シロバナネコノメソウ

ユキノシタ科の種

シロバナネコノメソウ(白花猫の目草、学名Chrysosplenium album)は、ユキノシタ科ネコノメソウ属多年草[2][3][4]

シロバナネコノメソウ
京都府京都市 2021年3月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ上類 Superrosids
: ユキノシタ目 Saxifragales
: ユキノシタ科 Saxifragaceae
: ネコノメソウ属 Chrysosplenium
: シロバナネコノメソウ
C. album
学名
Chrysosplenium album Maxim. var. album[1]
和名
シロバナネコノメソウ
(白花猫の目草)[2]

特徴 編集

根出葉は花時には枯れている。走出枝は地上性で、花後に伸長し、白色の軟毛が密生し、が対生する。植物体全体に白軟毛が多い。葉身は長さ2-10mm、幅3-16mmになる扇状円形から円腎形で、基部は鈍形またはくさび形となり、上縁には5-9個の半円状の鋸歯がある。葉柄は長さ0.3-3cmになる。花茎はふつう高さ5-10cmになり、暗紫色をおび、白色の軟毛が生える。茎葉は1-2対が対生する[2][4]

花期は4-5月。花の径は3-5mm、花柄は長さ1-4mmになる。裂片は4個で花時に直立し、長さは3-5mm、長卵形で先端は鋭形になり、花時に白色であるが花後に淡緑色に変わる。花弁は無い。雄蕊は8個あり、萼裂片と同じ長さか、またはやや長く、花時に直立する。裂開直前の葯は暗紅色をし、後に黒紫色になる。子房は上位。花柱は2個あり、長さ1.5-2mmで、花時に直立する。果実は朔果で斜開し、2個の嘴はほぼ同じ長さで、萼裂片から突出する。種子は卵形で、長さ0.6-0.7mm、縦に10数個の隆条があり、乳頭状の突起が密にならぶ[2][4]

分布と生育環境 編集

日本固有種[5]。本州の近畿地方・中国地方、四国、九州に分布し、樹林下の谷沿いの湿った場所に生育する[2][3][4]

名前の由来 編集

和名シロバナネコノメソウは、「白花猫の目草」の意[2]。「しろばなねこのめさう」は、牧野富太郎 (1889)による命名である[6]

種小名(種形容語)album は、「白色の」の意味[7]

ギャラリー 編集

下位分類 編集

下位分類として変種に次の4種がある[4][8]。基本種を含め、果実期の萼裂片は、白色または黄色から淡緑色に変色する[9]

ハナネコノメ 編集

ハナネコノメ(花猫の目) Chrysosplenium album Maxim. var. stamineum (Franch.) H.Hara[10] - 基本種と比べると植物体全体に毛は少ない。走出枝は暗紫色をおび、花後に根の近くから四方に伸長し、黒紫色をおび細く、白色の縮毛が生える。葉の鋸歯は3-7個ある。花茎は直立して高さ5cmほどになる。茎葉は一般的に対生であるが互生も交じる。花序は茎先に2-3個の花がつく。萼裂片は白色で4個、長さ5mmほどの長倒卵形で、鐘状に開き、先は円頭または鈍頭で基本種ほどとがらない。雄蕊は8個で、成熟すれば長さ3.5-6mmになり、萼裂片から突き出る。裂開直前の葯は暗紅色をしている。花期は3月下旬-4月。日本固有種で、本州の福島県から京都府にかけて分布する。和名は白色の花と暗紅色の葯の対照の美しさからきたという。植物学者の原寛 (1938)による記載命名である[2][4][5][11]

キバナハナネコノメ 編集

キバナハナネコノメ(黄花花猫の目) Chrysosplenium album Maxim. var. flavum H.Hara[12] - 基本種やハナネコノメとの違いは、花期の萼裂片が鮮やかな黄色であることである。走出枝は花後に伸長し、栄養繁殖をするのでパッチ状に密集することがある。葉は対生し、葉柄は長さ2-7mm。葉身は扇形で、長さ1-8mm、幅2-9mmになり、縁の鋸歯は2-4個の深い円形となり、裏面は暗紫色をおびる。花茎は暗紫色をおび、直立して高さ2-7cm。花期は3-4月。花は1-6個がやや密な集散花序につく。萼裂片は、ハナネコノメと比べやや短く、広卵形または円形で先は鈍形または円頭になり、かなり平開する。雄蕊は8個で、萼裂片から長く突き出る。日本固有種で、本州の東海地方(岐阜県静岡県愛知県)に分布し、深山の渓流沿いや滝近くの湿った場所に生育する。原寛 (1958)による記載命名である[4][5][13][14]

準絶滅危惧(NT)環境省レッドリスト

(2020年、環境省)

キイハナネコノメ 編集

キイハナネコノメ(紀伊花猫の目) Chrysosplenium album Maxim. var. nachiense H.Hara[15] - 萼裂片は白色。基本種やハナネコノメと比べ、萼裂片は短く、長さ2-3mm。雄蕊は萼裂片よりわずかに短く、花柱とともに萼裂片を突き出ない。花は白色であるが、形態的には別種のコガネネコノメソウに似る。裂開直前の葯は紫色になる。原寛 (1957)による記載命名である[4][5][9]。日本固有種で、紀伊半島南部の南側、三重県最南部から和歌山県田辺市北西部にかけて分布する。花期は2月上旬-3月中旬と早い[8]

トツカワハナネコノメ 編集

トツカワハナネコノメ Chrysosplenium album Maxim. var. totsukawaense J.Oda et Nagam. - 2020年記載の新しい変種。花時の茎は直立し、軟らかい円柱形で、高さ5-20cm、太さ0.8-1.2mm、緑色から紫褐色、軟毛とともに白色の長毛が疎らに生える。根出葉は葉柄があり、しばしば花時まで残る。葉身は長さ7-10mm、幅8-12mm、扇形または扁円形で、両側に1-2個の円い鋸歯があり、基部はやや切形でしばしば葉柄に流れ、長い毛がまばらに生える。葉柄には長さ10-40mmの長い毛が生える。茎葉は無柄または有柄、葉身は長さ3-10mm、幅4-12mm、両側に1-2個の円い鋸歯がある[8]

花期は2月下旬から3月下旬。萼裂片は白色で、長さ2.0-2.6mm、幅1.5-2.9mm、先端は円みをおび、上半分は反曲する。雄蕊は8個で、花糸は長さ2.6-3.2mmあり、萼裂片を0.3-1.0mm超出する。裂開直前の葯は暗赤褐色で、花粉粒は白味がかった黄色から黄色になる。花柱は長さ1.6-2.2mmで、萼裂片から超出する。蒴果は斜開し、萼裂片から超出する。種子は卵球形で、長さ0.6-0.7mm、褐色で、10-12個の隆条に低い円形の乳頭状突起がならぶ。日本固有種。本州紀伊半島南部北側の三重県、奈良県、和歌山県に分布し、標高200-500mの低山帯の、小さな滝の崖地に限って生育する。織田および永益 (2020)による記載命名である[8]。2022年には、織田らによって四国の徳島県にも分布することが報告された[16]

花粉の色による変種間の判別 編集

ハナネコノメの花粉の色は東日本福島県から岐阜県北東部にかけて)では黄色、シロバナネコノメソウの花粉の色は西日本(岐阜県南西部から九州宮崎県にかけて)では白色であるとする調査報告がある[9]

脚注 編集

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “シロバナネコノメソウ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月7日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.273
  3. ^ a b 佐竹 (1982)、159-160頁
  4. ^ a b c d e f g h 『改訂新版 日本の野生植物2』p.203
  5. ^ a b c d 『日本の固有植物』pp.71-72
  6. ^ 牧野富太郎「日本植物報知第二(前號ノ續)」『植物学雑誌』第3巻第23号、日本植物学会、1889年、1頁、doi:10.15281/jplantres1887.3.1 
  7. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1501
  8. ^ a b c d 織田二郎 , 内藤麻子 , 大森裕子 , 市川正人 , 山脇和也 , 鈴木浩司 , 永益英敏「紀伊半島のシロバナネコノメソウ(ユキノシタ科)の分類学的研究」『植物学雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第95巻第4号、ツムラ、2020年、193-210頁、doi:10.51033/jjapbot.95_4_11023 
  9. ^ a b c 織田 (2015)、163-173頁
  10. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ハナネコノメ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月9日閲覧。
  11. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.523
  12. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “キバナハナネコノメ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月9日閲覧。
  13. ^ 『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ(増補改訂新版)』p.322
  14. ^ 原寛「キバナハナネコノメ」『植物学雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第33巻第3号、津村研究所、1958年、69頁、doi:10.51033/jjapbot.33_3_4232 
  15. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “キイハナネコノメ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2019年1月9日閲覧。
  16. ^ 織田 二郎, 木下 覺, 片山 泰雄「トツカワハナネコノメ Chrysosplenium album var. totsukawaense (Saxifragaceae) を徳島県において記録」『植物地理・分類研究(The Journal of Phytogeography and Taxonomy)』第70巻第1号、日本植物分類学会、2022年、61-64頁、doi:10.18942/chiribunrui.0701-07 

参考文献 編集

  • 織田二郎、村長昭義「花粉の色によるシロバナネコノメソウとハナネコノメ(ユキノシタ科)の判別とその地理分布」『分類』第15巻第2号、日本植物分類学会、2015年、NAID 110010014892 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年3月17日。ISBN 458253502X 
  • 加藤雅啓海老原淳編著『日本の固有植物』、2011年、東海大学出版会
  • 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
  • 矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ(増補改訂新版)』、2015年、山と溪谷社
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 2』、2016年、平凡社
  • 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  • 牧野富太郎「日本植物報知第二(前號ノ續)」『植物学雑誌』第3巻第23号、日本植物学会、1889年、1頁、doi:10.15281/jplantres1887.3.1 
  • 原寛「キバナハナネコノメ」『植物学雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第33巻第3号、津村研究所、1958年、69頁、doi:10.51033/jjapbot.33_3_4232 
  • 織田二郎 , 内藤麻子 , 大森裕子 , 市川正人 , 山脇和也 , 鈴木浩司 , 永益英敏「紀伊半島のシロバナネコノメソウ(ユキノシタ科)の分類学的研究」『植物学雑誌 (The Journal of Japanese Botany)』第95巻第4号、ツムラ、2020年、193-210頁、doi:10.51033/jjapbot.95_4_11023 
  • 織田 二郎, 木下 覺, 片山 泰雄「トツカワハナネコノメ Chrysosplenium album var. totsukawaense (Saxifragaceae) を徳島県において記録」『植物地理・分類研究(The Journal of Phytogeography and Taxonomy)』第70巻第1号、日本植物分類学会、2022年、61-64頁、doi:10.18942/chiribunrui.0701-07 

関連項目 編集

外部リンク 編集