ダビルシム (Dabirsim) はフランスで生産、調教された競走馬である。おもな勝利はモルニ賞ジャン・リュック・ラガルデール賞馬名の意味は馬主とその家族名前を組み合わせた造語(後述)。日本で活躍し、引退後はアメリカ種牡馬となったハットトリックの初年度産駒で、産駒初のG1競走優勝馬となった。

ダビルシム
シモン・スプリンガーの勝負服
欧字表記 Dabirsim
品種 サラブレッド
性別
毛色 鹿毛
生誕 2009年2月5日(15歳)
ハットトリック
Rumored
母の父 ロイヤルアカデミー
生国 フランスの旗フランス
生産者 Mme L Monfort
馬主 Simon Springer
調教師 Christophe Ferland(フランス
競走成績
生涯成績 7戦5勝
獲得賞金 476,480ユーロ
WTR 2011年 - 119(2歳)
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経歴 編集

デビュー前 編集

母Rumoredはアメリカで繁殖生活を送っていたが、2008年のキーンランドノーベンバーセールでハットトリックを受胎した状態で6万ドルで落札され[1]、フランスに渡ってダビルシムを生む。いわゆる持ち込み馬である。その後ダビルシムは1歳時の2010年にドーヴィルオーガストイヤリングセールに出され、3万ユーロで落札される[2]

2歳時 編集

ボルドー近郊のラ・テスト=ド=ビュックを拠点とする若手調教師クリストフ・フェルランのもとで調教され、デビュー戦を出負けしながら馬なりのまま10馬身差で圧勝し、注目を集める。2戦目も馬なりで危なげなく勝つと、3戦目でG1モルニ賞と同じコースで行われる前哨戦のG3カブール賞に挑戦。中団後方から差し切って重賞初制覇を挙げる。この勝利はフェルランにとっても初の重賞勝ちであった[3]。G1初挑戦となったモルニ賞では鞍上にランフランコ・デットーリを配して臨み、G2ロベールパパン賞など重賞2勝で実績上位のFamily Oneを差し置いての1番人気に推される。レースでは中団後方から残り200メートル余りで逃げるFamily Oneをかわして抜け出し、3馬身差の快勝でG1初制覇を飾った。この勝利を受け、馬主のシモン・シュプリンガーのもとには複数のトレード話が舞い込んだが、シモンはダビルシムの馬名は息子David、Birgitte、自身のSimonを組み合わせたものであり、ダビルシムを売ることは家族を売ることと同じだとしてそれらを断っている[4]。また、デットーリはモルニ賞の勝ちっぷりからG1ミドルパークステークスへの出走を進言。フェルランも同レースへの出走を表明したが[5]、後日ジャン・リュック・ラガルデール賞への出走に切り替えた[6]。そのジャン・リュック・ラガルデール賞ではスタートであおって最後方からの競馬になったが、残り200メートル余りから最内を突いて追い込み、逃げを打ったSalureをゴール前でとらえてG1競走2勝目を飾った。この勝利に対し、デットーリはダビルシムを「これまでに乗った中で最高の2歳馬でスーパースターだ。間違いなく2000ギニー馬になれる」と賛えている[7][8]

平地競走シーズン終了後、この年の活躍が評価され、カルティエ賞最優秀2歳牡馬に選出された[9]。また、ワールド・サラブレッド・ランキングではレーシングポストトロフィー勝ち馬Camelotとともに、世代トップの119のレイティングを与えられた[10][11]。翌年3月には、2歳馬ながら2011年のフランス年度代表馬に選出されている[12]。2歳でのフランス年度代表馬選出は1980年のSaint Cyrein、1991年アラジに続く、20年ぶり3頭目の栄誉であった[13]

3歳以降 編集

オフシーズンは自厩舎でトレーニングを積みながら過ごす。当時、フェルランは春のレース選択として、初のマイル戦となるG3フォンテーヌブロー賞からプール・デッセ・デ・プーラン(仏2000ギニー)、G3ジェベル賞を叩いてから渡英して2000ギニー、2つのプランを挙げていた[14]。その後、シーズン開始直後のイギリス遠征は時期尚早として、国内に留まって仏2000ギニーを目指し、順調であればロイヤルアスコット開催セントジェームズパレスステークスに遠征することを表明した[15]。4月にはデットーリに替わり、年間を通して優先的にダビルシムに騎乗する契約を結んだクリストフ・スミヨン主戦騎手として迎えている[16]

シーズン初戦のフォンテーヌブロー賞は、4番手追走から直線で早めに抜けだしたが、後方にいたDragon Pulseにゴール寸前わずかに差し切られ、デビューからの連勝がストップした。先頭に立つ前後にスミヨンが何度も後ろを振り返っていたことから、それがダビルシムの走りに影響したのではという指摘や[17]、その騎乗ぶりへの批判の声も上がった[18]。この敗戦を受け、本番のプール・デッセ・デ・プーランではスローでかからないよう、同レースの出走馬Venetoをペースメーカーとして契約し[19]、呼吸しやすいようにハミ吊りを装着する対策を施した[20]。しかしレースではかかり気味に中団を追走し、直線では2度の前が壁になる不利もあって伸び切れず、約1馬身差の6着と敗れた。レース後、スミヨンとフェルランはともに、マイルの距離がダビルシムに適さなかったことを敗因とし、フェルランはジュライカップへの参戦の検討など、短距離路線への転換を示唆した[21][22]。また、レースの2日後には、スミヨンがダビルシムとの相性が合わないことを理由に契約の解除を申し入れ、コンビを解消している[23]。その後は秋に復帰の意向が伝えられ[24]フォレ賞に一次登録されるなどしたが、結局復帰することはなかった。

4歳になり、4月の復帰に向けて調教を積まれていたが[25]4月17日に引退と種牡馬入りが発表された。プール・デッセ・デ・プーラン以降は脚部不安をくり返していたという[26]

種牡馬時代 編集

引退発表時は繋養先は未定だったが、後にドイツのカルツォフ牧場で種牡馬入りし、2014年から供用されることになった[27]。初年度種付料は9000ユーロ。産駒の活躍に対し、最初の勝ち馬に2万ユーロ、最初の重賞勝ち馬に5万ユーロ、最初のG1勝ち馬に10万ユーロが生産者に支払われるという、異例のボーナスが設定された[28]。初年度の種付け頭数は134頭で、これはドイツにおける新記録である。2015年1月16日に最初の産駒が誕生した[29]。同年も100頭以上の種付けを行い、3年目以降により多くの種付けのオファーを受けることを期待し、2016年フランスグランシャン牧場に移動する[30]

2017年に初年度産駒がデビューし、同年4月17日にフランスのリオン=ダンジェ競馬場で産駒による初勝利を飾る[31]6月23日ロイヤルアスコット開催のアルバニーステークス(英G3)で産駒による重賞初勝利[32]。この年はフランスのリーディングファーストシーズンサイアーとなり[33]、ヨーロッパファーストシーズンサイアーランキングでも2位につける活躍で[34]2018年の種付料は3万ドルへと大幅に増額された[35]。それでもこの年の種付け申し込みは200頭を数え、頭数を減らすために断りを入れるほどの人気ぶりだった[33]

主な産駒 編集

  • Coeur de Beaute / クールデボーテ - インプルーデンス賞(仏G3)
  • Different League / ディファレントリーグ - アルバニーステークス(英G3)、チェヴァリーパークステークス2着

競走成績 編集

競走日 競馬場 競走名 距離 着順 着差 騎手 1着馬(2着馬)
2011.06.08 ラ・テスト 未勝利戦 1200m 1着 10馬身 P.ソゴーブ (Everett)
0000.07.05 ラ・テスト 一般戦 芝1200m 1着 3/4馬身 P.ソゴーブ (Skadar Lake)
0000.07.31 ドーヴィル カブール賞 G3 芝1200m 1着 1馬身 P.ソゴーブ (B Fifty Two)
0000.08.21 ドーヴィル モルニ賞 G1 芝1200m 1着 3馬身 F.デットーリ (Family One)
0000.10.02 ロンシャン ジャン・リュック・ラガルデール賞 G1 芝1400m 1着 3/4馬身 F.デットーリ (Sofast)
2012.04.15 ロンシャン フォンテーヌブロー賞 G3 芝1600m 2着 -短頭 C.スミヨン Dragon Pulse
0000.05.13 ロンシャン プール・デッセ・デ・プーラン G1 芝1600m 6着 -1馬身 C.スミヨン Lucayan

血統表 編集

ダビルシム (Dabirsim)血統 (血統表の出典)[§ 1]
父系 サンデーサイレンス系 /ヘイロー系
[§ 2]

ハットトリック 2001
青鹿毛 北海道追分町
父の父
*サンデーサイレンス
Sunday Silence 1986
青鹿毛 アメリカ
Halo Hail to Reason
Cosmah
Wishing Well Understanding
Mountain Flower
父の母
*トリッキーコード
Tricky Code 1991
黒鹿毛 アメリカ
Lost Code Codex
Loss Or Gain
Dam Clever Damascus
Clever Bird

Rumored 1999
鹿毛 アメリカ
*ロイヤルアカデミー
Royal Academy II 1987
鹿毛 アメリカ
Nijinsky II Northern Dancer
Flaming Page
Crimson Saint Crimson Satan
Bolero Rose
母の母
Bright Generation 1990
鹿毛 アイルランド
Rainbow Quest Blushing Groom
I Will Follow
New Generation Young Generation
Madina F-No.
母系(F-No.) (FN:14-f) [§ 3]
5代内の近親交配 5代内アウトブリード [§ 4]
出典
  1. ^ [36]
  2. ^ [37]
  3. ^ [36][37]
  4. ^ [36][37]
  • 祖母Bright GenerationはG1(当時)オークスイタリアーノ勝ち馬。その産駒に伊G3勝ち馬Fathayerがいる。
  • 3代母New Generationの孫Holy Moonの産駒からはチャリティーライン、ファイナルスコアが伊G1リディアテシオ賞を姉妹制覇するなど、4頭の重賞勝ち馬が出ている。そのうち前述の2頭を含む3頭が繁殖牝馬として日本に輸入されている。
  • 4代母Madinaはモルニ賞勝ち馬。その子孫にG1ホープフルステークス勝ち馬Great Navigatorなどがいる。

脚注 編集

  1. ^ Rumored | Sales Search Results | BloodHorse.com
  2. ^ Arqana :: Thoroughbred :: Results :: AOUT 2010
  3. ^ Prix de Cabourg : le Coup du Chapeau pour Dabirsim
  4. ^ Dabirsim owner committed to keeping success in family
  5. ^ Dabirsim and Dettori romp to Morny glory
  6. ^ Dabirsim unlikely to run in Middle Park Stakes
  7. ^ Dabirsim Flies Home In Lagardere
  8. ^ この勝利はデットーリのグレードレース500勝目でもあった。
  9. ^ Frankel named Cartier Horse of the Year
  10. ^ Talking Horses
  11. ^ ただし、このレイティングは2歳世代トップとしては1993年Grand Lodgeに与えられた120を下回る、歴代最低の数字だった。
  12. ^ FRANCE: DABIRISM NAMED HORSE OF THE YEAR
  13. ^ Dabirsim, pour conjurer Saint Cyrien et Arazi
  14. ^ "DABIRSIM IS WELL!"
  15. ^ DABIRSIM SIDESTEPS NEWMARKET GUINEAS
  16. ^ Soumillon signs up to ride unbeaten Dabirsim
  17. ^ Dragon Pulse and Beauty Parlour star in French trials
  18. ^ DABIRSIM ETAIT POURTANT LE MEILLEUR...
  19. ^ Poule d’Essai : un leader pour Dabirsim
  20. ^ Dabirsim : l'heure de verite
  21. ^ Poule d'Essai des Poulains : Lucayan dans une arrivee mouvementee
  22. ^ lucayan-edges-french-2000
  23. ^ SOUMILLON GIVES UP DABIRSIM RIDE
  24. ^ Dabirsim set for autumn return
  25. ^ DRF Breeding Hot Sire of the Week 3/17-3/23: Hat Trick
  26. ^ Dabirsim bows out
  27. ^ Champion Dabirsim to stand in Germany
  28. ^ Gestüt Karlshof legt die Decktaxen für 2014 fest
  29. ^ Dabirsim's first foal arrives in Germany
  30. ^ Dabirsim to move to Grandcamp in France
  31. ^ European Champion Dabirsim Gets First Winner
  32. ^ Dabirsim’s Different League Upsets Alpha Centauri In the Albany
  33. ^ a b French Breeding’s Route To Success
  34. ^ Young Sires: Two Months Into the Season
  35. ^ Dabirsim Fee Raised
  36. ^ a b c https://www.jbis.or.jp/horse/0001144102/pedigree/”. JBISサーチ. 公益社団法人日本軽種馬協会. 2016年11月14日閲覧。
  37. ^ a b c Dabirsimの血統表”. netkeiba.com. 株式会社ネットドリーマーズ. 2020年4月18日閲覧。

参考 編集

外部リンク 編集