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バタリーケージ養鶏場

バタリーケージ: Battery cages )とは、近年の採卵養鶏業で使用されている鶏の飼養システムの一つである。「バタリー」の語源は「一連の一つの装置」の意からきており、バタリーケージとはワイヤーでできたケージを連ねて幾段にも重ね、その中に鶏を収容する近代式の集約飼育方式のことである。

バタリーケージは従来型ケージ(conventional cage)とも呼ばれる。 他の動物にも同様のケージシステムが使用されることがあるが、ここでは採卵鶏のバタリーケージについて言及する。

目次

概要編集

現代の工場型畜産を代表する家畜飼育システムのひとつである。一羽当たりの飼育面積は省スペースで設定されており、日本の一般的な飼育密度は1羽あたり370㎠以上430㎠未満程度である[1]。四方と床、天井は金網で囲まれており、前面に飼槽、自動給水器(ニップル)が設置されている。卵が転がりやすいよう床には傾斜が設けられている。

バタリーケージシステムには卵の生産性を上げるというメリットがあるが、いっぽうで飼育面積は羽を広げるに満たず、巣・砂場・止まり木といった鶏の習性上必要な素材が設置されていないため、鶏は自然な行動の発現ができず、行動は極端に制限される。

バタリーケージは採卵鶏の飼養方法として世界的に主流な採卵鶏の飼養方法ではあるが、動物の権利動物福祉の観点から論争が起こっており、ヨーロッパやアメリカの一部の州、オーストラリアなどでは平飼いや放牧システムが増えつつある[2]

歴史編集

バタリーケージに関する初期の記述は1931年のMilton Arndtの著書「Battery Brooding」[3]に見られる。この中で鶏のケージ飼育は生産性が高いと記述されている。日本において1953年ごろ、バタリー飼育が普及し始めたころは木材や竹製のものであったが、1955年ごろから針金製のバタリーケージが米国から導入され、1966年頃には1000羽以上を飼育する養鶏の9割がバタリーケージ飼育方式をとるようになった[4]

動物愛護上の問題点編集

鶏には、巣の中で卵を産む、地面をクチバシでつつき、爪で土を掻きエサを探す、砂浴びをする、という強い行動欲求がある[5][要文献特定詳細情報]。しかしそれらの欲求はバタリーケージの中では実行不能なため、鶏に多大なストレスを与える[6][要文献特定詳細情報]

鶏は、止まり木に止まるための高いモチベーションを有しており、夜中にはほぼ全てのニワトリが止まり木で睡眠する。また巣作りのモチベーションも高く、不快の発声(Gakel-call)や心拍数などからバタリーケージでは巣箱がないことで欲求不満状態にあり、巣箱が無いことへの適応は困難である。砂浴びについても欲求が高く、砂浴びの真似事はするものの「砂浴び様行動」では砂浴びの機能が充足されない。また、砂浴び場は、砂浴びのためだけでなく探査行動の発現においても重要である。これらのことから、バタリーケージは行動学的に、多くの福祉上の問題があるとされている[7]

バタリーケージは疾病や怪我の要因にもなっている。高い卵の生産性に特化した品種改変は鶏に必要なカルシウムまでが卵殻形成に排出される結果となり[8]バタリーケージ内での運動不足と相まって、バタリーケージで飼養される鶏の骨粗しょう症率は高い[9]。また、バタリーケージでは床面が金網のため、鶏の足および爪の損傷が頻繁で、足は病変、亀裂および角質が増殖し、爪は過度に伸びて捻れたり破損したりする[10]。足の裏の損傷は、ケージ床の金網による局所的圧力によって引き起こされる[11]。金網は羽毛の摩耗にも繋がる[12]

2008年1月8日、欧州委員会は、バタリーケージによる採卵鶏の飼養の禁止が、鳥の健康や動物福祉の改善につながるとする報告書を公表した[13]

諸外国における採卵鶏のバタリーケージ規制編集

1999年にバタリーケージの使用禁止が決定になり、2012年から施行された[14]
カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ミシガン州、オハイオ州、オレゴン州、ワシントン州がバタリーケージの廃止を決定している[15]
オーストラリア首都特別地域でバタリーケージの使用が禁止[16]
採卵鶏の動物福祉基準[17][要文献特定詳細情報] の中で2022年までにバタリーケージを廃止することを明記。
2016年、1000以上の卵農家からなる団体EFG(Egg Farmers of Canada)はバタリーケージからエンリッチドケージや放牧へ移行すると発表。2017年には鶏の行動規範(CODE OF PRACTICE)[18]のなかで、採卵鶏の飼養要件として2036年までにバタリーケージを完全に廃止することと、卵産業が15年以内にバタリーケージの大半を廃止することを明記した。またこのCODE OF PRACTICEの内容は2017年の時点でカナダにはバタリーケージが新設されないことを意味している。
動物福祉委員会が、全ての州政府に対し、バタリーケージの使用禁止と2017年までの段階的な廃止を勧告[19]

日本におけるバタリーケージ使用率編集

日本ではバタリーケージの使用に規制はなく、2014年時点で92%がバタリーケージ飼育である[1]

脚注編集

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  1. ^ a b 畜産技術協会・資料の「飼養実態アンケート調査報告書」中の「採卵鶏」(PDF)、2014年。平成26年度国産畜産物安心確保等支援事業。
  2. ^ Leenstra, F.; Ten Napel, J.; Visscher, J.; Van Sambeek, F. (2016). “Layer breeding programmes in changing production environments: a historic perspective”. World's Poultry Science Journal 72 (1): 21–36. doi:10.1017/S0043933915002743. 
  3. ^ Arndt, Milton (1931) (2nd ed.). Orange Judd Publishing. p. 308–312. 
  4. ^ 佐藤剛史、早瀬憲太郎『金の卵―ニワトリへの愛情が黄金ビジネスを生む!』築地書館、2010年。ISBN 978-4-8067-1405-7
  5. ^ European Commission:Scientific Veterinary Committee, Animal Welfare Section. Report on the welfare of laying hens. 30 October 1996. Brussels, Belgium.  Rollin BE. 1995. Farm Animal Welfare: Social, Bioethical, and Research Issues (Ames, Iowa: Iowa State Press, p. 120)
  6. ^ European Food Safety Authority: Panel on Animal and Welfare. Scientific report on welfare aspects of various systems for keeping laying hens. Annex to The EFSA Journal (2005) 197.
  7. ^ アニマルウェルフェアに対応した家畜の飼養管理に関する検討会 平成19年度 資料の「飼養実態アンケート調査報告書」中の「諸外国の基準の基となっている採卵鶏の科学的知見」(PDF)、畜産技術協会、2014年。
  8. ^ Opinion on Osteoporosis and Bone Fractures in Laying Hens (PDF)”. Farm Animal Welfare Council (2010年). 2019年8月10日閲覧。
  9. ^ Selam Meseret (2016-12). “A review of poultry welfare in conventional production system”. Livestock Research for Rural Development 28 (234). https://www.researchgate.net/publication/311321712_A_review_of_poultry_welfare_in_conventional_production_system. 
  10. ^ Tauson, R. (1980). Cages: How could They be Improved?. pp. 269–304. doi:10.1007/978-94-009-8922-1_15.  in Moss, R. Ed. The Laying Hen and its Environment. doi:10.1007/978-94-009-8922-1. ISBN 978-94-009-8924-5.  Martinus Nijhoff, The Hague.
  11. ^ Appleby M.(1991) Do hens suffer in battery cages? The Athene Trust. http://www.ciwf.org.uk/includes/documents/cm_docs/2008/d/do_hens_suffer_in_battery_cages_1991.pdf (リンク切れ?)
  12. ^ McLean KA, Baxter MR, and Michie W. (1986). “A comparison of the welfare of laying hens in battery cages and in a perchery”. Research and Development in Agriculture 3 (2): 93-8. 
  13. ^ 和田剛 (20081-17). “欧州委、バタリーケージによる採卵鶏飼養の禁止は有益との報告書を公表”. 農畜産業振興機構. 2019年8月10日閲覧。
  14. ^ European Union Council Directive 1999/74/EC
  15. ^ 井川真一 (2017). “畜産の情報-海外情報 消費者の求める需要に対して揺れる米国の畜産業界”. 畜産の情報 2017年11月号. https://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2017/nov/wrepo01.htm 2019年8月10日閲覧。. 
  16. ^ ACT bans battery cages and sow stalls”. Parliament of Australia (2014年2月26日). 2019年8月10日閲覧。 オーストラリア議会
  17. ^ Layer Hens Animal Welfare (Layer Hens) Code of Welfare 2012 - A code of welfare issued under the Animal Welfare Act 1999 - 6 December 2012
  18. ^ (PDF) Code of Practice - For the Care and Handling of Hatching Eggs, Breeders, Chickens, and Turkeys. (2016). ISBN 978-0-9936189-8-7. http://www.nfacc.ca/pdfs/codes/poultry_code_EN.pdf 2019年8月10日閲覧。. 
  19. ^ Hope for Hens: India Agrees That Battery Cages Are Illegal”. Humane Society International (2013-5-1日). 2019年8月10日閲覧。

関連項目編集