ナガバノスミレサイシン

スミレ科の種

ナガバノスミレサイシン(長葉の菫細辛、学名Viola bissetii Maxim.[1])は、スミレ科スミレ属分類される多年草[4][5][6]

ナガバノスミレサイシン
福島県いわき市 2022年4月中旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ上類 Superrosids
階級なし : バラ類 Rosids
階級なし : マメ類 Fabids
: キントラノオ目 Malpighiales
: スミレ科 Violaceae
: スミレ属 Viola
: ナガバノスミレサイシン
V. bissetii
学名
Viola bissetii Maxim.[1]
和名
ナガバノスミレサイシン(長葉の菫細辛)[2][3]

スミレサイシン節 Sect. Vaginatae に属する[7]

特長 編集

無茎の種。高さは5-12cmになる。地下茎は太く、水平に伸長し、節があって節間は短い。は少数が束生し、開花後に展開する。葉身はやや質が厚く柔らか、三角状長卵形から三角状披針形で、長さ5-10cm、先は漸尖形、基部は深い心形になり、縁には低い鈍鋸歯がある。葉柄は長さ6-8cmになる。葉の表面は鮮緑色で、表面はほとんど無毛、裏面基部にまばらに毛が生える。基部にある托葉はほとんど離生し、披針形で先端がとがり、株もとに鱗片状につき、膜質で褐色になり、長さ8-12mmになる。果時の葉は長さ15cm、葉柄は長さ18(-25)cmに達する[8][9]

花期は3月下旬-5月上旬[10]。完全に展開する前の葉間から花柄を伸ばしをつける。花柄は長さ5-12cmになる。は径約2-2.5cmで、淡紫色。芳香はない。花弁は長さ15-18mm、先端は円く、側弁の基部は無毛、花弁5個に紫色の条があるが、とくに唇弁の条が著しい。唇弁の距は短く、長さ4-5mmで、左右から押しつぶされた嚢状になる。片は広披針形で、その後部の付属体は浅く2裂する。雄蕊は5個あり、花柱はカマキリの頭形になり、上部の両翼が左右に短く張り出す。果実は卵形状の蒴果で横断面はほぼ三角形、先端はとがり、紫色の斑な模様がある。染色体数は2n=24[8][9]

分布と生育環境 編集

日本固有種[6]本州福島県以西)、四国九州太平洋側の少ない地方に分布し[8][10]山地や丘陵の[4]夏緑樹林の林床や林縁に生育する[8]。いわゆるソハヤキ要素の分布をする植物である[8]。同じスミレサイシン節 Sect. Vaginatae に属するスミレサイシンは主に日本海側に分布して、すみ分けている[11]

適湿な環境を好み落葉樹下に多く、の植林地の下でもよく生育する[6]

名前の由来 編集

和名ナガバノスミレサイシンは、「長葉の菫細辛」の意[2][3]

種小名(種形容語)bissetii は、イギリス人の採集家、James Bisset (1841-1911) への献名[12]

分類 編集

スミレサイシン節 Sect. Vaginatae には、本種の他、ヒメスミレサイシン V. yazawanaシコクスミレ V. shikokianaアケボノスミレ V. rossiiスミレサイシン V. vaginata が属する[7]。同節のうち、ヒメスミレサイシシンとシコクスミレは花が白色、アケボノスミレは花が赤紫色で、葉は花後に展開する。本種とスミレサイシシンは花の色は淡紫色で、葉は花期には完全に展開し、本種の葉は披針形で、スミレサイシンの葉は心形になる[7]

ギャラリー 編集

下位分類 編集

  • シロバナナガバノスミレサイシン Viola bissetii Maxim. f. albiflora Nakai ex F.Maek.[13] - 白花品種[8]
  • フイリナガバノスミレサイシン Viola bissetii Maxim. var. kiusiana Terao[14] - 四国と九州の高所に分布し、葉の表面の葉脈に沿って白い斑が入り、裏面が紫色をおびるものを変種(または品種 f. variegate Nakai[15] )として分類している[8]

交雑種 編集

  • ナガバノアケボノスミレ Viola bissetii Maxim. × V. rossii Hemsl. - ナガバノスミレサイシン×アケボノスミレ[16]

脚注 編集

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ナガバノスミレサイシン”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2020年5月6日閲覧。
  2. ^ a b 『スミレハンドブック』p.90
  3. ^ a b 『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』p.316
  4. ^ a b 林 (2009)、343頁
  5. ^ 佐竹 (1982)、249頁
  6. ^ a b c いがり (2015)、112頁
  7. ^ a b c 門田裕一 (2016)「スミレ科」『改訂新版 日本の野生植物 3』p.210
  8. ^ a b c d e f g 門田裕一 (2016)「スミレ科」『改訂新版 日本の野生植物 3』p.215
  9. ^ a b 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.717
  10. ^ a b いがり (2015)、113頁
  11. ^ 牧野 (1982)、344頁
  12. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1485
  13. ^ シロバナナガバノスミレサイシン, 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  14. ^ フイリナガバノスミレサイシン, 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  15. ^ フイリナガバノスミレサイシン(シノニム), 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)
  16. ^ ナガバノアケボノスミレ, 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)

参考文献 編集

  • いがりまさし『増補改訂日本のスミレ』山と溪谷社〈山溪ハンディー図鑑〉、2015年1月15日。ISBN 9784635070065 
  • 寺尾博「スミレサイシンとナガバノスミレサイシンの葉形の地理的変異」『植物分類,地理』第28巻、日本植物分類学会、1977年4月、NAID 110003763084 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎、亘理俊次、冨成忠夫 編『日本の野生植物 草本II離弁花類』平凡社、1982年3月17日。ISBN 458253502X 
  • 林弥栄『日本の野草』山と溪谷社〈山溪カラー名鑑〉、2009年10月。ISBN 9784635090421 
  • 林弥栄『野草 見分けのポイント図鑑』(新装)講談社、2014年9月10日。ISBN 978-4062191272 
  • 牧野富太郎、本田正次『原色牧野植物大図鑑北隆館、1982年7月。ASIN B000J6X3ZENCID BN00811290全国書誌番号:85032603https://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000001728467-00 
  • 山田隆彦著『スミレハンドブック』、2010年、文一総合出版
  • 門田裕一監修、永田芳男写真、畔上能力編『山溪ハンディ図鑑2 山に咲く花(増補改訂新版)』、2013年、山と溪谷社
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 3』、2016年、平凡社
  • 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館

関連項目 編集

外部リンク 編集