チャプスイ (美術)

チャプスイ』(Chop Suey)(1929年)は、エドワード・ホッパーの絵である。作品の前景は、レストランで会話をしている女2人を描いている。2018年11月に、この画家の作品として記録的な価格で売却された[1][2]

主題編集

この場面は、レストランのテーブル1つにいる女2人と、背景に別のカップルを描いている。特に詳細に示されている特徴は、化粧した女の顔、彼女の上方にぶら下がっているコート、[見る者にむけて]彼女の連れの背中、背景のカップルの目鼻立ち、テーブル上のティーポット、下部をおおいかくされた窓パネル、そして外のレストランの看板だけである。これらはすべて、描かれた記憶に感覚的要素(視覚以外)をもたらすであろう特徴である――外の光のブーンという音、背景の人々の声、コートの手触り、茶の味と紙巻きタバコの煙の臭い(男が持っている)、そしておおいかくされた窓からのごちゃごちゃにされた光。

エドワード・ホッパーの芸術は、物語の文脈ではなく、孤立と自己存在のテーマに触れるそのリアリスティックな場面で有名である。彼はしばしば、自分の芸術を「自然の最も親密な印象の転写」(“transcription [of his] most intimate impressions of nature”)と表現し、それは彼は絵画制作の過程を記憶のそれに関連づけるという意味であった。[3]この考えは、たとえば、個人的記憶から何かを引き出すとき、特定の詳細は思い出され得るが、しかし主な焦点の外側のものすべては空白な背景であるという別の方法でさらに説明できるだろう。チャプスイは記憶のこの概念を捉え、見る者に、感覚的な図像の特定の要素複数に焦点を合わせさせながら、自己存在による孤立のテーマを描いている。

解釈編集

芸術学者デビッド・アンファムによれば、ひとつの「『チャプスイ』の印象的な詳細は、その女被写体が自分のドッペルゲンガーに直面していることである」("striking detail of Chop Suey is that its female subject faces her doppelgänger")[4]。またある人々は、女2人が同じようなハット帽をかぶっているのはそれほど珍しくはないであろう、1人の被写体の顔が見る者に見えないときドッペルゲンガーを主張するのはなまいきだ、と指摘している。絵画は、カフェの中にある、内的な主題を持っており、だれにも焦点を合わせていない。ホッパーの作品の多くと同様に、絵画制作は彼の被写体複数に対する光の影響に細心の注意を払っている。

絵画は、感覚的な図像のみを詳細に表現することによって、純粋なリアリズムから一歩後退している。まるで完璧な記憶を描くことによって、それをアクティブにリアリスティックにする精細な細部も破壊しているかのように。「ホッパー」の作者ロルフ・G・レナーは、述べている「…[ホッパーの]絵が何「について」(‘about’)であるかその一部は、すべての絵画制作が何らかの意味で表わしているあの死または衰退である。なぜなら、それらはある1つのイメージへの変形を通じて知覚の即時性を破壊するからである。」(“…part of what [Hopper’s] pictures are ‘about’ is that death or decay which all paintings in some sense represent, since they destroy the immediacy of perception through the transformation into an image”)

絵画の場面は或る社会的な環境の中で起きているけれども、孤独感がゆきわたっている。見る者に面しているグリーンの服の女は、連れと一緒に座っているが、しかし彼女と相互作用していないように見える。背景のカップルの場合と同じように、男は向かいに座っている女から引っ込んでいるように見える。あらゆる人影は孤立させられ、互いに引き下がり、自身の中にひきこもっている。これは、隠されたまたはぼんやりとされた顔複数とともに描かれ、それら人物から人間本質を引き出す。これはさらにこの女に詳細に当てはまる。たとえわれわれは彼女の顔全体を見ても、こわばった化粧ゆえに彼女との分離がある。

大胆なルージュを塗られた唇のあるアラバスターのような肌は、人形に似た女の印象だけを示唆し、それは少女の外観を示唆しているだけである。ふつうなら、これはその時代(1920年代後半)のスタイルとの文脈で、これは最新流行を追う活気あるスタイルと見なすことができよう。「女のぴったりとしたセーター、クローシェ帽、そして化粧した顔は、前の時代ならそれらを性的に利用可能だと特徴づけられたであろうが、主流になっていた。」(“the women's tight-fitting sweaters, cloche hats, and made-up faces, which in a previous era would have marked them as sexually available, had become mainstream”)[5]しかしホッパーは、女性の顔を、背景の他の空白な特徴と同じ、白の値にすることによってそれを否定し、かくして彼女の人間本質をくり抜いている。見る者は、彼女は見る者と視線を交差させ相互作用するのではなく、あたかも周囲の事物に焦点を合わせていないかのように、「ぼうっとしている」(“spacing out”)あるいは一心にではなく耳を傾けている、と解釈する[6]

チャプスイの構図は、完璧なリアリズムに対立するものとして、ホッパーの概念記憶を包含している。この釣り合いは絵画の中央部でとられ、視線のすぐ上方にもっと詳細ならざる領域があり、これら領域には粗いブラシ痕が付いている。眼がたんにそれらの上を通過し、提示された詳細に焦点を合わせるために、背景のネガティブな/詳細でない空間が、これをさらに追加する。これら空間は、記憶にコミットされなかった背景機能であるために、単純である。外側の看板、ぶら下がっているジャケット、下部をおおわれた窓のデザインの細部に至るまで、テーブルについている人物の間に含まれる細部の存在に保たれている「重み」(“weight”)がある。これが、見る者が外的文脈を無視して場面とすべての重要な相を見る、という効果を生じさせる。これが『USA Today Magazine』による記事で説明されている――「行為の短い中断、主人公の仮面ふうな顔、そしてそれら窓の抽象的な幾何学的配列は、展開してゆく物語がこれら特定の行為あるいはこの場所についてではなくむしろモダンな存在状態についてである、という感覚の一因となっている」(“The brief interruption in action, the mask-like face of the protagonist, and the abstract geometries in the windows contribute to the sense that the unfolding narrative is not about these specific actions or this place, but rather about a modern state of being”)[7]

これを念頭に置いて、見る者は、この特定の記憶の背後に物語を仮想することができる。ゲイル・レヴィンの文献には、チャプスイの場所が記述されている、「…この設定は、ホッパー家の人々がコロンバス・サークルでしばしば訪れていた安い、2階建ての中華レストランを思い起こさせた」(“…the setting recalled the inexpensive, second floor Chinese restaurant the Hoppers had been frequenting in Columbus Circle”)[8]。これは、女(ことによると彼の妻ジョーであるかもしれない)と周囲の事物の鈍さへの主な焦点を説明するかもしれない。もしそれがエドワード・ホッパーがしばしば訪れた場所であったならば、場面の瞬間でなく周囲の事物に集中するべき理由はないだろう。

売却編集

バーニー・A・エブスワースが絵画を所有したし、シアトル美術館にそれを与えると約束していた[9]。しかしながら、彼の死後、所有権は彼の財産に移った。2018年11月に、この絵画は9,200万ドルで売却された。これは、この画家の作品の新記録である[2][10]

リクリエーション編集

ケーブル・チャンネル Turner Classic Movies で放映された、『The Sunny Side of Life』というタイトルのバンパー[番組と放送広告との間のつなぎ]は、『チャプスイ』その他のホッパーの絵画に霊感を受けた。

脚注編集

  1. ^ Hopper Painting Sells for Record $91.9 Million at Christie's”. 2018年11月14日閲覧。
  2. ^ a b Hopper's Chop Suey in record-breaking $92m sale”. BBC News. 2018年11月14日閲覧。
  3. ^ Hopper 1933.
  4. ^ Wagstaff 2004, p. 39.
  5. ^ Troyen, Carol (Spring 2016), “It was never about the food”, Antiques 183 (3): 102 
  6. ^ Updike 2005, p. 188.
  7. ^ “Edward Hopper Master of Silence”. USA Today Magazine 136 (2752): pp. 34–46. (2008年1月) 
  8. ^ Levin 1995, p. 221.
  9. ^ The Controversy Behind the $92 Million Sale of an Edward Hopper Painting”. qz.com (2018年11月14日). 2018年11月14日閲覧。
  10. ^ Scott Reyburn (2018年11月13日). “Hopper Painting Sells for Record $91.9 Million at Christie's”. The New York Times. https://www.nytimes.com/2018/11/13/arts/design/hopper-painting-christies-auction.html?emc=edit_th_181114&nl=todaysheadlines&nlid=654736121114 2018年11月13日閲覧。 

出典編集

  • Hopper, Edward (1933), Notes on Painting, http://moma.org/d/c/exhibition_catalogues/W1siZiIsIjMwMDA2MTg2NiJdLFsicCIsImVuY292ZXIiLCJ3d3cubW9tYS5vcmcvY2FsZW5kYXIvZXhoaWJpdGlvbnMvMjA2MiIsImh0dHA6Ly9tb21hLm9yZy9jYWxlbmRhci9leGhpYml0aW9ucy8yMDYyP2xvY2FsZT1pdCJdXQ.pdf?sha=af1c3b06a297c3c6 
  • Levin, Gail (1995). Edward Hopper: An Intimate Biography. University of California Press 
  • Renner, Rolf G. (2002). Hopper. Taschen 
  • Updike, John (2005). “Hopper’s Polluted Silence”. Still looking: essays on American art. Knopf. https://archive.org/details/stilllookingessa00updi 
  • Wagstaff, Sheena; Anfam, David; O'Doherty, Brian (2004). Edward Hopper. Tate Publishing. ISBN 978-1854375339 

情報源編集