サンダウン級機雷掃討艇

サンダウン級機雷掃討艇英語: Sandown-class minehunter)は、イギリス海軍が運用する機雷掃討艇の艦級。計画名はSRMH英語: Single Role Minehunter)であった。建造費は4600万ドル(10番艇の場合)[1]

サンダウン級機雷掃討艇
基本情報
種別 機雷掃討艇
運用者  イギリス海軍
 サウジアラビア海軍
 エストニア海軍
 ウクライナ海軍
 ルーマニア海軍
就役期間 1989年 - 現在
前級 ハント級
準同型艦 スペインの旗 セグーラ級スペイン語版
要目
排水量 軽荷: 378 t
基準: 450 t
満載: 484 t
全長 52.50 m
最大幅 10.50 m
吃水 2.30 m
機関方式 CODOE方式
パクスマン・ベンチュラ6RPA200-
 EM1500ディーゼルエンジン×2基
・低速電動機×2基
シュナイダープロペラ×2基
出力 2,024 bhp
電力 750 kW
速力 15ノット
航続距離 2,600海里 (11kt巡航時)
乗員 士官5名+曹士29名
兵装DS-30B 30mm機銃×1基
C4ISTARNAUTIS-M 掃海艇情報処理装置
レーダー ・ケルビン-ヒューズ 1007型 対水上捜索用
ソナー ・2093型 機雷探知機
電子戦
対抗手段
・DLK 18連装デコイ発射機×2基
特殊装備PAP-104 Mk.5機雷処分具
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来歴 編集

イギリス海軍では、1979年よりハント級掃海艇の運用を開始していた。これは船質をガラス繊維強化プラスチック(GFRP)とし、またPAP-104機雷処分具による機雷掃討システムを採用するなど、設計・装備の両面で刷新されていた。しかし比較的大型の掃海・掃討両用艇であり、またFRP艇としては過渡期の設計を採用していたこともあって、建造費は3,000万ポンド(約100億円)に高騰してしまった。このため、当初は24隻の建造が予定されていたものの、最終的な建造数は13隻にとどまった。このことから、同級を補完するため、深深度海域での係維掃海能力に特化した鋼製艇と、掃海能力を省いたFRP製の掃討専用艇(Single Role Minehunter; SRMH)の組み合わせが計画された。このうちの後者として建造されたのが本級である。なお、前者として建造されたのがリバー級掃海艇であった[2]

本級の設計は1983年ヴォスパー・ソーニクロフト社に対して発注され[3]ネームシップ1985年8月28日に発注された[1]

設計 編集

船型としては中央船楼型が採用された。掃海艇では船首楼を設けて高くしているのに対して、乾舷を最低限として、低速時に艇首が風に落とされないようにしたものである。また艇尾に重いフォイト・シュナイダープロペラを備えていることから、水線幅を広げて容積を十分に確保している。船質は、ハント級と同様にGFRPとされた。しかし同級では木製船殻構造を踏襲した横肋骨方式とされていたのに対し、本級では、GFRPの特性を活かすとともに建造コストの低減を図り、外板はMR-FRPの単板、また船底を縦式構造、船側および甲板を横肋骨構造としたコンバインド構造が採用された[4]。成形手法としては、インフュージョン成形の一種であるSCRIMP工法が用いられた[1]

主機関としては、パクスマン・ベンチュラ6RPA200-EM1500ディーゼルエンジン2基を搭載して、フォイト・シュナイダープロペラを直接駆動することで15ノットを発揮できる。一方、静音性が要求される掃討時には、ラフト上に架された電動機(200馬力)からのベルト駆動により、7ノットを発揮できる。また精密な操艦のため、バウスラスターも備えている[2]。特に機雷掃討時には定点保持(Hoverring Positioning)が求められることから、SPCS(Ship Positioning Control System)が開発・搭載されている。期待する方位を保ちつつホバリングするダイナミック・ポジショニング(DP)制御と、装備機器の性能が外力に追随できずDP制御の限界を超えると判断された場合に使用される船位保持法(Position Control by Maneuvering, PCM)があり、それぞれ自動的にコントロールできるとされている[5]

電源としては、パーキンスV8-250Gディーゼルエンジン(335馬力)を用いたモーズレイ発電機を3セット搭載する[3]

装備 編集

掃海艇情報処理装置としては、本級向けとして新開発されたNAUTIS-Mが搭載された。これは機雷戦艦艇で求められる対衝撃性(30G)、非磁性などの要求を達成している。3台のコンソールからなっており、レーダーや機雷探知機などと連接されて、航海情報管理、また対機雷戦計画・評価支援機能を備えている[5]

機雷探知機としては、プレッシー社の2093型が搭載された。これは船底装備式と可変深度式を兼ねたものであり、12ノットまで曳航可能である。捜索用としては80キロヘルツを使用して最大探知距離1,200メートル、分解能1.5度の性能を発揮できる。また類別用としては350キロヘルツを使用して最大探知距離300メートル、分解能0.3度の性能を発揮できる。使用可能深度は300メートルまでである[6]

機雷処分具としては、RCMDS(remote-controlled mine-disposal system) Mk.2(PAP-104 Mk.5)が搭載された。これはハント級で採用された浅深度用のRCMDS Mk.1(PAP-104 Mk.3)の発展型であり、中深度用としてやや大型化するとともに全体的な性能向上を図っている[7]。これに加えて、使い捨て式のアトラス社製シーフォックスC型自走式機雷処分用弾薬を後日装備した。また水中処分員用として、2名用減圧チャンバーを備えている[1]

同型艦 編集

1987年から1993年にかけて、まず5隻が建造された。その後、1995年9月より建造が再開されたが、総建造数は当初計画の20隻から12隻に削減された[1][3]。更にサウジアラビア向けとして同型艇3隻が建造されたほか、スペインのイザル社で、同国海軍向けの派生型としてセグーラ級スペイン語版6隻が建造された。また海上自衛隊のすがしま型(07MSC)も、本級に範をとって、そのシステムを導入して建造されている[8]2023年夏、イギリス海軍での退役艦2隻がウクライナ海軍へ引き渡された。さらに2隻が引き渡される予定[9]

当初運用国 退役/再就役後
# 艦名 進水 就役 退役 再就役先 # 艦名
  イギリス海軍 M 101 サンダウン
HMS Sandown
1988年4月 1989年6月 2005年   エストニア海軍 M 313 アドミラル・コーワン
EML Admiral Cowan
M 102 インヴァネス
HMS Inverness
1990年2月 1991年5月 M 314 サカラ
EML Sakala
M 103 クローマー
HMS Cromer
1990年10月 1992年4月 2001年11月 海軍兵学校の練習船として使用、「ヒンドスタン」を襲名
M 104 ウォルニー
HMS Walney
1991年11月 1993年2月 2010年10月
M 105 ブリッドポート
HMS Bridport
1992年7月 1993年11月 2004年   エストニア海軍 M 315 ウガンディ
EML Ugandi
M 106 ペンザンス
HMS Penzance
1997年3月 1998年5月   イギリス海軍で就役中
M 107 ペンブルック
HMS Pembroke
1997年12月 1998年10月
M 108 グリムズビー
HMS Grimsby
1998年8月 1999年9月 2022年10月   ウクライナ海軍 M 315 チェルニーヒウ
Chernihiv
M 109 バンガー
HMS Bangor
1999年4月 2000年7月   イギリス海軍で就役中
M 110 ラムジー
HMS Ramsey
1999年11月 2000年9月 2021年8月
M 111 ブライス
HMS Blyth
2000年7月 2001年2月 2021年8月   ルーマニア海軍 M 270 サブロコテネント イオン ギクレスク
Sublocotenent Ion Ghiculescu
M 112 ショアハム
HMS Shoreham
2001年4月 2002年7月 2022年10月   ウクライナ海軍 M 311 チェルカースィ
Cherkasy
  サウジアラビア海軍 420 アル・ジャウフ
HMS Al Jawf
1989年8月 1991年12月   サウジアラビア海軍で就役中
422 シャクラー
HMS Shaqra
1991年5月 1993年2月
424 アル・カルジ
HMS Al Kharj
1993年2月 1994年9月

参考文献 編集

  1. ^ a b c d e Eric Wertheim (2013). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 16th Edition. Naval Institute Press. pp. 801-802. ISBN 978-1591149545 
  2. ^ a b 「各国新型掃海艇のプロフィール (新しい掃海艇)」『世界の艦船』第351号、海人社、1985年6月、76-83頁。 
  3. ^ a b c Bernard Prezelin (1990). The Naval Institute Guide to Combat Fleets of the World, 1990-1991. Naval Institute Press. p. 718. ISBN 978-0870212505 
  4. ^ 「船体 (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、76-79頁。 
  5. ^ a b 赤尾利雄「指揮管制装置 (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、84-87頁。 
  6. ^ 黒川武彦「センサー (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、88-91頁。 
  7. ^ 大平忠「機雷処分具 (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、96-99頁。 
  8. ^ 海上自衛隊 50年史編さん委員会 編「「すがしま」型掃海艇の建造」『海上自衛隊五十年史』防衛庁海上幕僚監部、2003年https://web.archive.org/web/20140202155030/http://www.mod.go.jp/msdf/mf/history/nennhyou/img/img/s-sugashima.htm 
  9. ^ 「輸出ルートを復活させる」海上封鎖に苦しむウクライナ海軍に英国が掃海艇を提供 さらに追加支援も”. 乗りものニュース (2023年12月13日). 2023年12月18日閲覧。

関連項目 編集