ナッチャンRera
ユーロチャンピオン・ジェット(EuroChampion Jet)は、ギニアビサウ籍の高速フェリーである[1][2]。
EuroChampion Jet 麗娜輪 ナッチャンRera | |
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花蓮港に停泊する麗娜輪(2013年11月30日撮影) | |
基本情報 | |
船種 | 高速フェリー |
船籍 |
日本(-2012年) 台湾(2012年-2024年) ギニアビサウ(2024年-) |
運用者 |
東日本フェリー 津軽海峡フェリー(-2012年) 東聯航運(2012年-2024年) シージェッツ(2024年-) |
建造所 | インキャットホバート造船所 |
母港 |
函館(-2012年) 基隆(2012年-2024年) パルキア(2024年-) |
姉妹船 | ナッチャンWorld |
建造費 | 約90億円 |
信号符字 | 7JBY→BIAIJ→5AK2 |
IMO番号 | 9294238 |
MMSI番号 | 416476000 |
経歴 | |
竣工 | 2007年 |
就航 | 2007年9月1日 |
要目 | |
総トン数 | 10,712トン |
全長 | 112m |
全幅 | 30.5m |
デッキ数 | 4層 |
主機関 | ディーゼルエンジン×4基 |
推進器 | ウォータージェット推進×4基 |
出力 | 9,000kW×4基 |
航海速力 | 約36ノット(満載時) |
旅客定員 | 1,746名(最大) |
車両搭載数 |
普通自動車350台 または 普通自動車195台、トラック33台 |
麗娜輪 | |
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各種表記 | |
拼音: | Lìnàlún |
注音符号: | ㄌㄧˋ ㄋㄚˋ ㄌㄨㄣˊ |
発音: | リーナールゥン |
英文: | Natchan Rera |
かつてはナッチャンRera(ナッチャンれら)という船名で、東日本フェリーの青森港と函館港の間(青函航路)に就航していた。また、2012年に台湾の企業に売却された後は、船名を麗娜輪(リーナールゥン)と改め、台湾の蘇澳港-花蓮港等の航路に就いていた[3][4]。2024年1月にギリシャのシージェッツに売却されてユーロチャンピオン・ジェット(EuroChampion Jet)に船名を改め、3月にピレウスに到着しており、ギリシャ沿岸で海運及び観光に使用される予定である[5]。
概要
編集建造はオーストラリアのインキャット・タスマニア社。ウォータージェット高速フェリーとしては世界最大級。建造費は約90億円。
インキャット社では本船と同様の技術・形状を用いているウェーブピアサー型高速船を多数建造しており、本船は112m型に分類される。インキャット社は建造した船舶に一連の「Hull No」を付与しているが、本船は064である。これは、姉妹船のナッチャンWorldの065と連番である[6]。
日本での船名の「ナッチャンRera」は、船体塗装のイラストをデザインした京都市在住の小学生の愛称「ナッチャン」と、アイヌ語で風を意味する「Rera」(レラ)を合わせたもの。
日本では2007年(平成19年)9月1日に青函航路に就航し、青森港 - 函館港間をおよそ夏季1時間45分、冬季2時間15分、深夜便2時間30分で結び、カーフェリーとしては日本最速であった。
2008年5月には、ヨーロッパフェリーシッピング会議にて本船や先進的なターミナルや統合フェリーシステムが評価され「シップパックス高速船賞」を受賞[7][8]。
来歴
編集日本での運航
編集青函航路の高速化を図るため、旧・東日本フェリーは1990年から1996年までジェットフォイル、1997年から2000年までウォータージェット小型フェリー(船名はいずれも「ゆにこん」)を導入した。しかし、燃費がかさむことや波浪への弱さ、曳き波による漁業被害、およびトラックを積載できないことによる低収益性などの理由により運航が中止されていた。 ナッチャンReraの建造にあたり、新・東日本フェリーおよび親会社のリベラホールディングス(現・リベラ)では、インキャット社とともに風洞実験などを行い過去の問題点を精査し、本船の安定した運航に一定のメドを得たとしていた。しかし、運行開始後、前述の曳き波による漁業被害が再発し、漁民らは速度を落とすよう求めていた[9]。
青函トンネルの開通以降、青函間の旅客輸送の多くは鉄道が担っているが、ナッチャンReraは鉄道と比して、青森-函館間において所要時間やエコノミークラスの運賃の安さの点で優位に立つことから、今後の巻き返しがなるか注目されていた。弘南バスの青森上野号や一時期の十和田観光電鉄のブルースター号(国際興業バスと共同運行していた時期)の夜行バスとの連携も積極的に進めていた。一方で、在来船の2倍以上となる運賃や、ファーストクラスでも横になれないなど在来船との差も残った。車両輸送の運賃格差は旅客輸送以上に影響が大きく、就航直後には減便された在来船で車両航送の満車が頻繁に発生した。
2008年11月末をもって運航会社の東日本フェリーは国内フェリー事業から撤退し、これにより多くの航路が運航を休止したが、当船は同社の撤退に先立つ同年11月1日をもって、僚船のナッチャンWorldとともに定期運航を休止した[10]。こののち、ナッチャンWorldが夏期限定ながらも青函航路に復活運航を果たしたのに対し当船にはそういった動きはなかったが、東日本フェリーを吸収合併した津軽海峡フェリーによって、2010年7月に係船地変更のため室蘭港へ回航された後、船内見学会やミニクルーズが実施された[11]。
台湾での運航
編集その後、防衛省にて離島奪還作戦に不可欠な高速輸送艦として利用するため購入が検討される[12][13]などの動きもあったが、結局2012年10月に台湾の華岡集団(Wagon Group)に約54億円で売却された[14]。華岡集団では傘下の東聯航運(Uni-Wagon Marine)において、台北港と福建省中部の平潭島間の航路に利用する方針を明らかにしていた[15]。
2013年8月7日から9月8日までの間、台湾の蘇澳港 - 花蓮港の航路に週6往復の計画で仮運航を開始した。片道料金はエコノミークラスで700台湾ドル(2013年8月現在約2,246円)で、同区間の台鉄北廻線の運賃と比べると高額であるが、観光ツアー客の乗船と災害時の緊急輸送を見込んでいた[4]。船名表記が麗娜輪と改められたが、英語表記は NATCHAN RERAのままで、船体塗装も維持されていた。
2014年5月27日から、台湾の台北港と中国福建省の平潭島間を結ぶ航路に就航した。これは、台湾所属の客船で運航される史上初の台中定期航路である。就航当初は、週2往復、所要時間は片道3時間で、運賃はエコノミークラスで3,450台湾ドル、ビジネスクラスで3,950台湾ドル、ファーストクラスで4,500台湾ドルであった[16]。就航当初の時点では、台湾と中国の間の車両交流に対する会談が行われていないため、旅客のみの乗船となった。車両輸送も検討されたが、実現にはナンバープレートと運転免許の相互認証に関する問題の解決が必要とされた。
2015年6月、船体の船名表記が「麗娜輪」から「麗娜」に変更されているのが確認された[17]。ただし、華岡集団のウェブサイト等では引き続き「麗娜輪」の船名が用いられていた。
2016年4月、華岡集団と沖縄県の総合物流グループであるシンバネットワークのあんしんが共同で、本船を花蓮 - 石垣航路に就航させる計画を発表した。片道の所要時間は最短4時間で試験運航の第1便は台湾の蕭美琴立法委員を代表とした経済交流視察団約100名[18]を乗せて2016年5月14日夕、石垣港に初入港した[19]。2015年内に10回のチャーター運航が予定され、将来的に週1便程度の定期運航が構想されていた[20]。しかし、石垣港への入港は試験運航の1回のみで、以後の運航は数度にわたり延期され[21][22]、2017年11月には台湾での集客が見込めないこと等を理由に運航を断念することが明らかになった[23]。
2022年12月7日時点では、台南の港に係留されていることが確認できた。船名表記は「麗娜」から「麗娜輪」に戻っていた[24]。
船体と装置類
編集船内設備
編集- TIER4
- エグゼクティブクラス - 日本ではドリンク・ビデオサービスが提供された。
- バーラウンジ
- シャワー
- TIER3
- エコノミークラス
- ビジネスクラス
- エントランスラウンジ
- 売店
- カフェ
- キッズルーム
- パブリックカウンター
ウェーブ・ピアーサー
編集本船は双胴船の中でも比較的新しい船型である「ウェーブ・ピアーサー」形状をしており、水線下の2つの船体が非常に細く作られている。船長112mの船体で最大積載は1500tであり、高速船としては非常に優秀といえる。本船では船首側がわずかに1度低い船首トリムと呼ばれる状態での航行が最も抵抗が少なくなる。
下部船体は水密隔壁によって左右それぞれ10区画の水密区画に分けられており、万一の場合にも簡単には沈まないようにできている。
ウォータージェット
編集一般的なスクリューではなく、ウォータージェット推進器を左右合わせて4基備えており、強力な水流の噴射によって高速航行を可能にしている。ウォータージェットでは水流の向きを左右に最大30度まで変えられるので、舵を必要とせずにすばやく船の向きを変えられる。また、ウォータージェットには後進バスケットと呼ぶ偏向板があり、後進時にはこれを噴射口へ押し上げることで水流の方向を前方下方へ変えることで推進力を180度逆の後進へと変えられる。また、後進バスケットを中間位置にすれば、エンジンを回したままで推力をかけない停止状態にもできる。
左右での水の噴射方向を逆にすることで、横方向への移動や、その場での回転がおこなえる。
41.5ノットで旋回したときの旋回円の直径は620mであり、41ノットでのクラッシュ・アスターン(Crash Astern)による停止では1分27秒後にまっすぐ721m先に停止できた。これらはいずれも、非常に優秀な成績といえる。
エンジン
編集中速回転のディーゼル・エンジン(MAN 20V28/33D)を左右の下部船体後部に合計4基備えている。片側2基のエンジンは下部船体の幅が狭いために前後に互い違いに据えられている。それぞれが12,373PS(メートル馬力、9,100kW)のV型20気筒ディーゼル・エンジンは毎分1,000回転を減速機によって470回転まで落として、ウォータージェットのポンプを駆動している。
燃費は、旅客と貨物を満載した1,450tの状態で36ノット航行した場合、軽油の消費量は8,625リットル/時間である。リッターあたりでは8mとなる。
減揺装置
編集高速で航行する本船は、波による揺れを押さえるために減揺装置として、船首下に「Tフォイル」(T-foil)、左右の船尾にはトリムタブを備える。
- Tフォイル
- Tフォイル(T-foil)は、船首下から海水中へ垂直に伸びる支持部とその先端部の水中翼により、フィン・スタビライザーにも似たしくみで揺れを抑える。
- トリムタブ
- トリムタブは、必要に応じて船尾の船底部分に板を突き出すことで揚力を発生して、船尾に上向きの力を作り出す装置である。これが左右の船尾に備えられている。
ブリッジ
編集ブリッジは船の中央最上部にある。他の船と異なり、機械装置を操作するためにブリッジ内を歩き回るようにはできておらず、航空機の操縦席にも少し似た「統合型ブリッジ」になっている。ブリッジの前3分の1ほどが横3人掛けのシートになっており、左から機関長/機関士席、船長席、航海士席となっている。船長席の後ろに、後ろ向きに操作する接岸用操船パネルがあり、接岸時の細かな操船のためのレバーとテレビカメラ映像パネルが備わっている。右肘掛けの端につまみのような小さな舵輪があり、文字通り手元で操作が可能になっている。
3人席のコックピットの後ろには、情報分析スペースとして海図や外部からの情報を入手・分析できるようになっている。ブリッジの後部3分の1は休憩のためのいくつかの座席が用意されていて、隅に階下への階段と後部デッキへのドアが付いている。
その他
編集緊急避難
編集- ライフラフト
- 緊急時の避難先としての「ライフラフト」には、乗り移るための滑り台式スロープがラフトと同時に膨らむガス展張式のものが備わっている。
乗船・下船
編集ナッチャンRera時代の本船の停泊時間はわずか45分であったため、200台あまりの車輌と800人ほどの乗客をこの短時間で下船させて、また乗船させなければならなかった。車輌の乗船時には、重い車が前後や左右に集中すると船が傾いてしまう(前後・左右トリム)ため、一等航海士などの船員が場所を指示して駐車させていた。特に下船や搭乗中に船が傾きすぎると、ランプウェイに角度が付きすぎて車輌の底を打つ危険があるので注意が必要であった。
脚注
編集- ^ “EuroChampion Jet - SEAJETS' new impressive high-speed vessel has arrived at the port of Piraeus!”. seajets. 2024年4月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年4月28日閲覧。
- ^ “Vessel Characteristics: Ship EUROCHAMPION JET (High Speed Craft) Registered in Guinea-Bissau - Vessel details, Current position and Voyage information - IMO 9294238MMSI 9294238Call Sign J5AK2”. AIS Marine Traffic. 2024年4月28日閲覧。
- ^ ナッチャンRera台湾へ - ゲストハウス 函館クロスロード・2012年10月22日[出典無効]
- ^ a b “麗娜輪首航 藍色公路啟動”. 自由時報. (2013年8月7日) 2013年8月8日閲覧。[リンク切れ]
- ^ “台湾からギリシャに売却 市準備課も把握「影響ない」”. 八重山毎日新聞. (2024年3月21日). オリジナルの2024年3月21日時点におけるアーカイブ。
- ^ “OpenDocument 112 Metre Wave Piercing Catamaran”. Incat. 2013年12月31日閲覧。
- ^ “東日本フェリー/「ナッチャンRera」、国際賞を受賞”. 日本海事新聞. (2008年6月5日)
- ^ “International Award for Incat 112 metre Natchan Rera”. Incat. 2013年12月31日閲覧。
- ^ “ホタテ漁師:押し寄せる波と砂に「困った」 青森・陸奥湾”. 毎日jp. (2008年8月29日). オリジナルの2008年8月29日時点におけるアーカイブ。
- ^ . 北海道新聞. (2008年9月9日). http://www.hokkaido-np.co.jp/news/economic/116514.php
- ^ “高速船“美人”ナッチャンRera、室蘭港に到着”. 室蘭民報. (2010年7月6日). オリジナルの2012年9月3日時点におけるアーカイブ。
- ^ “フェリーを高速輸送艦に 防衛省が転用検討 離島奪還で陸自輸送の切り札”. 産経新聞. (2011年2月21日). オリジナルの2011年2月23日時点におけるアーカイブ。
- ^ 実際に2016年以降姉妹船のナッチャンWorldを借用することとなった
- ^ “高速船「ナッチャンRera」、台湾への売却額54億円”. WEB CRUISE. (2012年11月22日)
- ^ “2012/08/20の台湾経済ニュース”. ワイズコンサルティング. (2012年8月20日)
- ^ “快訊/首艘國籍船「麗娜輪」27日台北港啟航平潭”. ETToday. (2014年5月27日) 2014年5月27日閲覧。
- ^ 華岡集團: 麗娜輪。台北-平潭要開船嘍 - Facebook
- ^ “花蓮 - 石垣間に高速貨客船”. 八重山毎日新聞 (八重山毎日新聞社). (2016年5月12日) 2016年5月12日閲覧。
- ^ “ナッチャン・レラ 初入港”. 八重山毎日新聞 (八重山毎日新聞社). (2016年5月15日) 2016年5月15日閲覧。
- ^ “「あんしん」がクルーズ船 石垣-台湾花蓮、5月に就航”. 琉球新報 (琉球新報社). (2016年4月15日) 2016年4月17日閲覧。
- ^ “ナッチャン・レラ運航延期 花蓮-石垣間”. 八重山毎日新聞 (八重山毎日新聞社). (2016年11月4日) 2017年11月22日閲覧。
- ^ “レラ号 今秋から試験運航 基隆ー石垣間 週2便”. 八重山毎日新聞 (八重山毎日新聞社). (2016年5月12日) 2017年11月22日閲覧。
- ^ “客船「レラ」運航断念 台湾ー石垣航路”. 八重山毎日新聞 (八重山毎日新聞社). (2017年11月22日) 2017年11月22日閲覧。
- ^ 【1泊2日 台湾旅行】戦前日本の景色が残っている!「台南」を周遊(46m30s〜) - YouTube
出典
編集- 池田良穂著『図解・船の科学』講談社〈ブルーバックス〉、2007年12月20日第1刷発行。ISBN 978-4-06-257579-9。
- インキャット (2008-04-13(UTC)). “112 Metre Wave Piercing Catamaran” (英語). 2008年4月20日閲覧。
関連項目
編集- ナッチャンWorld - 本船の姉妹船。2008年5月2日から2012年夏まで函館 - 青森航路に就航。2014年度からは防衛省に借り上げられている。
- あかね (高速フェリー) - 本船と同じインキャット・タスマニア社製の双胴高速輸送船。2015年4月21日から佐渡小木港~上越市直江津港の航路に就航。85m型で、ナッチャンの112m型より小さい。
- HSV-X1 ジョイントベンチャー - 本船と同じインキャット・タスマニア社製の双胴高速輸送船。アメリカ海軍・陸軍が使用。
- HSV-2 スウィフト - 本船と同じインキャット・タスマニア社製の双胴高速輸送船。アメリカ海軍が使用。
- リベラ
- 小野竹喬 - 日本画家。ナッチャンReraの船体塗装のイラストをデザインした女児の高祖父。
- 竹財輝之助、戸田恵梨香 - CM出演。
- テクノスーパーライナー