ティタノマキア学名Titanomachya)は、南アメリカ大陸パタゴニア中部で化石が発見された、ティタノサウルス類に属する竜脚類恐竜[1]。産出層準がラ・コロニア層英語版であり、生息年代は約6700万年前の後期白亜紀と推定されている[1]頭蓋骨を保存していない部分的な体骨格が発見されており、大型の属種が知られているティタノサウルス類の中で小型と見られている[1]。タイプ種はティタノマキア・ギメネジTitanomachya gimenezi)で、属名はギリシア神話ティーターノマキアーに由来し、種小名は古生物学者オルガ・ヒメネスへの献名である[1]

ティタノマキア
生息年代: 67 Ma
ティタノマキアの想像図
地質時代
後期白亜紀マーストリヒチアン
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜形下綱 Archosauromorpha
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 竜脚形亜目 Sauropodomorpha
下目 : 竜脚下目 Sauropoda
階級なし : ティタノサウルス類 Titanosauria
: ティタノマキア属 Titanomachya
学名
Titanomachya
Pérez-Moreno et al., 2024
タイプ種
Titanomachya gimenezi

発見と命名

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ティタノマキアのホロタイプ標本MPEF Pv 11547はアルゼンチンチュブ州に位置するCerro Bayo地域の北方で[2]エジディオ・フェルグリオ古生物博物館英語版[注 1]の古生物学者ディエゴ・ポルらの研究チームによって発見された[1]。産出層準はラ・コロニア層英語版の中部セクションである[2]。Clyde et al. (2021)によればラ・コロニア層は上部白亜系マーストリヒチアン階から古第三系暁新統ダニアン階にあたる地層であり[4]、Pérez-Moreno et al. (2024)はホロタイプの産出したセクションをマーストリヒチアン階としている[2]

 
ティタノマキアの名の由来となったティーターノマキアーヨアヒム・ウテワール

発見された化石は関節していなかったが、互いに近接した位置に保存されていた[1]。保存部位は肋骨椎骨、四肢の骨、腰帯の一部である[1]。より具体的には、不完全な後側尾椎、不完全な肋骨、神経弓、左上腕骨、断片的な左腸骨、断片的な右恥骨、右大腿骨、左遠位大腿骨、右脛骨、左脛骨、右腓骨、左腓骨、完全な右距骨、不完全な左距骨が保存されている[2]。これらの骨は纏めてMPEF Pv 11547に指定され、それぞれ枝番号を付された上で、エジディオ・フェルグリオ古生物博物館に所蔵されている[2]

タイプ種ティタノマキア・ギメネジ(Titanomachya gimenezi)はPérez-Moreno et al. (2024)で記載・命名された。属名はギリシア神話においてオリュンポスの神々と巨神族ティーターンとの間で勃発した戦いであるティーターノマキアーに由来する[1]。種小名はチュブ州から産出した恐竜を研究した最初の女性古生物学者オルガ・ヒメネス(Olga Giménez)への献名である[2]

特徴

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体サイズ

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ティタノマキアのホロタイプ標本は小型のティタノサウルス類の成熟個体と目されており、その体サイズは小型竜脚類であるサルタサウルスネウケンサウルスのそれに近い[2]。Pérez-Moreno et al. (2024)の推定によれば体重は5.79トンから9.79トンであり[2]、ティタノマキアが属するティタノサウルス類に推定体重70トンに達する大型の属種が存在したことを踏まえると非常に小型である[1]。系統解析の結果近縁とされたオピストコエリカウディアが体重25トンと推定されているため、これにも遠く及ばない[2]。同地域に生息したティタノサウルス類に同様の体サイズのものが存在しなかった点でもこの体サイズは特筆されている[1]

ただし、ティタノサウルス類において最小というわけではなく、より小型のティタノサウルス類として1トン未満のMagyarosaurus dacusや2トン未満のLirainosaurus astibiaeがある[2]。加えて、平均7.79トンという推定体重は体サイズが近いサルタサウルスやネウケンサウルスの推定体重を上回るものであり、同サイズの近縁属を体重で超過する何らかの要因があったと見られる[2]。これは個体発生過程の差異に起因する可能性があるが、Pérez-Moreno et al. (2024)時点で骨組織学的研究は出版されておらず、現状で不明である[2]

解剖学的特徴

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Pérez-Moreno et al. (2024)はティタノマキアの記相において複数の形質状態の組み合わせによってティタノマキアを他の属種から区別している[2]。記相に用いられた具体的な形質状態としては、血道弓の全長の約25%を占める血道洞、顕著に発達した上腕骨の三角胸筋付着部、上腕骨の半分あるいはそれ以上に亘ってほぼ直線状である上腕骨外側縁、遠位方向に顕著に拡大する三角胸襟稜、三角胸筋陵の最遠位部周辺に存在する頑強な後外側のバルジ、腓骨・踵骨との関節面が対称的に発達している距骨、脛骨の内外側の広がりと脛骨上の関節面の比率が約75%であること、距骨の後側に半球状のバルジが存在していること、距骨の後側に窩(fossa)を欠くこと、距骨の内外側幅が近遠位方向の高さの4倍であることが挙げられる[2]。これらのうち、後側の窩を欠くことを除けば距骨の形質状態は全て固有派生形質とされている[2]

ティタノマキアの距骨はティタノサウルス類のうちColossosauria (enサルタサウルス科英語版との中間型であると考えられている[2]。Colossosauriaの距骨は前側から見て内側に偏った台形であり、腓骨との関節面が斜辺をなし、また内外測から見ると直方体である[2]。サルタサウルス科の距骨は非二等辺の三角形(楔形)で、また内外側から見て前側面が遠位で前に傾斜する台形である[2]。ティタノマキアの距骨は内外側から見てサルタサウルス科と共通し、前側から見ると脛骨・腓骨に同程度に斜辺で接する二等辺三角形をなす[2]

系統

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Pérez-Moreno et al. (2024)はティタノマキアを内群に加えた系統解析を実施し、サルタサウルス上科英語版の下位分岐群にあたる石嵌類英語版に属するとした[2]。進化の総ステップ数は1608、最節約樹は237個であった[2]。厳密合意樹においてサルタサウルスとネウケンサウルスの2属からなる分岐群、オピストコエリカウディア、ラペトサウルスおよびティタノマキアは多分岐をなした[2]。以下のクラドグラムはPérez-Moreno et al. (2024)に基づく[2]

真ティタノサウルス類英語版

Colossosauria (en

サルタサウルス上科英語版

Dreadnoughtus

石嵌類英語版

Malawisaurus

Tapuiasaurus  (en

Alamosaurus

Rapetosaurus

Opisthocoelicaudia

Titanomachya

Saltasaurus

Neuquensaurus

古環境

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当時の環境内におけるティタノマキアの想像図

ティタノマキアのホロタイプ標本が産出したユニットの大部分は、河川水海水の両方の水流の影響を受けた沿岸部の堆積物と推定されている[2]。主要な岩相は葉理のある泥岩、泥室質細粒砂岩、縞状シルト岩粘土岩である[2]。ティタノマキアとの同一層準からは、アベリサウルス科ハドロサウルス類曲竜類といった恐竜、カメ哺乳類の化石が産出している[2]。Gasparini et al. (2015)はティタノマキアと同一の産地からティタノサウルス類と見られる竜脚類の尾椎を報告している[5]

脚注

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注釈

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  1. ^ 他のカナ転写表記として「エヒディオ・フェルグリオ」がある[3]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j 新種の恐竜を発見、「衝撃的に小さな巨大恐竜」ティタノマキア”. ナショナルジオグラフィック協会 (2024年4月15日). 2024年4月26日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z Pérez-Moreno, A.; Salgado, L.; Carballido, J. L.; Otero, A.; Pol, D. (2024). “A new titanosaur from the La Colonia Formation (Campanian-Maastrichtian), Chubut Province, Argentina”. Historical Biology: An International Journal of Paleobiology: 1–20. doi:10.1080/08912963.2024.2332997. 
  3. ^ Fredric Heeren「巨大恐竜はこうして生まれた」『natureダイジェスト』第8巻第10号、Springer Nature、doi:10.1038/ndigest.2011.1110162024年4月30日閲覧 
  4. ^ W.C. Clyde; J.M. Krause; F. De Benedetti; J. Ramezani; N.R. Cúneo; M.A. Gandolfo (2021). “New South American record of the Cretaceous–Paleogene boundary interval (La Colonia Formation, Patagonia, Argentina)”. Cretaceous Research 126. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0195667121001361. 
  5. ^ Gasparini Zulma; Juliana Sterli; Ana Parras; José Patricio O'Gorman; Leonardo Salgado; Julio Varela; Diego Pol (2015). “Late Cretaceous reptilian biota of the La Colonia Formation, central Patagonia, Argentina: Occurrences, preservation and paleoenvironments”. Cretaceous Research 54: 154-168. https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0195667114002225.