ショゴスShoggoth)は、クトゥルフ神話作品に登場する架空生物

ショゴス

ハワード・フィリップス・ラヴクラフトの連詩『ユゴスよりのもの: Fungi from Yuggoth』で名前のみ言及され、物語への初出は『狂気の山脈にて[1]である。クトゥルフ神話内では主に「古のもの物語」に登場する[2][3]

以下、特に説明がなければ『狂気の山脈にて』を出典とする。

概要 編集

太古の地球に飛来した宇宙生物「古のもの」達によって創造された。

漆黒の玉虫色に光る粘液状生物で表面に無数の目が浮いている。不定形で決まった姿を持たず、非常に高い可塑性延性を持ち、必要に応じて自在に形態を変化させ、さまざまな器官を発生させることができる。タールでできたアメーバのようだと表現される。およそ15フィート(4m強)と説明されているものの、中には地下鉄の車両ほどに大きなサイズの個体も登場する。水中で活動するように作られたため、地上では動きが鈍くなる。呪文テレパシーで操ることが可能だが、比較的知性が高く、従順でないため、危険な生物である。南極圏における「古のもの」の奉仕種族として巨大都市・狂気山脈の建設などに使役された。

「テケリ・リ、テケリ・リ」("Tekeli-li, Tekeli-li")という独特の鳴き声をあげる[注 1]。もとは「古のもの」の出す音をショゴスたちが真似て声帯器官を発達させたもの。作劇上の元ネタは、エドガー・アラン・ポーの作品『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』に登場した鳥の鳴き声をラヴクラフトがモデルとしたものであるが、『狂気の山脈にて』作中では逆に、怪生物の声をポーが聞いて作品に盛り込んだとされている。またチャールズ・ロウミン・デイクの『奇怪なる発見』や、ルドルフ・ラッカーの編集したヴァージニア在住のメイソン・アルジャース・レイノルズの報告においても言及されている。

狂気の山脈にて 編集

数億年前に地球に飛来した「古のもの」によって作られ、肉体労働のための奉仕種族として扱われていた。もともと知能はなく「古のもの」の催眠術のような暗示で働いていた。しかし自身が発生させた脳を固定化することで知能を持つようになり、創造主である「古のもの」に反抗して全面戦争を引き起こした。2億5千万年前に最初の反乱が発生し、何度も鎮圧されたが「古のもの」たちは、あらゆる労働力をショゴスに依存しており、全滅させることも出来ず、また有効な反撃手段もなく追い詰められ、他の種族との戦争にも敗れて壊滅的な損害を受けた。しかも非常に生命力の強いショゴスたちは、陸上に進出してしまい手が出せなくなってしまう。奇しくも「古のもの」を海中に追いやった大いなるクトゥルフミ=ゴたちが地球上から去り、地上が安全になったためである。しかしそれ以外のショゴスは、「古のもの」に最終的に地底深くに封印された。しかし彼らの内、「古のもの」の目の届かない場所で生存した者たちが地球生命の起源に繋がったと仄めかしている。

アブドゥル・アルハザードは著書「ネクロノミコン」の中でショゴスの実在を否定し、妄想の産物であると断言する。

他の作品での登場 編集

ラヴクラフトの『インスマウスの影』ではインスマウス深きものどもがショゴスを使役しているらしいことが仄めかされる[4]。また『戸口にあらわれたもの』ではインスマウスの魔術師がショゴスを飼い慣らしている[5]

マイクル・シェイの短編『ファットフェイス』には、ショゴスの一種で人間に擬態できるショゴスロード(shoggoth lord)という種族が登場する。

ブライアン・ラムレイタイタス・クロウ・サーガ地を穿つ魔』には、亜種の「海棲ショゴス」が登場する。リン・カーターは、ウボ=サスラの細胞からショゴスが生まれた(造られた)とした[6]

登場作品 編集

関連項目 編集

スライム (架空の生物)
今日的なファンタジーのアメーバ怪物「スライム」は、1970年代にテーブルトークRPGで作られた。元ネタとなったのはジョセフ・ペイン・ブレナンの1953年作品「沼の怪スライム」に登場する怪物で、スライムという名前をしている。このさらなる元ネタがショゴスである。ブレナンはラヴクラフトのファンであり、初期作品原稿のコレクターでもあった。
ウボ=サスラ
地球の生命の元となったとされる。クトゥルフ神話においては、ウボ=サスラやショゴスなど、そのような存在が複数出てくる。ウボ=サスラを創造したのはクラーク・アシュトン・スミス
一説によるとショゴス製造の材料がウボ=サスラ細胞であるという。

脚注 編集

【凡例】

  • 全集:創元推理文庫『ラヴクラフト全集』、全7巻+別巻上下
  • クト:青心社文庫『暗黒神話大系クトゥルー』、全13巻
  • 真ク:国書刊行会『真ク・リトル・リトル神話大系』、全10巻
  • 新ク:国書刊行会『新編真ク・リトル・リトル神話大系』、全7巻
  • 事典四:学研『クトゥルー神話事典第四版』(東雅夫編、2013年版)

注釈 編集

  1. ^ オーガスト・ダーレスの『潜伏するもの』では、旧神が同じ声を発する。
  2. ^ 別の怪物がショゴスの名前で呼ばれている。後にTPRPGにてシュブ=ニグラスの眷属「黒い仔山羊」になる。

出典 編集

  1. ^ 全集4、定本3、新潮2、など多数。
  2. ^ 事典四「クトゥルー神話の歴史●クトゥルー神話の誕生」、14ページ。
  3. ^ 新紀元社『クトゥルフ神話ガイドブック』30ページ。
  4. ^ 全集1など『インスマウスの影』ラヴクラフト
  5. ^ 全集3など『戸口にあらわれたもの』ラヴクラフト
  6. ^ 新紀元社「エイボンの書」収録『暗黒の知識のパピルス』リン・カーター