サラセミア(thalassemia)は、ヘモグロビンを構成するグロビン遺伝子の異常による貧血である。(溶血性貧血をきたす遺伝性疾患である)地中海沿岸に多いので地中海貧血、地中海性貧血とも言う。

病態 編集

グロビン蛋白の異常によって正常な赤血球が作られず貧血になる。異常なヘモグロビンを持つ赤血球は脾臓で次々と破壊される。赤血球が脾臓で破壊されることを血管外溶血と言う。標的赤血球と呼ばれる特徴的な赤血球が見られる。

分類 編集

ヘモグロビンは、ポリペプチド鎖であるα鎖グロビン2分子とβ鎖グロビン2分子が結合した四量体(tetramer)にヘム錯体)が加わったものである。サラセミアは、主に次の2種類に分類される[1]

  • αサラセミアとβサラセミア
    • αサラセミア:α鎖が正常に生成できない場合で16番遺伝子の2箇所が原因となる。アフリカ出身者に多く見られる[1]
    • βサラセミア:β鎖が正常に生成できない場合。11番遺伝子の1箇所が原因となる。地中海東部の国と東南アジアに多く見られる[1]ギリシャのサラセミア・キャリアは全人口の7.5%に及ぶといわれる。
  • サラセミアマイナーとサラセミアメジャー:欠陥遺伝子のコピーの個数で分類。
    • サラセミアマイナー:欠陥遺伝子のコピーが1対のうち1つ[1]
    • サラセミアメジャー:欠陥遺伝子のコピーが1対の両方[1]

原因 編集

ヘモグロビン蛋白を構成しているα鎖あるいはβ鎖をコードする遺伝子の異常により、蛋白がうまく生成できないため[1]

統計 編集

症状 編集

サラセミアの種類によってもことなるが、以下のようなものが代表的なものである[1]

  • 異常ヘモグロビンにより貧血を来たす。
  • 腹部の膨満感や不快感。
  • 血管外溶血により黄疸脾腫を呈する。

合併症 編集

検査 編集

  • 血液検査
    • 血清生化学検査
      血清鉄とフェリチンの増加。
      ヘモグロビンA2増加
    • 末梢血塗沫染色標本検査
      小球性低色素性貧血が認められる。赤血球の真ん中の窪みに膨らみが出来て、濃淡濃の縞模様が見られる。この同心円状の縞模様が標的に見える事から標的赤血球(target cell)と言う。
  • thalassemia index
    • MCV / RBC x 106 ≦13 であればサラセミアが強く疑われる。[2]

治療 編集

対症療法として輸血を行い、鉄の臓器過剰沈着に対し鉄キレート剤を投与する。重症例には骨髄移植を行う場合がある[1]

予後 編集

重症型は予後不良で30歳までに心不全などにより死亡する。

診療科 編集

血液内科

歴史 編集

1925年、クーリー(Cooley)とリー(Lee)によって病態の診断が確定される。当初はクーリー貧血と呼ばれたが、地中海沿岸地域に多発しているため、ギリシア語を表すΘαλασσα(Thalassa)から、サラセミア(Thalassemia)と名づけられた。ただし、地中海特有というわけではなく、世界中、特にマラリア多発地域において散見される。

各国において 編集

地中海沿岸 編集

発症頻度が高い。遺伝子異常の種類によって軽症から重症まで様々あり、地域性も異なる。

日本 編集

スクリーニングを含めた研究プロジェクトで、サラセミアは日本人にも決して少なくないことが明らかとなった。日本人のβサラセミア(日本人の700~1000人に1人の頻度)の8割は8種類の変異のどれかであり、しかも変異によってかなり地域的に偏ることがわかった。[要出典] [3]

脚注 編集

  1. ^ a b c d e f g h サラセミア”. MSDマニュアル 家庭版. 2021年6月7日閲覧。
  2. ^ DeLoughery TG. Microcytic Anemia. N Engl J Med 2014; 371:1324-1331. DOI: 10.1056/NEJMra1215361
  3. ^ 服部幸夫 「日本人におけるサラセミアの遺伝子異常(総説)」『山口医学』第50巻, 第3号, 2001年、637-644頁。

関連項目 編集

外部リンク 編集