ビートル (高速船)
JR九州高速船が運航している高速船
ビートル (Beetle) はJR九州高速船(2005年10月1日に、従来の九州旅客鉄道〈JR九州〉船舶事業部が独立)が運航している高速船である。
運航当初から2022年までの運航船舶は、ボーイング929の旅客型「ジェットフォイル」であった[注釈 1]。全没翼型水中翼船と呼ばれるタイプの水中翼船で、半没翼型水中翼船より波浪による船体の揺れが少ないといわれている。
概要
編集日本福岡県福岡市の博多港と大韓民国釜山広域市の釜山港を結ぶ航路が運航されている。博多-釜山は約3時間40分で、1日1往復。かつては、長崎県対馬市の比田勝港と釜山港を結ぶ航路も存在し、比田勝-釜山は約1時間10分で、1日1-2本運航されていた。
なお、JR西日本宮島フェリー(JR西日本の子会社)の宮島航路と違い、こちらは国際航路で運賃形態が独立しているため、「青春18きっぷ」では乗船できない。
JR九州初代社長の石井幸孝の肝いりで開始したプロジェクトだったが、営業努力にもかかわらず就航当初は乗客数が伸び悩み、赤字路線だった。しかし、2004年のテレビドラマ『冬のソナタ』のヒットを機に黒字路線へ成長した[1]。九州最大の都市である福岡と、韓国第二の人口(「港町」としてはトップ)を持つ大都市の釜山を海上経由で高速連絡し、両都市間の既存航空路線に対する高い競争力を獲得して旅客機から輸送シェアを奪ったうえ、輸送需要そのものを増やすことに成功した。
歴史
編集- 1990年(平成2年)
- 1991年(平成3年)
- 1992年(平成4年)
- 1994年(平成6年)
- 1998年(平成10年)
- 2000年(平成12年)
- 11月28日:ビートル新予約システム「SHIPS2」稼動。
- 2001年(平成13年)
- 2003年(平成15年)
- 7月1日:ビートル4隻体制で運航開始[8]。(「ビートル2世」、「ビートル3世」、「ジェビ」、「ジェビ2」)
- 11月16日:ビートル累計乗船人員200万人突破。
- 2005年(平成17年)
- 2006年(平成18年)
- 2011年(平成23年)
- 11月1日:高速船ビートル新規航路就航(対馬 - 釜山)。
- 2012年(平成24年)
- 5月12日: 麗水博覧会(韓国全羅南道麗水市)に合わせて、博多 - 麗水間を期間限定で臨時運航(~8月12日まで)。
- 2014年 (平成26年)
- 3月:ビートル累計乗船人員500万人突破。
- 4月:ビートル5世売却。3隻体制となる。
- 7月6日:対馬で開催される国境マラソンIN対馬にあわせ、博多港 - 比田勝航路を臨時運航。
- 8月22日:1994年3月末から運休している福岡市と、長崎県平戸市を20年ぶりに臨時便で1往復復活。
- 2015年 (平成27年)
- 7月5日:対馬で開催される国境マラソンIN対馬にあわせ、博多港 - 比田勝航路を臨時運航。
- 9月8日:博多→平戸(国内航路)、平戸→釜山(国際航路)を臨時運航。
- 11月3日:博多 - 平戸(国内航路)を2往復臨時運航。
- 11月4日:博多→平戸(国内航路)、平戸→釜山(国際航路)を臨時運航。
- 2016年 (平成28年)
- 1月8日 - 9時55分頃、釜山発博多行きの便(乗員乗客191人)が、釜山港から約15kmの海上で鯨とみられる物体と衝突し、10人が負傷。高速走行できなくなり釜山へ引き返した[11][12]。
- 1月20日 - 16時半頃、釜山発博多行き(乗員乗客161人)が、福岡市西区の小呂島北約14kmの海上で、海洋生物らしき物体と衝突。乗員の女性が軽傷。釜山港を午後2時半に出発し、衝突時は時速約70キロで航行中だった。衝突後は時速約20キロで航行し、博多港に約2時間20分遅れで到着した。
- 3月3日 - 参議院予算委員会にて秋野公造参議院議員が「対馬市民の生活の利便性向上のために、税関、出入国管理、検疫の問題がクリアできたら国際航路に国内旅客を混乗させることは可能か」と質した質疑に対し、石井啓一国土交通大臣は「出入国管理などの問題が解決されれば可能」との考えを示し、「航路開設の動きが本格化してきたら、関係者の意向を確認しながら航路開設の手続きに対応したい」と応じた[13]。これより混乗の議論が具体的に活性化していく。
- 4月1日 - 未来高速との共同運航契約が3月末で終了。以後、再びJR九州単独運航になる。
- 7月3日:対馬で開催される国境マラソンIN対馬にあわせ、博多港 - 比田勝航路を臨時運航。
- 9月23日:博多 - 平戸(国内航路)を2往復臨時運航。
- 9月24日:博多 - 平戸(国内航路)を2往復臨時運航。
- 9月25日:博多→平戸(国内航路)、平戸→釜山(国際航路)を臨時運航。
- 10月7日:博多 - 平戸(国内航路)を1往復臨時運航。
- 11月12日:博多 - 平戸(国内航路)を2往復臨時運航。
- 11月13日:博多 - 平戸(国内航路)を1往復臨時運航。
- 2017年 (平成29年)
- 3月18日:ビートルリニューアル運航開始。
- 7月2日:対馬で開催される国境マラソンIN対馬にあわせ、博多港 - 比田勝航路を臨時運航。
- 7月2日:ビートル3世リニューアル運航開始。
- 7月10日:ビートル累計乗船人員600万人突破。
- 12月22日:ビートル2世リニューアル運航開始。このリニューアルをもって、ビートル3隻のリニューアルが完了。
- 2018年(平成30年)
- 3月5日:ビートルの後継船となる新型高速船について、オースタル社(オーストラリア)との間で三胴船の建造契約を締結。
- 4月28日:船内売店のインターネット事前注文サービス「ビートルプレオーダーショップ」を開始、5月1日出発便より船内受取開始。
- 7月8日:対馬で開催される国境マラソンIN対馬にあわせ、博多港 - 比田勝航路を臨時運航。
- 7月23日:九州郵船がJR九州高速船の運航する福岡 - 釜山航路の高速船ビートルの一部座席を利用して、博多 - 比田勝航路に対馬混乗便を運航開始[14][15][16]。
- 8月27日:三胴式高速船の船名「クイーンビートル」とインテリア、就航時期を発表。2020年7月より就航予定とする[17]。
- 2019年(令和元年)
- 6月23日:対馬で開催される国境マラソンIN対馬にあわせ、博多港 - 比田勝航路を臨時運航。
- 2020年(令和2年)
- 2021年(令和3年)
- 2022年(令和4年)
- 2023年(令和5年)
- 2024年(令和6年)
- 5月30日午前9時、釜山入港直前の「クイーンビートル」船首で浸水が確認されたため、5月31日以降の欠航が決まった[26]。
- 5月31日、入渠による修理に伴い「クイーンビートル」を運休すると発表した。当初、運休期間は6月28日までだったが、その後6月14日付で7月10日まで延長した[広報 5]。
- 7月5日、JR九州高速船は7月11日から「クイーンビートル」の運航を再開すると発表し[広報 6]、11日から運行を再開したが、翌12日に船体異常で再び欠航した[27]。
- 8月8日、非常用小型艇の中に潜んで密航と不法出国を図ったとして、ウズベキスタン国籍の男性が逮捕された[28]。
- 8月9日、「クイーンビートル」を8月13日以降運休し、11月25日までの新規予約の受付を中止すると発表した[広報 7]。2月に船体への浸水が判明したにも関わらず、修理や検査、国への報告をせず、浸水センサーの位置を故意に動かしてポンプで排水しながら、入渠までの約4ヶ月にわたり運航を続けていたことが、8月の国土交通省の抜き打ち検査で判明した[29]。
保有船舶
編集「クイーンビートル」以外はいずれも川崎重工業神戸造船所建造のジェットフォイル。全長27.4m、幅8.5m、航海速力43ノット。2017年以降の定員は191名(一般席175席、グリーン席16席。グリーン席にはRECARO社製の座席を採用)
現在
編集- クイーンビートル
- 2,300国際総トン、全長83.5m、幅20.2 m、航海速力36.5ノット。
- 旅客定員502名。オースタル建造のトリマラン(三胴船)。
- 当初2020年7月15日就航予定とされたが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行により航路が運休となったため就航日は未定。なお建造自体も遅れたが2020年9月29日に引渡しを行い10月15日に博多港に到着した。
- 当初はパナマ船籍だったが、日韓定期航路再開のめどが立たないことから、再開までの間国内遊覧運航について国土交通省から沿岸輸送特許を得て、2021年3月より沖ノ島遊覧コースに就航。しかしながら制約が大きいため2022年3月に日本籍に変更、4月から博多港 - 門司港、博多港 - 長崎港間航路の運航を開始。
- 2022年11月4日より釜山博多航路の運航を開始。
- 2024年6月に入渠し7月10日まで運休後、7月11日から運行を再開したが、8月13日から再び運休した。
過去
編集- ビートル
- 1990年竣工。164総トン。
- 1994年長崎航路休止の後海上アクセス「サファイアウィング」、1998年韓国高速海運「ジェビ」として運航し2005年JR九州高速船に復帰し船名もビートルに戻る。
- 2022年クイーンビートル就航にともない引退。
- ビートル2世
- 1991年竣工。165総トン。福岡-釜山航路第一船。
- 2022年クイーンビートル就航にともない引退。
- ビートル3世
- 1989年に日本海洋高速「ながさき」として竣工。165総トン。
- 1994年に海上アクセス「パールウィング」、1997年に沖縄マリンジェット観光「まーりん」として運航し2001年JR九州に就航。
- 2022年クイーンビートル就航にともない引退。
- ビートル5世
その他
編集- JR九州には船舶運航のノウハウも船員もいないところからのスタートであり、JR四国を退職していたところから招聘された大嶋良三部長を筆頭に、宇高連絡船に携わっていた船員を出向で賄っての船出となった。就航から10年後には、元鉄道マンから所定の航海経験も積んで、JR九州生え抜きの船員を誕生させている[30]。
- 初代の「ビートル」は「ウミトブカブトムシ」とアピールされ広告などがなされた。これはハルボーンでの格納状態(水中翼の浮力での高速航走時は“フォイルボーン”、速力による水中翼の揚力が無い状態を“ハルボーン”という。水中翼浮力が無く海底への距離が足りない場合は水中翼を喫水線上に畳むことがジェットフォイルでは可能)の前部水中翼をカブトムシの角に見立てたもので、船体塗色も、全体が茶色のものであった。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ * 石井幸孝『人口減少と鉄道』朝日新聞社出版〈朝日新書0660〉、2018年3月、78頁。ISBN 978-4022737601。
- ^ 鉄道マン、玄界灘に航路を開く 成功の陰に笑いあり(4)九州旅客鉄道会長 唐池恒二氏 日経産業新聞、2016年4月18日付
- ^ 日韓高速船、トラブル続きの航海 成功の陰に笑いあり(5)九州旅客鉄道会長 唐池恒二氏 日経産業新聞、2016年4月19日付
- ^ “「ビートル」の航路ハウステンボスへ JR九州が変更”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 2. (1992年3月17日)
- ^ 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '94年版』ジェー・アール・アール、1994年7月1日、191頁。ISBN 4-88283-115-5。
- ^ 『鉄道ジャーナル』第32巻第7号、鉄道ジャーナル社、1998年7月、98頁。
- ^ 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '02年版』ジェー・アール・アール、2002年7月1日、191頁。ISBN 4-88283-123-6。
- ^ 「JR年表」『JR気動車客車編成表 '04年版』ジェー・アール・アール、2004年7月1日、191頁。ISBN 4-88283-125-2。
- ^ a b c またクジラ?高速船が衝突 日刊スポーツ、2006年3月17日
- ^ 第1節 海難の発生 (PDF) - 海難レポート2007、海難審判庁、2007年7月
- ^ 高速船が海洋生物と衝突か 釜山発博多行き、10人けが朝日新聞デジタル(2016年1月8日12時56分配信)2016年1月8日閲覧。
- ^ 191人乗り高速船、クジラ?と衝突8人けが、ひき返す 韓国・釜山→博多産経WEST(2016年1月8日14時20分配信)2016年1月8日閲覧。
- ^ 参議院会議録情報 第190回国会 予算委員会 第8号
- ^ 九州郵船
- ^ JR九州高速船
- ^ 公明新聞 博多 - 釜山間の国際航路経由地 長崎・対馬 国内客「混乗便」初の就航
- ^ 「クイーン」就航、来年7月15日 JR九州高速船、釜山航路に 産経ニュース、2019年7月30日
- ^ “JR九州子会社が運用する高速船「クイーンビートル」、船籍をパナマから日本に変更する理由”. ニュースイッチ Newswitch. 2021年12月27日閲覧。
- ^ “「クイーンビートル」日本船籍に 博多港と門司港間に来月就航”. 福岡放送 (2022年3月12日). 2022年3月13日閲覧。
- ^ “内航総連・栗林会長、カボタージュ規制堅持を。外国籍客船、国内運航 特措要望に”. 日本海事新聞 電子版 (2020年12月11日). 2021年8月5日閲覧。
- ^ “海員組合、外国籍旅客船の国内運航 特例措置「断固反対」”. 日本海事新聞 電子版 (2021年3月15日). 2021年8月5日閲覧。
- ^ “JR九州の高速船「クイーンビートル」、釜山へ初出航”. 日本経済新聞. 2022年11月8日閲覧。
- ^ “「博多~韓国・釜山の高速船」運航再開 クイーンビートル国際航路デビュー”. RKB毎日ホールディングス. 2022年11月8日閲覧。
- ^ “船首に“亀裂”のまま3日間も運航した旅客船「クイーンビートル」法定の“臨時検査”せず”. RKB毎日放送ニュース. (2023年6月26日) 2024年8月13日閲覧。
- ^ 海事局安全政策課 (2023年6月23日). “「輸送の安全の確保に関する命令」を発出しました ~海上運送法第19条第2項に基づく行政処分~”. 国土交通省. 2024年8月13日閲覧。
- ^ “クイーンビートルで浸水 釜山に到着直前に確認 緊急点検と修理のため当面欠航 博多と韓国を結ぶ高速船”. FBS福岡放送ニュース. (2024年5月31日) 2024年8月13日閲覧。
- ^ “【再び】「本当にがっくり」再開の翌日に欠航 高速船クイーンビートル 13日に運航再開へ 福岡”. FBS福岡放送ニュース. (2024年7月12日) 2024年8月13日閲覧。
- ^ “【注目ニュース】クイーンビートルで“不法出国”の男逮捕 非常用小型艇に潜んでいたか”. FBS福岡放送ニュース. (2024年8月12日) 2024年8月13日閲覧。
- ^ “クイーンビートル”浸水隠し”運航発覚 今月13日から運休へ”. FBS福岡放送ニュース. (2024年8月10日) 2024年8月13日閲覧。
- ^ 唐池恒二『鉄客商売 JR九州大躍進の極意』PHP研究所、2016年、28-29頁。ISBN 978-4-569-82919-7。
広報資料・プレスリリースなど一次資料
編集- ^ 【新型コロナウィルス関連】2020年3月9日(月)~3月31日(火)期間中の運休について JR九州高速船、2020年3月6日
- ^ 【News Release】QUEEN BEETLE 3/20(土)21(日)27(土)に沖ノ島遊覧コースを運航します。 JR九州高速船株式会社、2021年3月10日
- ^ 『クイーンビートル 3/20(土)21(日)27(土)に沖ノ島遊覧コースを運航します』(pdf)(プレスリリース)JR九州高速船、2021年3月10日 。2021年11月28日閲覧。
- ^ “「輸送の安全確保に関する命令」に対する改善報告書の提出について”. JR九州高速船 (2023年8月3日). 2024年8月13日閲覧。
- ^ “船舶の緊急点検(ドック入渠)に伴うQUEEN BEETLEの運休について (2024年6月14日16:00現在)”. JR九州高速船 (2024年6月14日). 2024年8月13日閲覧。
- ^ “QUEEN BEETLEの運航再開について (2024年7月5日現在)”. JR九州高速船 (2024年7月5日). 2024年8月13日閲覧。
- ^ “8月13日(火)以降の運休及び新規予約の受付停止について(2024年8月9日19:45現在)”. JR九州高速船 (2024年8月9日). 2024年8月13日閲覧。
関連項目
編集- 関釜フェリー - 下関市と釜山広域市を結ぶフェリー。
- コビー - 当初は「ビートル」と別航路として博多 - 釜山間を運航、2006年4月以降「ビートル」と共同運航化。
- 大亜高速海運 - 「ビートル」と別航路として博多 - 釜山間に高速船「ドリーム号」を運航。
- カメリアライン - 博多 - 釜山間を結ぶフェリー航路
- 日韓高速船 - 下関と釜山広域市を結んでいたジェットフォイル船。
- 日韓共同きっぷ - 特別企画乗車券。「ビートル」が経路に含まれている。
- コリアレールパス - 韓国鉄道公社の外国人向け乗り放題乗車券。「ビートル」とのセット券がある。
- 関釜連絡船・博釜連絡船 - 戦前、旧鉄道省が下関・博多 - 釜山間に運航していた鉄道連絡船。