バンツー血鉄症(バンツーけつてつしょう、英語、Bantu siderosis)とは、鉄過剰負荷(鉄過負荷とも言う)がかかったことによって発症する鉄蓄積症である。患者はアフリカ大陸サハラ沙漠以南に見られた。

概要 編集

鉄蓄積症には、遺伝的な原因で体内に鉄を蓄積しやすいことで発生する遺伝性鉄蓄積症の他に、何らかの原因で体内に鉄が過剰に吸収されたことによって発生する環境が原因の鉄蓄積症が存在する。バンツー血鉄症は遺伝的な問題で起こる病気ではなく、後者の理由で発生する鉄蓄積症の1種であり、鉄製の容器の中で醸造したを大量に飲用したことによって生じた体内の鉄過剰によって引き起こされる [1]

つまり、単純に食習慣(飲酒習慣)の問題によって鉄を過剰に摂取し続け、それを吸収し続けたことによって発生した鉄過剰負荷による鉄蓄積症である。ヒトの体内からは代謝に伴って毎日微量の鉄が体外へと失われてゆくものの、ヒトには一旦体内に吸収した鉄を能動的に体外に捨てる仕組みが備わっていない [1]

このため、鉄を過剰に摂取し続けた場合、いずれ体内の鉄が過剰となってゆく。ヒトでは体内の鉄の蓄積量が約20 gを超えてくると、鉄によって発生する活性酸素種による障害や、鉄とDNAとが直接反応することによる障害が起こり、生体にダメージを与えるとされている [1]

この状態で生体が被る障害は可逆的であるものの、さらに鉄の蓄積が進行すれば不可逆的なダメージを生体は負う [2]

例えば、生体組織への鉄沈着が起こり、酷い場合は、肝細胞が障害されて肝硬変が発生したり、膵臓が繊維化してインスリンが作れなくなって糖尿病になったり、心筋などが障害されてゆく。なお、あくまで鉄の吸収能力が充分であればの話であるものの、バンツー血鉄症の発症原因から明らかなように、別に鉄製容器の中で作った醸造酒を大量に飲用し続けなくとも、何らかの方法で鉄の過剰摂取を長期間にわたって続ければ、全く同じ状況に陥り得る。例えば、鉄欠乏状態になく、かつ、鉄の吸収能力が正常なヒトが鉄剤を長期間にわたって服用し続けた場合などである [注釈 1]

バンツー血鉄症は鉄の過剰摂取を続けたことによって起こったものであり、既述の通り、鉄の過剰はヒトの身体に悪影響を及ぼす。しかし、鉄はヒトにとって必須の元素でもあり、逆に鉄の摂取不足が続けば、今度は鉄欠乏性貧血を始めとする鉄不足を原因とする疾病が発生する。したがって、あくまで適正な鉄の摂取が求められる。

治療 編集

バンツー血鉄症を早期に発見して、生体に不可逆的なダメージが生じていなければ、体内の鉄を強制的に除去する治療を施すことで回復する。例えば、瀉血することによって赤血球など血中に含まれる鉄を捨てる方法、デフェロキサミンのような鉄をキレートする製剤を投与して腎臓からの鉄の排泄を促す方法などがある。また、バンツー血鉄症の発症原因が単なる鉄の過剰摂取に過ぎないことからも明らかなように、生体に悪影響の出ない程度の鉄の蓄積であれば、ヒトの体内からは代謝に伴って毎日微量の鉄が体外へと失われてゆくため、一時的に鉄の摂取量を制限することで体内の鉄が適正な量になるようにすることも可能である。しかし、逆に更なる鉄の蓄積が続けば生体は不可逆的なダメージを負い得る [2]

したがって、不可逆的な組織障害が起こる前に、体内への鉄の過剰蓄積を発見して治療することが望ましい。なお、幸いなことに血液検査を実施すれば、血清鉄や血中のフェリチンが異常高値を示しているなどといったことによって、体内に鉄が過剰に蓄積していることを、不可逆的な組織障害が発生するよりもずっと早期に発見することが可能である [2]

関連項目 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 鉄欠乏状態にないヒトに対する高用量鉄剤の投与は、鉄の過剰を引き起こす可能性があるために禁忌とされている。(フマル酸第一鉄カプセルなどを参照のこと)。

出典 編集

  1. ^ a b c Vinay Kumar、Ramzi S. Cotran、Stanley L. Robbins 編集、森 亘、桶田 理喜 監訳 『ロビンス基礎病理学(第7版)』 p.768 廣川書店 2004年9月1日発行 ISBN 4-567-50307-4
  2. ^ a b c Vinay Kumar、Ramzi S. Cotran、Stanley L. Robbins 編集、森 亘、桶田 理喜 監訳 『ロビンス基礎病理学(第7版)』 p.769 廣川書店 2004年9月1日発行 ISBN 4-567-50307-4