デボラ数(デボラすう、Deborah number)は、レオロジーの分野で、物質の流動性を表す無次元量である。この量を初めて導入したのはアメリカのWhiteであるという説と、イスラエルのReinerである(''Physics Today''誌、 1964)という2つの説がある。その名は旧約聖書に登場する預言者デボラが、「山々が主の前に流れた」と歌ったとされていることに由来する。

定義 編集

デボラ数De は物質の緩和時間と観察時間(代表時間)の比で定義される。緩和時間は物質の粘性剛性率の比で表される。

物理的意味 編集

物質の固体液体の区別は観察の時間スケールと、物質の緩和時間との関係で変わるものである。

  • De ≪ 1 ならば、緩和時間が小さいので物質は流れやすい、すなわち液体とみなすことができる。
  • De ≫ 1 ならば、物質は緩和せず流れにくい、すなわち固体とみなすことができる。


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コールタール 編集

Parnellはコールタールピッチ漏斗から垂らす実験を1927年に行った。2000年までにわずか8滴だけが漏斗から垂れ落ちたことが観察され、そこからピッチの粘度は108 Pa sであると計算された。しかしこれを通常の観察時間(数十秒程度)で観察すると固体にしか見えず、ハンマーで叩き割ることもできる。(ノーベル賞のパロディの)イグノーベル賞物理学賞を2005年に受賞している(イグノーベル賞受賞者の一覧#2005年を参照)。

マントル 編集

通常の感覚では山や大陸は動かないものだが、Wegenerによる大陸移動説によると、1年間で数mm~数cmずつ“流れて”いる。実際、マントルの粘度は1020~1022 Pa s、剛性率は約100 GPaといわれており、ここから緩和時間はおよそ1010 秒~300年程度と見積もられる。したがって、地球科学で扱われる数億年オーダーのスケールでは、これも液体と考えられるわけである。

氷河 編集

Husmannら(2002)によると、条件にもよるがの粘度は1014 Pa s、剛性率は109 Paで、緩和時間は105 秒~約1日である。氷は通常は固体だが、氷河などは観察時間が長いので“流れる”。

参考文献 編集

  • 増渕雄一『おもしろレオロジー』技術評論社、2010年、174頁。ISBN 978-4-7741-4310-1 

関連項目 編集