ナフィサトゥ・ティアム

ベルギーの陸上競技選手

ナフィサトゥ・"ナフィ"・ティアムNafissatou "Nafi" Thiam, フランス語発音: [tʃam]1994年8月19日 - )は、混成競技を専門とする、ベルギー陸上競技選手。リオデジャネイロ2016大会東京2020大会の2度、オリンピックの七種競技金メダルを獲得している。男女含めてオリンピックの陸上競技で2大会連続で金メダルを獲得した初めてのベルギー代表選手であり、七種競技で2大会連覇を果たしたのはジャッキー・ジョイナー=カーシー以来2人目である[3]。東京大会では開会式ベルギー選手団の旗手を務めた。

ナフィサトゥ・ティアム
Nafissatou Thiam
個人情報
国籍ベルギーの旗 ベルギー
生誕 (1994-08-19) 1994年8月19日(29歳)[1]
ベルギーの旗 ベルギーブリュッセル[1][2]
身長184 cm (6 ft 0 in)[1]
体重69 kg (152 lb)[1]
スポーツ
ベルギーの旗 ベルギー
競技陸上競技
種目七種競技
クラブRFCL
担当コーチロジャー・レスパナール英語版
成績・タイトル
自己ベスト七種競技:7013点(歴代3位)
五種競技:4904点(歴代7位)
獲得メダル
女子陸上競技


ベルギーの旗 ベルギー代表
大会 1 2 3
オリンピック 2 0 0
世界選手権 2 1 0
欧州選手権 1 0 1
欧州室内選手権 2 1 0
欧州U23選手権英語版 0 1 0
欧州ジュニア選手権 1 0 0
Total 8 3 1
大会 1 2 3
七種競技 6 1 1
五種競技 2 1 0
走高跳 0 1 0
Total 8 3 1
オリンピック
金メダル - 1位 2016 リオ 七種競技
金メダル - 1位 2020 東京 七種競技
世界選手権
金メダル - 1位 2017 ロンドン 七種競技
銀メダル - 2位 2019 ドーハ 七種競技
金メダル - 1位 2022 オレゴン 七種競技
欧州選手権
2018 ベルリン 七種競技
2014 チューリッヒ 七種競技
欧州室内選手権
2021 トルン 五種競技
2017 ベオグラード 五種競技
2015 プラハ 五種競技
欧州U23選手権英語版
2015 タリン 走高跳
欧州ジュニア選手権
2013 リエーティ 七種競技

2020年2月現在、ベルギーの七種競技・やり投走高跳のベルギー記録保持者である。2019年には七種競技の走高跳で世界新記録を樹立したことがある。

2017年の世界選手権2018年のヨーロッパ選手権英語版の覇者であり、2019年の世界選手権銀メダリストである。2017年にはIAAF世界最優秀選手賞を受賞した。

経歴 編集

ジュニア時代 編集

ベルギー人の母とセネガル人の父の間に、ブリュッセルで生まれた。7歳の時に陸上競技を始め、2009年(14 - 15歳)に初めて国内大会優勝を経験し、すでに七種競技を専門としていた。当時の憧れの選手はスウェーデンのカロリナ・クリュフトであった[4]フランスリールで開かれた2011年世界ユース選手権の七種競技で、5366点を記録し4位に入賞した。しかし、翌2012年の世界ジュニア選手権は5384点の14位に沈んだ。

ベルギーのヘント2013年2月3日に開かれた大会で、五種競技に出場し、5種目のうち4種目で自己ベストを更新し、4558点の世界ジュニア室内新記録をマークした[5]。ティアムが破る前の世界ジュニア室内記録は、ティアムの憧れの人であるカロリナ・クリュフトが2002年に樹立した4535点であった。ティアムはベルギーの女子陸上競技選手で初めての世界記録保持者となった[6]。ところが、ヘントの大会は当日のドーピング検査を欠いていたため、同年3月に世界新記録として公認されないことになった。(翌日にドーピング検査が行われたが、国際陸上競技連盟(IAAF、当時)の締切を過ぎていた[7]。)

2013年7月18日ヨーロッパジュニア選手権の七種競技で金メダルを獲得し、6298点のベルギー新記録を達成した。

シニア時代 編集

2014年は、ヨーロッパ選手権の七種競技で銅メダル、2015年はヨーロッパ室内選手権の五種競技で銀メダル、ヨーロッパU23選手権の走高跳でも銀メダルを獲得した。

2016年リオデジャネイロオリンピックで七種競技に出場し、8月13日に6810点をマークして金メダルを獲得した。7種目のうちの5種目で自己新記録を出しており、イギリス代表ジェシカ・エニス=ヒル前回覇者)を破っての勝利であった[8]。メダル獲得当時の年齢は21歳11か月であり、七種競技の金メダリストとしては史上最年少記録である[9][10]。そこでティアムは閉会式ベルギー選手団の旗手に選ばれた[11]

2017年シーズンは3月3日にセルビアベオグラードで開かれたヨーロッパ室内選手権の五種競技優勝(4870点)で幕を開け、5月28日ハイポミーティングオーストリアゲツィス)の七種競技でも優勝した。この時の記録は7013点で、7種目中5種目で自己新記録をマークし、ハイポミーティングで7000点を超えた史上4人目の選手になった。今大会で記録したやり投の記録59m32はベルギー新記録であり、やり投が専門の選手よりも好投したことになる[9]。7月にはジャッキー・ジョイナー=カーシー、カロリナ・クリュフトに次ぐ歴代3位に名を連ねた。8月6日にはロンドンで開かれた世界選手権の七種競技に出場し優勝、ベルギー史上初の世界選手権金メダリストになった[9]

2018年8月10日、ヨーロッパ選手権七種競技で優勝し、カロリナ・クリュフト、ジェシカ・エニス=ヒルに次ぐ史上3人目のオリンピック・世界選手権・ヨーロッパ選手権の3冠達成者となった。2019年6月27日デカスター英語版(フランス・タランス)で優勝し、その中で記録した走高跳の2m02は、七種競技中で行われる走高跳の記録としては世界新記録となった[12]。同年10月2日世界選手権の七種競技に当季世界最高記録保持者として出場、金メダルが期待されたが、イギリス代表のカタリナ・ジョンソン=トンプソン英語版がライバルとして立ちはだかった。ティアムが肘の怪我に苦しみ、やり投の記録が振るわない一方、ジョンソン=トンプソンはイギリス新記録かつ世界歴代6位となる6981点を記録して金メダルを獲得した。優勝こそ逃したが、ティアムの記録は他の選手よりは良く、銀メダルを獲得した。

2021年3月5日ポーランドトルンで開かれたヨーロッパ室内選手権で、4904点を記録して優勝した[13]。8月5日の東京オリンピックでは6791点を記録し、2個目の金メダルを獲得した。

人物 編集

サッカーチーム・RFCリエージュ英語版の下部組織であるRFCLアトレティスムに所属しており、元十種競技選手のロジャー・レスパナール英語版からコーチングを受けている[14]

リエージュ大学の学生時代は地理学を専攻していた[15]。「気候学と、河川によって地表がどう形成されるかを研究する地形学が好きです。地理学は七種競技のように多様な分野があります。だから私は地理学を好むのだと思います。」と本人は語っている[9]。2017年時点ではTwitterのプロフィールに「地理科学の学生」(Geographical sciences student)を1番に、「ベルギーの七種競技選手」(heptathlete from Belgium)を2番目に書いていた[16]。同年のIAAF世界最優秀選手賞の授賞式には前日・前々日に会場のモナコ入りする選手が多い中で、「大学の授業を休みたくない」という理由で当日に会場入りした[16]

ティアムはユニセフ・ベルギーのユニセフ親善大使を務めている[16][17]。どこに生まれても子供たちが学校で教育を受ける権利が保障されるように、との願いで大使を務めている[16]

受賞歴 編集

主な競技成績 編集

オリンピック
  • 2016年 - 七種競技、金メダル(6810点)
  • 2020年 - 七種競技、金メダル(6791点)
世界選手権
  • 2017年 - 七種競技、金メダル(6784点)
  • 2019年 - 七種競技、銀メダル(6677点)
ヨーロッパ選手権
  • 2018年 - 七種競技、金メダル(6816点)
  • 2021年 - 五種競技(室内)、金メダル(4904点)
  • 2017年 - 五種競技(室内)、金メダル(4870点)
  • 2015年 - 五種競技(室内)、銀メダル(4696点)
  • 2014年 - 七種競技、銅メダル(6423点)
ベルギー選手権
  • 2018年 - 走幅跳、金メダル(6m60)
  • 2016年 - 五種競技(室内)、金メダル(4678点)
  • 2016年 - 走幅跳(室内)、金メダル(6m51)
  • 2015年 - 走高跳(室内)、金メダル(1m85)
  • 2015年 - 走幅跳、金メダル(6m40)

個人記録 編集

屋外
種目 記録 得点 会場 日付
100メートルハードル 13秒34 1074   オーストリア ゲツィス 2017年5月27日
走高跳 2m02 [a] 1264   フランス タランス 2019年6月22日
砲丸投 15m41 888   フランス タランス 2019年6月22日
200メートル競走 24秒37 945   ベルギー トゥルネー 2019年5月18日
走幅跳 6m86 (NR) 1125   イギリス バーミンガム 2019年8月18日
やり投 59m32 (NR) 1041   オーストリア ゲツィス 2017年5月28日
800メートル競走 2分15秒24 890   オーストリア ゲツィス 2017年5月28日
七種競技 7013 点 (NR)   オーストリア ゲツィス 2017年5月28日
室内
種目 記録 得点 会場 日付
60メートルハードル 8秒23 1077   セルビア ベオグラード 2017年3月3日
走高跳 1m96 1184   セルビア ベオグラード 2017年3月3日
砲丸投 15m52 896   フランス パリ 2018年2月9日
走幅跳 6m79 (NR) 1102   フランス リエヴァン 2020年3月1日
800メートル競走 2分18秒80 840   ポーランド トルン 2021年3月5日
五種競技 4904 点(NR)   ポーランド トルン 2021年3月5日
a  七種競技中の世界記録 NR ベルギー記録

脚注 編集

  1. ^ a b c d Nafi Thiam Olympic Results”. Sports Reference LLC. 2020年4月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年7月16日閲覧。
  2. ^ Page 12 Nafissatou Thiam”. Ligue Belge Francophone d'Athlétisme (2016年8月15日). 2021年9月6日閲覧。
  3. ^ Nafissatou Thiam of Belgium reigns supreme in Olympic heptathlon” (英語). www.olympics.com (2021年). 2021年8月5日閲覧。
  4. ^ Thiam Nafissatou” (フランス語). Ligue belge francophone d'athlétisme (2009年). 2013年2月5日閲覧。
  5. ^ Vande Weyer, Philippe (2013年2月3日). “Nafissatou Thiam bat le record du monde junior du pentathlon indoor”. Le Soir. http://www.lesoir.be/177452/article/sports/autres-sports/2013-02-03/nafissatou-thiam-bat-record-du-monde-junior-du-pentathlon-indoor 2013年2月5日閲覧。 
  6. ^ Jacobs, Hans (2013年2月5日). “Is de nieuwe Tia Hellebaut opgestaan?” (オランダ語). Het Nieuwsblad. http://www.nieuwsblad.be/sportwereld/cnt/DMF20130204_00457525 2013年2月5日閲覧。 
  7. ^ Le record du monde junior de Nafissatou Thiam, établi à Gand, ne sera pas homologué” (フランス語). Le Soir (2013年3月20日). 2013年3月20日閲覧。
  8. ^ Nafi Thiam kroont zich tot olympisch kampioene op de zevenkamp” (オランダ語). Sporza (2016年). 2016年8月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月14日閲覧。
  9. ^ a b c d Nafissatou Thiam” (英語). Red Bull. 2019年7月29日閲覧。
  10. ^ About” (英語). Nafi Thiam. 2019年7月29日閲覧。
  11. ^ The Flagbearers for the Rio 2016 Closing Ceremony” (2016年8月21日). 2016年8月22日閲覧。
  12. ^ A new record for Nafissatou Thiam” (英語). Focus on Belgium (2019年6月27日). 2019年7月29日閲覧。
  13. ^ Thiam regains European indoor pentathlon title with world-leading 4904” (英語). World Athletics (2021年3月5日). 2021年3月6日閲覧。
  14. ^ Thiam Nafissatou”. Ligue belge francophone d'athlétisme. 2013年2月5日閲覧。
  15. ^ Nafissatou Thiam cumule les récompenses !”. Université de Liège. 2014年9月7日閲覧。 “Internet Archiveによる2017年8月6日時点のアーカイブページ。”
  16. ^ a b c d Michelle Sammet (2017年11月27日). “Thiam embraces new-found confidence on and off the track”. World Athletics. 2021年9月7日閲覧。
  17. ^ About” (英語). Nafi Thiam. 2019年7月29日閲覧。
  18. ^ Stats” (英語). Nafi Thiam. 2019年7月29日閲覧。

関連項目 編集

外部リンク 編集

オリンピック
先代
オリビア・ボルレー英語版
  ベルギーの旗手
フェリックス・デナイヤー英語版とともに)
東京 2020
次代
未定