タイ国鉄ADR型気動車(タイこくてつADRがたきどうしゃ)は、1995年に営業運転を開始したタイ国有鉄道特急型気動車である。その車番からAPD系APN系と呼ばれたり[注釈 1][1]、制御車が2500形2次車、中間車が2100形3次車と呼ばれる[注釈 2][2]場合もある。

タイ国鉄ADR型気動車
現行塗装のADR型2次車
チエンマイ駅にて
基本情報
運用者 タイ国有鉄道
製造所 大宇重工業
韓国
製造年 1995年 - 1996年
製造数 制御車(2500形) 32両
中間車(2100形) 8両
投入先 タイ国鉄北本線
タイ国鉄南本線
主要諸元
編成 3両(基本)
軌間 1,000 mm
最高運転速度 120 km/h
自重 42.3 t
全長 24,300 mm
全幅 2,900 mm
機関 DMR
ディーゼルエンジン × 1基
機関出力 350 PS / 2100 rpm ×1
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導入の経緯 編集

タイ国鉄では1991年に本格的な特急型気動車としてASR型「スプリンター」を導入した。ASR型は航空機に転移した旅客を取り戻すという元来の目的は達成できなかったものの、一定の需要の獲得に成功した。しかし、ASR型は特急型としての高級装備が災いし整備性が芳しくなく、程なく故障が頻発するようになった。そこで、故障で不足する車両の穴埋めと特急型気動車の増強のために製造されたのが本形式である。

1次車と2次車について 編集

 
1次車2両に挟まる2次車。断面がせり出ていることや裾の折れ曲がりの角度の違いから、車幅が異なることが分かる。

本形式には1995年に導入された1次車(2513 - 2524、2121 - 2128)と、1996年に導入された2次車(2525 - 2544)が存在する[注釈 3]。1次車は2次車に比べて車幅がやや狭く、2次車が全体的に丸みを帯びた断面であるのに対して1次車は細長い面持ちをしている。車幅が異なること、車両定員が異なることを除いて基本的に1次車と2次車の仕様は同じであるが、2次車は制御車のみの製造であり、中間車は製造されなかった。なお1次車と2次車を別の形式(APD-20型とAPD-60型など)として見ることもあり、この場合は本形式全般のことをAPDなどと呼ぶ。

当初1次車は急行用、2次車は特急用とされ、最高速度も2次車がASR型と同じ120 km/hであったのに対し、1次車は100 km/hに抑えられていた。しかし先に特急運用に就いていたASR型が予想よりも早く不具合を来して車両不足を起こしたため、1次車も最高速度が120 km/hに引き上げられ[注釈 4]、2次車と共通で特急運用に充当されることとなった。ADR型1次車の特急運用への格上げによって車両が不足した急行列車では、二等冷房中間車のATR型を本来近郊列車用として製造されたTHN型NKF型が挟んだ列車が運用されている。

車両 編集

車体 編集

 
大宇製の2等寝台車

本形式と同じ大宇製で同時期に大量に導入された2等寝台車と同様の、コルゲート処理されたステンレス車体を持つ。車両全長は24 mを超え、一般的な客車や気動車はもとよりASR型と比べても1 mほど長い。先述の通り、1次車と2次車では車幅が異なる。

塗装 編集

 
登場時塗装の2次車

登場時は、前面は警戒色となる黄色を基調として前面窓と前照灯周りの貫通扉以外が黒く塗られたいわゆるブラックフェイス[注釈 5]で、窓下に青色と白色の帯を配していた。側面は窓下と幕板部に前面同様の帯を巻いており、それ以外はステンレス地のままだった。なお旧塗装には、前面の帯が斜めになっているもの[3]や位置が低いもの[4]、帯の色が異なるもの[5]など、様々なバリエーションが存在していた。

現在は、前面はオレンジ色を基調に窓と尾灯周り(貫通扉含む)が紺色で塗られてその最下部に白色の細帯を巻き、さらにその下に水色の模様が入っている。側面は、窓周りは水色に塗られ、その上下に白色と紺色、さらにその上にはオレンジ色の細帯が入っている。また側扉は、他では水色の部分がオレンジ色となりアクセントとなっている。

車内 編集

全車2等冷房座席車で窓は固定されており、長距離列車でも食堂車等の連結はない[注釈 6]。座席は回転機能付きのリクライニングシートを装備している。また車内中央には、エンジンの排煙を逃がす煙突を通すための壁が設けられている。ASR型の増備及び代替として製造されたため設備はASR型よりもグレードアップしているが、製造メーカーが異なるためASR型よりも全体的な質は低いと評価されることが多い[1][2]

運用 編集

ASR型に代わる車両として投入された本形式は、2020年現在でも特急型気動車の主役として南本線北本線東北本線バンコククルンテープ - ウボンラーチャターニー間)にて運用されている。1次車と2次車は区別されず、しばしば混成編成を組んでいる。基本的には3両編成だが、繁忙期には増結されるほか、南本線ヤラー発着の列車についてはクルンテープ - スラートターニー間は6両で運転され、スラートターニーにて3両が切り離し/連結される。

注釈 編集

  1. ^ 本形式の制御車の車番がA.P.D.2513 - 2544、中間車がA.P.N.2121 - 2128であることから。ただし、"A.P.D."は冷房制御動力車、"A.P.N."は冷房中間動力車を示すものである。そのためこの車番はASR型やKIHA系(元JR西日本キハ58系)でも見られ、本形式特有のものではない。「系」となる理由は後述。
  2. ^ 2500形1次車はASR型の制御車、2100形の1次車はATR型、2次車はASR型の中間車であり、それぞれ本ADR型とは諸元も運用も全く異なるため、同一形式として扱うのは適当ではない。
  3. ^ "2500形1次車/2次車"や、"2100形1次車/2次車"とは別の区分である。
  4. ^ 本来同形の機関を搭載しているため、速度引き上げに際しての改造等は行われていない。
  5. ^ 日本の国鉄201系電車211系電車をはじめとして80年代に日本で流行した、車両前面の運転室の部分を黒くした鉄道車両デザインの通称。黒人以外の人種が黒人を演じるために施し、差別的として問題になった同名の舞台化粧「ブラックフェイス」とは関係がない。
  6. ^ 列車により弁当などのサービスは存在する。

脚注 編集

  1. ^ a b タイ国鉄のDC/APN.20系”. タイ国鉄友の会. 2021年9月30日閲覧。
  2. ^ a b 『鉄道ピクトリアル』2000年6月号 (No.686) p.110 電気車研究会
  3. ^ Rotfaithai Gallery DRC 01304” (英語). rotfaithai.com. 2021年9月30日閲覧。
  4. ^ Rotfaithai Gallery DRC 01234” (英語). rotfaithai.com. 2021年9月30日閲覧。
  5. ^ Rotfaithai Gallery DRC 01296” (英語). rotfaithai.com. 2021年9月30日閲覧。

関連項目 編集