トマ・ピケティThomas Piketty1971年5月7日 - )は、フランス経済学者クリシー出身。経済学博士パリ経済学院 (École d'économie de Paris, EEP) 設立の中心人物、教授。社会科学高等研究院の研究部門代表者。

パリの国立高等師範学校出身。経済的不平等の専門家であり、特に歴史比較の観点からの研究を行っている。2002年フランス最優秀若手経済学者賞 (Prix du meilleur jeune économiste de France) を受賞。

経歴編集

生い立ち編集

トマ・ピケティは、パリ郊外のクリシーに生まれた。両親は、裕福な家庭の出であったが、1968年パリ五月革命に関わり[1]労働運動の闘士として活動し、後には南仏オード県山羊を育てる生活に入った[2]。学校で優秀な生徒であったピケティは、バカロレアをC種で取得し、数学の準備講座をリセ・ルイ=ル=グランで受講した後、1989年に18歳でパリ国立高等師範学校 (ENS)に進学し、経済学への関心を深めた。1991年にパリ経済学校の政治経済分析の共同博士準備資格(DEA)を取得[3]した後、ロジェ・ゲスネリ (Roger Guesnerie) 教授を指導教員として社会科学高等研究院及びロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で学び、22歳で富の再分配の理論研究を博士論文として提出し、経済学の博士号(European Doctoral Programme in Economicsと呼ばれるプログラムの共同学位である)を得た[4]。「富の再分配の理論についての考察 (Essais sur la théorie de la redistribution des richesses)」と題されたこの論文は[5]、フランス経済学会 (l'Association française de sciences économiques) による1993年の最優秀論文賞を与えられた[6]

政治への関与編集

ピケティは社会党に近い立場をとっており、1995年から1997年まで社会党の経済委員会に参加していた[1]。2007年の大統領選挙の際には、セゴレーヌ・ロワイヤルを支持して運動に関わり[7]、経済顧問を務めた。ピケティはまた、ミシェル・ロカールドミニク・ストロス=カーンが設立した組織であるヨーロッパを左に (À gauche, en Europe) の科学政策委員会のメンバーを2003年11月11日から務めた。

2012年4月17日には、他の数多くの経済学者たちとともに、フランソワ・オランドへの支持を『ル・モンド』紙上で表明した[8]。しかし、2015年1月1日にはレジオンドヌール勲章の受勲候補を「だれに名誉を与えるか決めることは政府の役割ではない」「政府はフランスとヨーロッパの経済回復に専念した方がよい」と述べて辞退するなどフランソワ・オランドと距離を置くようになった。[9]

ブレグジット編集

欧州債務危機については反緊縮の立場からギリシャの急進左派連合の支持を表明している[10]

2015年7月、ジェフリー・サックスなど経済学者らと共にアンゲラ・メルケルあてに公開書簡を出した。ドイツなどがギリシャに強いる緊縮財政政策を停止するように求めた[11]。緊縮財政政策によってギリシャ経済が疲弊し、2014年の失業率は約25%、GDPは2008年の水準の約75%まで低下している。1950年代に西ドイツ政府が戦後賠償を軽減してもらったことにも言及し、ドイツがギリシャの債務を減免すべきとピケティらは論じた[11]。ピケティはドイツを厳しく非難し、債務減免の歴史を忘れたドイツが欧州を破壊していると述べた [12]

ピケティに対する識者の意見編集

  • 早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問の野口悠紀雄は「日本において所得分布の不平等化が見られるとしても、それは税制の変更や非正規雇用の増大といった別の要因によって引き起こされたものである」とし、ピケティの主張は欧米を検証したもので日本経済には当てはまらないものであると述べている[13]

2011年の「ウォール街占拠運動」への影響編集

 
エマニュエル・サエズとトマ・ピケティの共著論文のデータによって作成された、アメリカ合衆国における所得上位1%の所得が国民総所得に占める比率の推移を示すグラフ。

ピケティが取り上げた、所得上位層の所得が総所得に占める比率の推移をめぐる研究は、2011年ウォール街を占拠せよ運動に、大きな影響を与えた[14]。この運動の中では、所得最上位層1%の所得が総所得に占める比率の推移など、ピケティたちの研究の成果が広く紹介され、金融界批判の根拠とされた[15]

メディア編集

ピケティは『リベラシオン』紙に定期的に寄稿しており[16]、『ル・モンド』紙にも時おり寄稿している。

著書『21世紀の資本』はアメリカでは2014年春の発売以降、半年で50万部のベストセラーとなっており、多くの言語で翻訳されている[17]

主な著作編集

  • Les hauts revenus en France au XXe, 2001, ISBN 2-246-61651-4(『格差と再分配:20世紀フランスの資本』早川書房、2016年)
  • L'économie des inégalités, collection « Repères », La Découverte, 2004, ISBN 2-7071-4291-3
  • Les hauts revenus face aux modifications des taux marginaux supérieurs de l’impôt sur le revenu en France, 1970-1996, Document de Travail du CEPREMAP, n° 9812, et sous une forme révisée, Économie et Prévision, 1999
  • Fiscalité et redistribution sociale dans la France du XXe, 2001
  • Inégalités économiques, Rapport du Conseil d'analyse économique, 2001, de Tony Atkinson, Michel Godet, Lucile Olier et Thomas Piketty.
  • Pour un nouveau système de retraite : Des comptes individuels de cotisations financés par répartition, Éditions Rue d'Ulm/CEPREMAP, 2008, avec Antoine Bozio.
  • Pour une révolution fiscale, janvier 2011, La République des idées/Seuil, avec Camille Landais et Emmanuel Saez, 9782021039412 avec le site associé
  • Peut-on sauver l'Europe ? Chroniques 2004-2012, Les Liens qui Libèrent, 2012.(『トマ・ピケティの新・資本論』日経BP、2015年)
  • Le Capital au XXIe siècle, Seuil, 2013(『21世紀の資本みすず書房、2014年)
  • VIVEMENT LE SOCIALISME ! chroniques 2016-2020, Seuil, 2020(『来たれ、新たな社会主義 世界を読む2016-2021』みすず書房、2022年)

出典・脚注編集

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注釈編集

出典編集

  1. ^ a b Virginie Malingre, « L'économiste Thomas Piketty rouvre le débat sur les baisses d'impôts », Le Monde, 7 septembre 2001, p.5.
  2. ^ « Mai 68 : la parole aux enfants », Le Journal du dimanche, 6 avril 2008 ; mis à jour le 1er novembre 2009.
  3. ^ Wikiwix's cache”. archive.wikiwix.com. 2019年6月21日閲覧。
  4. ^ Thomas Piketty CV
  5. ^ Curriculum vitæ de T. Piketty
  6. ^ « Thomas Piketty », Alternatives économiques poche, 21, novembre 2005.
  7. ^ « Avant qu’il ne soit trop tard », Le Nouvel Observateur, 27 février 2007 ; modifié le 13 mars 2007.
  8. ^ Nous, économistes, soutenons François Hollande sur lemonde.fr
  9. ^ [1], AFP通信2015年1月2日「仏経済学者ピケティ氏、最高勲章候補を辞退 現政権批判で」(2015年1月2日閲覧)
  10. ^ ピケティ氏が反緊縮派支持=「21世紀の資本」著者-ギリシャ総選挙 時事ドットコム 2015年1月27日付.
  11. ^ a b Austerity has failed: An open letter from Thomas Piketty to Angela MerkelT. Piketty et al, The Nation, Europe, 7 July 2015
  12. ^ German conservatives are destroying Europe with austerity, says economits Thomas PikettyJ. Stone, The Independent, World, 6 July 2015
  13. ^ ピケティの主張は欧米に対して検証したもので日本経済には当てはまらないダイヤモンド・オンライン 2015年2月5日
  14. ^ 安達誠司「講座:ビジネスに役立つ世界経済」 【第76回】 日本でピケティブームが起きている理由を考える現代ビジネス 2015年2月6日
  15. ^ “編集委員が迫る 仏社会科学高等研究院教授 トマ・ピケティ氏”. 読売新聞(東京朝刊): p. 13. (2012年5月12日) 
  16. ^ 【オピニオン】「21世紀の資本論」ピケティ氏は急進的なのかWSJ日本版 2014年5月26日
  17. ^ 格差論争 ピケティ教授が語るNHK NEWS WEB 2014年10月17日(2014年10月17日時点のインターネットアーカイブ

参考文献編集

外部リンク編集