ジョン・ル・カレ

イギリスの小説家、スパイ (1931-2020)

ジョン・ル・カレことデビッド・ジョン・ムーア・コーンウェル(David John Moore Cornwell a.k.a. John le Carré、1931年10月19日 - 2020年12月12日)は、イギリスドーセットプール出身の小説家。スパイ小説で知られている。

ジョン・ル・カレ
John le Carré
誕生 David John Moore Cornwell
(1931-10-19) 1931年10月19日
イングランドの旗 イングランド ドーセット プール
死没 (2020-12-12) 2020年12月12日(89歳没)
イングランドの旗 イングランド コーンウォール トゥルーロ
職業 小説家
国籍 イギリスの旗 イギリス
アイルランドの旗 アイルランド
活動期間 1961年 - 2020年
ジャンル スパイ小説
代表作寒い国から帰ってきたスパイ1963年
デビュー作死者にかかってきた電話1961年
署名
ウィキポータル 文学
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概要 編集

 
寒い国から帰ってきたスパイ』の広告。『S-Fマガジン』1964年11月号に掲載されたもの。

スイスのベルン大学とオックスフォード大学のリンカーン・カレッジで学び、イートン校で2年間教鞭を取る。その後外務・英連邦省に入り、1956年にMI5の下級職員となった。1960年にMI6への転属願いを出す。1961年春にちょうどMI6の新人訓練を終える頃、イギリスの諜報員でソ連の二重スパイだったジョージ・ブレイク逮捕の知らせが入る[1]。主に西ドイツ(在ボン大使館、在ハンブルク領事館)で働いた。

外交官として働く傍ら、その経験を元に小説を書き始め、1961年(29歳)のとき発表した『死者にかかってきた電話』で小説家としてデビュー。

1963年9月、『寒い国から帰ってきたスパイ』を出版[2]。同作品は出版前に3回も増刷され、かつパラマウント映画から映画化のオファーを受けた[3]エドガー賞 長編賞を受賞し、世界的に評価を得る。

ル・カレの作品の多くは、初老のMI6(作中では「ザ・サーカス」の別名で呼ばれる)幹部「ジョージ・スマイリー」が登場し、その中でもスマイリーを主人公としたものは1960年代では『死者にかかってきた電話』『高貴なる殺人』、1970年代では『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』『スクールボーイ閣下』『スマイリーと仲間たち』の合計5作である。特に1970年代に発表した長編3作は全てスマイリーを主人公としており、日本ではその3作を「スマイリー三部作」と呼ぶ。

その後もスパイものを中心に作品を発表しており、各国語に翻訳されて世界各国で発売されている。映画化やテレビドラマ化された作品も多い。

2015年11月、本人への長時間インタビューと資料にもとづいた伝記『John le Carré: The Biography』が出版される(日本語訳は2018年5月に『ジョン・ル・カレ伝』上下巻として刊行された)。

2016年9月、回顧録『The Pigeon Tunnel: Stories from My Life』を著した(日本語訳は2017年3月に『地下道の鳩―ジョン・ル・カレ回想録』として刊行された)[4]

2020年12月12日、肺炎のため、トゥルーロの王立コーンウォール病院で死去した[5][6][7]。89歳没。

私生活 編集

1954年、アリソン・アン・ヴェロニカ・シャープと結婚。3人の息子をもうけるが[8]、1971年に離婚[9]。1972年、ホッダー&ストートンの編集者のヴァレリー・ジェーン・ユースタスと結婚した。同年に生まれたニコラス・コーンウェルはニック・ハーカウェイ(Nick Harkaway)の名で作家となった。ル・カレはタイプが打てなかったため、妻が原稿のタイプ打ちを行っていた[10]

ル・カレ死後の2021年2月27日、妻のヴァレリーが死去。同年4月1日、BBCのル・カレのドキュメンタリー番組の予告編が放送され、その中で息子のニック・ハーカウェイが、ル・カレが生前にアイルランド国籍を取得していたことを明らかにした。イギリスの欧州連合離脱に対する抗議が理由とされている。英国では二重国籍が認められている[11][12]

主な著作 編集

# 邦題 原題 刊行年   刊行年月   訳者   出版社 備考
1 ししやにかかつてきたてんわ死者にかかってきた電話 Call for the Dead 1961年 1965年
1978年11月
宇野利泰 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリー五部作
2 こうきなるさつしん高貴なる殺人 A Murder of Quality 1962年 1966年
1979年12月
宇野利泰 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリー五部作
3 さむいくにからかえつてきたすはい寒い国から帰ってきたスパイ The Spy Who Came in from the Cold 1963年 1964年9月
1978年5月
宇野利泰 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリーは脇役
4 かかみのくにのせんそう鏡の国の戦争 The Looking-Glass War 1965年 1965年
1980年6月
宇野利泰 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリーは脇役
5 といつのちいさなまちドイツの小さな町 A Small Town in Germany 1968年 1970年
1990年3月
宇野利泰 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
6 未訳 The Naive and Sentimental Lover 1971年
7 ていんかあていらあそるしやあすはいティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ Tinker, Tailor, Soldier, Spy 1974年 1975年5月
1986年11月
2012年3月
菊池光
菊池光
村上博基
ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
ハヤカワ文庫
スマイリー五部作
8 すくうるほおいかつかスクールボーイ閣下 The Honourable Schoolboy 1977年 1979年7月
1987年1月
村上博基 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリー五部作
9 すまいりいとなかまたちスマイリーと仲間たち Smiley's People 1979年 1981年5月
1987年4月
村上博基 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリー五部作
10 りとるとらまあかあるリトル・ドラマー・ガール The Little Drummer Girl 1983年 1983年11月
1991年12月
村上博基 ハヤカワノヴェルズ
ハヤカワ文庫
11 はあふえくとすはいパーフェクト・スパイ A Perfect Spy 1986年 1987年4月
1994年7月
村上博基 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
12 ろしあはうすロシア・ハウス The Russian House 1989年 1990年4月
1996年4月
村上博基 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
13 かけのしゆんれいしや影の巡礼者 The Secret Pilgrim 1990年 1991年
1997年8月
村上博基 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
スマイリー
14 ないとまねしやあナイト・マネジャー The Night Manager 1993年 1994年7月
1998年6月
村上博基 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
15 われらのけえむわれらのゲーム Our Game 1996年 1996年5月
1999年6月
村上博基 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
16 はなまのしたてやパナマの仕立屋 The Tailor of Panama 1997年 1999年10月 田口俊樹 集英社
17 しんくるあんとしんくるシングル&シングル Single and Single 1999年 2000年12月 田口俊樹 集英社
18 ないろひのはちナイロビの蜂 The Constant Gardener 2001年 2003年12月 加賀山卓朗 集英社文庫
19 さらまんたあはほのおのなかにサラマンダーは炎のなかに Absolute Friends 2003年 2008年11月 加賀山卓朗 光文社文庫
20 みっしょんそんくミッション・ソング The Mission Song 2006年 2011年12月 加賀山卓朗 光文社文庫
21 たれよりもねらわれたおとこ誰よりも狙われた男 A Most Wanted Man 2008年 2013年12月
2014年9月
加賀山卓朗 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
22 われらがそむきしものくわれらが背きし者 Our Kind Of Traitor 2010年 2012年11月
2016年10月
上岡伸雄
上杉隼人
岩波書店
岩波現代文庫
23 せんさいなしんじつく繊細な真実 A Delicate Truth 2013年 2014年11月
2016年9月
加賀山卓朗 ハヤカワ・ノヴェルズ
ハヤカワ文庫
24 ちかどうのはとく地下道の鳩―ジョン・ル・カレ回想録 The Pigeon Tunnel 2016年 2017年3月
2018年10月
加賀山卓朗 早川書房
ハヤカワ文庫
25 すぱいたちのいさんくスパイたちの遺産 A Legacy of Spies 2017年 2017年11月
2019年11月
加賀山卓朗 早川書房
ハヤカワ文庫
スマイリー復活脇役
26 すぱいはいまもスパイはいまも謀略の地に Agent Running in the Field 2019年 2020年7月
2023年2月
加賀山卓朗 早川書房
ハヤカワ文庫
27 しるばびゆくシルバービュー荘にて Silverview 2021年 2021年12月
加賀山卓朗 早川書房
遺作
28 未訳 The Letters of John le Carré 1945–2020 2022年

Tim Cornwell編の書簡集

映像化 編集

映画 編集

テレビドラマ 編集

出典 編集

  1. ^ ジョン・ル・カレ 著、加賀山卓朗 訳『地下道の鳩─ジョン・ル・カレ回想録』早川書房、2017年3月15日、31-33頁。 
  2. ^ アダム・シズマン 著、加賀山卓朗、鈴木和博 訳『ジョン・ル・カレ伝 <上>』早川書房、2018年5月25日、354頁。 
  3. ^ 『ジョン・ル・カレ伝 <上>』 前掲書、348頁。
  4. ^ The Pigeon Tunnel: Stories from My Life by John le Carré - Goodreads
  5. ^ “John le Carré, author of Tinker Tailor Soldier Spy, dies aged 89”. The Guardian. (2020年12月13日). https://www.theguardian.com/books/2020/dec/13/john-le-carre-author-of-tinker-tailor-soldier-spy-dies-aged-89 2020年12月14日閲覧。 
  6. ^ “ジョン・ル・カレ氏死去 英スパイ小説の巨匠”. 時事ドットコム. (2020年12月14日). https://web.archive.org/web/20201213230647/https://www.jiji.com/jc/article?k=2020121400172&g=int 2020年12月14日閲覧。 
  7. ^ 【解説】 創作と現実の接点は……英作家ル・カレ氏の秘密の世界”. BBCニュース (2020年12月16日). 2020年12月19日閲覧。
  8. ^ Homberger, Eric (2020年12月14日). “John le Carré obituary”. The Guardian. オリジナルの2020年12月14日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20201214022605/https://www.theguardian.com/books/2020/dec/14/john-le-carre-obituary 2020年12月14日閲覧。 
  9. ^ Sefton, Daniel, ed (2007). Debrett's People of Today. Debrett's. p. 973. ISBN 978-1-870520-95-9. OCLC 764415351. https://archive.org/details/debrettspeopleof0000seft 
  10. ^ ニック・ハーカウェイ「父ジョン・ル・カレの密かな協力者、わが母ジェイン・コーンウェル」『ハヤカワミステリマガジン』2021年7月号、早川書房、32-34頁。 
  11. ^ 松坂健「ジョン・ル・カレ論」『ハヤカワミステリマガジン』2021年7月号、早川書房、44-51頁。 
  12. ^ 英作家、生前に他国籍取得EU離脱に反感、息子公表産経新聞2021年4月2日付

参考文献 編集

  • アダム・シズマン 著、加賀山卓朗、鈴木和博 訳『ジョン・ル・カレ伝 <上・下>』早川書房、2018年5月25日。 
  • ジョン・ル・カレ 著、加賀山卓朗 訳『地下道の鳩─ジョン・ル・カレ回想録』早川書房、2017年3月15日。ISBN 978-4152096746 
  • セイラ・ライアル、加賀山卓朗訳「ジョン・ル・カレ、ベン・マッキンタイアーへのインタビュー」『ハヤカワミステリマガジン』2018年9月号、早川書房 
  • 「特集 ジョン・ル・カレ追悼」『ハヤカワミステリマガジン』2021年7月号、早川書房。 

外部リンク 編集