シラカンバ(白樺[7]シラカバ[8])は、カバノキ科カバノキ属落葉樹の一種。樹皮が白いことからこの名がある。

シラカンバ
Birches in a summer meadow - Flickr - northofsweden.jpg
シラカンバ
分類APG III
ドメ
イン
: 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rosids
: ブナ目 Fagales
: カバノキ科 Betulaceae
: カバノキ属 Betula
: シラカンバ(広義) B. platyphylla
学名
Betula platyphylla Sukaczev[1]
和名
シラカンバ、シラカバ
英名
White Birch, Japanese White Birch
変種品種
  • var. platyphylla コウアンシラカンバ[2]
  • var. japonica (Miq.) H.Hara シラカンバ、シラカバ、ホソバシラカンバ、エゾノオオシラカンバ(日本産変種)[3]
  • var. kamtschatica (Regel) H.Hara エゾノシラカンバ[5]
  • var. mandshurica (Regel) H.Hara カラフトシラカンバ(マンシュウシラカンバ)[6]
シラカンバの表皮

名称編集

和名のシラカンバは一般にシラカバともよばれ、樹皮が白いカバ(樺)がその名の由来である[9][10]。カバはカバノキの古名「かには」が転訛したものである[10]。和名はシラカンバやシラカバの他に、ガンビ[8]、シロザクラ[8]など多くの呼び名がある。

分布編集

北半球の温帯から亜寒帯地方に多く見られる[8]。基変種であるコウアンシラカンバ Betula platyphylla var. platyphylla とそれにごく近縁にオウシュウシラカンバ Betula pendula は、アジア北東部の朝鮮半島[7]中国[7]東シベリア[7]樺太[7]・ヨーロッパの広い範囲に分布する。

日本では、変種Betula platyphylla var. japonica が、本州の福井県岐阜県以北の中部地方[11][8]関東地方北部[8]、東北地方[8]北海道[7]まで、高冷地の落葉広葉樹林帯と亜高山帯下部に分布する。特に北海道では多く見られる[10]。高原の深山などに生え[9]、日当たりのよい山地に群落を作って自生する[11]。近縁種にダケカンバがあるが、シラカンバは高山には及ばず比較的低地に分布し、ダケカンバは高地に分布する[7]

生態・形態編集

落葉高木広葉樹で、樹高は10 - 25メートル (m) [9][12]。明るい場所を好む典型的な陽樹である[13]。寿命は短く大木になるものは多くなく[14]、大きなものでも幹径は50センチメートル (cm) ほどである[15]。樹皮は白色で、横筋が多く薄紙のように横向きに剥がれ、枝の落ちた跡が黒く残る[11][12]。樹皮が白色を保っているのは、樹齢20年からせいぜい30年が限度といわれている[15]。ごく若い木の樹皮は暗褐色で、横長の皮目が目立つ[12]。若い枝は暗紫褐色で毛はなく、短枝がよく発達する[12]互生[7]、長さ4 - 9 cmの三角状広卵形で鋸歯がある[11][9]。葉脈の数は6 - 8対ある[16]葉柄は長さ1.5 - 3.5 cm[9]。秋になると黄葉する[10]

花期は春(4 - 5月)[7][12]雌雄同株で、葉の展開とともに、長さ5 - 7 cmほどの雄花序は、長枝の先から動物の尾状に数個垂れ下がる[11][9][14][12]。雌花序は短枝に4 cmほどの細長い棒状の花穂を1個つけ、最初は立ち上がっているが、やがて下を向いて果穂をつくる[11][17][12]

果期は10月[7]。果穂は長さ2 - 4 cmで垂れ下がる[9]。果苞は長さ約4ミリメートル (mm) [9]自家不和合性が強く、別の個体同士で受粉し種子を付ける。種子は3 mm程度の大きさで、風を利用して散布するのに適した薄い翼を持った形状。100グラム当たり34万個と大量に散布されるが、成木まで成長するのはごく一部である[18]

冬芽は互生し、雄花序以外は芽鱗に覆われて長楕円形[12]。芽鱗は、濃褐色で4 - 6枚つき、しばしば樹脂をかぶる[12]。雄花序の冬芽は円筒形の裸芽で、枝の先に数個つく[12]。冬芽のわきにある葉痕は半円形や三日月形で、維管束痕が3個ある[12]

他の樹木が育ちにくい火山灰地や砂地でも育つことができる[13]。明るい初期の林地に生えるいわゆるパイオニア的な樹種で[13][7]山火事の跡地や崩壊地などに一斉に芽生えて生長し、純林を作る[13][19]。不適地に散布された場合には地中で待機できる休眠性があり、山火事の熱を感知する事で休眠を解除して発芽する場合や、湿原が乾燥し陸地化した後に発芽する場合など、先駆種としての能力を持つ[18]。やがてシラカンバのまわりのミズナラやトドマツなどの陰樹が大きくなって、次第に日当たりが悪くなってくると、シラカバは次々に立ち枯れする[13][7]。シラカンバが立ち枯れしたあと、幹には木材腐朽菌の一種ツリガネタケなどのキノコがたくさん出てくる[7]。塩害や煙害には弱い性質があり、台風の影響を被って一斉に枯れてしまうこともある[16]

花粉症編集

風媒花であるため花粉症の原因にもなる。シラカンバが多く自生するスカンディナヴィア半島(スカンジナビア半島)では患者数も多い[20]

シラカンバ花粉症は、口腔アレルギー症候群 (OAS) との関連もある。シラカンバ花粉症を持つ人のうち一定割合の人がリンゴモモなどバラ科の果物を食べた際に咽喉アレルギー症状を起こすことが知られている[21]

利用編集

植栽樹として、庭木や街路樹に植えられる[15]。痩せ地でも育ち、表層土壌が堆積すると他の樹種の影に埋もれていく性質を利用して、土壌条件が悪い新地に若木の苗を植えて、急速に生長させて早期緑化に用いることがある[13]

樹皮は細工物に使われたり[11]、油分を多く含んで容易に燃えるので松明としても使われたり[8]、水を通さず長持ちするので北ヨーロッパなどでは屋根葺きの材料に使われる[15]。中国大陸側では、ロール状に巻いた樹皮を浮子にして漁網につけられる[22]。長野県や岩手県の一部地域では、樺皮とよばれるロール状に巻いたシラカバの樹皮を、盆の迎え火、送り火に家の前で焚くのに使う[22]。アイヌ民族はシラカバ皮を巻き上げた松明をチノイエタッ(我らが巻いた樺皮)と呼び、先端を割った木に挟んで点火したものを夜間のサケ漁の照明、あるいはハレの日の照明に用いた。また、樹皮を焚いた煤は入れ墨を入れる際の染料にも用いられた[23][24]

材は比較的やわらかく、腐りやすい欠点をもつが、白い肌をそのまま活かして、山小屋の内外装、ベランダの手すり、デッキ、柵などに好まれる[15]。意外なところでは、アイスの棒(スプーン)や、割り箸楊枝といったものも製造されている。

春、芽吹く頃のシラカバの幹に傷を付けると、大量の樹液が吹き出す[16]アイヌ民族はこの樹液を「タッニ・ワッカ」(シラカバの水)と呼び、水場がない場所で野営する際の、炊事の水に用いてきた[24][23]。樹液からシロップ、煮詰めて白樺糖、さらには酒が造られる[16]。樹液に含まれる成分にヒト表皮保湿を促進する効用があることから化粧品にも利用される。皇室では、平成時代の皇后美智子お印になっている。

文化編集

韓国南部の智異山では、早春に、秋の豊作を祈って「藥水祭」を行い、神に供えた後、徹夜で飲み合い、翌朝樹液で炊いたご飯を賞味する。

フィンランドでは 山火事などの後に、最初に生え、雑木林を育てていくことから「マザーツリー」と呼ばれ、樹液や樹皮のバッグなど広く親しまれているほか、若芽の小枝を束ねたヴィヒタはサウナにおいてなくてはならないとされている。ロウリュ参照。

ロシアでは、雪解けの頃近郊の森に出かけ樹液を飲む習慣がモスクワにも残っており、「百薬の長だと今でも信じている」と報道されている[誰によって?]民間療法で、シラカンバに寄生するチャーガ(和名:カバノアナタケ)というキノコ胃腸の調子が悪い時にお茶のようにして飲む風習がある。ソルジェニーツィンの『ガン病棟』ではガン民間薬として書かれている。

ヨーロッパでは、五月祭にシラカンバの葉や花で飾り付けたメイポール (Maypole) を広場に立て、その周りを踊りながら廻るという風習があった。

ルーン文字のひとつにこれをあらわすものがある。

シラカンバの花言葉は、「光と豊富」「柔和」「あなたを待ちます」などとされている[7]。盛大な結婚式のことを「華燭の典」というが、この華燭とはシラカバなどの樺の樹皮を松明にして明るくすることを指す言葉である[8]

国の木編集

  • フィンランドでは、国の自然を代表するシンボルとしてシラカンバがあげられており、事実上、国の木として扱われている[25]

  

都道府県・市町村の木に指定する自治体編集

日本において、高原を代表する樹木で、長野県の県木に指定されているほか、市町村の木に指定する地方自治体もある[11]

脚注編集

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - シラカンバ(広義)(2018年5月3日閲覧)
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - コウアンシラカンバ(2018年5月3日閲覧)
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - シラカンバ(2018年5月3日閲覧)
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - キレハシラカンバ(2018年5月3日閲覧)
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - エゾノシラカンバ(2018年5月3日閲覧)
  6. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList) - カラフトシラカンバ(2018年5月3日閲覧)
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n 田中潔 2011, p. 129.
  8. ^ a b c d e f g h i 辻井達一 1995, p. 85.
  9. ^ a b c d e f g h 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 2009, p. 159.
  10. ^ a b c d 亀田龍吉 2014, p. 96.
  11. ^ a b c d e f g h 平野隆久監修 1997, p. 162.
  12. ^ a b c d e f g h i j k 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 130.
  13. ^ a b c d e f 辻井達一 1995, p. 87.
  14. ^ a b 長谷川哲雄 2014, p. 20.
  15. ^ a b c d e 辻井達一 1995, p. 86.
  16. ^ a b c d 辻井達一 1995, p. 88.
  17. ^ 長谷川哲雄 2014, pp. 20, 138.
  18. ^ a b 渡辺一夫 『イタヤカエデはなぜ自ら幹を枯らすのか:樹木の個性と生き残り戦略』 築地書館 2009 ISBN 9784806713937 pp.174-179.
  19. ^ 長谷川哲雄 2014, p. 139.
  20. ^ アレルゲンを識る(間口四郎.石狩湾耳鼻科院長)
  21. ^ “体調不良は給食のリンゴ原因 美幌の小中学生、アレルギー反応”. 北海道新聞 (北海道新聞社). (2014年7月12日). http://www.hokkaido-np.co.jp/news/donai/550707.html 
  22. ^ a b 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 131.
  23. ^ a b 角田陽一 2018, p. 116.
  24. ^ a b 更科源蔵 1977, p. 28-29.
  25. ^ フィンランドの概略(フィンランド大使館)

参考文献編集

  • 亀田龍吉 『落ち葉の呼び名辞典』世界文化社、2014年10月5日、96 - 97頁。ISBN 978-4-418-14424-2 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、130 - 131頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 田中潔 『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、128 - 129頁。ISBN 978-4-07-278497-6 
  • 辻井達一 『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、85 - 88頁。ISBN 4-12-101238-0 
  • 西田尚道監修 志村隆・平野勝男編 『日本の樹木』学習研究社〈増補改訂フィールドベスト図鑑 5〉、2009年8月4日、159頁。ISBN 978-4-05-403844-8 
  • 長谷川哲雄 『森のさんぽ図鑑』築地書館、2014年3月10日。ISBN 978-4-8067-1473-6 
  • 平野隆久監修 『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、162頁。ISBN 4-522-21557-6 
  • 更科源蔵 『コタン生物記Ⅰ樹木・雑草篇』法政大学出版局、1976年11月1日、28-29頁。ISBN 978-4588456022 
  • 角田陽一 『図解アイヌ』新紀元社、2018年7月24日、116頁。ISBN 978-4775315132 

関連項目編集

  • チャーガ (カバノアナタケ/Chaga mushroom/Inonotus obliquus)

外部リンク編集