チンタオサウルス

恐竜の一種

チンタオサウルス (Tsintaosaurus ) は中生代白亜紀後期カンパニアン(カンパン階)からマーストリヒシアン(マーストリヒト階)に生息した、大型の鳥脚類恐竜

チンタオサウルス
生息年代: 中生代白亜紀後期
70 Ma
チンタオサウルス
壊れた鶏冠状突起を有するホロタイプの頭部
地質時代
白亜紀後期
(カンパニアン-マーストリヒシアン)
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 鳥盤目 Ornithischia
亜目 : 鳥脚亜目 Ornithopoda
上科 : ハドロサウルス上科
Hadrosauroidea
: ハドロサウルス科
Hadrosauridae
亜科 : ランベオサウルス亜科
Hadrosaurinae
: チンタオサウルス属
Tsintaosaurus
学名
Tsintaosaurus
Young1958

発見と名称の由来 編集

 
左の前上顎骨

1950年、中国東部山東省青島市近くの萊陽市の金剛口村北西、冲溝の道路側にあるカンパニアンの地層で古生物学者、州明鎮とその教え子たちは大型のハドロサウルス類脛骨腓骨を発見した。周は北京楊鍾健に報告し、1951年に発掘が開始された。 現場は金崗口と萊陽市とを繋ぐへ主要道路の脇で、最低限の範囲での発掘しか許されなかった。そういったことが影響し、十分なフィールド記録が得られず発掘は途中で打ち切られることになった。この発掘で得られたのは少なくとも7体分の部分的に関節した骨格であった。 楊は1個体分の頭骨つきの部分骨格をまとめ、ホロタイプ IVPP V725 とし、それに基づき1958年、サウロロフス亜科の新属新種、チンタオサウルス・スピノリヌスTsintaosaurus spinorhinus と記載命名を行った。パラタイプ、IVPP V818 は頭頂骨である。 追加の骨格と大量のばらけた骨格要素は、いくつかはチンタオサウルスと考えられたが、他のものは1958年、新種タニウス・キンカンコウエンシス Tanius chingkankouensis と記載された。また、タニウス・ライヤンゲンシス Tanius laiyangensis も1976年に記載された。 また、これらとは別にランベオサウルスに似たクレストの断片や、ランベオサウルス類の頬骨も同じサイトから見つかり、属種不明のランベオサウルス亜科として記載している。 楊はチンタオサウルスの頭骨について、欠けている前上顎骨の後半部や頬骨を補修せず、よく知られている復元頭骨を描いた。 その後、チンタオサウルスはランベオサウルス亜科と改められた。しかしランベオサウルス亜科にしては、あまりにもチンタオサウルスの鶏冠状突起は風変わりであることから、まず他のランベオサウルス亜科の鶏冠状突起と相同器官であるかが疑われた。ロジェストヴェンスキーはチンタオサウルス・スピノリヌスをタニウス・シネンシスのシノニムとみなし、ホーナーらはチンタオサウルスがハドロサウルス亜科とランベオサウルス亜科のキメラである可能性を指摘した上、鶏冠状突起が実際には存在せず、その正体が死後折れ曲がった鼻骨の一部に過ぎず、チンタオサウルスが典型的なハドロサウルス類の姿だったと主張した。しかしこれらの意見は結局すべて誤りであった。古生物学者エリック・ビュフェトーは、別の複数の標本にも明確な棒状の突起が残っていることや、タニウスとは様々な形質上の違いから明確に別属であること、タニウス・キンカンコウエンシスがハドロサウルス亜科ではなく、ランベオサウルス亜科に属することなどを指摘した。タニウス・ライヤンゲンシスの腸骨はT. チンカンコウエンシスとよく似ており、これら2種はチンタオサウルスのシノニムあるいは疑問名とみなされるようになった[1]属名は発見場所の近くの青島市に由来する。一方、種小名は頭骨に残されたクレストの一部が角状に見えることに因み、「トゲの鼻」という意味である。

説明 編集

鶏冠状突起 編集

 
画像-1
 
画像-2
  • 画像-1 :2013年以前の考え方に基づく棒状のトサカの復元
  • 画像-2 :2013年以後の研究結果に基づいた復元図

チンタオサウルスはもともとユニコーンの角のような突起をもった頭で復元されていた。このトサカは欠けている部分を補修した状態で長さ約40cm、鼻面に対してほぼ垂直に伸びるものと推定されていた。その構造は曲がった先端部に隙間があり筒状になっている[2]

 
欠けた部分が補われた鶏冠状突起の復元

アルバート・マルケスとジョナサン・ワーグナーによる2013年のホロタイプの同定に基づく新たな復元では、棒状の骨はより鼻骨の先端から始まるより大きく広いものであるとされた。鶏冠状突起の前部は、前上顎骨の隆起によって形成されたと思われる。突起の後部は隆起プロセスの拡張された鼻骨上部と方形骨の接触面で形成されていた。突起の後部基部は、前頭骨の発達によって覆われていた。癒合した鼻骨は他のランベオサウルス亜科のようにチューブ状構造を形成すると思われる。突起の高さは、少なくとも標本に残されている部分を超えたに違いない。ほぼ垂直ではあるが、後方にわずかに傾いている。ホロタイプの突起の前方傾斜は、化石化する中で変形した結果であるとされる[3]

マルケスとワグナーによる新たな復元は、突起の内部気道についての新たな仮説を導いた。楊は、ホロタイプの保存された部分の管状空洞化が呼吸に役立つと仮定していたが、マルケスらはこれを拒否した。楊の考えは、鶏冠状突起内部が前方の気道とつながっており、呼吸をすると空気が嘴上部の後ろにある疑似鼻孔を通ったという、ランベオサウルス亜科の鶏冠状突起の説明として一般的な仮定である。空気は前上顎骨の頂点まで側頭骨の下に位置する一対の気道を通って輸送され、続いてローブ(丸い突出部)内で共通(左右の気道から合流する)の中央の空洞に入る。空洞の後部は、鼻骨によって形成され、恐らく鼻腔と相同であった。空洞は、正面に1つ、背面に2つの小さな空洞に分割され、空洞の間の通路は周りの前上顎骨と側頭骨のフック状の構造によって形成された。後部空洞から、空気は頭骨内部の隙間に向かって下方に運ばれた。一般的にはこれが気道であると考えられているが、マルケスらは鼻腔が前上顎骨の側頭骨の内側、下向きに位置していることから、鶏冠状突起内の空気とは繋がらない可能性が高いと結論づけ、中央の空洞は恐らく軟骨性の隔壁によって左右の区画に分割されるとした[3]

マルケスらの結論は、後方の鼻骨の管状構造は空気の通路ではなく、相対強度と低骨量とを組み合わせることで鶏冠状突起を軽量化していたに過ぎないと主張した。チンタオサウルスはその鼻孔の位置からして、他の多くのランベオサウルス亜科とは鶏冠状突起の構造や役割がかなり違っていたと思われる[3]

他の固有形質 編集

 
左の前頭骨

マルケスらは、鶏冠状突起とは別に、チンタオサウルスのいくつかの他の固有の特徴を特定した。上顎骨の嘴の縁は、鼻孔の周りの前方の窪みの横幅よりも広く、丸くて厚い。この窪みは斜め下と横に続く2つの隆起によって縦に分けられている。内部的には、癒合した鼻骨が脳函の前に骨のブロックを形成する。鼻骨後部は、前頭骨延長部によって固定され、その最上部は頭骨の頂点に対して上昇している。前上顎骨の上向きの突起は、正中線の共有室を分割して、側頭骨後方がわずかに内側後方に向く。前頭骨は、涙小管の下部から前頭骨の下部まで続くフランジを有し、鶏冠状突起頂面の側部に隆起を形成するために前上顎骨側の側頭骨に接続される。前頭骨の側面と下面には深い垂直溝が見られる。脊柱前庭の開口部は横方向に長い[3]

分類 編集

チンタオサウルスはランベオサウルス亜科の中でもヨーロッパ型のパララブドドンコウタリサウルス(パララブドドンのシノニムかも知れない)と特に近縁で、それらとクレード(チンタオサウルス族)を共にする[4]

以下、2013年のマルケスらによる系統樹でのチンタオサウルスの位置づけ[5]

 ランベオサウルス亜科 
アラロサウルス族

アラロサウルス

カナルディア

ジャクサルトサウルス

チンタオサウルス族

チンタオサウルス

パララブドドン

パラサウロロフス族

カロノサウルス

パラサウロロフス

パラサウロロフス・キルトクリスタトゥス

パラサウロロフス・トゥビケン

パラサウロロフス・ワルケリ

ランベオサウルス族
ランベオサウルス

ランベオサウルス・ランベイ

ランベオサウルス・マグニクリスタトゥス

コリトサウルス

コリトサウルス・カスアリウス

コリトサウルス・インテルメディウス

ヒパクロサウルス・ステビンゲリ

ヒパクロサウルス

オロロティタン

アレニサウルス

ブラシサウルス

マグナパウリア

ヴェラフロンス

アムロサウルス

サハリヤニア

出典 編集

  1. ^ Young, C.-C. (1958). “The dinosaurian remains of Laiyang, Shantung”. Palaeontologia Sinica, New Series C (Whole Number) 42 (16): 1–138. 
  2. ^ Buffetaut, E.; Tong, H. (1993). Tsintaosaurus spinorhinus Young and Tanius sinensis Wiman: a preliminary comparative study of two hadrosaurs (Dinosauria) from the Upper Cretaceous of China. 2. 317. C.R. Academy of Science Paris. pp. 1255–1261. 
  3. ^ a b c d Prieto-Márquez, A.; Wagner, J. R. (2013). “The ‘Unicorn’ Dinosaur That Wasn’t: A New Reconstruction of the Crest of Tsintaosaurus and the Early Evolution of the Lambeosaurine Crest and Rostrum”. PLOS ONE 8 (11): e82268. doi:10.1371/journal.pone.0082268. 
  4. ^ Prieto-Márquez, A.; Wagner, J. R. (2009). “Pararhabdodon isonensis and Tsintaosaurus spinorhinus: a new clade of lambeosaurine hadrosaurids from Eurasia”. Cretaceous Research online preprint: 1238–1246. doi:10.1016/j.cretres.2009.06.005. 
  5. ^ Prieto-Marquez, A.; Vecchia, F. M. D.; Gaete, R.; Galobart, A. (2013). “Diversity, relationships, and biogeography of the Lambeosaurine dinosaurs from the European archipelago, with description of the new aralosaurin Canardia garonnensis. PLOS ONE 8 (7): e69835. doi:10.1371/journal.pone.0069835. PMC 3724916. PMID 23922815. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3724916/. 

関連項目 編集