ドルビーアトモス

オブジェクトオーディオに基づくサラウンド音声規格

ドルビーアトモス(Dolby Atmos)とは、ドルビーラボラトリーズ(Dolby Laboratories, Inc.)が開発したオブジェクトオーディオに基づくサラウンド記録再生方式である。オブジェクトオーディオでは、予めチャンネル毎に割り付けられた音声トラックを用意するのではなく、音声トラックを位置情報と組み合わせたオブジェクトとして扱い、スピーカーの出力を音声の位置情報を元にリアルタイム演算して求める方式に変化している。従って、これまでよりも自由なスピーカー配置が実現できると共に、正確な定位感を実現することも可能になる。また、従来のドルビー規格もドルビーアトモスのシステムで処理することが可能で、サラウンド効果をより良く引き出すことが出来るようになる。従って、ドルビープロロジックⅡzなどのチャンネル拡張技術を置き換える技術としても機能する。2012年に発表された『メリダとおそろしの森』は「ドルビーアトモス」を初めて導入した作品となった。2012年6月にロサンゼルスにある世界最高峰の劇場であるドルビー・シアターに設置され、メリダとおそろしの森のワールドプレミア上映で初披露した。

ドルビーアトモスのロゴ

再生環境毎に分けられた規格編集

ハイエンドからローエンドまで様々なデバイス向けに規格が用意されている。映画館用の規格は、従来の制作時にミキシングを行う方式ではなく、ミキシング前の三次元位置情報(パン情報)が含まれたマルチトラック(128本)を再生側でミックスして出力する方式である。アクースモニウムと同様に再生環境に多くのスピーカーを配置する。家庭用の規格は利用環境に制約が多い事を考慮して、映画館用の規格のサブセットとして仕様が簡略化されている。例えば、スピーカーの本数の上限が少なかったり、音声が完全にオブジェクト化されていなかったりする。家庭用のハイエンドであるホームシアター規格は機材の高価格や住環境の制約から広範な普及には至っていないが、ヘッドホン規格はWindows 10やスマートフォンにも広く搭載されるなど、用途の幅を拡げ、2021年5月に発売されたiMacも対応するに至った。特に、各家庭で人気となったゲームやVRやARなどの体験型デジタルコンテンツは元々オブジェクトベースで音声を演算しているため親和性が高く、ドルビーアトモスの採用も積極的に進められている最中にある。

後方互換編集

ドルビーアトモスの規格で作成されたコンテンツであれば最高のサラウンド効果を得られるが、7.1ch,5.1ch,2chなどの従来型の音声規格であっても、従来の規格通りに再生するより高いサラウンド効果が得られるように設計されている。つまりは単なる新規格であるだけでなく、ドルビーの過去のサラウンド規格や最も普及しているステレオ音声規格もチャンネル拡張により改善して利活用できる規格である。こうした複数のサラウンド規格をオブジェクトオーディオで統合して扱うデジタル信号処理は、2000年代までであれば消費者にとってはサラウンドへの理解が追いついていないことや、発展途上の半導体技術の問題で高価なハードウェアが必要になるため商業展開自体が難しかったが、2010年代にはコストダウンが進んでシネコンで当たり前に見られるようになった他、2,000円程度の安価なプラグインを購入すれば、PCスマートフォンにおけるソフトウェア処理で簡易版を実行することも可能になった。そしてあらゆるステレオ音声から気軽にサラウンド体験が得られるようになった。

技術編集

Dolby Atmos for Theater
劇場の広さと設備に応じ最大128個の音響素材を元にリアルタイムレンダリングを実施し、最大64chのスピーカー音響となる。ドルビーアトモスは既存のサラウンドとは異なり、3次元空間を独立した動きのあるサウンド(またはオブジェクト)を、よりクリアでより正確に配置することが可能(音声情報として128個のトラックがあり、それぞれに三次元空間をパンできる位置情報が含まれている。それを再生環境側で合成して、適切なスピーカーへ出力している。)。
Dolby Atmos for Home
従来のチャンネルベース(5.1ch,7.1ch)のミキシング方式と、オブジェクトベースのダイナミックなオーディオミキシングを組み合わせ、精密な音の定位や移動を表現できることが特徴。スピーカーの配置は5.1.2ch(5.1chにオーバーヘッド(天井)又はトップスピーカー:OHSP×2ch),5.1.4ch,7.1.2ch,7.1.4ch,9.1.6chまで可能。(出力されるスピーカーの数はAVアンプ側による。)また天井スピーカーの設置が困難な環境の場合、「ドルビーイネーブルドスピーカー」(ユニットが斜め上の天井を向いたスピーカー)を既存の5.1chのフロントスピーカーの上に設置することで、ユニットから天井に向けて音を出し、反射させることで天井から聴こえるようにする事が可能。
規格媒体はBlu-ray Disc, Ultra HD Blu-ray, Kindle Fire HD, Windows10, Xbox One, Xbox Series X/S, Netflix, Apple TV+, Amazonプライム・ビデオ, Disney+であり、ドルビーTrueHDまたはドルビーデジタルプラスの拡張規格として記録が可能。ドルビーアトモス非対応の再生機器ではドルビーアトモスの拡張機能は無視され、基本部分のドルビーTrueHD(7.1ch)、ドルビーデジタルプラス(7.1ch)、ドルビーデジタル(5.1ch, 2ch)のみが再生される。
Dolby Atmos for Headphone
据え置き型スピーカーを利用出来ない環境のための規格である。PCやスマートフォンなどを主な対象としている(利用にはOS及びアプリケーションが対応している必要がある。)。また、対応したAVアンプでも利用できる。FPSで用いると高精度な音の定位により敵の位置検出が高速化できるため、ゲーマーが多用するサラウンド規格にもなっている。
Dolby Atmos Height Virtualizer
ハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを設置していない2.0chステレオや3.1ch、および5.1ch、7.1chなどの環境のための規格である。ハイトスピーカーやサラウンドスピーカーを追加しなくても高さ方向を含むあらゆる方向からのサウンドに包み込まれる立体音響を実現可能。
Dolby Head Tracking
ヘッドホンやイヤホンに内蔵されている加速度センサーを利用して頭を動かす際に音の方向を特定し、映像コンテンツ視聴時に没入感のあるサウンドを実現可能。

ドルビーアトモスが導入されている劇場編集

国内
  • イオンシネマ
    • イオンシネマ幕張新都心
    • イオンシネマ名古屋茶屋
    • イオンシネマ京都桂川
    • イオンシネマ和歌山
    • イオンシネマ岡山
    • イオンシネマ新利府
    • イオンシネマ白山
    • イオンシネマシアタス心斎橋
  • シネマサンシャイン
    • シネマサンシャイン平和島
    • グランドシネマサンシャイン
    • シネマサンシャイン下関
  • 中日本興業
    • ミッドランドスクエアシネマ(2019年12月20日開業) - DOLBY CINEMA導入劇場
    • ミッドランドスクエアシネマ2(2016年7月15日開業)
  • スターシアターズ
    • シネマQ
    • シネマライカム

ドルビーアトモスが搭載されたAV機器編集

4K・8Kテレビ
AVアンプ
サウンドバー・ホームシアターシステム
スマートスピーカー
ヘッドフォン・イヤフォン
  • アップル
  • サムスン電子
    • Galaxy Buds Pro(Dolby Head Tracking搭載・One UI 3.1以上を搭載したGalaxyスマートフォン及びGalaxy Tabシリーズのみ対応)

ドルビーアトモスが搭載されたスマートフォン編集

ファーウェイ
サムスン電子
ソニー(旧ソニーモバイルコミュニケーションズ)[2]
Apple
OPPO
FCNT(旧富士通コネクテッドテクノロジーズ)[3]
シャープ

ドルビーアトモスが導入されたスタジオ編集

国内

ドルビーアトモスが導入された動画配信サービス編集

ドルビーアトモスが導入された音楽配信サービス編集

ドルビーアトモスが採用された作品編集

洋画
邦画
海外TV
国内TV
海外ストリーミング配信
国内ストリーミング配信
コンピュータゲーム
音楽作品

脚注編集

  1. ^ アップル、AirPods Proで“空間オーディオ”。頭を動かしてもサラウンド空間維持” (日本語). -AV Watch. 2020年6月23日閲覧。
  2. ^ ソニー・ピクチャーズエンタテインメントおよびソニー・ミュージックエンタテインメントとの共同チューニングが施されている
  3. ^ かつて2017年発売のarrows NX F-01KまではDolby Audioが搭載されていた
  4. ^ “Dolby Cinema™(ドルビーシネマ)版『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』11/13(金)より、公開決定のお知らせ”. 『劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』公式サイト. http://www.violet-evergarden.jp/sidestory/ 2021年6月6日閲覧。 
  5. ^ 「平成ガメラ」3部作、4K HDRでUHD BD化。ドルビーシネマ上映も” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  6. ^ 「AKIRA」ドルビーシネマで上映。12月4日から” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  7. ^ 「ガメラ2 レギオン襲来」ドルビーシネマで3月公開” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  8. ^ 「鬼滅の刃 無限列車編」ドルビーシネマ版、3月27日公開” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  9. ^ シリーズ史上初!『名探偵コナン 緋色の弾丸』IMAX・MX4D・4DX・DOLBY CINEMA同時公開決定” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  10. ^ 「ガメラ3 邪神<イリス>覚醒」4K HDR版、ドルビーシネマで4月16日先行上映” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  11. ^ 映画『ザ・ファブル 殺さない殺し屋』公式@the_fable_movieのツイート” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  12. ^ 『シン・エヴァンゲリオン劇場版』、新バージョンが6/12公開。ドルビーシネマ上映も決定” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  13. ^ ジブリ初のフル3DCGアニメーション「アーヤと魔女」4月に劇場公開” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  14. ^ 『竜とそばかすの姫』細田守最新作@スタジオ地図公式@studio_chizuのツイート” (日本語). 2021年10月16日閲覧。
  15. ^ ドルビーアトモス上映 決定!” (日本語). 2021年11月8日閲覧。
  16. ^ 『ファイナルファンタジーXV』サウンド制作事例に見る ゲームのサウンドは映画に迫れる!? オーソリティーが問題点を解説【CEDEC 2017】”. ファミ通.com (2017年9月3日). 2017年8月21日閲覧。
  17. ^ a b 日本での発売元はスパイク・チュンソフト
  18. ^ 『バイオハザード RE:2』はいかに“恐怖を奏でた”か? サウンドチーム&プロデューサーに聞く”. Real Sound (2019年1月25日). 2019年1月30日閲覧。

関連項目編集