ニシキガメ(錦亀、学名Chrysemys picta)は、ヌマガメ科ニシキガメ属に分類されるカメ。本種のみでニシキガメ属を形成する。

ニシキガメ
セスジニシキガメ Chrysemys picta dorsalis
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 爬虫綱 Reptilia
: カメ目 Testudines
亜目 : 潜頸亜目 Cryptodira
上科 : リクガメ上科 Testudinoidea
: ヌマガメ科 Emydidae
亜科 : アミメガメ亜科 Deirochlyinae
: ニシキガメ属 Chrysemys
Gray, 1844
: ニシキガメ C. picta
学名
Chrysemys picta (Schneider, 1783)
シノニム

Testudo picta Schneider, 1783 Emys bellii Gray, 1831

和名
ニシキガメ
英名
Painted turtle

分布 編集

C. p. bellii セイブニシキガメ
アメリカ合衆国北西部から中部、カナダ(アルバータ州南部、オンタリオ州南西部、サスカチュワン州、ブリティッシュコロンビア州南部、マニトバ州)、メキシコチワワ州
C. p. dorsalis セスジニシキガメ
模式標本の産地(模式産地)はニューオーリンズ周辺(ルイジアナ州)。
アメリカ合衆国(アーカンソー州アラバマ州北部、イリノイ州南部、オクラホマ州南東部、テキサス州の一部、ミシシッピ州北部、ミズーリ州南部、ルイジアナ州固有亜種
C. p. marginata フチドリニシキガメ
模式産地はインディアナ州北部。
アメリカ合衆国中東部、カナダ(オンタリオ州南東部、ケベック州南部、ニューブランズウィック州ノバスコシア州
C. p. picta トウブニシキガメ
アメリカ合衆国東部、カナダ(ニューブランズウィック州、ノバスコシア州)

形態 編集

最大甲長25cm。オスよりもメスの方が大型になる。背甲は扁平で、上から見ると細長い卵型。甲板の表面には筋状の盛りあがり(キール)や皺がなく滑らか。項甲板はやや大型で、後方がやや幅広い等脚台形縁甲板は鋸状にならず滑らか。腹甲には切れこみが入らない。

頭部は中型で、吻端はあまり突出しない。上顎の先端が凹み、その両脇が突出し牙状になる。頸部は短い。頭部や四肢の色彩は黒や暗緑色で、黄色や赤の筋模様が入る。種小名pictaは「彩色された」の意で背甲や頭部、四肢の斑紋に由来し和名や英名(painted=彩色した)と同義。

卵は長径2.8-3.5cm、短径1.6-2.3cmと楕円形で、白い皮革状の殻で覆われる。

C. p. bellii セイブニシキガメ
最大亜種。椎甲板のシームと肋甲板のシームが直線状にならない。背甲は暗緑色で、明色の網目状の斑紋が入る。腹甲には大型かつ複雑な暗色の斑紋が入る。
C. p. dorsalis セスジニシキガメ
最大甲長16cmと最小亜種。椎甲板のシームと肋甲板のシームが直線状にならない。背甲の色彩は黒や暗緑色で、椎甲板に赤や黄色の縦縞が入る。亜種小名dorsalisは「背中の」の意。腹甲の色彩は黄色一色。
C. p. marginata フチドリニシキガメ
最大甲長20cm。椎甲板のシームと肋甲板のシームが直線状にならない。背甲は暗緑色で、幼体は縁甲板に背甲を縁取るような明瞭な赤い斑紋が入るが成体では不明瞭になる個体もいる。亜種小名marginataは「縁取られた」の意で、和名と同義。腹甲にはシームの周辺に小型かつ単純な暗色の斑紋が入る。
C. p. picta トウブニシキガメ
最大甲長19cm。第2椎甲板と第3椎甲板の継ぎ目(シーム)と第2肋甲板と第3肋甲板のシームが繋がり直線状になるが、個体による変異も大きい。背甲の色彩は緑色で、甲板のシーム周辺は明色。腹甲の色彩は淡黄色一色。

分類 編集

分子系統学の研究から亜種セスジニシキガメを独立種とする説もあるが、各亜種の分布域の境目では自然交雑する個体もいる事から本種の亜種とする説が有力。

  • Chrysemys picta bellii (Gray, 1831) セイブニシキガメ Western painted turtle
  • Chrysemys picta dorsalis Agassiz, 1857 セスジニシキガメ Southern painted turtle
  • Chrysemys picta marginata Agassiz, 1857 フチドリニシキガメ Midland painted turtle
  • Chrysemys picta picta (Schneider, 1783) トウブニシキガメ Eastern painted turtle

生態 編集

流れの緩やかな河川湿原などに生息し、底質が泥で水生植物が繁茂した水深の浅い小規模な止水域を好む。水棲傾向が強いが、日光浴のためよく陸にも上がる。昼行性で、夜間は水底などで休む。

食性は動物食傾向の強い雑食で、魚類昆虫類甲殻類、動物の死骸、水草などを食べる。幼体は動物食だが、成長に伴い植物食傾向が強くなる。

繁殖形態は卵生。オスは水中で前肢をメスの頭部の前で震わせて求愛し、メスが動きを止めるとオスがメスの上に乗り交尾する。主に5-7月に基底がローム質や砂の開けた場所に穴を掘り、1回に1-23個の卵を年に1-4回産む。卵は72-80日、平均76日で孵化(人工孵化では65-80日、同じく平均76日で孵化した例がある。)する。性染色体を持たず発生時の温度により性別が決定(温度性決定)し、25℃ではオスのみ、30.5℃ではメスのみが産まれた例がある。オスは生後3-5年(腹甲の直線距離にして7-9.5cm)、メスは生後5-10年(腹甲の直線距離にして9-16.5cm)で性成熟する。

人間との関係 編集

亜種セイブニシキガメの亜種小名はThomas Bellへの献名

ニシキガメは、しばしば生活史理論のテストのために用いられる。

飼育 編集

ペットとして飼育されることもあり、日本にも輸入されている。アクアテラリウムで飼育される。水質の悪化に弱く、また高い頻度で水道水による水替えを行うと真菌性の皮膚病にかかることが多い。これは水質が清涼かつ安定した状態を維持し、日光浴を行える環境を設けることで防ぐことができる。飼育下では人工飼料にも餌付く。

参考文献 編集

  • Sources and Significance of Among-Individual Reproductive Variation in a Northern Population of Painted Turtles (Chrysemys picta), Njal Rollinson1 and Ronald J. Brooks, Copeia: Vol. 2008, No. 3, pp. 533-541.
  • 今泉吉典、松井孝爾監修 『原色ワイド図鑑3 動物』、学習研究社1984年、137、218頁。
  • 千石正一監修 長坂拓也編著 『爬虫類・両生類800種図鑑 第3版』、ピーシーズ、2002年、214頁。
  • 『小学館の図鑑NEO 両生・はちゅう類』、小学館2004年、73頁。
  • 海老沼剛『爬虫・両生類ビジュアルガイド 水棲ガメ1 アメリカ大陸のミズガメ』、誠文堂新光社2005年、9頁。
  • 安川雄一郎 「クーターガメ属、ニシキガメ属、アミメガメ属の分類と自然史(II)」『クリーパー』第44号、クリーパー社、2008年、8-12、43-51頁。

関連項目 編集