デルタドロメウス

デルタドロメウス (Deltadromeus) は後期白亜紀初頭の北西アフリカに生息していた中〜大型の恐竜。食性については系統的位置をどう解釈するかによって異なる。当初は肉食性と考えられていたが、2017年に原記載者らによって植物食恐竜として再記載された。全長は8メートル程度で、大きさの割には細身で軽量。後ろ脚は非常に長く、おそらく俊足の持ち主だった。それにちなみ三角州の疾走者」という意味の属名が与えられた。なお2020年現在まで、頭骨など少なくない部位が未発見のため、有名なアロサウルス然とした復元は、あくまで推測の産物である。

デルタドロメウス
Deltadromeus in Japan.jpg
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
亜綱 : 双弓亜綱 Diapsida
下綱 : 主竜下綱 Archosauria
上目 : 恐竜上目 Dinosauria
: 竜盤目 Saurischia
亜目 : 獣脚亜目 Theropoda
下目 : ?ケラトサウルス下目
Ceratosauria
: ?アベリサウルス科
Abelisauridae
亜科 : ?ノアサウルス亜科
Noasaurinae
: デルタドロメウス
Deltadromeus

復元編集

注意 デルタドロメウスは、発見から現在に至るまで紆余曲折あり、その復元は非常に混乱している。もちろん2020年現在においても確定している情報は少ないため、本記事で取り上げる内容には不正確な、あるいは曖昧な部分が少なからず含まれる。

旧復元(コエルロサウルス類)編集

竜脚類を漁るデルタドロメウス

1996年の簡素な記載において、やや大きめな烏口骨、大腿骨の長く低い第4転子腓骨の裏にある大きな穴に基づき、デルタドロメウスは古生物学者ポール・セレノによって、初期のコエルロサウルス類へ分類された[1]。おそらくオルニトレステスなどを参考にしたと思われるこの復元は、肉食恐竜らしい大きな頭に鋭いナイフ状の歯を頂きつつ、一方で前肢は他のコエルロサウルス類同様、ひょろ長く造形された[注 1]。そして見るからに走行に適した後ろ脚と、本種のものとされた歯を合せれば[注 2]、彼らの主食が逃げ足の速い小型から中型の植物食恐竜であったと思われる。同時代の同地域(ケムケム層)には、鋭利な歯を持つカルカロドントサウルスや魚食のスピノサウルスなど、より大きな肉食恐竜が生息していた。この事を踏まえ、デルタドロメウスの風変わりな特徴は、彼らとの食い分けのために進化した可能性もあるとされていた。

新復元(ケラトサウルス類)編集

 
デルタドロメウス(新復元)のシルエット。ホロタイプが (A) 、消失した大腿骨に基づく個体が (B)

記載から十数年が経った2003年。古生物学者ジェフリー・ウィルソン(Jeffrey A. Wilson)によるラジャサウルスの記載時に行われたケラトサウルス類の系統解析において[2]、デルタドロメウスはケラトサウルス類へと編入された。この頃のケラトサウルス類には、強力な捕食者のケラトサウルスカルノタウルスだけでなく、突き出た歯を持つマシアカサウルスやケラトサウルス類らしからぬ発達した前肢に鉤爪を生やしたノアサウルスのような奇妙な恐竜も在席しており、デルタドロメウスの存在は、ケラトサウルス類の多様性を証明するかたちとなった。 本種がケラトサウルス類、その中でも軽量なノアサウルス類に属する事を念頭に置いた新復元では、生前のデルタドロメウスが、オルニトミムス類[注 3]に似ている。 新復元は、敏捷な中型ケラトサウルス類と考えられるエラフロサウルスや、尻尾の生えたシチメンチョウのようにも見える小型ケラトサウルス類のリムサウルスにそっくりで、未発見の頭部は他のノアサウルス類を参考に、控えめな大きさとされた。なおリムサウルスは、鳥類そっくりのクチバシの生えた頭部を備えており[3]、デルタドロメウス(やエラフロサウルス)の頭部が、これと似通っていた可能性もまた大いに考えられる[4][注 4]。ちなみに前肢の造りは、新旧とも貧弱で大差ない。ただし指の本数は3本から2本へと変更されている。これは近年発見されたグアリコの標本が根拠だろう。


古生物学編集

ケムケム層(セノマニアン期、約9500万年前)で発見された単一の種 (D. agilis)の一個体分の標本のみで知られる。バハリアサウルスのジュニアシノニムである可能性がある[5]。デルタドロメウスはしばしばケラトサウリア、より詳しくはノアサウルス類のメンバーと考えられる。2016年、グアリコとして知られる南アメリカ大陸の獣脚類にデルタドロメウスとの共通点が見出された。グアリコの系統的位置に応じて、デルタドロメウスは、グアリコとの密接な関係が正当なものである場合、ネオヴェナトル類カルノサウルス類ティラノサウルス類、または基盤的コエルロサウルス類であった可能性がある[6] [7][8]

分類編集

元記載以来発表されてきた多くの研究では、デルタドロメウスはケラトサウリアであると見なされてきた。しかしどの種類のケラトサウリアとも異なっているため研究結果は一致していない。 2003年のある研究では、ノアサウルス科のメンバーであることが示唆された。原始的なケラトサウリアであるエラフロサウルスまたはリムサウルスと近縁な植物食性動物である可能性がある[2][9][3]2016年に公開されたノアサウルス科の系統関係に関するより包括的な研究では、これらの解釈の両方が本質的に正しく、デルタドロメウス、リムサウルスおよびエラフロサウルスはすべてノアサウルス科内にあることがわかった[10]。 リムサウルスの個体発生的変化と系統分析に対する幼若分類群の影響を説明する2017年の論文では、どのリムサウルス標本が使用されたかに関係なく、すべての分析においてデルタドロメウスがノアサウルス類として位置付けられた。それらの分析にはグアリコアオニラプトルも含まれる。この論文の著者によると、「グアリコ、アオニラプトル、デルタドロメウス」およびメガラプトラの系統的位置を解明することは、現在の獣脚類系統学が直面している最も重要な問題の1つである[11]

以下のクラドグラムは2016年のロウハットらの研究に基づく[10]

アベリサウルス上科 

アベリサウルス科  

ノアサウルス科

ラエヴィスクス

デルタドロメウス 

エラフロサウルス亜科

リムサウルス 

CCG 20011

エラフロサウルス 

ノアサウルス亜科

ヴェロキサウルス 

ノアサウルス  

マシアカサウルス 

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ より一般的な大型肉食恐竜のアロサウルスメガロサウルス類は、より太く強健な前腕を備えている
  2. ^ しばしば化石ショップで販売されている、通称“デルタドロメウスの歯”。しかし実際にはデルタドロメウスのものである可能性は非常に低い
  3. ^ “またの名をダチョウ恐竜”
  4. ^ そうだとしたら、デルタドロメウスはリムサウルスのように、小動物や植物を主食にしていたかもしれない

出典編集

  1. ^ 『大恐竜展(図録)』(読売新聞社:1998) P65
  2. ^ a b Wilson Sereno, Srivastava Bhatt, Khosla , Sahni (2003). “A new abelisaurid (Dinosauria, Theropoda) from the Lameta Formation (Cretaceous, Maastrichtian) of India”. Contr. Mus. Palaeont. Univ. Mich. 31: 1–42. 
  3. ^ a b Xu X.; Clark J.M.; Mo J.; Choiniere J.; Forster C.A.; Erickson G.M.; Hone D.W.E.; Sullivan C. et al. (2009). “A Jurassic ceratosaur from China helps clarify avian digital homologies”. Nature 459 (18): 940–944. Bibcode2009Natur.459..940X. doi:10.1038/nature08124. PMID 19536256. http://doc.rero.ch/record/209594/files/PAL_E4066.pdf. 
  4. ^ Elaphrosaur: Rare dinosaur identified in Australia(BBC 掲載日:18 May 2020 参照日20 May 2020)
  5. ^ Holtz, Thomas R. Jr. (2008) Dinosaurs: The Most Complete, Up-to-Date Encyclopedia for Dinosaur Lovers of All Ages Supplementary Information
  6. ^ Sebastián Apesteguía; Nathan D. Smith; Rubén Juárez Valieri; Peter J. Makovicky (2016). “An Unusual New Theropod with a Didactyl Manus from the Upper Cretaceous of Patagonia, Argentina”. PLoS ONE 11 (7): e0157793. Bibcode2016PLoSO..1157793A. doi:10.1371/journal.pone.0157793. PMC 4943716. PMID 27410683. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4943716/. 
  7. ^ Matías J. Motta; Alexis M. Aranciaga Rolando; Sebastián Rozadilla; Federico E. Agnolín; Nicolás R. Chimento; Federico Brissón Egli; Fernando E. Novas (2016). “New theropod fauna from the Upper Cretaceous (Huincul Formation) of northwestern Patagonia, Argentina”. New Mexico Museum of Natural History and Science Bulletin 71: 231–253. https://www.researchgate.net/publication/304013683. 
  8. ^ Porfiri, Juan D; Juárez Valieri, Rubén D; Santos, Domenica D.D; Lamanna, Matthew C (2018). “A new megaraptoran theropod dinosaur from the Upper Cretaceous Bajo de la Carpa Formation of northwestern Patagonia”. Cretaceous Research 89: 302–319. doi:10.1016/j.cretres.2018.03.014. 
  9. ^ Carrano , Sampson (2008). “The Phylogeny of Ceratosauria (Dinosauria: Theropoda)”. JSysPaleo 6 (2): 183–236. doi:10.1017/s1477201907002246. https://semanticscholar.org/paper/97ba4ba82753286ee9a105aeec4d97ec2d5fc585. 
  10. ^ a b Rauhut, O.W.M., and Carrano, M.T. (2016). The theropod dinosaur Elaphrosaurus bambergi Janensch, 1920, from the Late Jurassic of Tendaguru, Tanzania. Zoological Journal of the Linnean Society, (advance online publication) doi:10.1111/zoj.12425
  11. ^ Wang, S.; Stiegler, J.; Amiot, R.; Wang, X.; Du, G.-H.; Clark, J.M.; Xu, X. (2017). “Extreme Ontogenetic Changes in a Ceratosaurian Theropod”. Current Biology 27 (1): 144–148. doi:10.1016/j.cub.2016.10.043. PMID 28017609. http://www.cell.com/current-biology/pdf/S0960-9822(16)31269-6.pdf. 

関連項目編集

近縁種

参考種

その他