パターンダイヤ
パターンダイヤとは、列車やバスなどの公共交通機関が、一定の間隔で周期的に運行されるダイヤグラムのことをいう。パターンダイヤの周期がn分であるとき、時間の間隔を取ってn分サイクル、n分パターン、n分ヘッドのように呼ぶ[1]。nは多くの場合、10, 12, 15, 20, 30といった60の約数である[2]。また、1パターンの中の同じ列車でもサイクルにより行先、停車駅が違う場合もあるが、これも停車駅、運転間隔が等しければ同じとして扱うことが多い[3]。さらに、一部の列車の時刻が1 - 2分ズレていたりといった軽微な違いは無視してn分サイクルと呼ぶ場合も多い。
パターンダイヤの利用編集
鉄道におけるパターンダイヤは日中時間帯や夕ラッシュ時への導入が進んでおり、これまでパターンダイヤではなかった路線でもダイヤ改正によってパターン化が図られることもある。また線路容量や停車駅、最高速度の違いなどの関係でパターンダイヤを設定できない場合でも、発駅時刻などをパターン化することにより利便性の向上に努めている場合もある。
利点編集
ダイヤサイクルを60の約数にすることで毎時の発車時刻が同じになり、利用者にとっては記憶しやすく時刻表の確認が不要なダイヤとなる。これによって、利便性の向上や、利用客の増加といった効果を期待することができる。フリークエントサービスを指す場合、高度に周期的なダイヤを設定することを指す場合が多い(日本語の「頻繁運転」と同義。なお「頻繁」の英訳語が「frequent」である)。
この利点を活かして、周期的な列車やバスの接続を考慮してパターンダイヤが組まれることもある。交通結節点(ハブ)において、例えば、毎時00分、30分前後に各方面からの列車が集中して発着するようにし、相互に短時間で乗り換えができるようにするといった事例である。日本では、例えば2017年時点の東武鉄道館林駅下りのダイヤにおいて、昼間は毎時52分前後に、特急りょうもう、伊勢崎線久喜始発の普通、伊勢崎線太田行きの普通、佐野線葛生行きの普通、小泉線西小泉行きの普通のそれぞれが、短時間で円滑に乗り換えられるダイヤが組まれている。
問題点編集
全ての列車を等間隔で発着させるためには、車両の新旧を問わず、同じダイヤサイクルの同じ列車では同じ運転曲線で走らせて平行ダイヤとする必要がある。そのため、既存路線に高性能車両を仮に導入した場合でも、加減速度や最高速度が低い車両が1編成でも運用されている限り、高性能車両も加減速度や最高速度が低い車両に合わせて運転することとなる(ただし、ダイヤ乱れ時の回復運転などの場合はダイヤに反映されない過剰な性能も生かすことができる。)[4]。また、短いダイヤサイクルは分かりやすい反面、路線の細かな実情に合わせたダイヤを組むことが難しくなる場合がある[5]。
具体的な事例編集
日本編集
- JR東海道新幹線、山陽新幹線(60分パターン)
- かつてのエル特急に相当する特急(原則60分パターン)
- JR宇都宮線、高崎線、中央本線 (60分パターン)
- 名古屋周辺のJR東海道本線 (30分パターン)
- 近畿日本鉄道の名阪特急 (停車駅最小限の始発駅毎時00分発甲特急と主要駅停車の同毎時30分発乙特急交互の30分パターン)
- JR瀬戸大橋線の快速マリンライナー (30分パターン)
- JR牟岐線の徳島 - 阿南間 (30分パターン)
- JR京都線、JR神戸線、JR東西線(15分パターン)
ただし、パターンダイヤでも60の約数でない場合は、毎時の分が一定しない。例えば40分間隔運転の場合は2時間で3サイクルのため、1時間では周期性があるとは言い難い(例:京急空港線・都営浅草線・京成成田スカイアクセス線直通のエアポート快特・アクセス特急、アルピコ交通上高地線、養老鉄道養老線の一部区間)。また、都市鉄道では時刻のパターンよりも等間隔と本数を優先して、8分などの周期を組む(大阪市高速電気軌道(Osaka Metro)御堂筋線の新大阪駅 - 天王寺駅間を除く区間、北大阪急行電鉄南北線、愛知高速交通東部丘陵線(リニモ)のそれぞれ日中ダイヤなど)場合もある。また、近鉄のように、特急列車と急行列車以下でサイクルパターンが異なったものを組み合わせたものもある(この場合は、待避などで途中駅からはダイヤパターンが崩れることが多い)。
線路容量や行き違い設備等の都合により、半端な数でのパターンが組まれることがある。とさでん交通伊野線の日中ダイヤでは、単線区間である鏡川橋 - 伊野間が21分間隔の運転となっており、毎時の分が一定していない[6]。愛知環状鉄道線では、2008年のダイヤ改正によって、日中から夜間にかけて20分毎に運行し[7]、毎時の分が一定していた[8]が、その後の増発の際は15分間隔とすることができず、2018年改正のダイヤでは、ほぼ終日に渡って16分間隔(JR中央本線直通列車及びシャトル列車を除く)の運行で分がずれている[9][11]。
前述の通り、ダイヤの周期性を優先すると必ずしも旅客の動向に対し適切な本数の列車が運行されるとは限らなくなるが、一方で旅客にとっては利用しやすくなるというメリットがある。そこで列車本数の多い大都市圏を中心に、特に複数の列車種別を運行する路線ではダイヤに周期性を持たせる事例が多くなってきている。このようなダイヤは日中に採用されることが多いが、利用客数の変化に応じて、1日の中で異なる周期を組み合わせることも多い。
また、阪神本線と山陽電気鉄道本線、近鉄南大阪線と長野線のように乗り入れを行う路線同士が異なる周期(例の場合、いずれも日中では前者が10分サイクルで後者が15分サイクル)を持っていることもある。この場合、周期が変わる接続駅で一部列車が時間調整のためや、列車接続や乗務員の交代を兼ねて長時間停車を行ったり、同等種別の列車であっても途中でサイクルが変化する節目の前後区間の駅に追加停車を行うことにより、時間調整(ヘッド調整)をする場合がある。
ヨーロッパ編集
ヨーロッパでは、ドイツ、スイス、オランダ、ベルギー、オーストリアなどの鉄道に、全国規模でのパターンダイヤが構築されている。これらの国では、前述の交通結節点となる主要駅において、毎時ほぼ同じ時刻に、異系統優等列車同士の接続が行われている事例も多い。時間間隔は国によって異なるが、おおむね30分、60分、120分のいずれかとなっている。
脚注編集
- ^ ただし、各駅停車しか運行していない路線ではn分間隔という表記のほうが一般的である。
- ^ その他に、6分40秒間隔や7分30秒間隔などのダイヤもある。
- ^ 例えば、2017年時点での東急目黒線大岡山駅上りのダイヤでは、昼間は毎時0分、15分、30分、45分(15分サイクル)に西高島平・鳩ヶ谷・西高島平・浦和美園と行先の違う列車が順番に運転されていたが、白金高輪までは同じ路線を15分間隔で走っていた。また、同じく2017年時点での京王線高幡不動駅上りのダイヤでは、昼間は毎時0分、10分、20分、30分、40分、50分(10分サイクル)に特急、準特急が交互に運転されるが、調布までは同じ停車駅に停車して10分間隔で走る。
- ^ ただし名古屋鉄道のように優等種別に最高速度が低い車両を使用させないようにしている場合にはその限りではない。
- ^ 例えば、1時間あたり急行3本、普通5本の運転が最適な路線に15分サイクルのダイヤを導入する場合、1時間あたり4の倍数の本数しか列車を設定できないため、例えば1時間あたり急行4本、普通4本といった急行が多すぎる反面、普通が少なすぎるダイヤとなってしまう。
- ^ 21分サイクルは、2009年(平成21年)11月1日から2012年(平成24年)4月28日までの間の日中の相鉄本線でも見られた。神奈川東部方面線計画による工事の影響により、21分サイクルという非常に複雑なパターンダイヤになっており、列車の間隔も一定になっていなかった。
- ^ 愛知環状鉄道30年史編纂委員会『愛知環状鉄道の30年』愛知環状鉄道、2019年3月、138頁。
- ^ “愛知環状鉄道線時刻表(平成20年3月15日改正) (pdf)”. 愛知環状鉄道. 2008年10月10日時点のオリジナル[リンク切れ]よりアーカイブ。2019年6月9日閲覧。
- ^ “愛知環状鉄道線時刻表(平成30年3月17日改正) (pdf)”. 愛知環状鉄道. 2019年6月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月9日閲覧。
- ^ 『JR時刻表』第399号、弘済出版社、1996年7月、 304 - 305頁。
- ^ 16分サイクルは、JR東西線開業前の片町線(学研都市線)における夕ラッシュ時にも見られた[10]。