ジャネット・イエレン

アメリカ合衆国の政治家、経済学者。第78代アメリカ合衆国財務長官

ジャネット・ルイーズ・イエレン(英語:Janet Louise Yellen1946年8月13日 - )は、アメリカ合衆国政治家経済学者ジョー・バイデン政権にて同国財務長官を務めている。第15代連邦準備制度理事会(FRB)議長(在任:2014年2月3日 - 2018年2月3日)を務めた。女性として史上初のFRB議長、財務長官である[1][2]。このほかビル・クリントン政権の大統領経済諮問委員会委員長(在任:1997年2月18日 - 1999年8月3日)、サンフランシスコ連邦準備銀行総裁(在任:2004年6月14日 - 2010年10月4日)、連邦準備制度理事会の副議長(在任:2010年10月4日 - 2014年2月3日)を歴任した。

ジャネット・イエレン
Janet Yellen
Janet Yellen official Federal Reserve portrait.jpg
生年月日 (1946-08-13) 1946年8月13日(74歳)
出生地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国 ニューヨーク州ニューヨーク
Flag of Brooklyn, New York.png ブルックリン区
出身校 イェール大学
ブラウン大学
所属政党 民主党
称号 経済学士(ブラウン大学
経済学修士(イェール大学
経済学博士(イェール大学
配偶者 ジョージ・アカロフ
子女 1人
サイン Janet Yellen signature.png

在任期間 2021年1月26日 - 現職
大統領 ジョー・バイデン

アメリカ合衆国の旗 連邦準備制度理事会
第15代議長
在任期間 2014年2月3日 - 2018年2月3日
大統領 バラク・オバマ
ドナルド・トランプ
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国籍 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
研究機関 ハーバード大学
カリフォルニア大学バークレー校
全米経済研究所
影響を
受けた人物
ジェームズ・トービン
受賞 ウィルバー・クロス賞(1997年)
アダム・スミス賞(2010年)
情報 - IDEAS/RePEc
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ベン・バーナンキによって宣誓させられるイエレン(2010年10月)

大統領経済諮問委員会委員長、連邦準備制度理事会議長、財務長官を全て経験するのは、ジャネット・イエレンが初めて[3]

経歴編集

1946年8月13日にニューヨーク州ニューヨークブルックリンベイリッジ英語版にて、ポーランドユダヤ系[4]の一家に誕生する[5]。父は医師、母は教師だった[6][4][7]

ブルックリンのベイリッジ・セクションにあるフォート・ハミルトン高校を首席で卒業し[8]1967年ブラウン大学の経済学を優秀な成績で卒業する(A.B.、summa cum laude)。ジョージ・ハーバート・ボーツ英語版ハーシェル・グロスマンの強い影響を受けた[9]。1971年にジェームズ・トービンの監督のもと、論文"Employment, Output and Capital Accumulation in an Open Economy: A Disequilibrium Approach"によりイェール大学から経済学博士号(Ph.D.)の学位を得る[10][11]

1971年から1976年にかけてハーバード大学経済学部の助教授となる[12]1977年から1978年にかけて連邦準備制度理事会で国際金融・貿易・金融研究部門のエコノミストとなる。1978年から1980年までロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)の講師となる[13]1980年から1982年までカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクールの助教授となる。1982年から1985年までカリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネススクールの准教授となる。1985年にはカリフォルニア大学バークレー校のハース・ビジネススクールの教授となる。1994年から1997年まで連邦準備制度理事会の理事を務める[10]。1997年から1999年まではビル・クリントン大統領経済諮問委員会の委員長となる[10]。1999年には全米経済研究所(NBER)の研究会員となる。2001年には西部経済学会の副会長となり、またアメリカ芸術科学アカデミーフェローとなる。2004年から2010年までサンフランシスコ連邦準備銀行の総裁を務めた[14]

2010年10月4日から連邦準備制度理事会の副議長となり、2014年には連邦準備制度理事会の議長となる[15]。2018年2月3日の任期まで務めた。

2018年にはブルッキングス研究所の特別研究員となった[16]

2020年11月30日にジョー・バイデン次期大統領より財務長官に指名された[17]。上院での人事案審議は超党派で賛成を集め、2021年1月25日に賛成84、反対15票の大差で承認された[18]。翌26日に宣誓し就任[19]

業績および賞編集

FRBでの実務編集

2008年頃以降のアメリカの経済危機に対し、イエレンは前副議長として、マネタリーベースの大幅な増加による大規模な量的金融緩和政策に参画した(右図)。最終的にマネタリーベースは4兆ドルを超えた。この量的金融緩和政策はアメリカの経済を良好に回復させたとして高い評価が見受けられる。

バーナンキやイエレンが率いるFRBは長期にわたる金融緩和により、景気がある程度回復したと見ると、2013年末から月100億ドルずつの量的金融緩和の縮小を開始し、10ヶ月ほどで量的金融緩和によるマネタリーベースの増加は終了すると見られている。バーナンキの退任後、新議長になったイエレンはその方針を踏襲している(以上の叙述の文献はベン・バーナンキの項を参照)。

イエレン新議長は2014年5月8日行った上院予算委員会での証言で、適切なバランスシートの規模について政策の正常化が進行するまで決定を急がない考えを示し、危機前の水準に戻すには5-8年近く要する可能性があると指摘した[21]。その後、2014年5月19日、バーナンキは「利上げは経済が正常化に向かっていることを示すため、利上げの時期が来ることを望む」、「金融政策の正常化に伴い、バランスシートを正常化させる必要はない」との見解を示した[22]

2014年8月20日、FRBは先月分の連邦公開市場委員会議事要旨を公開し、(将来予定される)最初の利上げ後も当面、保有証券の償還資金再投資を継続することに「ほとんどの」参加者が賛成していると公表した[23]

2014年8月22日、イエレンはアメリカの失業率が予想以上に速いペースで低下したことを指摘しつつも、失業率のみを指標として米労働市場の健全性を判断するには不十分と強調し、入手される指標や情報に基づき、(予想される将来の利上げなどの)政策を柔軟に決定することを再度主張した[24]

2014年10月29日、FRBは資産買い入れ額をこれまでの150億ドルからゼロとした。これに伴い、2012年9月に開始した量的緩和第3弾(QE3)による新たな資産買い入れは終了した。また、超低金利政策が「かなりの期間」になるという表現を継続して、フォワードガイダンスの表現を維持した[25]

財務長官として編集

2021年1月19日に財務長官の上院指名のための上院財政委員会の公聴会の席で中国政府新疆ウイグル自治区などでの所業を念頭に「中国はおぞましい人権侵害を犯している」「中国は最大の戦略的競争者だ」と指摘し、中国の不公正貿易などに対抗するため「すべての手段を使う用意がある」と述べた。中国による知的財産権侵害や技術移転強要などに「積極的に対抗する必要性がある」と語り、同盟国と連携して中国に対抗する方針を示した[26]

また新型コロナウイルス流行による景気鈍化の長期化を防ぐため「大きく動くことが賢明だ」として、バイデン次期大統領が提案した1兆9千億ドル(約200兆円)規模の経済対策を早期成立させるよう連邦議会に求めた[26]。この経済対策については、オバマ政権時代のサマーズ元長官は過大すぎるとして異論を唱えた[27]

2021年1月26日就任[28]。女性初の財務長官。

家族編集

著作編集

  • "The Fabulous Decade: macroeconomic Lessons from the 1990s" (with Alan Binder), The Century Foundation Press, New York, 2001 (邦訳はアラン・ブラインダー、ジャネット・イエレン著、山岡洋一訳『良い政策 悪い政策-1990年代アメリカの教訓』日経BP社2002年
  • "Trends in Income Inequality and Policy Responses," Looking Ahead, October 1997 and James Auerbach and Richard Belous, eds., "The Inequality Paradox: Growth of Income Disparity," National Policy Association, 1998
  • "The Continuing Importance of Trade Liberalization," Business Economics (1998).
  • "Monetary Policy: Goals and Strategy," Business Economics (July 1996).
  • "An Analysis of Out-of-Wedlock Childbearing in the United States," (with George Akerlof and Michael Katz). Quarterly Journal of Economics (May 1996).
  • "East Germany In From the Cold: The Economic Aftermath of Currency Union" (with George Akerlof, Andrew Rose, and Helga Hessenius), Brookings Papers on Economic Activity 1991:1.
  • "How Large are the Losses from Rule of Thumb Behavior in Models of the Business Cycle?" (with George Akerlof) in Willima Brainard, William Nordhaus, and Harold Watts, eds. Money, Macroeconomics and Economic Policy: Essays in Honor of James Tobin, Cambridge, Mass.: MIT Press (1991).

参考文献編集

脚注編集

  1. ^ イエレン氏が2月1日に米FRB議長就任、3日に宣誓式ロイター 2014年1月31日 2014年2月2日閲覧)
  2. ^ FRB、イエレン新議長が就任 11日に年次報告”. 日本経済新聞. 日本経済新聞社 (2014年2月3日). 2020年10月21日閲覧。
  3. ^ イエレン財務長官を上院承認-前FRB議長で女性初、経済司令塔” (2021年1月26日). 2021年1月27日閲覧。
  4. ^ a b Obama to nominate Jewish economist Janet Yellen as new Fed chief”. World Jewish Congress (2013年10月9日). 2014年1月8日閲覧。
  5. ^ Smialek, Jenna (2020年11月23日). “Biden Expected to Pick Janet Yellen, Former Fed Chair, as Treasury Secretary”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2020/11/23/business/economy/janet-yellen-treasury-secretary.html 2020年11月23日閲覧。 
  6. ^ Associated Press (2016年4月29日). “Janet Yellen: A brief profile of the Federal Reserve nominee”. The Denver Post. 2018年3月21日閲覧。
  7. ^ “Janet Yellen's Faith Slips Under the Radar As Gender Takes Over” (英語). The Forward. (2013年10月15日). https://forward.com/news/breaking-news/185659/janet-yellens-faith-slips-under-the-radar-as-gende/ 2020年11月30日閲覧。 
  8. ^ Asahi Digital
  9. ^ Grace, Stephanie (January–February 2014). “Banker to the Nation”. Brown Alumni Magazine. May 24, 2015時点におけるアーカイブ。. エラー: |archivedate=を指定した場合、|archiveurl=の指定が必要です。. http://www.brownalumnimagazine.com/content/view/3549/31/ 2015年5月23日閲覧。. 
  10. ^ a b c “情報BOX:イエレン米サンフランシスコ地区連銀総裁の略歴”. ロイター. (2010年3月12日). https://www.reuters.com/article/idJPJAPAN-14314320100312 2021年1月25日閲覧。 
  11. ^ Sisgoreo, Daniel (October 10, 2013). “Yellen picked as Fed's first female chair”. Yale Alumni Magazine. March 24, 2015時点におけるアーカイブ。. エラー: |archivedate=を指定した場合、|archiveurl=の指定が必要です。. https://yalealumnimagazine.com/blog_posts/1592-yellen-picked-as-fed-s-first-female-chair 2014年5月22日閲覧。. 
  12. ^ Coronell Uribe, Raquel; Griffin, Kelsey J. (2013年9月29日). “President-elect Joe Biden Nominates Harvard Affiliates to Top Executive Positions”. Harvard University. https://www.thecrimson.com/article/2020/12/7/biden-cabinet-harvard-affiliates/ 2020年12月7日閲覧。 
  13. ^ George A. Akerlof Facts”. Nobel Prize. 2020年11月25日閲覧。
  14. ^ “イエレン氏の略歴”. 日本経済新聞. (2013年10月9日). https://www.nikkei.com/article/DGXDASGM09012_Z01C13A0MM0000 2021年1月25日閲覧。 
  15. ^ 斉場保伸 (2014年1月7日). “FRB イエレン議長承認”. 東京新聞. http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/news/CK2014010702000249.html 2014年1月9日閲覧。 [リンク切れ]
  16. ^ イエレン氏、米ブルッキングス研究所の研究員にreuters
  17. ^ “バイデン氏、米財務長官にイエレン氏を指名 さらに2州がバイデン氏勝利認定”. BBC. (2020年12月1日). https://www.bbc.com/japanese/55140602 2021年1月25日閲覧。 
  18. ^ “米上院、イエレン氏の財務長官人事承認 初の女性起用”. 日本経済新聞. (2021年1月26日). https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN22DQQ0S1A120C2000000 2021年1月26日閲覧。 
  19. ^ Janet L. Yellen Sworn In As 78th Secretary of the United States Department of the Treasury”. アメリカ合衆国財務省. 2021年1月27日閲覧。
  20. ^ Raff, D., and Summers, L. (1987), “Did Henry Ford pay efficiency wages?”, Journal of Labor Economics, Oct 1987
  21. ^ バランスシート、5-8年で危機前水準に=米FRB議長 Reuters 2014年5月9日
  22. ^ 米FRB、バランスシート縮小の必要なし=バーナンキ前議長 Reuters 2014年5月20日
  23. ^ UPDATE 4-労働市場は急速に回復、早期利上げには不十分 Reuters 2014年8月20日
  24. ^ 労働市場は依然回復途中、実用的な政策判断必要=イエレン議長 Reuters 2014年8月23日
  25. ^ 米FOMCが量的緩和終了 Reuters 2014年10月30日
  26. ^ a b “「中国はおぞましい人権侵害」 イエレン財務長官候補が批判”. 産経新聞. (2021年1月19日). https://www.sankei.com/world/news/210120/wor2101200009-n1.html 2021年1月25日閲覧。 
  27. ^ 米200兆円対策は過熱招くか イエレンVSサマーズ論争 8日から法案化作業”. 日本経済新聞 (2021年2月8日). 2021年2月8日閲覧。
  28. ^ イエレン氏、米財務長官に正式就任 職員を鼓舞(写真=AP)” (日本語). 日本経済新聞 (2021年1月27日). 2021年1月27日閲覧。
  29. ^ Robert Akerlof”. The University of Warwick (2017年2月). 2021年4月10日閲覧。

外部リンク編集

公職
先代:
アンディ・バウコル英語版
(代理)
  アメリカ合衆国財務長官
第78代:2021年1月26日 -
次代:
現職
先代:
ジョセフ・E・スティグリッツ
  大統領経済諮問委員会委員長
第18代:1997年2月13日 - 1999年8月3日
次代:
マーティン・ニール・ベイリー
先代:
ベン・バーナンキ
  連邦準備制度理事会議長
第15代:2014年2月3日 - 2018年2月3日
次代:
ジェローム・パウエル
先代:
ドナルド・コーン英語版
  連邦準備制度理事会副議長
2010年10月4日 - 2014年2月3日
次代:
スタンレー・フィッシャー
先代:
ロバート・T・パリー
  サンフランシスコ連邦準備銀行総裁
2004年6月14日 - 2010年10月4日
次代:
ジョン・C・ウィリアムズ英語版