チチブクジラ[1][2][3]学名Diorocetus chichibuensis日本語音写例:ディオロケトゥス・キキブエンシス[注 1]〉)は、約2043万年前から約1365万年前にかけて(新生代新第三紀中新世中葉)の太平洋に棲息していた化石クジラ類 (cf.) の1鯨偶蹄目ヒゲクジラ亜目ナガスクジラ上科ディオロケトゥス科ディオロケトゥスに分類される。化石日本から発見されている。

チチブクジラ
生息年代: 20.43–13.65 Ma
fossil range
地質時代
約2043万年前 - 約1365万年前
バーディガリアン初頭 - サーラバリアン初期
新生代新第三紀中新世中葉)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
亜綱 : 獣亜綱 Theria
下綱 : 真獣下綱 Eutheria
階級なし : 有胎盤類 Placentalia
北方真獣類 Boreoeutheria
上目 : ローラシア獣上目 Laurasiatheria
: 鯨偶蹄目 Cetartiodactyla
階級なし : クジラ目(クジラ類)Cetacea
階級なし : Pelagiceti
階級なし : 新鯨類 Neoceti
亜目 : ヒゲクジラ亜目 Mysticeti
階級なし : 無歯ヒゲクジラ類 Chaeomysticeti
階級なし : Plicogulae
上科 : ナガスクジラ上科 Balaenopteroidea
: ディオロケトゥス科 Diorocetidae
: ディオロケトゥスDiorocetus
: チチブクジラ D. chichibuensis
学名
Diorocetus chichibuensis
Yoshida et al.2003
和名
ディオロケトゥス・キキブエンシス あるいは チチブクジラ

科学的知見 編集

化石は、埼玉県秩父市[注 2]秩父盆地に広がる秩父町層群 (Chichibumachi Group) に属する奈倉層英語版内の2か所から産出した[1][6][3]。最初の発見は1984年(昭和59年)であった[1]

このクジラは、約1700万年前から約1500万年前までの約200万年間に亘ってこの地域に存在していた古秩父湾こちちぶわん[注 3]を泳いでいた[1]

同じ露頭からはパレオパラドキシアの化石が発見されており、それゆえに地域は「大野原パレオパラドキシア化石産地」と呼ばれている[7][3]。また、露頭違いの同じ地層(奈倉層)からは、オガノヒゲクジラ[3]メガロドン[1]、チチブサワラ(サワラ族〈Scomberomorini〉の最大種)[1][8]、チチブホタテ[1]などの化石も発見されている[1][5][3][7]

系統分類 編集

本種が属するディオロケトゥス属はケトテリウム科の1属と見做されていたため、本種が2003年(平成15年)に記載された際もケトテリウム類の一種ということであったが、そもそも「ケトテリウム科」は進化の深まった化石ヒゲクジラ類の雑多で暫定的な分類群であったがゆえに、分類学が発展するに伴って再分類される種が多く出るのが必然であった。デンマーク古生物学者メッテ・エルストルップ・ステーマン (Mette Elstrup Steeman) がケトテリウム類の再分類を試み、2007年に新設を提唱した[9]際、ディオロケトゥス属には独立したディオロケトゥス科が新たに設けられた。

国指定天然記念物 編集

2015年(平成27年)11月20日、国の文化審議会は、馳浩文部科学大臣天然記念物に指定するよう答申した「古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群[7]」が複数の露頭と化石群からなる複合指定物件として受理された旨を公表した[3]。こうした複合指定は国内初であった[3]。正式には翌2016年(平成28年)3月1日付で指定された[7]。チチブクジラの化石も指定物件に含まれており、以下の名称で登録されている[7]

  • 秩父市大野原産出チチブクジラ骨格化石
  • 秩父市蓼沼産出チチブクジラ骨格化石

これら2件を含む9件の化石群は、埼玉県立自然の博物館が収蔵・展示している[10]。「#国の天然記念物」も参照のこと。

産出地のほうは、大字名「大野原」と主要な産出種である「パレオパラドキシア」の名を採った「大野原パレオパラドキシア化石産地」名義で登録された[7]

論文 編集

記載論文 編集

  • Yoshida, K.; Kimura, T.; Hasegawa, Y. (2003). “New cetothere (Cetacea: Mysticeti) from the Miocene Chichibumachi Group, Japan”. Bulletin of the Saitama Museum of Natural History (Saitama Museum of Natural History) 20-21: 1-10. 
    • 日本語版表題:埼玉県の中部中新統秩父町層群奈倉層産ケトテリウム類の一新種 [1][2]
    • 記載されたDiorocetus chichibuensis Yoshida et al., 2003

他の研究論文 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ Brachiosaurus を「ブラオサウルス」と呼ばないのと同じく、ラテン語に準拠する限りは "chichibuensis" を「チチブエンシス」とは読まない。ただ、現地語発音を知らない限り読みようの無い現地語準拠を主張する人は研究者も含めて一定数いるのであり、「チチブエンシス」の読みを否定する規約もまた無い。
  2. ^ Fossolworks のデータからは "Nagura Formation" までしか辿れない[4]。一方、地元発信の資料では露頭「ようばけ」の小鹿野町域から出土したかのように読める記述もあるが、さらに資料を深掘りすると、チチブクジラの化石が産出したのは秩父市の大野原(おおのはら)[gm 1]と蓼沼(たでぬま)[gm 2]の2か所であることが分かる[5]
  3. ^ cf. 古秩父湾堆積層及び海棲哺乳類化石群
Googleマップ
  1. ^ 秩父市大野原(地図 - Google マップ)※該当地域は赤色で囲い表示される。
  2. ^ 蓼沼東区公会堂(地図 - Google マップ)※当該地区を示せないが、当該地区の中核施設を代わりに示す。

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h 秩父の大地に眠る太古の海の物語”. ジオパーク秩父. 秩父まるごとジオパーク推進協議会事務局. 2021年5月25日閲覧。
  2. ^ 埼玉県立自然の博物館、新たにクジラ化石展示」『日本経済新聞日本経済新聞社、2018年1月26日。2021年5月25日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g 川畑仁志「古秩父湾堆積層と海棲哺乳類化石群が天然記念物に複合指定へ」『産経ニュース産業経済新聞社、2015年11月21日。2021年5月25日閲覧。
  4. ^ Chichibu (Miocene to of Japan)”. Fossilworks. 2021年5月25日閲覧。
  5. ^ a b 国指定天然記念物の新規指定について ~古秩父湾の盛衰を物語る地層と化石群、日本初の複合指定へ~” (PDF). 横瀬町. pp. 1-6 (2020年2月). 2021年5月25日閲覧。
  6. ^ ようばけ”. ジオパーク秩父. 秩父まるごとジオパーク推進協議会事務局. 2021年5月25日閲覧。
  7. ^ a b c d e f (3) 天然記念物” (PDF). 彩の国 埼玉県. 埼玉県 (2015年12月1日). 2021年5月25日閲覧。
  8. ^ おがの化石館”. ジオパーク秩父. 秩父まるごとジオパーク推進協議会事務局. 2021年5月25日閲覧。
  9. ^ Steeman, 2007.
  10. ^ 9つの化石”. 埼玉県立自然の博物館. 2021年5月25日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集