シロシビンあるいはサイロシビン(Psilocybin、4-ホスホリルオキシ-N,N-ジメチルトリプタミン)は、マジックマッシュルームと一般に称されるキノコに含有される成分で、幻覚剤に分類される、インドールアルカロイドの一種。同じく菌内で共存しているシロシン(Psilocin)のリン酸エステルであり、シロシビンが加水分解されたもの。シビレタケ属ヒカゲタケ属といったハラタケ目のキノコに含まれる。

シロシビン
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識別情報
CAS登録番号 520-52-5
PubChem 10624
ChemSpider 10178
日化辞番号 J6.604D
KEGG C07576
特性
化学式 C12H17N2O4P
モル質量 284.25 g mol−1
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

リゼルグ酸ジエチルアミド (LSD) とも似た化学構造を持ち、作用も似ている。向精神薬に関する条約で規制されている。日本では麻薬及び向精神薬取締法により、シロシンと共に厳しく規制されている。

イギリスでは、治療抵抗性うつ病や[1]、禁煙[2]に対する効果の臨床試験が進行している。

目次

歴史編集

 
マヤ文明のキノコ石。

シロシビンを多く含む幻覚性キノコは、かなり古くからバリ島メキシコなどではシャーマニズムに利用されてきた。

1957年にアメリカの菌類学者のロバート・ゴードン・ワッソン英語版によるメキシコ実地調査の記録がアメリカの『ライフ』で「魔法のきのこを求めて』として掲載されキノコの存在が公になる。フランス国立自然史博物館の館長のロジェ・エイムはワッソンンに同行したりして、この地方を探検し、シロシベ・メキシカーナ・アイムと名付けた種のキノコを自分の研究室で人工栽培した[3]。このキノコから成分を抽出しようという研究が同博物館において行われることとなり、製薬会社のメルク社とスミス・クライン・アンド・フレンチ社も研究グループを使って取り組んだが、成果を得ず、エイムはパリのサンド社を介して問い合わせた[3]。スイス本社でLSDを合成したアルバート・ホフマンの研究経験が生かされるのではということで、エイムはホフマンを訪れ、サンド社においてもホフマンの元で研究が行われた[3]。エイムが栽培したキノコが用いられ分離してみるが結果を経ず、LSDの場合と同様に、ホフマンは自ら生体実験を行い強い作用を示し、そして多くの同僚がモルモットになってくれたおかげで、最終的に純粋な成分を蒸留しシロシン、シロシビンと名付けられた[3]

ホフマンとその同僚とエイムは研究に従事し、当初はキノコに品種改良を施し論文を寄稿し、化学構造の特定などにを行っていった[3]

性質編集

シロシビンはシロシンのリン酸エステルであり、どちらも同様の作用があるが、シロシンの分子は不安定で酸素によって急速に破壊されるが、シロシビンは極めて安定した物質である[3]LSDと共通の化学特性および化学構造がある[3]。生物が生じさせるインドール化合物について重要な物質である[3]。脳内の神経伝達物質であるセロトニンに近い化学構造を持つ[3]

生合成編集

シロシビンは、生合成的にトリプトファンに由来するアルカロイドインドールアルカロイド)で、脱炭酸されたトリプトファンはトリプタミンとなり、それがインドールアルカロイドの前駆体となる。

薬理作用編集

シロシビンはトリプタミン誘導体で、中枢神経系のセロトニン受容体に作用して幻覚・幻聴などを引き起こす。末梢神経系では、セロトニン-ノルアドレナリン経路を介して作用すると考えられている。

症状は、摂取してから30分ほどで悪寒や吐気を伴う腹部不快感があり、1時間も過ぎると瞳孔が拡大して視覚異常が現れ始め、末梢細動脈は収縮して血圧が上がる。言わば、交感神経系が興奮した時と似た状態である。2時間ほど後には幻覚、幻聴、手足の痺れ、脱力感などが顕著に現れて時間・空間の認識さえ困難となる。その後は徐々に症状が落ち着き始め、4~8時間でほとんど正常に戻る。

作用が似ているLSDでは8-12時間である[3]

薬物動態編集

摂取後は速やかに加水分解されてシロシンとなり、腎臓肝臓血液に分布する。ヒトの中毒量は5-10mg程度(乾燥したシロシベ・クベンシスで1-2g相当)。15mg以上も摂取すると、LSD並の強烈な幻覚性が発現する。成長したヒカゲシビレタケ、オオシビレタケで2、3本、アイゾメシバフタケだと5、6本で中毒する。分離したシロシビンを直接静脈注射すると、数分で効果が現れる。

LSDあるいはメスカリンと同時に摂取した場合、類似の構造をもつ物質であるために交差耐性ができる[4]

副作用編集

痙攣や昏睡などの重症例は極めて稀で、死亡するようなことはまずないが、幼児や老人が大量に摂取すると重篤な症状に陥ることもある。シビレタケ属の一種で、シロシビン含有量の多いシロシベ・ベオシスチン(Psilocybe baeocystin)を子供が誤食して死亡した例が報告されている。

ベニテングタケテングタケに代表されるイボテン酸の中毒症状は、最終的に意識が消失していく傾向にあるのに対し、シロシビン中毒では過覚醒が発現することが多い。

長期間常用しても蓄積効果はなく、身体的な依存性もないが、軽い精神依存があるとされる。また、摂取した後も3ヵ月以内くらいは、視覚的体験が再燃するフラッシュバックが起こる可能性が指摘されている。他の副作用としては、バッドトリップ英語版を体験することがある。

医療用途編集

2000年ごろには、アメリカでは、強迫性障害や、群発性頭痛にシロシビンの臨床試験を行ない、一定の効果を得たという報告もある[5][6]

イギリスでは、医学研究審議会(MRC)の資金提供を受け、2015年に治療抵抗性うつ病に対する研究が開始され[1]、その結果、8年から30年のうつ病を患う患者12人の約半分は、服用体験から3週間後に寛解に達した(うつ病の基準を満たさなかった)[7]。またシロシビンと認知行動療法を併用して、ニコチン依存症(たばこの喫煙)に対する治療研究もなされている。禁煙のためにシロシビンを用いた被験者15人の予備的な研究が行われており、半年後では、心理療法やほかの薬物療法の通常35%未満の禁煙率よりも大幅に多い80%という経過が報告されている[2]。アルコール依存症では、被験者10人中の数人は試験から脱落や除外があったが、36週目でも飲酒を減少させていた[8]

アメリカの成人の全国調査では、19万人から生涯におけるシロシビンとLSDが、心理的苦痛や自殺思考、また自殺計画や自殺企図の減少と関連していることが分かった[9]

シロシビンを含む菌類編集

シロシビン、シロシンを含むのはハラタケ目のキノコで、同じ種でも採取場所や時期によっても含有量は異なってくるが、特に多量にシロシビンを含む属として、前述のシビレタケ属、ヒカゲタケ属と、日本では小笠原諸島などに分布する熱帯性のアオゾメヒカゲタケ属が挙げられる。僅かでも含むものも数えれば、その数は180種以上にも及ぶ。その中には、シロシビン以外の毒が共存するキノコも少なからず存在する。

フウセンタケ科 Cortinariaceae
ケコガサタケ属 Galerina (猛毒のα-アマニチンも含む)
チャツムタケ属 Gymnopilus
アセタケ属 Inocybe
オキナタケ科 Bolbitiaceae
フミヅキタケ属 Agrocybe
コガサタケ属 Conocybe
ヒカゲタケ属 Panaeolus
ジンガサタケ属 Anellaria
アオゾメヒカゲタケ属 Copelandia
ヒメシバフタケ属 Panaeolina
モエギタケ科 Strophariaceae
クリタケ属 Hypholomaニガクリタケは猛毒)
シビレタケ属 Psilocybe
キシメジ科 Tricholomataceae
ヒナノヒガサ属 Gerronema
クヌギタケ属 Mycena
ウラベニガサ科 Pluteaceae
ウラベニガサ属 Pluteus

日本で規制されている種編集

シビレタケ属 Psilocybe
ヒカゲシビレタケ P. argentipes
ミナミシビレタケ(別名:ニライタケ) P. cubensis
アイセンボンタケ P. fasciata
ヤブシビレタケ P. lonchophorus (日本での自生は未確認)
オオシビレタケ P. subaeruginascens
アイゾメシバフタケ P. subcearulipes
シビレタケ P. vanenata
ヒカゲタケ属 Panaeolus
ワライタケ P. papilionaceus
ヒカゲタケ P. sphinctrinus (最近ではワライタケと同種と考えられている)
センボンサイギョウガサ P. subbalteatus
アオゾメヒカゲタケ属 Copelandia
アオゾメヒカゲタケ(俗名:ハワイアン) C. cyanescens

日本で法規制前に、合法ドラッグとして市販されていたシロシビン群キノコの代表的なものとして、シロシベ・クベンシス(ミナミシビレタケ)、シロシベ・アズレンシス(P. azurenscens)、シロシベ・メキシカーナ(俗名:メキシカン/P. mexicana)、コーポランディア・サイアネンシス(アオゾメヒカゲタケ)などの北中米原産種がよく知られる。

映画編集

  • A New Understanding: The Science of Psilocybin - 2015年のドキュメンタリー。シロシビンによる不安、抑うつ、身体的な痛みを緩和する治療研究を特集している。

出典編集

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  1. ^ a b Nutt, David (2014). “Help luck along to find psychiatric medicines”. Nature 515 (7526): 165–165. doi:10.1038/515165a. PMID 25391924. http://www.nature.com/news/help-luck-along-to-find-psychiatric-medicines-1.16311. 
  2. ^ a b Johnson, M. W.; Garcia-Romeu, A.; Cosimano, M. P.; et al. (2014). “Pilot study of the 5-HT2AR agonist psilocybin in the treatment of tobacco addiction”. Journal of Psychopharmacology 28 (11): 983–992. doi:10.1177/0269881114548296. PMC 4286320. PMID 25213996. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=4286320. 
  3. ^ a b c d e f g h i j A.ホッフマン 『LSD-幻想世界への旅』 (監訳)福屋武人、(翻訳)堀正、榎本博明訳、新曜社、1984年 LSD-MEIN SORGENKIND, 1979.
  4. ^ レスター・グリンスプーン、ジェームズ・B. バカラー 『サイケデリック・ドラッグ-向精神物質の科学と文化』 杵渕幸子訳、妙木浩之訳、工作舎、2000年。ISBN 978-4875023210。46頁。(原著 Psychedelic Drugs Reconsidered, 1979)
  5. ^ WIRED.jp (2004年10月1日). “幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(上)”. 2009年11月22日閲覧。
  6. ^ WIRED.jp (2004年10月1日). “幻覚剤の治療臨床試験、本格化へ(下)”. 2009年11月22日閲覧。
  7. ^ Nutt, David J; Carhart-Harris, Robin L; Bolstridge, Mark; et al. (2016). “Psilocybin with psychological support for treatment-resistant depression: an open-label feasibility study”. The Lancet Psychiatry 3 (7): 619–627. doi:10.1016/S2215-0366(16)30065-7. PMID 27210031. http://www.thelancet.com/journals/lanpsy/article/PIIS2215-0366(16)30065-7/fulltext. 
  8. ^ dos Santos, R. G.; Osorio, F. L.; Crippa, J. A. S.; et al. (2016). “Antidepressive, anxiolytic, and antiaddictive effects of ayahuasca, psilocybin and lysergic acid diethylamide (LSD): a systematic review of clinical trials published in the last 25 years”. Therapeutic Advances in Psychopharmacology 6 (3): 193–213. doi:10.1177/2045125316638008. PMC 4910400. PMID 27354908. http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S1516-44462016000100065. 
  9. ^ “Psychedelic drug use could reduce psychological distress, suicidal thinking, study suggests”. ScienceDaily. (2015年3月9日). http://www.sciencedaily.com/releases/2015/03/150309174507.htm 2015年11月1日閲覧。