくみ 「サクラエビ、春漁真っ盛り プリッと甘い桜色」、『日本経済新聞』、2018年4月27日https://style.nikkei.com/article/DGXMZO29780510U8A420C1000000/ 
  25. ^ 平沢裕子 (2015年7月17日). “漁師お墨付き「プライドフィッシュ」 34道府県110種、消費拡大に期待(2/4ページ)”. 産経ニュース. 産経新聞社. 2018年8月4日閲覧。
  26. ^ 交通部観光局大鵬湾国家風景区管理処. “東湾海鮮グルメ: 東港三寶”. 大鵬湾国家風景区. 2016年3月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年3月4日閲覧。
  27. ^ 李嘉亮「櫻花蝦」『台灣魚達人的海鮮第一課』pp. 191-197、2007年、如果出版社、台北、ISBN 978-986-83313-5-8
参考文献
  • Omori, Makoto; Latz, Michael I.; Fukami, Hironobu; Wada, Minoru (1997), Lenz, P. H., ed., “New Observations on the Bioluminescence of the Pelagic Shrimp, Sergia lucens (Hansen, 1922)”, Zooplankton: Sensory Ecology and Physiology (CRC Publishers): pp. 175−184, ISBN 9789056990220 
  • Uchida, H.; Baba, O. (2008). “Fishery management and the pooling arrangement in the Sakuraebi Fishery in Japan”. In Townsend R.; Shotton R.; H. Uchida (PDF). Case studies in fisheries self-governance. Rome: FAO. pp. pp. 175-189. ISBN 978-92-5-105897-8. ftp://ftp.fao.org/docrep/fao/010/a1497e/a1497e16.pdf. 
  • 三宅貞祥『原色日本大型甲殻類図鑑』I、保育社ISBN 4-586-30062-0
  • 武田正倫ほか『詳細図鑑 さかなの見分け方』講談社、新装版。ISBN 4-06-211280-9

外部リンク編集