パンブデルリオン (Pambdelurion) は、グリーンランドシリウスパセット化石産地にて発見されたカンブリア紀の古生物の1属。Pambdelurion whittingtoni 1種のみによって知られ、解剖学的特徴から近縁のケリグマケラと共に、アノマロカリス類および節足動物に近縁と思われる「gilled lobopodians」(鰓のある葉足動物)の1つである[1]

パンブデルリオン
生息年代: Cambrian stage 3
20191112 Pambdelurion whittingtoni.png
パンブデルリオンの復元図
地質時代
カンブリア紀Cambrian Stage 3
分類
: 動物界 Animalia
上門 : 脱皮動物上門 Ecdysozoa
階級なし : 汎節足動物 Panarthropoda
葉足動物 "Lobopodia"
: (ステムグループ)[1]
節足動物門 Arthropoda
: (和訳なし) Dinocaridida
: パンブデルリオン属 Pambdelurion
学名
Pambdelurion
Budd 1997
タイプ種
Pambdelurion whittingtoni
Budd 1997

本属の奇妙な外見に因んで、属名 Pambdelurionギリシャ語の「pambdelyrion」(忌まわしい)に由来する。種小名 whittingtoni古生物学者ハリー・ウィッティントンHarry B. Whittington)に因んで名付けられた[1]

化石編集

パンブデルリオンはグリーンランドシリウス・パセット動物群の中でも普遍に見られる動物で、およそ300個の化石標本によって知られている[1]。なお、保存状態が良好な標本は僅かで[1]、特に体の後半部は保存されにくい[2]

形態編集

パンブデルリオンの化石

最大体長はおよそ50cmに及ぶと推測され[3]葉足動物にしてはかなり大型である。同じくシリウス・パセット動物群に属する近縁のケリグマケラのように、全身は柔軟で、頭部には大きな前部付属肢と、胴部には11対の鰭(ひれ)と脚を具えた動物である。

頭部編集

頭部の前端には3対の突起があり、左右には1対の大きな前部付属肢がある。前部付属肢は環状の筋に細分され、アノマロカリス類のもののように関節肢化しておらず、左右から嚙み合わせるような構造になる。内側には一連の突起が走り、先端の数本が長く伸びる。大きな口はアノマロカリス類のように、円状に並んだ歯に囲まれ、頭部の腹側に向かっているが、歯の形と大きさは均一で、アノマロカリス類ほどには特殊化していない[3]。従来の見解にを欠くとされてきたが、ケリグマケラの様な眼をもつとみる見解もある[4]

胴部編集

胴部の両側には11対の鰭と、その腹側に並んだ11対の葉足(葉足動物の様な脚)を持つ[1]。鰭は両側に向かって張り出し、後縁にはのような構造体をもつ[1]。この11対の発達な鰭以外にも、頭部の直後に備わるごく小さな鰭が一部の化石に見られる[1]。葉足は丈夫で常に上側の鰭に覆われ、50個以上の環状の筋に細分される[1]。化石での尾端の保存状態は悪く、おそらく単純の丸い突起であったと考えられる[1]

内部構造編集

消化器筋肉組織が確認される。消化管には体節に応じた数対の発達な消化腺が並んでいる。このような消化管は、メガディクティオンケリグマケラアノマロカリス類、およびイソキシスなど基盤的な真節足動物にも見られる[5]。胴部の筋肉は有爪動物のように連続的で、真節足動物のように体節で区切られることはない[2]。前部付属肢は外見上では発達であるものの、その基部に備わる筋肉は貧弱である。また、葉足に繋がる一連の発達な筋肉は見られるのに対して、その上側の鰭に繋がる筋肉は見当たらない[2]

生態編集

 
旧復元によるケリグマケラ(中心、赤)とパンブデルリオン(右上と右下、黄)
 
古虫動物を狩る遊泳性の捕食者として復元されたパンブデルリオン

パンブデルリオンの生態については、文献によって諸説に分かれる。

原記述および旧復元では、パンブデルリオンは集密した突起をもつ前部付属肢でプランクトンを摂る濾過摂食者と考えられてきた[1]が、発達な消化腺と鋭い歯にあることから、捕食者もしくは腐肉食者とみる見解がのちに取り上げられる[3][5]。しかしパンブデルリオンの前部付属肢は柔軟で、筋肉も貧弱であることから、これは捕食には不向きで、むしろ先端の長い突起で感覚に用いられるではないかという意見もある[2]。また、ケリグマケラアノマロカリス類を彷彿とさせる鰭にあることから、パンブデルリオンはこれらの動物と同様に遊泳能力をもつと考えられてきた[5]。しかしこの鰭に繋がる筋肉は見当たらないことから、パンブデルリオンはむしろ底生性で、その鰭は表面の鰓で呼吸に用いられ、遊泳には不向きである可能性が挙げられる[2]


分類編集

汎節足動物

有爪動物

緩歩動物

様々な葉足動物側系統群

シベリオン類

パンブデルリオン

ケリグマケラ

オパビニア

アノマロカリス類

節足動物

節足動物の初期系統を中心とし、簡略化された汎節足動物の内部系統関係。

同様に「gilled lobopodians」(鰓のある葉足動物)と呼ばれるケリグマケラオパビニアと同様、パンブデルリオンはアノマロカリス類に近縁で、節足動物のステムグループ(初期脇道系統)に位置する基盤的な節足動物Dinocaridida類の1つであると考えられており、節足動物は葉足動物に起源であることを示唆する古生物である[1][6][7]。この類縁関係は、前部付属肢と鰭を有し[8]、節足動物の二叉型付属肢の起源を示唆する鰭と葉足からなる付属肢構成[9]、および基盤的な真節足動物らしい消化腺[5]などの証拠によって支持されている。

一連の輪状の歯のみによって知られ、かつて鰓曳動物とされてきたOmnidens 属については、のちにパンブデルリオンの歯に似通うことが判明した。そこでOmnidens は鰓曳動物ではなく、むしろパンブデルリオンのようなgilled lobopodiansではないかという説が挙げられる。もしこの見解は正しいであれば、Omnidens は全長2メートルにも及ぶほど巨大なgilled lobopodiansとなる[3]

参考文献編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k l Budd, G. E. (1998). “11. Stem group arthropods from the Lower Cambrian Sirius Passet fauna of North Greenland”. Arthropod relationships. ISBN 978-0-412-75420-3. https://books.google.com/books?id=Pj-q9eHyIx0C&pg=PA125. 
  2. ^ a b c d e Young, Fletcher J.; Vinther, Jakob (2017). “Onychophoran-like myoanatomy of the Cambrian gilled lobopodian Pambdelurion whittingtoni” (英語). Palaeontology 60 (1): 27–54. doi:10.1111/pala.12269. ISSN 1475-4983. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/pala.12269. 
  3. ^ a b c d Vinther, Jakob; Porras, Luis; Young, Fletcher; Budd, Graham; Edgecombe, Gregory (2016-09-01). “The mouth apparatus of the Cambrian gilled lobopodian Pambdelurion whittingtoni”. Palaeontology. doi:10.1111/pala.12256. https://www.researchgate.net/publication/309090813_The_mouth_apparatus_of_the_Cambrian_gilled_lobopodian_Pambdelurion_whittingtoni?enrichId=rgreq-3d7f91e6fea926acba602217aa1f0b26-XXX&enrichSource=Y292ZXJQYWdlOzMwOTA5MDgxMztBUzo2MTgwNDAwNjQ0OTU2MTdAMTUyNDM2MzY0MjgwNw==&el=1_x_3&_esc=publicationCoverPdf. 
  4. ^ Fleming, James F.; Kristensen, Reinhardt Møbjerg; Sørensen, Martin Vinther; Park, Tae-Yoon S.; Arakawa, Kazuharu; Blaxter, Mark; Rebecchi, Lorena; Guidetti, Roberto et al. (2018-12-05). “Molecular palaeontology illuminates the evolution of ecdysozoan vision”. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences 285 (1892): 20182180. doi:10.1098/rspb.2018.2180. PMC: PMC6283943. PMID 30518575. https://royalsocietypublishing.org/doi/full/10.1098/rspb.2018.2180. 
  5. ^ a b c d Vannier, Jean; Liu, Jianni; Lerosey-Aubril, Rudy; Vinther, Jakob; Daley, Allison C. (2014-05-02). “Sophisticated digestive systems in early arthropods” (英語). Nature Communications 5 (1): 1–9. doi:10.1038/ncomms4641. ISSN 2041-1723. https://www.nature.com/articles/ncomms4641. 
  6. ^ Ortega‐Hernández, Javier (2016). “Making sense of ‘lower’ and ‘upper’ stem-group Euarthropoda, with comments on the strict use of the name Arthropoda von Siebold, 1848” (英語). Biological Reviews 91 (1): 255–273. doi:10.1111/brv.12168. ISSN 1469-185X. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/abs/10.1111/brv.12168. 
  7. ^ Daley, Allison C.; Antcliffe, Jonathan B.; Drage, Harriet B.; Pates, Stephen (2018-05-22). “Early fossil record of Euarthropoda and the Cambrian Explosion” (英語). Proceedings of the National Academy of Sciences 115 (21): 5323–5331. doi:10.1073/pnas.1719962115. ISSN 0027-8424. PMID 29784780. https://www.pnas.org/content/115/21/5323. 
  8. ^ Ortega-Hernández, Javier; Janssen, Ralf; Budd, Graham E. (2017-05-01). “Origin and evolution of the panarthropod head – A palaeobiological and developmental perspective”. Arthropod Structure & Development 46 (3): 354–379. doi:10.1016/j.asd.2016.10.011. ISSN 1467-8039. http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1467803916301669. 
  9. ^ Van Roy, Peter; Daley, Allison C.; Briggs, Derek E. G. (2015-06). “Anomalocaridid trunk limb homology revealed by a giant filter-feeder with paired flaps” (英語). Nature 522 (7554): 77–80. doi:10.1038/nature14256. ISSN 1476-4687. https://www.nature.com/articles/nature14256. 

関連項目編集