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Belle検出器の中央ドリフトチェンバー。国立科学博物館の展示。

ドリフトチェンバー(英: Drift Chamber )とは、主に素粒子・原子核物理実験で用いられる位置検出器である。

構造および原理編集

ドリフトチェンバーは、ガスを封じ込めるための箱(チェンバー)の中に多数のワイヤーを張った構造をしている。

多くの場合、ガスは単原子分子である希ガス(ヘリウム、アルゴン、ごくまれにキセノン)を主として、多原子分子のエタン、メタン等を混合したものが用いられる。 荷電粒子がガスを通り抜ける際に、希ガスの分子が電離されプラスイオンと電子に分かれる。

ワイヤーは陽極と陰極に分かれており、ある区間(セルと呼ばれる)で電場勾配が生じており、電子は陽極、プラスイオンは陰極へと移動(ドリフト)していく。 陽極近くでは急激に電場勾配が強くなり、ドリフトした電子が他の分子を電離させる。 電離された電子がさらに他の分子を電離される、ということを繰り返すことによって指数関数的に電子が増幅される(雪崩現象)。 陽極に達した多数の電子がワイヤーで電荷を誘起することにより、陽極に電機パルスとしてのシグナルが生じる。

陽極近辺で急な電場勾配が要求されることから、使用されるワイヤーは10~20μmの直径のものが一般に使用される。 この細さで十分な強度が得られるものとして、レニウムを混ぜたタングステンワイヤーが使用されている。

陰極を作るワイヤーは、100μm程度の直径のものが使用されている。 こちらの材料は、アルミ、もしくはベリリウムと銅の合金が一般的である。

誘起された電荷は、1 pC 弱と微小であるので、ロスをしないように、陽極・陰極のワイヤーともに金メッキが施され抵抗値を低くしている。

電子のドリフト速度は、ガスの種類・圧力によっても異なるが およそ 5cm/μs 程度である。 したがって、シグナルを検出するワイヤー(陽極)からセルの境界までが 1cmの場合、電子が到達するまでの時間は最大 200 ns 程度になる。 荷電粒子がワイヤーの近くを通過すれば電子が到達するまでの時間は短くなり、遠くを通過すれば時間がかかる。 この時間がどのくらいかにより、セル内で荷電粒子が陽極からどのくらい離れたかを測定する。

実際の実験では、ドリフトチェンバーよりも時間分解能のよい検出器が置かれており、ドリフト時間のスタート時刻(タイム・ゼロと呼ばれる)を決定している。 素粒子・原子核実験で荷電粒子の飛行時間を測定する装置は、オーダーとして 100ps に達するプラスティック・シンチレータを用いられるので、これらでタイムゼロを決定する。

ドリフトチェンバーは、小型のものから大型のものまで様々なものが実験にあわせて設計され作成されている。 大きなものでは、高エネルギー加速器研究機構で過去に行われたTRISTAN実験用のドリフトチェンバーは、直径が3メートル。長さは10メートルであった。 LHC実験用のドリフトチェンバーは、直径が6メートル。長さは、15メートルにも達する。


関連項目編集