バセット・クラリネット英語: Basset clarinet, ドイツ語: Bassettklarinette, フランス語: Clarinette de basset)は、クラリネット属の楽器の一種。クラリネットの低音域を記音(C3[1])もしくはさらにその半音下(B2[2])まで拡張した楽器である。

バセットホルン、バセットクラリネット、クラリネット

概要 編集

 
ベルを上向きにしたモダン式バセットクラリネット

クラリネットの低音域を記音(C3)もしくはさらにその半音下の(B2)[注釈 1]まで拡張した楽器である。これをもちいることで、モーツァルトクラリネット協奏曲 K. 622五重奏曲 K. 581に記譜したと考えられている最低音まで演奏できる。初演当時の楽器は現存していないが、モーツァルトの協奏曲の初演者であるアントン・シュタードラーが演奏した18世紀末に開催されたコンサートのプログラムが1992年に発見され、そこに楽器の挿絵があったことから、奇妙な形のベルを伴った姿がほぼ当時のまま再現された。ただし現代のバセットクラリネットの形状は右図の写真のように通常のクラリネットの下管を長くし、キーが増設されたものである。

2006年の生誕250年には、モーツァルトの協奏曲の形式と演奏時間だけを模した現代音楽の作曲コンクールがオーストリア、ザルツカンマーグートの「モーツァルト・フェスティバル」で開かれた[3]

「テナー・クラリネット」と呼ばれることがまれにあるが誤りである。これはトルコの伝統音楽で使用されるG管クラリネットとしばしば混同されるためである。

演奏上の問題点 編集

 
A管バセットクラリネットの記音の音域
 
A管バセットクラリネットの実音の音域

復元後、ピリオドとモダンを問わずモーツァルトの協奏曲を演奏する際には多くの奏者がバセットクラリネットを用いる[注釈 2]ようになり、この曲を演奏するためには欠くべからざるものになっている。しかしながら、B2を備えたバセットクラリネットをモーツァルトの協奏曲のためだけに揃えなければならない出費の問題は解決されておらず、教育の現場では今でも通常のA管クラリネットで演奏されている。

五重奏曲 K. 581においてもこの楽器を用いる奏者が徐々に増えている。これらはA管である。

音域は一応4オクターブとされているが、奏者次第ではオーバーブローを用いて4オクターブの半音上の変ロ(記譜では変ニ)が発音できることが知られている。

一方、モーツァルトのオペラ『皇帝ティートの慈悲』の第9曲 セストの長大なアリア「私は行く」ではB管のバセットクラリネットのオブリガートが大活躍する。普通のB管クラリネットで吹ける楽譜が普及しているが、最近ではB管のバセットクラリネットで原曲通りに演奏することも行われるようになっている。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ モーツァルトのクラリネット協奏曲の第3楽章の147小節に出現する。
  2. ^ モーツァルトの協奏曲や五重奏曲に用いられる最低音域について、正確な情報が出回っていなかった時代、各種メーカーは最低音を記音C3にして制作した。しかし、記音B2が必要であることがわかっても急遽B2用のアタッチメントを準備することは難しかった。そのため、Stephen Fox Clarinetsなどの個人メーカーは既成のビュッフェ・クランポンからの改造を引き受けている。[要出典]

出典 編集

  1. ^ prestige-basset”. www.buffet-crampon.com. www.buffet-crampon.com. 2023年2月8日閲覧。
  2. ^ Basset_clarinet”. www.sfoxclarinets.com. www.sfoxclarinets.com. 2023年2月8日閲覧。
  3. ^ Japaner gewinnt Mozartfestival-Kompositionswettbewerb”. www.openpr.de. www.openpr.de (2006年8月16日). 2021年8月25日閲覧。

外部リンク 編集

映像外部リンク
バセットクラリネット
  What Is A Basset Clarinet? | Discover Instruments - マーク・ヴァン・デ・ヴィール 英語版による演奏と解説、Classic FM公式YouTube