ニラ(韮、韭、Allium tuberosum)は、ネギ属に属する多年草緑黄色野菜である。

ニラ
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ニラ (Allium tuberosum)
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ヒガンバナ科 Amaryllidaceae
: ネギ属 Allium
: ニラ A. tuberosum [1]
学名
Allium tuberosum
Rottler ex Spreng. (1825) [1][2][3]
英名
Oriental garlic[2]、Chinese chives[2][3]
Allium tuberosum

名称編集

古事記』では「加美良」(かみら)、『万葉集』では「久々美良」(くくみら)、『正倉院文書』には「彌良」(みら)とそれぞれ記載されている。このように、古代においては「みら」と呼ばれていたが、院政期頃から不規則な転訛形「にら」が出現し、「みら」を駆逐して現在に至っている。近世の女房言葉二文字(ふたもじ)がある。

別名はフタモジ[4]。日本の地方による方言では、フタモジ(二文字:千葉県上総地方)、ジャマ(新潟県中越地方)、ニラネギ(韮葱:静岡県鳥取県などの一部)、コジキネブカ(乞食根深:愛知県岐阜県の一部)、トチ(奈良県山辺郡磯城郡)、ヘンドネブカ(遍路根深:徳島県の一部)、キリビラ(沖縄県島尻郡)、チリビラ(沖縄県那覇市)、キンピラ(沖縄県那覇市)、ンーダー(沖縄県与那国島)などがある[5]

英名はチャイニーズ・チャイヴ(Chinese chive[6]仏名はオリヴィエオドラン(ail odorant中国植物名は韮菜(きゅうさい)[4]という。

特徴編集

多年生草本[7]。中国原産で、広く畑に栽培競れている[4]。地下には横に連なった小さな鱗茎がある[7]。食用とする葉は線形で偏平、濃緑色[7]

花期は夏(8 - 9月ころ)で、葉の間から30 - 40センチメートル (cm) ほどの1本の花茎を伸ばす[7]。花茎の先端に、半球形の散形花序をつけ、径6 - 7ミリメートル (mm) の白い小さな花を20 - 40個も咲かせる[7]。花弁は3枚だが、が3枚あり、花弁が6枚あるように見える。雄蕊(おしべ)は6本、子房は3室になっている。花後に果実を結び、熟すと割れて中から6個の黒色の小さな種を散布する[7]

本種の原種は、中国北部からモンゴル・シベリアに自生する Allium ramosum で、3,000年以上前に栽培化されたと考えられる。この種とニラを同一種とみなす場合もある[8]株分けまたはによって増やす。

全草に独特の匂いがある[7]。このため、禅宗などの精進料理では五葷の一つとして忌避される。匂いの原因物質は、ニンニクにも含まれている硫化アリル類の一種アリシンである[9]

栽培編集

 
畑で栽培されているニラ

比較的栽培は容易で、5 - 9月が栽培期で、15 - 23が栽培適温とされている[10]。種から育てることはできるが、収穫までには半年以上はかかる[10]。苗を植えて育てれば、4 - 5年ほど長期間収穫も可能で[10]、葉は1年間で4 - 5回ほど収穫することができる[7]。一般家庭ならば、プランターを使ってニラ栽培も可能である[10]

ニラは多湿を嫌うため、堆肥などを多くすき込んだ水はけのよい土地に植えられる[10]。苗の植え付けは春(5 - 6月)に行い、6 - 8月の生長期間は肥料切れを起こさないように、1か月に1回ほど追肥も行われる[10]。収穫期は6 - 9月ころで、植え付けから1か月くらい後の草丈20 cmになったところで葉を収穫できるようになる[10]。収穫の目安は、地際から5 cmほど残してなどで刈り取る[10]。収穫2 - 3週間後には、再び葉は伸びてくる[10]。初秋までのあいだは収穫できるが、花茎の蕾が出てきたら早めに摘み取って、夏場の収穫は控えられる[10]

生産編集

日本国内の生産量は約6万トンで、全生産量の4割超を1位の高知県と2位の栃木県が占め、次いで茨城県群馬県宮崎県福島県北海道が続く。

ニラの生育に適した温暖な気候で知られる高知県香南市や、餃子の街である栃木県宇都宮市の周辺などが主な産地として知られる。

利用編集

中国では薬膳[11]、日本でも薬用に使われるなど古くから親しまれてきた緑黄色野菜で、β-カロテンの含有量が高く疲労回復や健康増進にも効果があるとされ、炒め物や卵とじなど、様々なスタミナ料理に利用されている[12]

食材編集

野菜としての旬は4 - 8月とされ、茎はしっかり弾力があり、葉は鮮やかな緑色でつやがあり、葉先がしっかりして、肉厚で幅が広いものが良品とされる[12]。 主に食材にする緑色の葉ニラのほか、花ニラ、黄ニラがある。生であると、ニラ特有の臭みがあるが、加熱すると刺激臭は和らぐ[9]

葉ニラ
一般的にニラとよばれるもの。同じ株から何度も収穫できるが、最初に収穫されたものが最も味が良く、成長しすぎたものは繊維がかたい[9]
黄ニラ
ニラの芽が出る前の根株に覆いを被せて光を制限することで軟白化させた、中華料理の食材。ニラモヤシともよばれている[11]。ニラ特有の臭みが抑えられており、より柔らかく甘みがある[12]。日本では岡山県が主産地である。
花ニラ
ニラの花茎と若い蕾を食べる中華料理の食材。シャキッとした食感で、香りは葉ニラよりも穏やか[12]。花ニラ専用の品種が栽培されている。日本で主に栽培されているのは、台湾から伝わったテンダーポールという栽培品種である。ハナニラ属 (Ipheion) のハナニラは別種である。

調理編集

 
韓国料理のニラチヂミ

細長くまっすぐに伸びた葉は加熱すると柔らかく、和食での実や薬味おひたし炒め物などにするほか、中華料理韓国料理によく用いられる。若い花芽も、おひたしや炒め物として食べられる。

中華料理では、単独や他の野菜や肉と合わせた炒め物レバーと炒め合わせた物(レバニラ炒め、またはニラレバ炒め)、焼きそば(「韭菜炒麺」)、餃子の具[注釈 1]ニラ饅頭点心)、春巻き(黄ニラ)、ニラの卵とじなどがポピュラーな用途である。春節(旧正月)には、黄ニラと豚肉を使った春餅の料理を食べる[14]北京料理では、羊肉しゃぶしゃぶの薬味のひとつとして、ニラの花の塩漬けが用いられる。

郷土料理では、岡山県で、黄ニラが寿司の具としても用いられる。栃木県鹿沼市などでは、蕎麦の具として茹でたニラを添えた、ニラ蕎麦がある。大分市周辺には、ニラを主な具とするニラチャン(ニラちゃんぽん)という麺料理がある。

栄養編集

にら 葉 生[15]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 88 kJ (21 kcal)
4.0 g
デンプン 正確性注意 1.7 g
食物繊維 2.7 g
0.3 g
飽和脂肪酸 (0.04) g
一価不飽和 (0.01) g
多価不飽和 (0.08) g
1.7 g
ビタミン
ビタミンA相当量
(36%)
290 µg
(32%)
3500 µg
チアミン (B1)
(5%)
0.06 mg
リボフラビン (B2)
(11%)
0.13 mg
ナイアシン (B3)
(4%)
0.6 mg
パントテン酸 (B5)
(10%)
0.50 mg
ビタミンB6
(12%)
0.16 mg
葉酸 (B9)
(25%)
100 µg
ビタミンC
(23%)
19 mg
ビタミンE
(17%)
2.5 mg
ビタミンK
(171%)
180 µg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
1 mg
カリウム
(11%)
510 mg
カルシウム
(5%)
48 mg
マグネシウム
(5%)
18 mg
リン
(4%)
31 mg
鉄分
(5%)
0.7 mg
亜鉛
(3%)
0.3 mg
(4%)
0.07 mg
セレン
(1%)
1 µg
他の成分
水分 92.6 g
水溶性食物繊維 0.5 g
不溶性食物繊維 2.2 g
ビオチン(B7 2.1 µg
硝酸イオン 0.3 g

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[16]。廃棄部位: 株元
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標RDIの割合。

栄養価が高く、ニンニクと並びスタミナが付く食材として利用されている。特にβ-カロテンが可食部100グラム (g) 当たり3500マイクログラム (μg) とかなり豊富で[9]ビタミンCビタミンKカルシウムリン葉酸などのミネラルに富む[12][9]。野菜にはあまり含まれることがないビタミンEも富んでいる[9]。カロテン、ビタミンEは葉の緑が濃い部分に多く含まれる[11]。ただし、日に当てないで育てた黄ニラの場合では、すべての栄養素で葉ニラに劣り、食物繊維だけは豊富である[9]

匂い成分の硫化アリル類の一種アリシンが豚肉やレバーに多く含まれるビタミンB1と結合してその吸収を良くし、糖質の分解を促進する効果があり、代謝機能、免疫機能を高め、疲労回復に役立といわれている[17][12][11]。アリシンはニラの根元の白い部分に多く含まれており[11]、殺菌作用があり、血液循環を促して、新陳代謝を活発にする働きがあるとされる[12]

保存編集

野菜としてのニラは、すぐに傷みやすく長期保存ができない[12]。保存するときは、根元を濡らしたペーパータオルなどで巻いて、ポリ袋に入れるかラップで包んで、冷蔵庫に入れておく[12][11]

生薬編集

全体に、ニンニクの成分であるアリインに似たアリルスルフィドという含硫化合物の精油成分を多く含む[17]。この成分は、炎症を鎮め、汗を出して熱を下げる作用があるといわれている[17]。ニラに含まれるアリシンは、血液を固まりにくくする働きもあり、血栓ができにくくし、脳や心臓の血管が詰まるという致命的な病気のリスクを下げる効果が期待できる[9]

身体を温める薬草[4]、茎葉を採取して陰干しにしておいたものが韮白(きゅうはく)といって、健胃、下痢止め、滋養強壮に役立つとされる[17]。生葉は韮菜(きゅうさい)ともよんでいる[4]。また、9月ころ花が終わって自然落下する前の種子を採取して日干しにしたものが生薬となり、韮子(きゅうし)と呼んで[17]、腰痛、遺精、頻尿に用い[4]、賛育丹などに配合される。

民間療法では、韮白を1日量10グラム、水600 ccで半量になるまで煎じて、食間に3回に分けて服用する用法が知られる[17]。生の茎葉を汁物や味噌和え、粥や雑炊などに入れてふつうに食べても同様の効果が期待できる[17]。風邪の初期には、茎葉を細かく刻んでそばやうどんの薬味ににして食べてすぐ就寝すると、汗を出して熱を下げる発汗解熱の効果がある[17]。下痢や頻尿のときは、乾燥した韮子(種子)を1日量3 - 10グラム、水400 - 600 ccで煎じて食間3回に分けて服用すると良いといわれている[17][4]。足や腰を温めるため、頻尿や夜間尿に効果があり、尿漏れやインポテンツにもよく、しゃっくりを治すといわれている[4]。ただし、手足がほてる人や、顔がのぼせやすい人へは、服用禁忌とされる[4]

切り傷や擦り傷には、生葉や鱗茎を細かくちぎって手でもみ潰して患部につけると、止血の効果がある[17]

注意点編集

形状や色がよく似たスイセンの葉をニラと間違えて食べ、中毒になった例がある[18]

タマネギと同様にイヌネコなどの動物が食べた場合には、アリルプロピルジスルファイドによって血液中の赤血球が破壊され、血尿、下痢、嘔吐、発熱を引き起こすことがある[19]

文化編集

「韮」は季語である。ただし、「韮の花」はの季語である。

和名に「ニラ」を含む種編集

ネギ亜科の別属にも、和名に「ニラ」を含むものがあるが、本種とは近縁ではない。

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ 中国では一般の餃子にはニラを混ぜ入れることは少なく[13]、ニラを使う物は「韭菜餃子」と称して区別される。

出典編集

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Allium tuberosum Rottler ex Spreng.”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2012年7月8日閲覧。
  2. ^ a b c "Allium tuberosum Rottler ex Spreng.". Tropicos. Missouri Botanical Garden. 18400121. 2012年7月8日閲覧
  3. ^ a b "Allium tuberosum Rottler ex Spreng" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2012年7月8日閲覧
  4. ^ a b c d e f g h i 貝津好孝 1995, p. 135.
  5. ^ 尚学図書(編)『日本方言大辞典』小学館、1989年。
  6. ^ チャイニーズ チャイヴ 2012, p. 40.
  7. ^ a b c d e f g h 田中孝治 1995, p. 200.
  8. ^ Blattner, FRANK R and Friesen, NIKOLAI (2006). “Relationship between Chinese chive (Allium tuberosum) and its putative progenitor A. ramosum as assessed by random amplified polymorphic DNA (RAPD)”. Documenting domestication: new genetic and archaeological paradigms. Univ California Press, Berkeley: 134-142. 
  9. ^ a b c d e f g h 講談社編 2013, p. 23.
  10. ^ a b c d e f g h i j 主婦の友社編 2011, p. 141.
  11. ^ a b c d e f 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 40.
  12. ^ a b c d e f g h i 主婦の友社編 2011, p. 140.
  13. ^ 江獻珠『中國點心製作圖解』萬里機構・飲食天地出版社、1994年。中国、香港の点心の作り方を示す書籍にニラをまぜる記述がない。日本の料理書でも、第二次世界大戦前のものにニラを使う記述はない。
  14. ^ 青山企画(編)『中国料理百科事典』同朋舎出版、京都、1988年、p. 41。
  15. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  16. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)
  17. ^ a b c d e f g h i j 田中孝治 1995, p. 201.
  18. ^ “スイセンをニラと間違えて食べてしまったら… そっくりの有毒植物にご注意を! イヌサフランなど死亡例も…”. 産経ニュース (産経新聞社〈産経デジタル〉). (2016年4月23日). オリジナルの2016年4月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160426094156/http://www.sankei.com/premium/news/160423/prm1604230019-n1.html 
  19. ^ 飼い主のためのペットフード・ガイドライン 環境省、2020年4月29日閲覧。

参考文献編集

  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、40頁。ISBN 978-4-415-30997-2
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、135135頁。ISBN 4-09-208016-6
  • 講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、23頁。ISBN 978-4-06-218342-0
  • 主婦の友社編『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、140 - 141頁。ISBN 978-4-07-273608-1
  • 田中孝治 『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』 講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、200 - 201頁。ISBN 4-06-195372-9 

関連項目編集