スペースX
スペース・エクスプロレーション・テクノロジーズ(英: Space Exploration Technologies Corp.)、通称スペースX(SpaceX)は、カリフォルニア州ホーソーンに本社を置くアメリカの航空宇宙メーカーであり、宇宙輸送サービス会社である他、衛星インターネットアクセスプロバイダでもある。火星の植民地化を可能にするための宇宙輸送コストの削減を目的に、2002年にイーロン・マスクによって設立された[1][2][3]。SpaceXは、いくつかのロケットのほか、貨物宇宙船ドラゴンや衛星スターリンク(衛星インターネットアクセスを提供)を開発しており、これまでにスペースXドラゴン2で国際宇宙ステーションに人間を飛ばした実績がある。
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![]() スペースXの本社ビル | |
種類 | 株式会社 |
---|---|
略称 | SpaceX |
本社所在地 |
![]() カリフォルニア州 ホーソーン 北緯33度55分14秒 西経118度19分40秒 / 北緯33.920682度 西経118.327802度座標: 北緯33度55分14秒 西経118度19分40秒 / 北緯33.920682度 西経118.327802度 |
設立 | 2002年5月6日 |
業種 | 輸送用機器 |
事業内容 |
ロケット研究開発 商業軌道輸送サービス 衛星インターネットアクセスサービス |
代表者 | |
従業員数 | 8,000 (2020年5月) |
外部リンク | spacex.com |
SpaceXの業績には、民間資金で初めて軌道に到達した液体推進ロケット(2008年のファルコン1[4]、民間企業として初めて宇宙船の打ち上げ、軌道周回、回収に成功した(2010年のドラゴン)、民間企業として初めて宇宙船を国際宇宙ステーションに送り込んだ(2012年のドラゴン[5]、軌道ロケットとしては初めての垂直離陸と垂直推進着陸を実現した(2015年のファルコン9)、軌道ロケットの初の再利用(2017年のファルコン9)、民間の宇宙船を初めて太陽周回軌道に打ち上げた(2018年のファルコンヘビーのテスラ・ロードスターのペイロード)、民間企業として初めて宇宙飛行士を軌道に乗せて国際宇宙ステーションに送り込んだ(2020年のSpaceX Crew Dragon Demo-2とSpaceX Crew-1ミッション)などがある。2020年12月31日現在、SpaceXはNASAとのパートナーシップのもと[6]、国際宇宙ステーション(ISS)への貨物補給ミッションを20回[7][8]実施しているほか、2019年3月2日には人間が搭乗するドラゴン2宇宙船(Crew Dragon Demo-1)の非有人デモフライト、2020年5月30日には初の有人ドラゴン2フライトを実施している[9]。
2015年12月には、ファルコン9号機が推進力による垂直着陸を達成した。これは、軌道上での宇宙飛行のためのロケットによる初の達成であった[10]。2016年4月、SpaceX CRS-8の打ち上げで、SpaceXは第1段の垂直着陸に成功し、海洋ドローン船の着陸プラットフォームに着陸した[11]。2016年5月には、別の初の試みで、SpaceXは再び第1ステージを着陸させたが、大幅にエネルギーの高い静止トランスファ軌道(GTO)ミッション中に着陸させた[12]。2017年3月には、SpaceXは軌道ロケットの第1段の再打ち上げと着陸に成功した最初の組織となった[13]。2020年1月、スターリンクプロジェクトの3回目の打ち上げで、SpaceXは世界最大の商業衛星コンステレーション事業者となった[14][15]。
2016年9月、マスクは、乗組員による惑星間宇宙飛行で使用するための宇宙飛行技術を開発するための民間資金による打ち上げシステム「惑星間輸送システム(Interplanetary Transport System)」(後に「スターシップ」と改名)を発表した。2017年にマスクは、惑星間ミッションを扱うことに加えて、2020年代初頭以降のSpaceXの主要な軌道上の乗り物となることを意図した新たなシステム構成を発表し、SpaceXは地球軌道上の衛星配送市場においても、最終的には既存のファルコン9ロケットとドラゴンのスペースカプセルの艦隊をスターシップに置き換えるつもりであることを発表した[16][17][18]。スターシップは完全に再利用可能なロケットとして計画されており、2020年代初頭に予定されているデビュー時には史上最大のロケットとなる予定である[19][20]。
概要編集
民間企業で有人の宇宙旅行を成功させた企業である。クルードラゴンは2011年に退役したスペースシャトル以来、アメリカでは5機目の有人宇宙船になる[21]。
これまでの有人宇宙飛行は国家が主導して実現してきたものだったが、クルードラゴンは民間の宇宙ベンチャー主導で開発した宇宙船である。スペースシャトルが退役した理由は金銭面での負担が大きすぎることだったが、SpaceXは民間の努力によって、これまでよりも安く有人宇宙船を作ることを実現させた[21][22]。
歴史編集
2002年にイーロン・マスクによりカリフォルニア州エルセグンドで設立される。設立時には、同年に買収された宇宙開発大手のTRW社から、ロケットエンジン開発に携わっていたトム・ミュラーとそのチームが合流している[23]。
2006年にNASAと国際宇宙ステーション (ISS) 物資補給のための打上げ機の設計とデモ飛行を行う商業軌道輸送サービス (COTS) を契約した。2010年12月にファルコン9ロケットとドラゴン宇宙船によるCOTSデモ飛行を行い、民間企業としては世界で初めて軌道に乗った宇宙機の回収に成功した。2012年にはISSに民間機として初のドッキングも成功させ、補給物資や実験装置を送り届けた。
2014年には、NASAと有人型のドラゴン宇宙船の開発とデモ飛行を行う宇宙飛行士の商業乗員輸送開発 (CCDev) プログラムを契約した。2020年5月に再び民間企業として史上初となる有人宇宙船の打ち上げ並びにISSドッキングを成功させた。
またその間の2015年には、ファルコン9の第1段により、世界初となる衛星打ち上げロケットの垂直着陸を達成した[24]。以後は他社に先駆けてロケットの再使用を実施している。
2016年には、これまでユナイテッド・ローンチ・アライアンス社の独占状態にあった米軍事衛星の打ち上げ市場への初参入も果たしている[25]。
スペースXは民間による火星探査や移民構想も掲げており、2016年にはそのための輸送システムであるインタープラネタリー・トランスポート・システム(後のスターシップ)を発表した[26]。
主要製品編集
ロケット編集
- ファルコン1 - 運用終了
- ファルコン5 - 開発中止
- ファルコン9
- ファルコンヘビー
- グラスホッパー - 実験機
- インタープラネタリー・トランスポート・システム - 構想
- スターシップ/スーパー・ヘビー
バージョン | ファルコン1 | ファルコン9 | ファルコンヘビー |
---|---|---|---|
第1段 | 1 × マーリン1A(2006年~2007年) | 9 × マーリン1C (v1.0)
9 x マーリン1D (v1.1) |
9 × マーリン1D のブースターを3基クラスタ |
第2段 | 1 × ケストレル | 1 × マーリン1C (v1.0)
1 × マーリン1D (v1.1) |
1 × マーリン1D |
全高 (最大; m) |
21.3 | 54.9 (v1.0) 69.2 (v1.1) |
70 |
直径 (m) |
1.7 | 3.6 | 3.6 |
離床推力 (kN) |
347 | 3,807 (v1.0) 5,885 (v1.1) |
17,000 |
離陸重量 (トン) |
27.67 | 318 (v1.0) 506 (v1.1) |
1,400 |
フェアリング直径 (内径; m) |
1.5 | 5.2 | 5.2 |
ペイロード (LEO; kg) |
450 | 8,500–9,000 (v1.0) 13,150 kg (v1.1) |
63,800 |
ペイロード (GTO; kg) |
— | 3,400 (v1.0) 4,850 (v1.1) |
26,700 |
値段 (百万. USD) |
7 | 62 (再使用) 95 (使い捨て)[28] |
90 (再使用) 150 (使い捨て)[28] |
1kg毎の最低の値段 (LEO; USD) |
15,555 | 4,167 | 2,351 |
1kg毎の最低の値段 (GTO; USD) |
— | 11,446 | 5,618 |
成功率 (成功/総計) |
2/5 | 4/5 (v1.0) 14/15 (v1.1) |
1/1 |
宇宙船編集
ロケットエンジン編集
サービス編集
発射場編集
ファルコン1は全てオメレク島にて打ち上げられている。ファルコン9はケープカナベラルから打ち上げ、ファルコンヘビーはケネディ宇宙センターから打上げられている。
備考編集
スペースXは成功したベンチャー企業にも拘わらず、2018年現在いまだに株式公開 (IPO) を行っていない。同社の評価額は2017年7月時点で212億ドルと見積もられており、これはアメリカの株式未公開企業(ユニコーン企業)の中では4位に位置する[34]。イーロン・マスクは2013年に「IPOは火星移民船が定期的に飛ぶようになってから」と、また2014年には「どこかのPEファンドに経営を支配され、短期的な利益を得ることに使われるのだけは勘弁してほしい」と語っており、スペースXが創業時からの目標である火星移住構想から離れないよう株式を公開しない考えを示している[35]。
関連項目編集
出典編集
- ^ Kenneth Chang (2016年9月27日). “Elon Musk's Plan: Get Humans to Mars, and Beyond”. 2018年3月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年9月27日閲覧。
- ^ “Making Life Multi-planetary”. relayto.com (2018年). 2018年4月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年4月4日閲覧。
- ^ Shontell. “Elon Musk Decided To Put Life On Mars Because NASA Wasn't Serious Enough”. Business Insider. 2019年4月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月2日閲覧。
- ^ Stephen Clark (2008年9月28日). “Sweet Success at Last for Falcon 1 Rocket”. Spaceflight Now. 2015年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月1日閲覧。
- ^ Kenneth Chang (2012年5月25日). “Space X Capsule Docks at Space Station”. 2012年5月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年5月25日閲覧。
- ^ William Graham (2015年4月13日). “SpaceX Falcon 9 launches CRS-6 Dragon en route to ISS”. NASASpaceFlight.com. 2015年5月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年5月15日閲覧。
- ^ “Space Station – off the Earth, for the Earth”. 2019年3月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月3日閲覧。
- ^ “SpaceX”. SpaceX. 2021年1月1日閲覧。
- ^ “Launch Schedule”. 2018年8月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月16日閲覧。
- ^ Matthew Weaver (2015年12月22日). “"Welcome back, baby": Elon Musk celebrates SpaceX rocket launch – and landing”. 2017年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月1日閲覧。
- ^ “SpaceX rocket successfully lands on ocean drone platform for third time” (2016年4月8日). 2017年2月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月1日閲覧。
- ^ Loren Grush (2016年5月19日). “SpaceX successfully lands its Falcon 9 rocket on a floating drone ship again”. The Verge. 2017年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月1日閲覧。
- ^ Amos. “Success for SpaceX "re-usable rocket"”. bbc.com. BBC News. 2017年3月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年3月30日閲覧。
- ^ Patel. “SpaceX now operates the world's biggest commercial satellite network”. MIT Technology Review. 2020年8月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月9日閲覧。
- ^ Lauer. “SpaceX Is the New King of Commercial Satellites, and It's Just Getting Started”. Insidehook. 2020年1月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年1月9日閲覧。
- ^ Chris Gebhardt (2017年9月29日). “The Moon, Mars, and around the Earth – Musk updates BFR architecture, plans”. オリジナルの2017年10月1日時点におけるアーカイブ。 2020年5月16日閲覧。
- ^ Musk, Elon (March 1, 2018). “Making Life Multi-Planetary”. New Space 6 (1): 2–11. Bibcode: 2018NewSp...6....2M. doi:10.1089/space.2018.29013.emu.
- ^ Elon Musk (29 September 2017). Becoming a Multiplanet Species. 68th annual meeting of the International Astronautical Congress in Adelaide, Australia: SpaceX. 2017年12月31日閲覧。
- ^ “Mars Presentation | 2016”. relayto.com (2018年). 2018年4月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。Feburary 3, 2021閲覧。
- ^ “Elon Musk says moon mission is "dangerous" but SpaceX's first passenger isn't scared”. cbsnews.com. 2018年11月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年2月2日閲覧。
- ^ a b “インターステラ稲川社長が語る「SpaceXの偉業を支えた“天才技術者”」 民間による有人宇宙飛行成功の原点とは?”. 2021年3月21日閲覧。
- ^ “SpaceXのソフトウェアチームが語った「Crew Dragon」や「Starlink」--Reddit AMAで” (日本語). ZDNet Japan (2020年6月11日). 2021年4月11日閲覧。
- ^ “インターステラ稲川社長が語る「SpaceXの偉業を支えた“天才技術者”」 民間による有人宇宙飛行成功の原点とは?”. ITmedia (2020年6月12日). 2020年6月12日閲覧。
- ^ “ド派手な「火星探査」や「再利用ロケット」の裏でばく進するSpaceXのビジネス”. ITmedia (2016年6月17日). 2016年6月17日閲覧。
- ^ “私たちが火星人になる日 - イーロン・マスクの火星移民構想は実現するか”. マイナビニュース (2016年11月15日). 2016年11月26日閲覧。
- ^ “http://www.spacex.com/updates.php”. スペースX (2007年12月10日). 2008年6月12日閲覧。
- ^ “SpaceX Falcon Data Sheet”. Space Launch Report. (2007年7月5日)
- ^ “Monster Progress Update (Mostly Falcon 9)”. スペースX. (2007年8月17日)
- ^ “Falcon 1 Overview”. スペースX. (2012年2月26日). オリジナルの2013年4月30日時点におけるアーカイブ。
- ^ “Falcon 9 Overview”. スペースX. (2012年2月26日)
- ^ “Falcon Heavy Overview”. スペースX 2018年2月20日閲覧。
- ^ “【電子版】スペースX、未公開企業の評価額で全米4位に-約2兆3500億円”. 日刊工業新聞 (2017年7月28日). 2018年9月29日閲覧。
- ^ “イーロン・マスクの「人類火星移住構想」と勇敢な天空の旅行者たち”. COURRiER (2014年10月22日). 2018年9月29日閲覧。
外部リンク編集
- スペースX公式サイト (英語)