トルクレンチ
トルクレンチ (torque wrench) とは、所定のトルクでねじを締め付けるための作業用工具と、締め付けられたねじのトルクを測定するための測定用工具に使用されるレンチ状の形をしたものの総称である。
概要編集
トルクレンチは、機械が使われている現場[1]での組付けやメンテナンスに幅広く用いられているトルク機器である。ねじ部品には設計段階から軸力が設定されているが、軸力を測定するには高価な測定器や設備が必要となることから、代わりにトルクによる締め付け管理が行われている。トルクレンチの使用により、締め付け不足による緩みや、締め過ぎによる破損、あるいは締め付け作業の個人差による製品品質のばらつきを防ぐことができる。
なお、日本国内では計量法によりSI単位以外のトルクレンチ(二重目盛含む)を販売することは原則として禁じられている[2]。
種類編集
トルクレンチは、形状・構造によってシグナル式トルクレンチと直読式トルクレンチに分けることができる。また、シグナル式トルクレンチの機能を有しながら、センサを搭載しトルク値が表示される複合型のトルクレンチもある。
シグナル式トルクレンチ編集
シグナル式トルクレンチは、あらかじめ締め付けたいトルクを設定しておき、カチンという感触と音で締め付けトルクに達したことが分かるトルクレンチである。右(時計回り)専用のものもあれば、左右どちらでも使用できるものもある。左右どちらでも使用できるものを指して、「両振り」と呼ぶことがある。業界によってはシグナル式トルクレンチ全般を指して「QLレンチ」と呼ぶところがある。[要出典]
- プリセット形
- 本体の目盛によって設定トルクを変更できる。設定トルクの変更は、グリップエンドを回して内部のばねの圧縮力を変えて行う。このため、保管時には設定トルクのままとせず、目盛りを最低値まで戻してばねの「へたり」を抑えることで、短期間での狂いを防ぐことができる。
- 単能形
- 本体に目盛は無く、トルクを設定するにはトルクレンチテスター等が必要となる。プリセット形に比べて安価なため、工場の生産ラインで盛んに用いられる。メーカーでトルクを設定して出荷することもある[3]。
直読式トルクレンチ編集
直読式トルクレンチは、負荷されているトルクを目盛にて読み取ることができる。作業部位や作業姿勢によっては、作業者の位置から目盛りが正確に読み取れないこともあり、その場合は目盛りを読む者が別に必要になる。ただし、トルクを掛けた最大値の表示が保持できる「ピークホールド機構」を持つものは、作業者が作業を中断してもその時点の値が表示されているため、その欠点を補っている。左右どちらでも計測できるものがほとんどである。
- プレート形
- 梁(ビーム)のたわみによってトルクを検出し、本体の目盛を読み取る。業界によってはプレート形直読式トルクレンチを指して「FLレンチ」と呼ぶところがある。[要出典]構造が単純なため、安価で壊れにくい特徴がある。
- ダイヤル形
- 円柱のねじれ角によってトルクを検出し、本体のダイヤル形目盛を読み取る。
- デジタル形
用途編集
トルクレンチの用途は、ねじを定められたトルクで締め付ける作業と、締め付けられたねじの締め付けトルクを検査目的で測定する作業に大別することができる。
作業用途編集
ねじを所定のトルクで締め付けるためのトルクレンチを作業用トルクレンチという。これには普通シグナル式トルクレンチを用いるが、シグナル式トルクレンチの場合、設定したトルクに達したか否かのみしか判断することができない。そこで、工場等では直読式トルクレンチを用いて締め付けを行うところもあり、中にはデジタル形のものを用いて、締め付けトルクを記録しているところもある。締め付けトルクを測定する必要のあるものとして、ガラスによるライニング加工をされた配管や、フレア加工された配管など、締め付けトルクが大きすぎる事による不具合が発生するものがあげられる。
測定用途編集
すでに締め付けられたねじのトルクを測定したりするトルクレンチを測定用トルクレンチという。直読式トルクレンチを用いて、増し締め検査を行う場合がほとんどである。トルクレンチを「てこ」のように使用して、トルク以外の力量を測定する場合もある。
取扱い編集
トルクレンチは使用される場所の性質上、乱雑に扱われる場合がある。使用している者が気づかないうちに、トルクレンチの精度が狂ってしまうと、いくらトルクレンチを使用して締め付けを行っても無意味である。使用後の保管にも注意を要する。また、定期的にトルクレンチの点検・校正を行うことも、精度を維持する上では欠かせない。
トルクレンチには使用トルクの範囲が定められており、使用トルクを超えて使用すると破損につながる。また、右専用のものを左方向へ緩めるために使用すると、精度に悪影響があるとされるが、少なくとも全ての製品に適用されるものではなく、製造企業による使い方の説明に「測定できない」とのみ書かれたもの[4]もある。
主なメーカー編集
- TONE(トネ) - 日本
- ゲドーレ(GEDORE) - ドイツ
- 信濃機販(SI) - 日本
- 京都機械工具(KTC) - 日本
- シーディーアイ(CDI) - アメリカ,(Snap-onグループ)
- スタビレー(STAHLWILLE) - ドイツ
- スナップオン(Snap-on) - アメリカ
- 東日製作所(TOHNICHI) - 日本
- トルクリーダー(Toruqueleader) - イギリス
- 中村製作所(KANON) - 日本
- ノーバー(Norbar) - イギリス
- ハゼット(HAZET) - ドイツ
- ブリツール(BRITOOL) - イギリス
- リッチモント(Sturtevant Richmont) - アメリカ
- プロクソン(PROXXON) - ドイツ
- アドレック(Adrec) - 日本
脚注編集
- ^ 自動車であれば、自動車メーカーの生産ラインや完成検査ライン、PDIセンター、自動車ディーラー、町の自動車整備工場、カー用品店など。
- ^ 東日製作所・よくある質問
- ^ 東日製作所・よくある質問
- ^ 東日製作所・よくある質問
参考文献編集
- 技能士の友編集部 技能ブックス(19)『作業工具のツカイカタ』84頁から87頁、2002年8月25日13版発行。株式会社大河出版
- 全国作業工具工業組合「正しい作業工具の使い方」10.手動式トルクレンチ