データ中継衛星(データちゅうけいえいせい)とは、衛星間通信の一形態で低軌道を周回する人工衛星宇宙船と地上局の間の通信を静止軌道上で中継する通信衛星の一種である。

概要 編集

低軌道を周回する人工衛星や宇宙船と地上との通信は、人工衛星や宇宙船を地上局が可視できるわずかな時間のみ可能であるため、通信可能な時間帯と転送可能なデータ量には限界がある[1]。常時通信可能とするためには、地上局を多数配置し、必要に応じて海上に衛星追跡艦を展開する必要があるが、多大なコストを要するほか、国外への地上局の設置には相手国の協力が必要となる。

このため、静止軌道上のデータ中継衛星が考案された。静止軌道からは1機で低軌道の6割を見通すことができるため、低軌道の衛星や宇宙船と地上局の間の通信を静止衛星で中継することで、限られた地上局で通信可能な範囲を拡大することが可能となる。静止軌道上に3機を配置することで低軌道全体が可視範囲となり、軌道公転時間のほとんどで通信が可能である[2]

データ中継衛星には、SバンドKuバンドKaバンドなどのアンテナと衛星間通信機器が搭載されており、第2世代のTDRSでは最大300Mbps、宇宙航空研究開発機構が運用していたデータ中継技術衛星こだまでは、最大240Mbpsで通信を行っている[1]。近年は地球観測衛星は高分解能化、高頻度観測化が進んでおり、データ中継衛星も大容量のデータを地上に転送する必要があるため、第3世代のTDRS、こだま後継機では、Kaバンド高利得アンテナで最大800Mbpsに通信速度が高速化されている。2016年1月に打ち上げられたEDRS(欧州)[3]、2020年11月に打ち上げられた光データ中継衛星(日本)[4]など、新世代のデータ中継衛星には、きらり(日本)、ARTEMIS(欧州)などの試験衛星でテストされた光無線通信が衛星間通信に採用された[5]

火星周回衛星によるデータ中継 編集

2001マーズ・オデッセイマーズ・グローバル・サーベイヤーマーズ・リコネッサンス・オービターなどの火星周回軌道に投入された火星探査機は、マーズ・エクスプロレーション・ローバーなどの火星表面に降り立った着陸機と地球との間の通信を中継している。専用のデータ中継衛星として火星通信衛星が計画されていたが、他のプロジェクトが優先されたため、計画は中止となった。

主なデータ中継衛星 編集

脚注 編集

  1. ^ a b データ中継技術衛星「こだま」(DRTS)”. 宇宙航空研究開発機構 (2012年9月10日). 2014年12月22日閲覧。
  2. ^ 追尾・データ中継衛星「TDRS」Tracking and Data Relay Satellite”. 宇宙航空研究開発機構. 2014年12月22日閲覧。
  3. ^ ESA (2018年3月14日). “欧州EDRSシステム稼働”. https://www.sed.co.jp/contents/news-list/2018/03/0314-1.html 
  4. ^ 三菱重工、H2A打ち上げ データ中継衛星を搭載”. 日本経済新聞 (2020年11月29日). 2020年11月29日閲覧。
  5. ^ 光データ中継衛星の検討状況について” (PDF). 宇宙航空研究開発機構 (2014年9月16日). 2014年12月22日閲覧。

外部リンク 編集