ドクダミ(蕺草、学名: Houttuynia cordata)はドクダミ科ドクダミ属多年草の1種である。ドクダミ属 (Houttuynia) は、本種のみを含む単型属である。湿った陰地に群生し、全体に特有の臭気がある。葉は心形、萼片花弁を欠く小さなが密集し、その基部に白い花びらのような総苞片が4枚つくため、花の集まり (花序) が1個の花のように見える (右図)。東アジアから東南アジアに分布しており、日本では北海道南部から九州で見られる。

ドクダミ
Houttuynia cordata Pstrolistka sercowata 2009-07-11 01.jpg
ドクダミ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : モクレン類 Magnoliids
: コショウ目 Piperales
: ドクダミ科 Saururaceae
: ドクダミ属 Houttuynia
: ドクダミ H. cordata
学名
Houttuynia cordata Thunb.1783[1]
シノニム
和名
ドクダミ (蕺[2]、蕺草[3]、蕺菜[4]、度久太美[5]、止久陀三[6])、シブキ (蕺[2]、之布岐[7])、ドクダメ (毒溜め、蕺[2]、蕺草[3])、ギョセイソウ (魚腥草)[8]、ジゴクソバ (地獄傍[9]、地獄蕎麦[要出典])、ウマゼリ (馬芹)[10]、イシャゴロシ (医者殺)[11]、ママオヤ (継親)[12]、イヌノヘ (犬屁)[13]、キツネノカライモ (狐唐芋)[14]、ウマクワズ (馬不食)[15]、ゴゼナ (瞽女菜)[16]、イモグサ (芋草)[17]、ホトケグサ (仏草)[18]、ヘビクサ (蛇草)[19]、ニュウドウグサ (入道草)[20]、ハッチョウグサ[21]、ジュウヤク (十薬[22]、蕺薬[23]、重薬[24])
英名
fish mint[25], fish plant[25], Vietnamese fish plant[25], fishwort[25], chameleon[26], chameleon plant[25], heartleaf[25], heart-leaved houttuynia[1], heartleaf houttuynia[25], houttuynia[26], edible houttuynia[25], wild houttuynia[25], white chaplu[25]

名に「ドク」とあるが、ドクダミは無毒である。雑草として身近な植物であるが、古くから民間薬として利用され、効用が多いことから生薬としては十薬じゅうやくとよばれる。薬用の他にどくだみ茶や食用、園芸用などに利用されることもある。別名が多く、ドクダメ、ギョセイソウ、ジゴクソバ、ウマゼリなどがある (右和名欄参照)。

特徴編集

多年生草本であり、全草にアルデヒド由来の特有の臭気がある[27][28][29][30][31]。地下に細長く白い地下茎が横に伸び、盛んに分枝している[27][28][30][32]。地下茎の節から不定根が輪生している[33]。草丈は20–60センチメートル (cm) になり、地上は紫色を帯びて斜上・直立し、無毛または有毛、まばらに互生する[27][28][30][34][35] (下図1a, b)。葉身は心形で全縁、先端が尖り、長さ 3–10 cm、腺点をもち、光沢のない暗緑色で特に裏面は紫色を帯びる[27][28][30][35][36] (下図1)。葉脈は掌状、5–7本[28] (下図1c)。葉柄は長さ1–3.5 cm、無毛[28]托葉は膜質で鈍頭、長さ 1–2.5 cm、葉柄の基部につき、鞘状に茎を抱き、はじめは新を包んでいる[27][28][30]

1a. 茎と葉、花
1b. 茎と葉、花
1c. 葉

花期は初夏から夏 (5–8月)[35]。茎頂または茎の上部の葉腋から長さ 1–5 cm の花序柄を伸ばし、その先に小さなが密集して長さ 1–3 cm の穂状花序をつける (花は下から順に咲く)[27][28][30][35] (上図1a, b,下図2a, b)。花序の基部には長楕円形から倒卵形、長さ 1–2 cm の白い総苞片[注 1]が4枚が十字状 (まれに5、6、7枚) についている (これが"花びら"のように見えるため、花序全体が1個の花のように見える; 下図2a, b)[27][28][30]。この総苞はつぼみのときに花序全体を包んでいる[28]。各花の基部には小さな線形の苞 (小苞) があるが、園芸品の中にはこの苞が総苞片と同様に白く大型化しているものもある[27][28] (ヤエドクダミ; 下図2c)。個々の花は花被 (花弁萼片) を欠き、雌しべ雄しべからなる[27][28][31]。雄しべは3–8個、葯は黄色、花糸は細長く基部で雌しべの子房に合着している[27][28][36]。雌しべは3または4個の心皮からなり、子房上位、1室で側膜胎座、各胎座に6–8個の胚珠がつく[27][36]。雌しべの花柱は3または4個、白色、反曲する[27]

2a. 花 (花序)
2b. 花 (花序)
2c. "八重咲き": 各花の苞 (小苞) が大型化した変異体

果実さく果、亜球形、長さ 2–3 mm、花柱は宿存性で花柱間で裂開する[27][28]種子は卵形、長さ約 0.5 mm、褐色[27][28]。日本のドクダミは有性生殖を行わず、胚珠が無性的に種子になる (無融合種子形成) と考えられている[28][40]。また地下茎の分断化などによる栄養繁殖も頻繁に行う[31][32]染色体数に変異が大きく、2n = 24, 52–56, 72, 80, 96, 100–104, 112, 128 などが報告されている[41]。日本に多いドクダミ (2n = 96) は3倍体とされることもあるが[40]、これら染色体数からは12倍体であるともされる (染色体基本数 x = 8)[41]

分布・生態編集

 
3. ドクダミの群落

日本韓国中国 (中部から南部)、ヒマラヤバングラデシュ台湾インドシナ半島に分布する[1]。また北米やヨーロッパの一部に侵入している[1][26]。日本では北海道南部、本州四国九州小笠原諸島から報告されている[1][34][35][42]。北海道のものは、本州からの移入によるものとされる[43]

湿り気のある半日陰地を好み、住宅周辺の空き地道端によく群生している[30][34][31] (右図3)。

繁殖力が高く、ちぎれた地下茎からでも繁殖するため、放置すると一面ドクダミだらけになり、他の雑草が生えなくなる。強い臭気があることと、地下茎を伸ばしてはびこるため、難防除雑草である[31][32]

人間との関わり編集

日本では雑草として身近な存在であるが、古くから民間薬として利用され、ゲンノショウコセンブリとともに日本の三大民間薬の1つとされる[31]。どくだみ茶やハーブ、野菜として利用されることもあり、このような需要のため商業的に栽培される[44]。また観賞用としても栽培されることもあり、欧米でも東洋のハーブとして人気がある[31][34]

薬用編集

ジュウヤク
 
十薬
生薬・ハーブ
効能 瀉下薬
原料 ドクダミ(地上部)
成分 クエルシトリン (ケルセチンの配糖体)
デカノイルアセトアルデヒド (C16947)
カリウム
臨床データ
法的規制
投与方法 経口(湯液
識別
KEGG E00113 D06742
別名 十薬
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ドクダミは、内服薬として、胃腸病食あたり下痢便秘利尿などに利用され、外用薬としても腫れ物吹き出物皮膚病などの排膿や毒下しに用いられる[32]

生薬として、開花期の地上部の茎葉を陰干し乾燥させたものは、中国の生薬名で魚腥草 (ぎょせいそう)、日本では十薬 (じゅうやく、重薬や蕺薬とも書く) と称され流通しており[21]日本薬局方にも収録されている。内服薬としても外用薬としても用いられる[30]。十薬の煎液には利尿作用、緩下、高血圧動脈硬化の予防作用などがあり[29]、特に高血圧・動脈硬化予防には必ず花のあるものを選んで採取する[30]。民間では、花つきの乾燥した全草5–20グラムを水500–600 ccで半量になるまでとろ火で煎じ、お茶代わりに3回に分けて服用する用法が知られる[29][30]。茎葉を日干しすることによって、特有の臭気は無くなる[29]。患部の余計な熱を取る薬草で、便秘や熱感を持っている、赤く腫れて熱を持っているむくみおでき、黄色い鼻汁が出る蓄膿症のときにもよいと言われている[21]。ただし、妊婦への服用は禁忌とされる[21]。また、湿疹かぶれニキビ水虫しらくもなどには、生葉をすり潰したものを貼り付けるとよく、蓄膿症、慢性鼻炎膣炎に生葉汁を挿入する[29][30]あせもには、布袋に入れて浴湯料として、風呂に入れる[30]

漢方では解毒剤として用いられ、魚腥草桔梗湯 (ぎょせいそうききょうとう)、五物解毒散 (ごもつげどくさん) などに処方される[要出典]。しかし、ドクダミ (魚腥草、十薬) は単独で用いることが多く、漢方方剤として他の生薬とともに用いることはあまりない。

薬理成分編集

生の地上部の茎葉の特異な臭気は、デカノイルアセトアルデヒドという物質に由来し、これには制菌作用がある[29]。花にはイソクエルセチン、茎葉にはクエルセチンカリウム塩が含まれている[29]

  • デカノイルアセトアルデヒド - 生のドクダミに特有の臭気成分であり、フィトンチッド (植物が放出する抗微生物物質) の1種である。抗菌性があり、白癬菌 (菌類) やブドウ球菌 (細菌) も殺す作用がある[45]。乾燥させると酸化されて抗菌効果は失われる。
  • ラウリルアルデヒド - デカノイルアセトアルデヒドと同様にドクダミ特有の臭気成分で、抗菌作用がある。
  • クエルシトリン - 利尿作用、動脈硬化の予防作用[要出典]
  • クエルセチン - 毛細血管を丈夫にする作用、利尿作用[29]
  • カリウム塩 - 利尿作用、動脈硬化の予防作用[29]

副作用編集

ドクダミ茶の飲用による副作用として、以下のものが報告されている。

食用編集

ドクダミのは、加熱することで臭気が和らぐことから、日本では山菜として天ぷらなどにして賞味されることがある[29]。日本において料理用のハーブとして用いられることはないが、葉を乾燥させて茶外茶としてどくだみ茶を製造することがある。これは一種のハーブティとして商品化もされている (下図4a)。ドクダミはフラボノイドなどを含むことから、爽健美茶の原料の一つとしても使われている[49]

4a. どくだみ茶 (左上)
4b. ドクダミを含むハーブ (ベトナム)
4c. 市場でのドクダミ (魚腥草) の地下茎 (右) (香港)
4d. ドクダミ地下茎の料理 (中国貴州省)

ベトナム料理では、とりわけ魚料理には欠かせない香草として生食される[45][50] (上図4b)。ただし、ベトナムのものは日本に自生している個体群ほど臭気はきつくないとも言われている[要出典]

中国西南部では「折耳根 (ぢゅーあーぐぅん、拼音: zhé’ěrgēn)」と称し、四川省雲南省では主に葉や茎を、貴州省では主に地下茎 (根茎) を野菜として用いる[要出典] (上図4c, d)。地下茎は少し水で晒して、トウガラシなどで辛い味付けの和え物にする。地下茎にはデンプンが蓄積されるため、日本でも食糧難の時代に地下茎を茹でて食料としていたという[36]

栽培編集

4a. ヤエドクダミ
4b. ‘カメレオン’

上記のように、ドクダミは薬用や食用に広く利用されているため、商業的な栽培も行われている。日本特産農産物協会によると、日本での栽培面積は、国産薬用植物の需要増加を背景に、2016年産までの200アール未満から2018年は666アールへと急増。兵庫県 (253アール) と徳島県 (250アール) が二大産地である[44]

ドクダミを農作物として栽培する場合、定植直後に小まめに手作業で雑草を取り除いて密植して定着させれば、他の雑草が生えにくくなる[44]

ドクダミは園芸用にも栽培されており、またさまざまな園芸品種がある[51]。各花の苞葉総苞片と同様に大型化したものは (上記参照)、ヤエドクダミ (Houttuynia cordata f. plena (Makino) Okuyama) (右図4a)、葉に白とピンク色などの斑が入ったものはフイリドクダミ (Houttuynia cordata f. variegata (Makino) Sugimoto) とよばれる[28]斑入りにはさまざまなものがあり、五色ドクダミ (‘カメレオン’、‘トリカラー’; 右図4b) や錦ドクダミ (白色部が多い)、‘フレーム’ (覆輪模様)、‘ジョーカーズ・ゴールド’ (明黄色の斑入り) などがある[51]

名称編集

和名である「ドクダミ」の名は、民間薬として毒下しの薬効が顕著であるため、毒を抑えることを意味する「毒を矯(た)める」から、「毒矯め (ドクダメ)」が転訛して「毒矯み (ドクダミ)」と呼ばれるようになったというのが通説である[32][31]。異説として、「毒痛み」の意味で毒や痛みに効くことから名付けられたという説[29][34]、群落地に漂う特有の臭気から毒気が溜まった場所を意味する「毒溜め (ドクダメ)」、あるいは植物自体が毒を溜めていると解されたものが転じてドクダミとよばれるようになったとする説もある[32]。ただし、あくまでこの植物が毒をもつというのは誤った解釈であり、ドクダミ自体に毒はない[52]

古くは、「之布岐 (シブキ)」と呼ばれていた[32][53]。ほかに様々な地方名があり、「ドクダン」[21]、「ドクダメ」[31]、「ハッチョウグサ」[21]などともよばれ、日本全国の方言名は160余りを数えるといわれている[32]。各地の地方名は、薬効や生態に関するものを由来とする呼び名はわずかで、多くはこの植物特有の臭気に関するもの、あるいはこの植物をあたかも有毒植物であるかのように表現したものである[32]。旧陸奥国(特に青森県下北郡三戸郡八戸市秋田県鹿角郡北秋田郡岩手県盛岡市紫波郡福島県会津)、旧常陸国(現茨城県)、栃木県、旧武蔵国千葉県東葛飾郡山武郡印旛郡)では「ジゴクソバ」[10]大分県大分郡では「ウマゼリ[10]とよばれてきた。

中国植物名 (漢名) は、「蕺菜 (しゅうさい/じゅうさい)」[21][32]である。日本での生薬名である「十薬 (じゅうやく)」は、民間薬として用途が広く、応用範囲が10を数えるというところから、漢名の蕺菜の蕺の字を十に読み換えものだとされている[32]。別の漢名である「魚腥草」(腥の意味は「生臭い」)、ベトナム名の「ザウザプカー」または「ザウジエプカー」(ベトナム語rau giấp cá/ rau diếp cá、意味は「魚の野菜の葉」)、英名の「フィッシュミント」(fish mint)、「フィッシュハーブ」(fish herb)、「フィッシュウワート」(fishwort) など、魚の匂いにまつわる名称も多い[53]。英名にはこのほか、「カメレオンプラント」(chameleon plant:「カメレオンの植物」の意)、「ハートリーフ」(heartleaf:「心臓形の葉」の意) や、「ビショップズ・ウィード」(bishop's weed:「司教雑草」の意) という表現もある[53]

花言葉は、「白い追憶」である[35]

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ ただしこの構造は厳密な意味では総苞片ではないとする意見もある[37]。また花序の総苞片ではなく、花序の最下の花の苞 (小苞) または花被であるとする解釈もある[28][38][39]

出典編集

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参考文献編集

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  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、77頁。ISBN 4-416-49618-4
  • 深津正『植物和名の語源探究』八坂書房、2000年4月25日、107 - 112頁。ISBN 4-89694-452-6
  • 船山信次「ドクダミ」『毒草・薬草事典』SBクリエイティブ、2012年、100–101。ISBN 978-4797342697

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