タイワンスギ[9][7][10](台湾杉[11]学名: Taiwania cryptomerioides)は、裸子植物マツ綱ヒノキ科[注 2]タイワンスギ属に分類される常緑針葉樹の1種である(図1)。タイワンスギは、タイワンスギ属の唯一の現生種とされることが多い。大きなものは、高さ80メートルに達する。スギに似てトゲ状であり、らせん状につく。台湾中国南西部、ミャンマー北部、ベトナム北部に分布する。はさまざまな用途に用いられる。

タイワンスギ
1. タイワンスギ
保全状況評価[1]
VULNERABLE
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 裸子植物 gymnosperms
: マツ綱 Pinopsida
: ヒノキ目 Cupressales[注 1]
: ヒノキ科 Cupressaceae[注 2]
亜科 : タイワンスギ亜科 Taiwanioideae[2]
: タイワンスギ属 Taiwania
: タイワンスギ T. cryptomerioides
学名
属: Taiwania Hayata (1906)[5]
種: Taiwania cryptomerioides Hayata (1906)[6]
シノニム

 属

 種

  • Eotaiwania fushunensis Y.Yendo (1942)[6]
  • Taiwania cryptomerioides var. flousiana (Gaussen) Silba (1984)[6]
  • ウンナンスギ[7] Taiwania flousiana Gaussen (1939)[6]
  • Taiwania fushunensis (Y.Yendo) Koidz. (1942)[6]
  • Taiwania yunnanensis Koidz. (1942)[6]
英名
coffin tree[8], coffintree[8], Chinese coffintree[8], Taiwan cedar[8], Taiwan redwood[8]

属名の Taiwania台湾を意味しており、種小名cryptomerioides は、Cryptomeriaスギ属)に似ていることを意味する[12]。タイワンスギ属は、現生ヒノキ科の中ではコウヨウザン属に次いで2番目に他と別れたと考えられており、タイワンスギ亜科に分類される。

特徴 編集

常緑性高木であり(図1, 2a)、大きなものは樹高80メートル (m)、幹の直径 3.5 m になる[13][14][7][10][12]樹皮は灰褐色、スギに似て縦に長く剥がれる[14][7][12](図2b)。樹冠は円錐形または丸みを帯びる[14](図1, 2a)。主枝は横に伸び、小枝は垂下する[13][7][12](図1, 2a)。成木の葉は螺生し、針状、10–25 × 1.2–2 ミリメートル (mm)、先端はとがり、スギよりも剛直、横断面はひし形から三角形、気孔は向軸側に8-13列、背軸側に2面で各6-9列[13][14][7][12][15](下図2c, 3左下)。若木や新枝の葉はやや扁平で鱗片状、1.5-9 × 0.8-2.5 mm、各面に3–6列の気孔がある[13][14][10][12](下図3中央)。葉は1本の維管束と樹脂道をもつ[12](下図3右)。

2a. 樹形
2b. 樹皮
2c. 葉

雌雄同株、"花期"は4–5月[14][7]。ただし自生では種子をつけるまで100年もかかるとされ、植栽したものでも45年かかり、球果はなかなか見られない[10]。成木では上部は栄養枝のみであり、その下に雌球花("雌花")[注 3]雄球花("雄花")[注 4]が順につく[10]。雄球花は2–4個の花粉嚢をつけた小胞子葉が10–36個らせん状に配列しており、これが枝先に2–7個束生している[13][14][7][10][12]球果は枝先に単生し、短円筒形から楕円形、10-22 × 6-11 mm[14][7](図3)。種鱗は退化し、苞鱗は15-39個、広倒三角形、6-7 × 7-8 mm、2個の直生胚珠をつけ、縁に細歯牙がある[13][14][7][10][12]種子は発生過程で次第に下向き(倒生)になり、10–11月に熟し、狭楕円形から狭楕円倒卵形、4–7 × 2.5–4.5 mm、両縁に翼がある[14][7][12]子葉は2枚[13]染色体数は 2n = 22, 33[14]

 
3. 球果をつけた枝の図(右列は葉の横断面)

タイワンスギの精油としてはα-カジノールが多く、他にT-カジノール、T-ムウロロールフェルギノールなどを含む[19][20]。葉の精油としては、α-ピネンリモネン、カリオフィレンオキシドなどを含む[21][22]

分布・生態 編集

台湾、中国南部(湖北省貴州省四川省雲南省チベット自治区)からミャンマー北部、ベトナム北部に分布する[1][14][10][12](図4a)。ただし中国において、雲南省からチベット自治区の一部以外のものは自生ではないとされる[1]。ベトナムの個体群は2001年に発見され、100本ほどしか知られていない[1]。ミャンマーの個体群についてはほとんど情報がない[1]

標高 1,750–2,900 m、夏から秋に降雨量が多く冬は乾燥した地域の、酸性土壌の針葉樹林、広葉樹林または混交樹林に生育する[1][14]ベニヒタイワンヒノキランダイスギヒマラヤゴヨウヒマラヤツガなどと混生するか、または純林を形成する[14]。樹齢は1,600年以上であり、おそらく2,000年以上になると考えられている[1][14][12]国際自然保護連合 (IUCN) のレッドリストでは、危急種(VU)に指定されている[1]

4a. タイワンスギの分布: 赤は自然分布域、緑は移入域を示す。
4b. タイワンスギ(台湾

人間との関わり 編集

 
5. タイワンスギの盆栽

は耐朽性が高く、材質が堅固で強度があるが加工が容易で建築、家具、棺、橋、船、製紙などに用いられる[1][14][11][15]辺材は白色から淡黄色[12]、心材は黄白色から黄褐色[15]中国貴州省湖南省)や台湾では木材用に植林されているが、成長は遅い[1][12]

おそらく500年前にはより広く分布していたが、伐採により少なくとも30–50%が失われたと考えられている[1][14]。中国での伐採は、2001年に禁止された[1]

日本、ヨーロッパ、北米、ニュージーランドなどでは、観賞用に利用されることがある[1](図5)。

分類 編集

タイワンスギは台湾玉山で発見されたが、中国南西部からも見つかり、この個体群はウンナンスギ(Taiwania flousiana または Taiwania yunnanensis)として分けられることもある[12][7][23]。しかし台湾の個体群との間に明瞭な形態的差異は認められないとされ、ふつう同種として扱われる[5][12][14]。この場合、タイワンスギ属は1種のみを含むことになる。ただし台湾と中国本土の個体群の間には大きな遺伝的差異が存在し(一般的に針葉樹においては別種とされるレベルの差異)、推定分岐年代は325万年前とされる[12]

タイワンスギ属は、ふつうスギ科に分類されていた[10][7]。しかし21世紀になるとスギ科はヒノキ科に含められるようになり、タイワンスギ属はヒノキ科に分類されるようになった[5][12]。現生のヒノキ科の中では、タイワンスギ属はコウヨウザン属に次いで他と別れたと考えられており、タイワンスギ亜科Taiwanioideae)として他とは分けられている[2]

タイワンスギ亜科に属すると考えられる化石は、白亜紀から見つかっている[24](下表1)。またタイワンスギ属の化石記録はアラスカアクセルハイバーグ島スピッツベルゲン島ドイツイタリア中央ヨーロッパアゼルバイジャンシベリアサハリン、中国、日本など北半球の広くから報告されており、最古のものは前期白亜紀にさかのぼる[25][26]。日本にもタイワンスギは分布していたが、鮮新世後期(約300万年前)に化石記録は途絶えた[27]

表1. タイワンスギ亜科の分類の1例(†は化石分類群)

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ ヒノキ科は、イチイ科などとともにヒノキ目に分類されるが[2][3]マツ科など他の針葉樹(およびグネツム類)を加えた広義のマツ目に分類されることもある[4]
  2. ^ a b タイワンスギはふつうスギ科に分類されていた[10][7]。しかし21世紀になるとスギ科はヒノキ科に含められるようになり、タイワンスギはヒノキ科に分類されるようになった[12][6]
  3. ^ "雌花"ともよばれるが、厳密には花ではなく大胞子嚢穂(雌性胞子嚢穂)とされる[16][17]。送受粉段階の胞子嚢穂は球花とよばれ、成熟し種子をつけたものは球果とよばれる[17]
  4. ^ "雄花"ともよばれるが、厳密にはではなく小胞子嚢穂(雄性胞子嚢穂)とされる[16]。雄性球花や雄性球果ともよばれる[17][18]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m Thomas, P. & Farjon, A. (2011年). “Taiwania cryptomerioides”. The IUCN Red List of Threatened Species 2011. IUCN. 2023年3月11日閲覧。
  2. ^ a b c Stevens, P. F. (2001 onwards). “Cupressales”. Angiosperm Phylogeny Website. 2023年2月20日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・邑田仁 (2013). 維管束植物分類表. 北隆館. p. 45. ISBN 978-4832609754 
  4. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 19. ISBN 978-4900358614 
  5. ^ a b c d Taiwania”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年3月12日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j Taiwania cryptomerioides”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年3月11日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m n 杉本順一 (1987). “タイワンスギ属”. 世界の針葉樹. 井上書店. pp. 86–87. NCID BN01674934 
  8. ^ a b c d e GBIF Secretariat (2022年). “Taiwania cryptomerioides Hayata”. GBIF Backbone Taxonomy. 2023年3月11日閲覧。
  9. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “タイワンスギ”. BG Plants 和名-学名インデックス(YList). 2023年3月12日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j 高相徳志郎 (1997). “タイワンスギ”. 週刊朝日百科 植物の世界 11. pp. 220–221. ISBN 9784023800106 
  11. ^ a b "タイワンスギ". 日本大百科全書(ニッポニカ). コトバンクより2023年3月12日閲覧
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Taiwania cryptomerioides”. The Gymnosperm Database. 2023年3月12日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g Flora of China Editorial Committee (2010年). “Taiwania”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2023年3月12日閲覧。
  14. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r Flora of China Editorial Committee (2010年). “Taiwania cryptomerioides”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2023年3月12日閲覧。
  15. ^ a b c タイワンスギ”. 木材図鑑. 府中家具工業協同組合. 2023年4月4日閲覧。
  16. ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 205. ISBN 978-4785358716 
  17. ^ a b c 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. p. 260. ISBN 978-4896944792 
  18. ^ アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日、332–484頁。ISBN 4-8299-2160-9 
  19. ^ Chang, S. T., Chen, P. F., Wang, S. Y. & Wu, H. H. (2001). “Antimite activity of essential oils and their constituents from Taiwania cryptomerioides”. Journal of Medical Entomology 38 (3): 455-457. doi:10.1603/0022-2585-38.3.455. 
  20. ^ 加藤亮 (1951). “(232) 台湾杉成分の研究 (第 2 報) タイワンスギ材の揮発精油に就て”. 工業化学雑誌 54 (7): 467-469. doi:10.1246/nikkashi1898.54.467. 
  21. ^ Su, Y. C., Ho, C. L. & Wang, E. I. C. (2006). “Analysis of leaf essential oils from the indigenous ve conifers of Taiwan”. Flavour and Fragrance Journal 21 (3): 447-452. 
  22. ^ 加藤亮 (1951). “(259-260) 台湾杉成分の研究 (第3~4報)”. 工業化学雑誌 54 (8): 520-523. doi:10.1246/nikkashi1898.54.520. 
  23. ^ "タイワンスギ(台湾杉)". ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. コトバンクより2023年3月12日閲覧
  24. ^ a b c d e f Stockey, R. A., Nishida, H. & Rothwell, G. W. (2020). “Evolutionary diversification of taiwanioid conifers: evidence from a new Upper Cretaceous seed cone from Hokkaido, Japan”. Journal of Plant Research 133: 681-692. doi:10.1007/s10265-020-01214-y. 
  25. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p Lepage, B. A. (2009). “Earliest occurrence of Taiwania (Cupressaceae) from the Early Cretaceous of Alaska: Evolution, biogeography, and paleoecology”. Proceedings of the Academy of Natural Sciences of Philadelphia 158 (1): 129-158. doi:10.1635/053.158.0107. 
  26. ^ a b c d e f g h i j k Zhang, M., Du, B., Jin, P. & Sun, B. (2018). “Fossil Taiwannia from the Lower Cretaceous Yixian formation of western Liaoning, Northeast China and its phytogeography significance”. Sciences in Cold and Arid Regions 10 (6): 502-515. doi:10.3724/SP.J.1226.2018.00502. 
  27. ^ Momohara, A. (2011). “Survival and extinction of the Taxodiaceae in the Quaternary of Japan”. Japanese Journal of Historical Botany 19 (1-2): 55-60. doi:10.34596/hisbot.19.1-2_55. 

関連項目 編集

外部リンク 編集