タウリン
タウリン(英: taurine [ˈtɔːriːn])は、構造式が H2N-CH2-CH2-SO3H の物質。別名アミノエチルスルホン酸。IUPAC名は 「2-アミノエタンスルホン酸」。常温では無色の柱状結晶。水溶性であり、エタノールには不溶。分子量 125.15。約300℃で分解する。
タウリン | |
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アミノエタンスルホン酸 | |
別称 タウリン酸 | |
識別情報 | |
CAS登録番号 | 107-35-7 ![]() |
PubChem | 1123 |
ChemSpider | 1091 ![]() |
UNII | 1EQV5MLY3D ![]() |
DrugBank | DB01956 |
KEGG | C00245 |
ChEBI | |
ChEMBL | CHEMBL239243 ![]() |
2379 | |
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特性 | |
化学式 | C2H7NO3S |
モル質量 | 125.15 g mol−1 |
密度 | 1.734 g/cm3 (at -173.15 ℃) |
融点 |
305.11 °C, 578 K, 581 °F |
酸解離定数 pKa | <0, 9.06 |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
ヒトを含む生体にとって重要な物質であり、イカ・タコ・カキなどの軟体動物では組織に遊離状態で豊富に存在し、また他の様々な動物の体内でも見つかっている。
タウリンは生体内で重要な働きを示す分子であり、含硫アミノ酸から合成される。なお、タウリンはカルボキシル基を持たないためアミノ酸には分類されないが、似ている物質であるため[1]アミノ酸の一種と説明されることがある[2][3]。タウリンは、原則としてタンパク質を構成せず[4]、DNAの遺伝暗号にもコードされていない(参考:タンパク質を構成するアミノ酸)。このため、通常は遊離状態で種々の動植物の組織中に見出される[5][6]。
有機合成化学ではシスタミンの酸化、システアミンの酸化のほか、ブロモエタンスルホン酸とアンモニアなどから誘導される。
効能編集
ここでは、主にヒトが摂取することにおける効能について説明する。
タウリンには「からだ、細胞を正常状態で保つ作用(ホメオスタシス)」がある。たとえば、血圧上昇に対する下降作用などがこれに該当する。特に、肝臓に対して働きかける作用を持ち、大まかに分類すると以下のようになる。
生合成と代謝編集
合成経路においてはまず、タンパク質の構成成分にもなる含硫アミノ酸であるシステインからシステインジオキシゲナーゼによりシステインスルフィン酸が合成される。このシステインスルフィン酸がシステインスルフィン酸デカルボキシラーゼ(スルフィノアラニン・デカルボキシラーゼ)により脱炭酸されてヒポタウリンが生成され、ヒポタウリンが酸化されてタウリンが合成される。ヒトはこれらの合成経路の酵素を持つため、自らタウリンを合成することができる。
胆汁酸と縮合したタウロコール酸はコリル・コエンザイムAとタウリンから合成される。タウリンは尿中に一日約200mgが排泄される。
ヒトとタウリン編集
タウリンはヒトの体内などで胆汁の主要な成分である胆汁酸と抱合し、タウロコール酸などの形で存在する。消化作用を助けるほか、神経伝達物質としても作用する。白血球の一種である好中球が殺菌の際に放出する活性酸素や過酸化水素の放出(呼吸バースト)を抑える作用もある。
ヒトにおいては心臓に特に多く、次いで筋肉、肝臓、腎臓、肺、脳などに多い。また、網膜や卵巣、精子などにも含まれ、体重が60kgのヒトの体内には約60gのタウリンが存在する[10]。
合成する生物、できない生物編集
ネコはタウリンを合成する酵素を持っていないため、ネコにとっての重要な栄養素といえる。このためキャットフードにはタウリンの含有量を明記したものが多い。ネコではタウリンの欠乏により拡張型心筋症が生じる。ただし、ヒト、トリ、ネズミなどは体内で合成できる。ヒトの生体内ではアミノ酸のシステインから合成される。
タウリンを豊富に含む生物、食材編集
軟体動物、特に頭足類(タコ・イカ)では、神経組織に含まれる遊離アミノ酸様物質の50%以上がタウリンである[11]。するめの表面に出る白い粉にはタウリンが凝縮されている。
商品編集
日本では合成品は医薬品扱いとされ、主に医薬部外品を含む栄養ドリンクの主成分に使われる。
有名なものに第一三共ヘルスケアの『Regain』、大正製薬の『リポビタンD』、大鵬薬品工業の『チオビタドリンク』などがある。中国ではドライシロップが小児向けの風邪の初期症状を抑える薬として使用されている。『レッドブル』や『モンスターエナジー』などに代表されるエナジードリンクは、諸外国ではタウリンを含んだ形で販売されるが、日本では清涼飲料水としての規格の下で製造・発売されているためにタウリンを使用することができず、アルギニンなどで代用されているがタウリンと同等の作用はしない。
天然抽出物は食品添加物として使用が認められており、サンガリアが販売している『ミラクルエナジーV』にはこの天然タウリンが添加されている。強化剤として育児用粉ミルクにも添加されている。
諸外国ではサプリメント(健康食品の一種)として販売されていることもある。また、目の新陳代謝を促進する働きがあるため、目薬の成分として使用されることもある。
医薬品としては大正製薬から『タウリン散98%「大正」』が発売されており、閉塞性黄疸を除く高ビリルビン血症における肝機能の改善やうっ血性心不全に適応される。また、2019年2月にはMELAS症候群における脳卒中様発作の抑制に対する効能が追加された[12]。
安全性編集
比較的安全な物質と考えられており、アメリカ食品医薬品局(FDA)によりGRASとして認定されている。健康な大人では1日3グラムまでは副作用がないとされる[13]。
ヒトのOSL(既知の安全上限量、Observed Safe Level)は、100 mg/Kg bw/日 とEFSAにて見積もられている[14][15][13]。
欧州食品安全機関 (EFSA) はラットの無毒性量(NOAEL)は経口(飲水)および胃管栄養(Gavage)において13週 1,000-1,500 mg/Kg bw/日 と見積もっている[14][16]。
ラットの経口投与における急性毒性の半数致死率(LD50)は 5g/kg。
発見史編集
タウリンは1827年にドイツの解剖学者・生理学者であるフリードリヒ・ティーデマンと化学者であるレオポルト・グメリンによってウシの胆汁中から発見された。「タウリン(taurine)」という名前は、ラテン語で雄牛を意味する「タウルス(taurus)」に由来する。
関連項目編集
脚注編集
出典編集
- ^ タウリン e-ヘルスネット - 厚生労働省
- ^ タウリンのサプリメント一覧 - 日本サプリメント評議会
- ^ タウリンについて - 大正製薬
- ^ タウリンとは[リンク切れ] 静岡県立大学・食品栄養科学部栄養化学研究室三浦進司ほか
- ^ 前田正洋 (2002年). “タウリン1000 mgの効果”. 大阪大学・蛋白質研究所・蛋白質溶液学部門. 2003年4月29日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月2日閲覧。
- ^ a b 薩秀夫「タウリンの多彩な生理作用と動態」『化学と生物』第45巻第4号、日本農芸化学会、2007年、 doi:10.1271/kagakutoseibutsu1962.45.273、 ISSN 0453073X、 NAID 10018870640。
- ^ 平松緑, 「Elマウス脳内タウリンとアスパラギン酸の痙攣発作発現機構への関与に関する研究」1986年, KAKEN
- ^ 伊藤崇志「組織タウリン欠乏と骨格筋老化との関連性」『タウリンリサーチ』第2巻第1号、国際タウリン研究会、2016年、 6-8頁、 doi:10.32172/taurine.2.1_6、 ISSN 2189-6232、 NAID 130007743812。
- ^ 大森肇, 八田秀雄「運動とタウリン研究の最前線 〜その多彩な生理作用に迫る〜」『体力科学』第69巻第1号、日本体力医学会、2020年、 123-123頁、 doi:10.7600/jspfsm.69.123、 ISSN 0039-906X、 NAID 130007788736。
- ^ 横越英彦 (2006年5月23日). “タウリン(1)臓器に含有、疲労回復に有効”. 食と健康Express. 静岡県立大学 食品栄養科学部. 2015年6月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月2日閲覧。
- ^ Antimo D'Aniello, Giovanna Nardi, Amedeo De Santis, Amedeo Vetere, Anna di Cosmo, Rosangela Marchelli, Arnaldo Dossena, George Fisher (1995). “Free l-amino acids and d-aspartate content in the nervous system of Cephalopoda. A comparative study”. Comp. Biochem. Physiol. B 112 (4): 661-666. doi:10.1016/0305-0491(95)00227-8 .
- ^ “タウリン散98%「大正」における効能・効果追加等の承認取得に関するお知らせ”. 大正製薬 (2019年2月21日). 2020年1月2日閲覧。
- ^ a b “Risk assessment for the amino acids taurine, L-glutamine and L-arginine”. Regulatory toxicology and pharmacology 50 (3). (2008). doi:10.1016/j.yrtph.2008.01.004. PMID 18325648.
- ^ a b “Taurine”. Toxnet. 2017年9月16日閲覧。
- ^ “Scientific Opinion on the safety and efficacy of taurine as a feed additive for all animal species”. EFSA Journal 10 (6): Section 3.3. (2012). doi:10.2903/j.efsa.2012.2736 .
- ^ “The use of taurine and D-glucurono-γ-lactone as constituents of the so-called “energy” drinks”. EFSA journal 7 (2): section 2.2.2. (2009). doi:10.2903/j.efsa.2009.935 .
外部リンク編集
- タウリン - 「健康食品」の安全性・有効性情報(国立健康・栄養研究所)
- “タウリン評価書(飼料添加物 - 厚生労働省)”. 食品安全総合情報システム. 内閣府・食品安全委員会. 2018年6月19日閲覧。
- “タウリン評価書(飼料添加物 - 農林水産省)”. 食品安全総合情報システム. 内閣府・食品安全委員会. 2018年6月19日閲覧。