シュツルンツ分類
シュツルンツ分類(シュツルンツぶんるい、独: Systematik der Minerale nach Strunz、英: Nickel–Strunz classification)は、ドイツの鉱物学者カール・フーゴ・シュツルンツが1941年に『Mineralogische Tabellen』(鉱物学表)で著した、化学組成に基づく鉱物の分類法[1]。鉱物の組成、特に陰イオンに基づき、10のclass(族)に分類する。
- 元素鉱物:自然金、ダイヤモンドなど
- 硫化鉱物:閃亜鉛鉱、硫砒銅鉱など
- ハロゲン化鉱物:蛍石、岩塩など
- 酸化鉱物、亜砒酸塩鉱物:スピネル、磁鉄鉱など
- 炭酸塩鉱物、硝酸塩鉱物:方解石、孔雀石など
- 硼酸塩鉱物:ホウ砂、曹灰硼石など
- 硫酸塩鉱物、クロム酸塩鉱物、モリブデン酸塩鉱物、タングステン酸塩鉱物:石膏、紅鉛鉱など
- 燐酸塩鉱物、砒酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物:褐鉛鉱、トルコ石など
- 珪酸塩鉱物:トルマリン、カオリナイトなど
- 有機鉱物:蜜蝋石、カルパチア石など
例えば、閃亜鉛鉱の組成式はZnS(硫化亜鉛)であり、2族の硫化鉱物に分類される。10版分類では更に同数硫化金属としてC門に、更に亜鉛・鉄・銅・銀等化合物としてB科に、などと細分類され、分類符号は2.CB.05aとなる(2族C門B科05群a系[2])。
成立と改版
編集フリードリヒ・ヴィルヘルム大学(現在のフンボルト大学ベルリン)鉱物学博物館の学芸員だったシュツルンツは、鉱物学的所蔵品を結晶の化学的性質に基づいて分類していた[1]。1941年に著された『Mineralogische Tabellen』はその後数々の改訂が加えられ、1966年にクリステル・テニゾンが編集に参加して第4版が、1966年にA・S・ポヴァレニアクによる修正が加えられてロシア語版が、1972年に英語版が刊行され、最終的には2001年の第9版を数えるに至った。今日では、Mindat.org[3]のジェイムス・A・フェライオーロの責任で、フーゴ・シュツルンツとアーネスト・ヘンリー・ニコル [4][5]によるニコル・シュツルンツ鉱物学表(未刊第10版)の控えがwebmineral.comで提供されている[6]。国際鉱物学連合の新規鉱物命名分類委員会 (IMA/CNMNC) はニコル・シュツルンツのデータベースを支持している[7]。
分類体系
編集- 鉱物分類(珪酸塩鉱物以外)
- 01族 元素鉱物
- 元素鉱物族
- 02族 硫化鉱物と硫塩鉱物(硫化鉱物・セレン化鉱物・テルル化鉱物、砒化鉱物・蒼鉛化鉱物、硫亜砒酸塩鉱物・硫亜アンチモン化鉱物・硫亜蒼鉛化鉱物など)
- 02.A門 - 02.G門:硫化鉱物、セレン化鉱物、テルル化鉱物族
- 02.H門 - 02.M門:硫塩鉱物族
- 03族 ハロゲン化鉱物
- ハロゲン化鉱物族
- 04族 酸化鉱物(水酸化鉱物、亜砒酸塩鉱物、蒼鉛化鉱物、亜硫酸塩鉱物、亜セレン酸塩鉱物、亜テルル酸塩鉱物、沃素酸塩鉱物)
- 酸化鉱物族
- 水酸化鉱物族
- 亜砒酸塩鉱物族(亜アンチモン化鉱物、亜蒼鉛化鉱物、亜硫酸塩鉱物、亜セレン酸塩鉱物、亜テルル酸塩鉱物を含む)
- 05族 炭酸塩鉱物と硝酸塩鉱物
- 炭酸塩鉱物族
- 硝酸塩鉱物族
- 06族 硼酸塩鉱物
- 硼酸塩鉱物族
- ネソ硼酸塩鉱物亜族
- ソロ硼酸塩鉱物亜族
- シクロ硼酸塩鉱物亜族
- イノ硼酸塩鉱物亜族
- フィロ硼酸塩鉱物亜族
- テクト硼酸塩鉱物亜族
- 硼酸塩鉱物族
- 07族 硫酸塩鉱物、セレン酸塩鉱物、テルル酸塩鉱物
- 硫酸塩鉱物・セレン酸塩鉱物・テルル酸塩鉱物族
- クロム酸塩鉱物族
- モリブデン酸塩鉱物族
- タングステン酸塩鉱物族
- 08族 燐酸塩鉱物、砒酸塩鉱物、バナジン酸塩鉱物
- 燐酸塩鉱物族
- 砒酸塩鉱物族
- バナジン酸塩鉱物族
- 10族 有機鉱物
- 有機鉱物族
- 01族 元素鉱物
- 鉱物分類(珪酸塩鉱物)
- 09族 珪酸塩鉱物とゲルマニウム酸塩鉱物
- 珪酸塩鉱物族
- 09.A門:ネソ珪酸塩鉱物亜族
- 09.B門:ソロ珪酸塩鉱物亜族
- 09.C門:シクロ珪酸塩鉱物亜族
- 09.D門:イノ珪酸塩鉱物亜族
- 09.E門:フィロ珪酸塩鉱物亜族
- テクト珪酸塩鉱物亜族
- 09.F門:沸石性H2Oなし
- 09.G門:沸石性H2Oあり(沸石科)
- 09.J門:ゲルマニウム酸塩鉱物亜族
- 珪酸塩鉱物族
- 09族 珪酸塩鉱物とゲルマニウム酸塩鉱物
有機鉱物の細分類
編集(凡例:[9])
- 10.A 有機酸塩鉱物
- 10.AA 蟻酸塩鉱物、酢酸塩鉱物など:05 蟻灰石、10 ダシュコウヴァ石、20 アセトアミド、25 カルクラサイト、30 ペイス石、35 ホーガン石
- 10.AB 蓚酸塩鉱物:05 フンボルト石、05 リンドバーグ石;10 グルシンスキー石、15 ムールー石、20 ステパノフ石、25 ミングッツィ石、30 フーウェル石、35 ゼンチュニコバイト、40 ウェッデル石、45 蓚酸石灰石、50 カオックス石、55 蓚酸アンモニウム石、60 蓚酸ソーダ石、65 コスクレン石、70 レビンソン石、75 ズグシャンスト石、80 ノブコロドーバー石
- 10.AC ベンゼン塩鉱物:05 蜜蝋石、10 アーランド石
- 10.AD 青酸塩鉱物:05 ジュリアナイト*、10 カーフェハイドロキヤナイト*
- 10.B 炭化水素鉱物
- 10.C その他の有機鉱物
脚注
編集- ^ a b Knobloch, Eberhard (2003) (German/English). The shoulders on which We stand/Wegbereiter der Wissenschaft. Springer. pp. 170–173. ISBN 3540205578
- ^ 原田準平、1973年『岩波全書 鉱物概論(第2版)』ISBN 9784000211918、289ページ~を参考にして、classを族、divisionを門、familyを科、groupを群、seriesを系とした。
- ^ Strunz Classification
- ^ a b Stuart J. Mills, Frédéric Hatert, Ernest H. Nickel, and Giovanni Ferraris (2009). “The standardisation of mineral group hierarchies: application to recent nomenclature proposals”. Eur. J. Mineral. 21: 1073-1080. doi:10.1127/0935-1221/2009/0021-1994 .
- ^ Allan Pring and William D. Birch (October 2009). “Obituary: Ernest Henry Nickel 1925-2009”. Mineralogical Magazine 73 (5): 891-892.
- ^ Minerals Arranged by Nickel–Strunz (10 ed) Classification
- ^ Ernest H. Nickel and Monte C. Nichols (2008年5月22日). “IMA/CNMNC List of Mineral Name based on the database MINERAL, which Materials Data, Inc. (MDI) makes available”. 2011年1月31日閲覧。
- ^ class(族)、subclass(亜族)、family(科)、supergroup(上群)、group(群)、subgroup or series(亜群/系)
- ^
略号:
- "*" - IMA/CNMNC未登録
- "?" - IMA/CNMNC懐疑的
- NN:ニコル・シュツルンツ鉱物族番号
- X:ニコル・シュツルンツ鉱物門符号
- Y:ニコル・シュツルンツ鉱物科符号
- ##x: ニコル・シュツルンツ鉱物番号または鉱物群番号、xは拡張符号
参考文献
編集- Strunz, Hugo; Nickel, Ernest H. (2001). Strunz Mineralogical Tables (9 ed.). Stuttgart: Schweizerbart. pp. 869. ISBN 978-3510651887
- 坂野靖行、豊遙秋、青木正博、春名誠、2004年3月「地質標本館における鉱物の一般分類展示(その1)」『地質ニュース』(産業総合研究所地質調査総合センター)595号、23 - 34ページ、http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/2004/03/04_03_03.pdf
- 坂野靖行、豊遙秋、青木正博、春名誠、2004年4月「地質標本館における鉱物の一般分類展示(その2)」『地質ニュース』(産業総合研究所地質調査総合センター)596号、50 - 59ページ、http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/2004/04/04_04_08.pdf
- 豊遙秋、1990年7月「鉱物展示の多様性 欧米の博物館の鉱物展示」『地質ニュース』(工業技術院地質調査所)431号20ページ目、http://www.gsj.jp/Pub/News/pdf/1990/07/90_07_04.pdf