ビットコインのスケーラビリティ問題

1ヶ月あたりの取引数
未使用のビットコイン取引出力(ビットコイン残高)

ビットコインのスケーラビリティ問題とは、ビットコインにおけるブロックチェーンのブロックサイズが1メガバイト(MB)に制限されている結果起きている問題である[1] 。1MBよりも大きいブロックは無効なものとして自動的にネットワークから排除される[2]。ビットコインブロックは、最後のブロックが作成されてからビットコインネットワーク上で取引を処理する[3]:ch. 2 これにより、1秒間に3~4取引(理論上は最大7取引)を処理できるようになっている[4]

1MBの制限はビットコインにおいてボトルネックを生じさせ結果として取引手数料の上昇と一つのブロックに収まらない取引の処理が遅延した[5] 。ビットコインの規模をどのように拡大するかについての様々な提案があり、論争となった。2017年にビジネスインサイダーはこの論争を「ビットコインの将来についてのイデオロギー的な戦い」と特徴づけた[6]

2017年7月21日、ビットコインのマイナーは「ビットコイン改善提案 (BIP) 91」と呼ばれるソフトウェアアップグレードをロックインしたことで、物議を醸した 「Segregated Witness」アップグレードはブロック 477120でアクティベートされ[7] 、数か月後の11月にブロックサイズの上限を2MBに上げられることになった[8]

目次

フォーク編集

ブロックチェーンにおけるフォークとは、ブロックチェーンが2つに分かれたときのことを指す。ビットコインネットワーク上のフォークは2人のマイナーがほぼ同時にブロックを見つけたときなどマイニングプロセスの一部として定期的に発生し、その結果ネットワークは一時的にフォークする。その後に後続のブロックが追加されより長いチェーンとなった方のブロックが有効となり、もう一方のブロックはネットワークにより孤立(破棄)されることでフォークは解消する。ブロックチェーンは、開発者が有効な取引を判断するために使用していたソフトウェアのルールを変更するときに意図的にフォークすることもできる[9][10]

ハードフォーク編集

「コインデスク」によればハードフォークは古いソフトウェアで有効とみなされない新しいブロックを作れるようになるルールの変更である[9]

「ビットコインXT」と「ビットコインクラシック」は両方ともブロックサイズの制限値を上昇させることを目的とした提案で、それらはコア開発者のエリック・ロンブロゾによってスケーラビリティを改善する手法として「ハードフォーク」と呼ばれた。しかしながら、両方の提案への支持は時間が経つにつれ落ちていった[11] 。「ビットコイン・アンリミテッド」もまたブロックサイズの制限を調節する提案であり、結果としてハードフォークとなる[6]

ネットワークの全参加者がフォークに従わない場合ハードフォークはネットワークを分割することができる[9]。例えばイーサリアム・クラシックは「The DAO」へのハッキング事件への対応が分かれたことでイーサリアムネットワークのハードフォークの結果として誕生した[12][13]

ソフトフォーク編集

ハードフォークとは対照的にソフトフォークは古いソフトウェアからも有効と認識されるブロックをつくるルール変更である 。ソフトフォークでも新ルールによってアップグレードされていないソフトウェアが作るブロックが有効なものとみなされなくなった時にネットワークを分割することが出来る[14]

「Segregated Witness」はソフトフォーク提案の一例である。ブロックストリームの共同創業者と開発者のピーター・ウィールは2015年12月にSegregated Witnessを提案した[15]。Segregated Witness (セグウィット)はビットコインソフトウェアの癖として知られているトランザクション展性の解決を目指したアップデートである[16] 。セグウィットは署名データを他の取引データから分離するシステムである。セグウィットはスケーリングの解決策として提案されてきており、2つの方法で影響を与えている。第1にCoinTeleraph(コインテレグラフ)はセグウィットのアクティベーション後すぐに約2MBの範囲で容量を拡大すると予測している(ビットコインの現在の1MB容量と比較して)[16]。第2に、トランザクション展性を解決することで、コインテレグラフはセグウィットでビットコインの上に新たなセカンドレイヤーを実装できるようになると考えている[16]

「ユーザーアクティベートソフトフォーク」 (UASF) はネットワークの計算力を提供するマイナーの支持を得ずにブロックチェーンのアップグレードを行おうとする物議を醸したアイディアである[9]

スケーリング提案編集

ビットコインをスケーリング(規模を拡大)する様々な提案が提出されている。2015年に、ジェフ・ガージックによって「BIP 100」(BIPは「Bitcoin Improvement Proposal(ビットコイン改善提案)」を意味する) が、ゲイビン・アンデルセンによって「BIP 101」が提案された[2]。2015年の中頃に一部企業がブロックサイズの上限を8MBにすることを支持していた[17]

  • ビットコインXT…ブロックサイズの上限を上げることで取引処理能力を向上するために2015年に提案された[18]
  • ビットコインクラシック…ブロックサイズの上限を上げることで取引処理能力を向上するために2016年に提案された[19]
  • 2016年に一部のマイナーと開発者の間で「香港協定」と呼ばれる合意が結ばれた。協定には2015年12月にビットコインコア開発者達により提案されたSegregated Witness (セグウィット)のアクティベーションとブロックサイズの上限を2MBにする両方のタイムテーブル(予定表)が含まれていた。しかしながら両者とも予定通りに進むことはなかった[20]
  • ビットコイン・アンリミテッド…マイナーが柔軟にブロックサイズの上限を上げる事への支持でマイニングプールのViaBTC、AntPool、投資家のロジャー・バー及びビットコイン・アンリミテッドの主任科学者のピーター・リズンによって支援された[21] 。ビットコイン・アンリミテッドはビットコインコアとは異なり、ブロックサイズの数値はハードコード(固定化)されておらず、むしろ「突発的コンセンサス」と呼ばれるアイデアを使用して、ノードとマイナーが上限値を設定できるようにしている[21]。ビットコインアンリミテッド提案の背後にいる人々は、マイナーのハードウェアがネットワークを保護するものであるため、マイナーはイデオロギー的観点からスケーリングの解決策を決定すべきだと主張している[22]
  • BIP148…「User Activated Soft Fork (UASF)」または「大衆の反乱」と呼ばれるこの提案は2017年8月1日に実行が計画されており、マイナーにセグウィットをアクティベートさせることを目指している[23]
  • 2017年5月、「デジタル・カレンシー・グループ」は「SegWit2x(セグウィット2x)」 (ニューヨーク協定)と呼ばれる提案を提出したと発表した[24] 。ビットコインの合計ハッシュレートの80%以上でセグウィットをアクティベートし、bit 4でシグナルし、6ヶ月以内にブロックサイズを2MBまで上げるというものであり、提案は既に合計ハッシュレートの80%以上の支持を得たと主張している[25]。2017年6月、セグウィット提案は米国特許商標庁に提出された特許を侵害している可能性があるという主張でさらに複雑化した[26]。2017年時点で、この提案はハッシュレートの90%以上の支持を得ていると報じられているが、このプロジェクトでの作業は招待者のみのグループに限られているという点で、議論になった[24]。2017年7月中旬、マイナーが2017年8月1日のUASFの実行前のSegWit2xの実装を支持し、ビットコインネットワークのハードフォークのリスクを回避しようと試みていることが明らかになった[27][28][29] 。7月21日にBIP 91はロックインされ、論争になったセグウィットのアップグレードはブロック 477120でアクティベートされた[7]。8月8日までにビットコインのマイニングプールの100%がセグウィットのサポートを通知したが、セグウィットは8月21日までは実施されない。ただしその後はマイナーはセグウィットをサポートしていないブロックの排除を始める[30]
  • ビットコインキャッシュ…ビットコインのブロックチェーンのハードフォーク、セグウィットに反対するビットコインのマイニングプール/通貨交換の「ViaBTC」などによって2017年8月1日に誕生し、ビットコインとはブロック 478559以降から分岐した[31][32] 。ハードフォークの後、ビットコインの所有者は所有量と同量のビットコインキャッシュを所持することになった[33] 。ビットコインキャッシュはブロックサイズの上限をセグウィットを導入せずに1MBから8MBに上げた[34] 。8月1日の夕方までにBCHの時価総額は暗号通貨で3位になった(ビットコインとイーサリアムに続く)[35]。多くの暗号通貨交換所は8月1日に備えて数日間一時的にサービスを停止した[36][37][38][39]

関連リンク編集

参考文献編集

  1. ^ Hayes, Adam (2016年10月18日). “The Three Major Bitcoin Protocols Explained”. Investopedia. http://www.investopedia.com/news/three-major-bitcoin-protocols-explained/ 2017年1月18日閲覧。 
  2. ^ a b Andrew Marshall (2017年3月2日). “Bitcoin Scaling Problem, Explained”. The Coin Telegraph. https://cointelegraph.com/explained/bitcoin-scaling-problem-explained 2017年7月4日閲覧。 
  3. ^ Andreas M. Antonopoulos (April 2014). Mastering Bitcoin. Unlocking Digital Crypto-Currencies. O'Reilly Media. ISBN 978-1-4493-7404-4. 
  4. ^ Bitcoin and Ethereum vs Visa and PayPal – Transactions per second
  5. ^ Jordan Pearson (2016年10月14日). “‘Bitcoin Unlimited’ Hopes to Save Bitcoin from Itself”. Vice Media LLC. http://motherboard.vice.com/read/bitcoin-unlimited-hopes-to-save-bitcoin-from-itself-block-size 2017年1月17日閲覧。 
  6. ^ a b Oscar Williams-Grut and Rob Price (2017年3月26日). “A Bitcoin civil war is threatening to tear the digital currency in 2 — here's what you need to know”. http://www.businessinsider.com/bitcoins-hard-fork-bitcoin-unlimited-segregated-witness-explained-2017-3 2017年7月2日閲覧。 
  7. ^ a b BIP 91 Locks In: What This Means for Bitcoin and Why It's Not Scaled Yet”. CoinDesk (2017年7月21日). 2017年7月21日閲覧。
  8. ^ “What Could Happen to Bitcoin? A Visual Guide to Scaling Outcomes”. (2017年7月18日). https://www.coindesk.com/happen-bitcoin-visual-guide-scaling-outcomes/ 2017年7月24日閲覧。 
  9. ^ a b c d Amy Castor (2017年3月27日). “A Short Guide to Bitcoin Forks”. http://www.coindesk.com/short-guide-bitcoin-forks-explained/ 2017年7月1日閲覧。 
  10. ^ ビットコインの「フォーク」とは
  11. ^ Alyssa Hertig (2017年5月24日). “Keep Calm and Bitcoin On? Developers Aren't Worrying About a Fork”. http://www.coindesk.com/bitcoin-on-developers-arent-worried-about-fork/ 2017年7月1日閲覧。 
  12. ^ “Exclusive: Grayscale launches digital-currency fund backed by Silver Lake’s co-founder Hutchins”. http://www.marketwatch.com/story/grayscale-launches-ethereum-classic-investment-trust-2017-04-26 2017年4月27日閲覧。 
  13. ^ Rejecting Today’s Hard Fork, the Ethereum Classic Project Continues on the Original Chain: Here's Why”. 2017年4月27日閲覧。
  14. ^ Soft Fork”. Investopedia. 2017年7月21日閲覧。
  15. ^ Corin Faife (2017年1月5日). “Will 2017 Bring an End to Bitcoin's Great Scaling Debate?”. http://www.coindesk.com/2016-bitcoin-protocol-block-size-debate/ 2017年7月4日閲覧。 
  16. ^ a b c Andrew Marshall (2017年4月20日). “SegWit, Explained”. https://cointelegraph.com/explained/segwit-explained 2017年7月1日閲覧。 
  17. ^ Evander Smart (2016年10月19日). “‘Why is My Bitcoin Transaction Taking So Long?’ Here’s Why”. https://cointelegraph.com/news/why-is-my-bitcoin-transaction-taking-so-long-heres-why 2017年7月4日閲覧。 
  18. ^ Alex Hern. “Bitcoin's forked: chief scientist launches alternative proposal for the currency”. the Guardian. 2015年8月20日閲覧。
  19. ^ “Making Sense of Bitcoin's Divisive Block Size Debate”. (2016年1月19日). http://www.coindesk.com/making-sense-block-size-debate-bitcoin/ 2017年6月22日閲覧。 
  20. ^ Pete Rizzo & Alyssa Hertig (2017年5月24日). “Bitcoin's New Scaling 'Agreement': The Reaction”. http://www.coindesk.com/bitcoins-new-scaling-agreement-reaction/ 2017年6月29日閲覧。 
  21. ^ a b Alyssa Hertig (2017年5月14日). “CoinDesk Explainer: The Bitcoin Unlimited Debate”. http://www.coindesk.com/coindesk-explainer-bitcoin-unlimited-debate/ 2017年6月29日閲覧。 
  22. ^ Pete Rizzo (2017年3月20日). “CoinDesk Explainer: Bitcoin Unlimited: Mining Power Should Determine Hard Fork”. http://www.coindesk.com/bitcoin-unlimited-mining-power-should-determine-hard-fork-outcome/ 2017年7月2日閲覧。 
  23. ^ Alyssa Hertig (2017年6月8日). “Bitcoin's 'Independence Day': Could Users Tip the Scales in the Scaling Debate?”. http://www.coindesk.com/bitcoins-independence-day-could-users-tip-the-scales-in-the-scaling-debate/ 2017年6月29日閲覧。 
  24. ^ a b Alyssa Hertig (2017年6月23日). “Top Secret? Bitcoin Scaling Plan Segwit2x Leaves More Questions Than Answers”. CoinDesk. http://www.coindesk.com/top-secret-bitcoin-scaling-plan-segwit2x-leaves-questions-answers/ 2017年6月29日閲覧。 
  25. ^ “Leading bitcoin ecosystem participants reach consensus on scaling issue”. Econo Times. (2017年5月25日). http://www.econotimes.com/Leading-bitcoin-ecosystem-participants-reach-consensus-on-scaling-issue-723854 2017年6月23日閲覧。 
  26. ^ “Segregated Witness and the Possibility of Patent Infringement”. Nigeria Times. (2017年6月3日). http://www.nigeriatoday.ng/2017/06/segregated-witness-and-the-possibility-of-patent-infringement/ 2017年6月23日閲覧。 
  27. ^ Dispute could mean financial panic in bitcoin”. Associated Press (2017年7月14日). 2017年7月19日閲覧。
  28. ^ Suddenly, Bitcoin Hard Fork Looks Unlikely As Chinese Exchange Readies For SegWit”. COINTELEGRAPH (2017年7月18日). 2017年7月18日閲覧。
  29. ^ CoinDesk Explainer: How BIP 91 Enacts SegWit While Avoiding a Bitcoin Split”. COINDESK (2017年7月18日). 2017年7月18日閲覧。
  30. ^ Bitmain Clarifies Its ‘Bitcoin Cash’ Fork Position”. CryptoCoinsNews (2017年7月25日). 2017年7月27日閲覧。
  31. ^ Bitmain Clarifies Its ‘Bitcoin Cash’ Fork Position”. CryptoCoinsNews (2017年7月25日). 2017年7月27日閲覧。
  32. ^ Some Bitcoin Backers Are Defecting to Create a Rival Currency”. The New York Times (2017年7月25日). 2017年7月28日閲覧。
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  37. ^ 13 Japanese Exchanges Agree to Suspend Bitcoin Service on August 1”. BITCOIN.COM (2017年7月18日). 2017年7月27日閲覧。
  38. ^ Our plans to handle potential BTC network disruptions”. POLONIEX (2017年7月24日). 2017年7月27日閲覧。
  39. ^ Bitcoin Hard Fork: Our Position”. Bitstamp (2017年7月27日). 2017年7月27日閲覧。

外部リンク編集