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概要編集

少女漫画ロック歌手を主人公に据えて成功した最初の作品だと言われている[1][2]。男性が主人公の少女漫画というのも本作が初に近い[2][3](初ではない[4]しかし完全に青年の生き方としての「男性」の主人公は初めて)。[要出典]

少女漫画が高く発展したと現在認められているのが1970〜1980年代。それ以前、少女向け雑誌が月刊から週刊に切り替わり始めたのが1963年。コミックスが初めて発売されたのが1968年という歴史的流れの中で、本作は少女漫画が高い発展をする黎明期を飾るマンガ史的代表作品の1つである[1]。また、それまでの少女マンガ誌はローティーン(10代前半、中学まで)向けの設定だったが、このときはハイティーン(10代後半)向け少女雑誌『週刊セブンティーン』(漫画専門ではないが漫画比率が高かった)の創刊の翌年から掲載された。のちに少女漫画の年齢層を押し上げたと言われたことから、ハイティーン向け少女漫画を開拓した初めの主要な作品といえる。

1960年代末のアメリカ合衆国を舞台とする本作は、ジョン・レノンオノ・ヨーコが行った平和活動「ラブ&ピース運動」のようなベトナム戦争中のアメリカの世相や世界観、カウンターカルチャーをも取り込んでおり、少女漫画のみならず少年漫画を含む日本漫画界全体としても画期的な作品であった[1][2]。また、主人公の青年アロンと青年ファイアー・ウルフとの性別を超えた魂の結びつきに感銘を受けた読者は少なくない[1][5]

当時はグループ・サウンズの人気が高まっており、「主人公は男の子で、ロックミュージシャンの話」もすんなりと編集側からはOKをもらっている[2][6]。その後、本場のヒッピー文化を体験すべく、欧米で20日間ほどの取材旅行を行い、ライブハウスに入り浸った[6]

ただし、当時のグループ・サウンズの歌はロックとは異なっており、水野自身は理解したうえで編集を騙した形になっている[2]。事実、連載が始まった当初は当時の読者にとっても本作は異端ではあったようで、他の作品は1日に20通から30通のファンレターが届いていたのに対し、本作では連載開始から、主人公の青年アロンが感化院を出るまでは全くファンレターが来なかったと水野は語っている[2]。アロンが感化院を出て1人で行動するようになってからはファンレターも届くようになったが、反対意見も多く水野を売国奴と罵ったり、脅迫めいた手紙も届いている[2]

本作が少女漫画のカテゴリーからはいくらか逸脱しているのは連載当時から指摘されており、連載当時は「ソウル・コミック」という呼称もあった[2]。2010年代に入ると「ロック・コミック」と呼ばれることもある[2]

本作の連載終了後、水野は妊娠が発覚する[3][7]シングルマザーとなった水野は子育てのため、本作の連載終了後は極端に仕事量が減ることになった[7]

あらすじ編集

真面目で心優しい少年アロンは母親と二人暮らしだったが、不良グループの騒動に巻き込まれてしまい無実の罪で感化院へ入れられてしまう。感化院に入っている少年たちのリーダーはファイヤー・ウルフ。ファイヤー・ウルフこそアロンが捕まった原因でもあった。アロンはファイヤー・ウルフを憎むが、ファイヤー・ウルフの魂の叫びのような歌声と母親のような包容力に、次第に心惹かれるようになる。そんなある日、ファイヤー・ウルフに徴兵令状が届く。自由を求めるファイヤー・ウルフは感化院を脱走するが、アロンの前で爆死してしまう。

アロンは18歳になり、感化院を退所。ファイヤー・ウルフの形見となったギターを手に、デトロイトの工場で働き始める。ロック・アーティストのジョンと出会い、初めてライブを体験したことで、アロンは自分の中の熱い衝動から表現者として目覚める。

さらに、アロンはジプシー・シンガーのマージと出会う。マージにファイヤー・ウルフと同じ何かを感じるたアロンはマージに恋の歌を捧げる。しかし、マージはアロンを傷つける事を恐れ、アロンの前から姿を消した。

マージを追うアロンを、アロンに惹かれる少女ジュールは引き留めようとする。自分のためだけではなく、人に聞かせる歌も歌うべきというジョンの薦めもあって、アロンは初めてステージに立つ。そこでファイヤー・ウルフがのりうつったかのようなアロンの歌声は観客の心を捕らえた。

アロンの歌声に惹かれた少年たちが集り、ロックグループ「ファイヤー」が結成される。

主な登場人物編集

アロン・ブラウニング
主人公。ウォーカー・ブラザーズスコット・ウォーカーをモデルとしている[3]。とことん純粋に生き、純粋を極めれば壊れ、純粋さを通せば独りになるらざるを得ないことを描きたかった水野にとっては「自分の分身」である[7]
年齢設定は18歳。
貧しい母子家庭に生まれ幼いころからアルバイトや工場勤めをしていた。14歳の時にウルフが町で起こしたいざこざに巻き込まれ仲間と思われて感化院行きになる。その感化院の院生をまとめるリーダーがウルフだった。
当初はウルフを憎んでいたが夜ごと歌われる彼の歌を聴き感動し、音楽に目覚める(母親からはオルガンを習っており音楽的な才能は元々あったが、ウルフの歌を聴いたことがその後の彼の人生を決定づけた)。
18歳で出所しデトロイトで自動車工場に勤める。そしてジョンと出会い音楽活動の場を得てロックバンド「ファイヤー」を結成する。
「ファイヤー」は結成当初こそ最初に所属したレーベルが倒産するなどトラブルに巻き込まれるが、徐々に頭角を現し全米No.1を獲得する。しかしアロンの精神は様々な現実の厳しさや軋轢にむしばまれていく。
ファイアー・ウルフ
アロンが送られた感化院を仕切るリーダー。年齢は20歳、21歳の設定。アロンの人生に決定的な影響を及ぼした人物。
感化院の教官(同性愛者)にレイプされそうになったがそれを返り討ちにした過去があり、その事実を隠蔽しようとする感化院のスタッフによってある程度の自由が認められていたため、院生でありながら自由に外出していた。アロンをいざこざに巻き込んで感化院行きにした原因を作った人物。それゆえ当初はアロンに憎まれていたが、紆余曲折をへてアロンの信頼を得、彼にギターと歌を教える。
徴兵令状(1969年当時はベトナム戦争真っただ中)を破り捨て感化院を脱走し、警官隊に追われて射殺される。その際にガスタンクにバイクで突っ込んで爆死したため死体は四散し残らなかった。この光景を目撃していたアロンは大きなトラウマを抱える。
マージ・キャンベル
ジョン曰く「炎の舌を持った歌手」。
ウルフと同じくアロンに決定的な影響を与える。
ジュール
初めはジョンの取り巻きだった。
ダイアナ・ショウ
15歳の天才的なボーカリスト。心臓に病を抱えており、長く生きられない。
マリーナ
リタ

ファイヤー編集

デトロイトでアロンの歌に魅かれたジョン、ネロ、エンジェル、リフによって結成された。

VOAによる全米新人コンテストで優勝し、ミリオンセラーも達成している。

アロン・ブラウニング
上述。ボーカル。
ジョン・グレイ
ギター。
アロンがデトロイトで出会ったギタリストであり、この物語の語り手。ジョンがインタビュアーに自己の回想を伝えるシーンからこの物語は始まる。アロンに様々な音楽を聴かせ、活動の場を提供した人物。小説家の中島梓が「お気に入りキャラ」に上げていた。
ネロ
ドラムス。
デイモンというバンドではボーカルを務めている。歌唱力はゼロでジョン曰く「調子はずれ」だが本人は前衛芸術と豪語してはばからない。
雑草のようなたくましさを持つ男でアロンとは正反対。音楽を始めたきっかけはお金のためで純粋に音楽を追い求めるアロンとは衝突することが多かった。アロンの歌にひかれてジョン、エンジェルとともにステージに上がり即興で伴奏を付けたことがグループ結成につながった。ジョンにドラムの腕を買われて加入。
エンジェル
オルガニスト
酒場で飲んだくれていたがアロンの歌を聴き即興で伴奏を付けたことでメンバーたちと知り合う。
図々しい性格で飲み食いの付けを他のメンバーに回したりちゃっかりしている。
ロージーがマネージャーを解雇された後はバンドのマネージメントを担当していた様子がうかがえる。(ストーリー後半)
リフ
ベース。
マリーナの弟。シスターコンプレックスで姉に近づく男に猛烈な嫉妬心を抱く。
彼女がトラブルに巻き込まれ失明した時に喧嘩を起こし刺殺される。
ロージー
マネージャー。
ファイヤーの最初のレコードのサンプル盤に目を付け、ラジオで放送したDJだった。
最初はメンバーたちとも友好的だったが次第にファイヤーを仕切り出しブラック・ブラッドとの対バンライブをメンバーたちに無断で決めたりしたことから解雇される。
チャーリー
ベース。
リフの死後、ジュールのフィアンセとして登場。
ベースの腕はアロンが折り紙を付けたほどの腕前。しかしジョン、ネロ達との折り合いが悪くバンドを脱退した後はライバルバンド「ソドム」に加入する。クールな性格でファイヤーのことを踏み台としか認識していなかったことを脱退時に述べてバンドを去る。

他のバンド編集

キラーズ
ジュリアンがリーダーをつとめるバンド。アロンがクラブのステージに出演することになったため、ステージを追われることとなった。
ブラック・ブラッド
メンフィスを拠点とする黒人バンド。
新人コンテストでは黒人ということもあり主催者の不評から優勝は逃すが、アロン自身は自分らよりもブラック・ブラッドのほうが上だと感じていた。
ソドム
ファイヤーのライバルバンドとしてストーリー後半に登場。ファイヤーの二代目ベースのチャーリーを欲しがっていた。
派手なルックスで人気を博しファイヤーを追い落としていたことが描かれている。

書誌情報編集

出典編集

  1. ^ a b c d e 井上貴子室田尚子森川卓夫小泉恭子『ヴィジュアル系の時代 ロック・化粧・ジェンダー』小学館〈青弓社ライブラリー〉、2003年、165頁。ISBN 978-4787232168
  2. ^ a b c d e f g h i 荒俣宏. “荒俣宏の電子まんがナビゲーター 第7回水野英子 その3“異端”でありつづける勇気の巻 (6)”. 2013年7月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年8月31日閲覧。
  3. ^ a b c 少女漫画の歴史を生きる、伝説の漫画家・水野英子さん77歳。”. クロワッサン online (2016年10月2日). 2018年9月3日閲覧。
  4. ^ 西谷祥子の「学生たちの道」(1967)が女流による少女漫画雑誌の連載初だと思われる。[独自研究?]西谷祥子作品リスト”. 2019年1月16日閲覧。[信頼性要検証]
    また、昭和30年代には石ノ森章太郎ミュータント・サブ(雑誌「少女」版)があった。
  5. ^ 栗本薫中島梓「第2章 神話の時代 2」『栗本薫・中島梓傑作電子全集9 〔エッセイ〕』小学館〈青弓社ライブラリー〉、2018年。ASIN B07F66WJ2V
  6. ^ a b 「ファイヤー!」の主人公アロンは私の分身 水野英子さん「とことん純粋に生きるということ」”. 産経ニュース. p. 1 (2017年1月16日). 2018年9月3日閲覧。
  7. ^ a b c 「ファイヤー!」の主人公アロンは私の分身 水野英子さん「とことん純粋に生きるということ」”. 産経ニュース. p. 2 (2017年1月16日). 2018年9月3日閲覧。