磁気テープ
磁気テープ(じきテープ)とは、粉末状の磁性体をテープ状のフィルムに、バインダー(接着剤)で塗布または蒸着した記録媒体で、磁化の変化により情報を記録・再生する磁気記録メディアの一分類である。
概説編集
用途によりオーディオ用、ビデオ用、データ/コンピュータ用などがある。また、オーディオやビデオ用にはアナログ記録方式とデジタル記録方式がある。記録容量に応じ、テープ幅や厚さ、1巻の大きさ(すなわちテープの長さ)のバラエティに富む。アメリカで発達したことからテープ幅をインチ、テープ長をフィートで呼ぶ習慣がある(日本企業を中心に規格化された8ミリビデオテープやDATなどの例外もある)。
日本の法令では、「磁気テープ(これに準ずる方法により一定の事項を確実に記録して置くことができる物を含む。以下同じ。)」[1]等として、CD-Rや紙テープなど本義の磁気テープとは関係のないメディアも磁気テープに含ませる場合がある。
特徴編集
長い帯状のテープを巻き取るなどして移動させることによってテープに書き込まれた情報を読み取っていくというその構造上、シーケンシャルアクセスに向いている記録媒体であり、ランダムアクセスはできない。
体積当たりの記録密度が高く、容量当たりの単価も比較的安価である。
耐久性にはやや難があり、磁気によって情報を記録する磁気メディアの一種であるため、強い磁界に近づけてしまうと記録した情報が破壊される。また、テープ部が経年劣化によって磁性が弱まり情報を維持できなくなったり、伸びたり切断したりで破壊に至りやすい。
磁気テープ、装填装置(テープドライブ)ともに、定期的なメンテナンスが必要である。テープのたるみの修正や、メカニカル部分の清掃、磁気ヘッドの帯磁対策などを適時していかないと、テープが巻き込まれて破壊に至るなどの危険がある。
歴史編集
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原型は19世紀末にアメリカやデンマークに登場していたが、第2次世界大戦中のドイツで録音用メディアとして実用化。ピエール・シェフェールが磁気テープを初めて音楽に用いた。ノイズの少ない音楽や演説のラジオ放送に興味津々だった連合国側は終戦によって初めてその技術の実態を知り、一挙に世界中で広まった。1950年代にはアメリカにおいてコンピュータの記録メディアとしても採用され始めた。録音用途においてもレコードや放送においてだけでなく、一般家庭での録音用としても次第に普及。開発されたのが始まりとされる。当初は巨大なオープンリールであったがその後小型化が進み、カセットタイプのものも開発された。あわせて録音用だけでない、音楽ソフトのパッケージとしてもレコードと並行して次第に普及。オープンリールタイプのソフトは1970年代まで、カセットタイプのソフトは2010年代に至っても発売され続けている。
その後は各種デジタル記録メディアの開発・普及とともに次第に用いられなくなり、その役割を終えつつあったが、大容量化技術の開発と一般向けクラウドストレージサービスの増加により2010年頃からデータ用テープの生産量が増加している[2]。また東日本大震災以降は、ハードディスクドライブに対するコスト面での優位性から予算に余裕のない自治体がバックアップ用として新規に導入する事例や、テープ保管サービスの利用が増えているという[3]。また、磁気テープの利用増加は日本国外の方が日本よりも先行している[4]。その後も容量の増大などの研究開発が進んでいる[5][6]。
製造方法編集
幅3 - 4mのフィルムの片面に磁性層を成膜し裁断。リールと呼ばれるボビンに巻き取り、プラスチック容器等に装着する。
磁性層の成膜には、塗布、蒸着、スパッタなどの方法がある。一般的には片面だけだが両面に成膜した製品も見られる。
成膜後、リールへの巻き込み前にサーボトラッキングのための情報が記録される場合もある。
用途編集
磁気テープを利用したメディア規格としては、以下のようなものがある。
コンピュータ用編集
記録装置は高価であるが、他のメディアに比べて容量が大きく、テープの容量当たりの単価が安価である。しかしながら、ランダムアクセスはできない。こうした特徴から、企業が保有する大規模なサーバなどのバックアップ[7][2][8]や、参照頻度の低いデータのアーカイブ用のメディアとして利用される。
アメリカでは、個人用の安価な装置が一定の普及を見た時期もあった。
データの頭出しに時間を要するが、LTO規格に見られるように連続したデータの読み込みは非常に高速である。また、DDS/DLT/LTOなどであれば「オートローダ」もしくは「テープライブラリ」と呼ばれる装置を用いることで、マガジンに装填されたテープを自動的に交換できる。テープ1本では容量が不足する場合の自動化のときなどに用いられる。
オーディオ・ビデオ用テープに記録できるストレージもある。
固定ヘッド編集
- IBM 3592 - 1/2インチ
- DLT(Digital Linear Tape) - SDLT - 1/2インチ
- LTO(Linear Tape-Open Ultrium) - 1/2インチ
- 9840 - 9940 - T10000 - 1/2インチ
- オープンリール - 2インチ、1インチ
- CMT(Cartridge Magnetic Tape), CST(Cartridge System Tape) - 1/2インチ
- 3480 - 3490 - 3490E - 1/2インチ
- 9490EE - IBM 3490互換1/2インチ
- 3590 - 3590E - 1/2インチ
- Travan - 8mm
- QIC(Quarter Inch Cartridge) - 1/4インチ
ヘリカルスキャン編集
- Digital Instrumentation Recorder(DIR) - 19mm(3/4インチ)
- VHS - 1/2インチ
- Exabyte(Data 8) - VXA - 8mm - 8ミリビデオとカートリッジは同形状だが、原則としてメディアに互換性はない。
- AIT(Advanced Intelligent Tape) - S-AIT - 8mm
- DTF(Digital Tape Format) - 1/2インチ - Digital BETACAMがベースとなっている。
- DDS(Digital Data Storage) - 3.8mm - 約4mm幅 - DATとカートリッジは同形状だが、原則としてメディアに互換性はない[要検証 ]。
オーディオ用編集
アナログ編集
- オープンリール - 多くは約6mm幅(1/4インチ)のテープ。業務用マルチトラックレコーダーは最大2インチ幅まである。
- テーペット - RCAビクターが開発した規格。6.3mm幅。
- コンパクトカセット - 一般にいうカセットテープ。3.81mm幅。
- マガジン50テープカートリッジ - アイワ(初代法人、現・ソニーマーケティング)が開発した先述のコンパクトカセットに類似した規格。4.8mm幅。
- マイクロカセット - 通常のコンパクトカセットより小型のカセットテープ。3.8mm幅。オリンパスが開発した規格。会議記録用にも盛んに用いられた時期があったが、現在は留守番電話機の録音媒体に用いられる程度で、ほぼ廃れた。
- ミニカセット - フィリップス社が開発した規格。大きさはマイクロカセットに近いが、互換性はない。
- エルカセット - ソニー、松下電器産業(現・パナソニック)、ティアックの3社が共同開発した規格。A6(文庫本サイズ)でテープ幅はオープンリールと同じ6.3mmである。現在は廃れた。
- 8トラック - 1980年代までカラオケ等の媒体に利用されたが、現在は廃れた。
デジタル編集
- 3/4インチデジタルオーディオカセットテープ - UマチックにPCMプロセッサを繋いで使用。19mm幅。U規格テープを使用。
- DAT
- R-DAT - DAT懇談会と日本オーディオ協会が共同で開発した規格。回転式ヘッド(ヘリカルスキャン方式)のR-DAT用のテープ。3.8mm幅。
- S-DAT - 固定式ヘッドを用い、後述するオープンリール型が使用された。
- デジタルマイクロカセット - ソニーが独自で開発した規格。切手サイズの超小型カセットテープが用いられた。2.5mm幅。会議録音用を想定していたが後に登場するICレコーダーの台頭により程なく廃れた。
- DCC - フィリップスと松下電器産業(現・パナソニック)が共同で開発した規格。コンパクトカセットをデジタル記録化したもので、現在は廃れた。
- オープンリール - 業務用録音機器で使用される。
- ADAT(ALESIS DIGITAL AUDIO TAPE) - 業務用マルチトラックレコーダ。12.7mm幅。VHSテープを使用。
- DTRS(Digital Tape Recording System) - 業務用マルチトラックレコーダ。8mm幅。8ミリビデオテープを使用。
ビデオ用編集
デジタルとアナログで姉妹規格となっているものが多いため、デジタルとアナログは分けずに記載する。
オープンリール編集
ビデオカセット編集
- ACR-25(AMPEX) - 2インチ
- U規格 - 3/4インチ - M:256×174×38mm - S:210×147×38mm
- VX方式 - 1/2インチ
- VHS - VHS-C - S-VHS - S-VHS-C - D-VHS - W-VHS - 1/2インチ - 205×120×32mm(カセットのサイズではない)
- ベータ - ED BETA - 1/2インチ - L:271×162×32mm - S:172×112×32mm(カセットのサイズではない)
- BETACAM - BETACAM-SP - BETACAM-SX - Digital BETACAM - MPEG IMX(D10) - HDCAM - HDCAM SR
- UNIHI - 1/2インチ - 205×121×25mm
- 8ミリ - Hi8 - Digital8 - 8mm - 108×75×20mm
- DV - MiniDV - HDV - 6.35mm(1/4インチ) - STD:139×94×20mm - mini:108×78×20mm
- MICROMV - 3.8mm
- D1 - D2 - D6 - 3/4インチ - L:283×430×51mm - M:285×176×40mm - S:196×129×40mm
- D3 - D5 - 1/2インチ
テープの種類編集
ノーマルポジションテープ編集
塗布されている磁性体が酸化第二鉄(ヘマタイト)で茶色である。メタルポジションテープに反転したパターンを記録してバイアス磁界中で重ねる事で転写する事により大量複製が可能。また、音楽用に最適化されたノーマルポジションテープは中低域のMOLに優れる。
クロムポジション/ハイポジション/EEポジションテープ編集
クロム、およびコバルトの酸化物が塗布されており、S/N比、中高音域の再現性が優れる反面、中低音域の再現性やMOLに関しては音楽用ノーマルポジションテープにやや及ばない面もある。テープによっては”Cro2”の表示がある。これは二酸化クロムのこと。なお、オープンリール用ではEEポジションがコンパクトカセット用のハイポジション(クロムポジション)に相当する。
フェリクロムポジションテープ編集
ノーマルが得意とする低~中音域、クロムやハイポジションが得意とする高音域を、二層塗りにすることで、双方の優れた特性を実現する。フェリクロムポジションに対応していないレコーダーやプレーヤーではノーマルポジション用テープとして代用することも可能。しかし、コンパクトカセットでは後述するメタルポジションテープの登場、およびオープンリールでは先述のEEポジションテープの登場によりいずれも急速に廃れた。
メタルポジションテープ編集
保磁力の優れた非酸化金属磁性体(オキサイド)が蒸着されており高密度の記録に適する。大量複製時のマザーテープとしても使用されるがメタルポジションテープ自体は転写法による大量複製には適さない。
脚注編集
- ^ 例として日本の特許法(昭34法121)第27条。
- ^ a b NC特集2 - 磁気テープ、まさかの復権:ITpro
- ^ 磁気テープなぜ復活? 生産量3年連続プラスに - 日本経済新聞
- ^ a b “磁気テープ「復権」で新技術 富士フイルム、ソニーが大容量化を加速”. サンケイビズ. (2014年5月6日) 2014年5月6日閲覧。
- ^ 大容量磁気テープの実用化技術 「4K」映像で富士フイルム実証
- ^ LTOテープ
- ^ なぜ?“磁気テープ”が復活
- ^ なぜ?“磁気テープ”が復活
参考文献編集
- ジェームズ・ラードナー、西岡幸一『ファースト・フォワード ――アメリカを変えてしまったVTR』ISBN 4-89362-039-8
- 中川靖造『ドキュメント 日本の磁気記録開発 ――オーディオとビデオに賭けた男たち』全国書誌番号:84025231