ファルセット
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ファルセット(イタリア語: falsetto)とは歌手が特に高いピッチ(音高)に対応するために作り出す声色、及びその発声技術を指す。「仮声」と訳されることもある。
概要編集
日本語の裏声と似た言葉である。日本で「ファルセット」という言葉が使われるのは主に歌唱の際であり、話声に対して適用されることは稀である。声楽において「ファルセット」が示すものは流儀によって異なり多様化しているため注意が要る。
- ファルセットという言葉の元々の意味は「不適切な声(発声)」「偽りの声」といったものである。十分な音量が出ない、音色的に欠陥がある、言葉がのらないといった理由で歌唱に不適当な声ということである。
- 実際には実声とファルセットの対立を作ることが表現上必要とされ、同時にファルセットの声種的特色を実声に取り込むことも重要視される。
- ファルセットと呼ばれうる声全般に共通の特徴は高い声が出しやすく、起声が弱く、喉の負担が小さいことである。
声区的適用編集
声区を指す場合、
- 19世紀初頭までは、男声歌手は換声点(ここでは最も顕な換声点を指す)より上の高音を実声でなくファルセットで歌っていたため、この時代に由来する古いベルカントの訓練法ではこの換声点より下を胸声区とし、換声点の上(頭声区)をファルセットとした。また、女声の場合は低音を出すために男声のような太い音色を出さざるを得なくなる点を最も顕(あらわ)な換声点とし、男声も女声も実音でほぼ同じ音域に換声点があると考えるため、女声は低音域以外は基本的にファルセットとなる。
- 頭声区(同じく換声点の上の声区)をさらに2つの声区に分けたときのいずれか(高いほうを頭声低いほうをファルセットとするケース、高いほうをファルセット低いほうを頭声と呼ぶケースなど)。男声が換声点より上の音域に実声を使用するようになってからは、実声の方を頭声、そうでないほうをファルセットとすることも多い。この考えに立つと女性の頭声とファルセットを区別することは困難で、女声にはファルセットと頭声の区別はない、とする見解もある。
- 諸声区のそれぞれに、実声とペアで1オクターヴ上にファルセットが存在するという捉え方もある(胸声区には胸声のファルセット、頭声には頭声のファルセットといった具合に)。
クラシック音楽作品での使用例編集
ファルセットの音域は、男声歌手であるカウンターテノールが合唱やソリストとしてアルトならびにメゾソプラノの声域を歌うためによく利用される。合唱のテノールは、ソロ歌手が実声で歌うような音域もファルセットで歌うことがある。このようにファルセットは古くから用いられていたが、特定の箇所をファルセットで演奏するように楽譜で定めた作曲家が登場するのはずっと後になってからのことである。ドビュッシーの混声合唱曲『シャルル・ドルレアンによる3つの歌』、ラヴェルの混声合唱曲『3つの歌』ではテノールの一部箇所にこの唱法を求めている。ストラヴィンスキーの『きつね』では、低声歌手のファルセットによってコミカルな効果がもたらされている。カール・オルフのカルミナ・ブラーナではバリトン歌手の独唱にファルセットが用いられる。
1950年代以後声楽にも大きな実験が加えられ、「可能な限り高い音」を出すためにファルセットを使うことが流行した。ジェルジ・リゲティの『アヴァンチュール』、『新アヴァンチュール』、『レクイエム』に見られる。ハインツ・ホリガーはスカルダネッリ・ツィクルスで「全曲がファルセットで演奏される」声楽曲を作曲し、特殊な効果をあげている。
ポピュラー音楽への応用例編集
ソウル、ゴスペルなどでは使用頻度の高い歌唱法で、ロックのボーカリストもこの歌唱法を使うこともある。歌謡曲、ニュー・ミュージック、J-POPでもこの歌唱法が使用された例がある。多くの女性歌手は自然にファルセットを歌うことがある(欧米のオペラ、クラシック界においては、女性の声は胸声、ミドルヴォイス、頭声の三種類に区分され、ファルセットは女性には出せないとする見解も強く、多くの場合、女性の発する高音は頭声として理解される[1])。スキャットのダニエル・リカーリが有名歌手である。ホイットニー・ヒューストンやマライア・キャリーはより高い音域に達するために、たいてい自然な発声からファルセットに切り替えて歌っている。ハワイの歌でもファルセットがしばしば使われており、毎年「ハワイアン・ファルセット・コンテスト」が開かれているほどである[2]。ウイリー沖山はファルセットを使うヨーデル歌手である。
男性シンガーでは、スモーキー・ロビンソン、エディ・ケンドリックス、ラッセル・トンプキンス・ジュニア、ウィリアム・ハート、プリンスやマイケル・ジャクソンは頻繁にファルセットを活用した。また2017年にはダンス&ボーカルユニット・V6が「Can't Get Enough」でファルセットを多用したことも大きな話題となった[3]。
主な歌手/グループ編集
- ウィリアム・ハート(デルフォニックス[4])
- エディ・ケンドリックス(テンプテーションズ)
- カーティス・メイフィールド
- クロード・ジーター(スワン・シルヴァートーンズ[5])
- CPスペンサー(オリジナルズ[6])
- ジョニー・カーター(デルズ)
- スモーキー・ロビンソン(ミラクルズ)
- ソニー・ティル(オリオールズ[7])
- ダニエル・リカーリ、スキャット
- デヴィッド・バイロン(ユーライア・ヒープ)
- テッド・ミルズ(ブルー・マジック)
- バリー・ギブ(ビージーズ)
- ビリー・ブラウン(モーメンツ、レイ・グッドマン&ブラウン)
- フランキー・ヴァリ(フォー・シーズンズ)
- フィリップ・ベイリー(アース・ウィンド・アンド・ファイアー)
- プリンス
- ベイビーフェイス
- マイケル・ジャクソン
- マット・コヴィントン(フィリー・ディボーションズ[8])
- ラッセル・トンプキンス・ジュニア(スタイリスティックス)[9]
- ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)
- ロン・バンクス(ドラマティックス)
- 晃(フィンガー5)
- 伊集加代子、スキャット
- ウイリー沖山、ヨーデル
- キングトーンズ
- シャネルズ
- 橘慶太(w-inds.)
- 灰田勝彦、ヨーデル
- 村上てつや(ゴスペラーズ)
- 森山直太朗
- ラッツ&スター
- 森中花咲(にじさんじ)
代表的な曲編集
- トーケンズ:「ライオンは寝ている」
- プラターズ:「オンリー・ユー」
- デルフォニックス:「ララは愛の言葉」「ディドント・アイ」
- モーメント:「孤独のハイウェイ」(1970)
- スタイリスティックス:「ユー・アー・エヴリシング」「ストップ・ルック・リッスン」(1971)
- ブルー・マジック:「サイド・ショウ」(1974)
- フィリー・ディボーションズ:「涙のディスコティック」(1975)
- 玉置浩二:「行かないで」(1989)
- 米良美一:「もののけ姫」(1997)
- V6:「Can't Get Enough」[3]
- w-inds:「FANTASY」「夢で逢えるのに〜Sometimes I Cry〜」「CAMOUFLAGE」
- 橘慶太:「Brand-New Day」
- 森中花咲:「諦めモード」
脚注編集
- ^ The OXFORD DICTIONARY OF OPERA. JOHN WARRACK AND EWAN WEST, ISBN 0-19-869164-5
- ^ 第13回ハワイアン・ファルセット・コンテスト開催
- ^ a b “V6の【Can't Get Enough】が韓流ぽいとツイートされまくってる!”. naverまとめ (2017年3月25日). 2018年5月5日閲覧。
- ^ 「ララ・ミーンズ・アイ・ラブ・ユー」がヒット
- ^ ファルセットが売り物のゴスペル・グループ
- ^ http://www.allmusic.com/artist/the-originals-mn0000890724
- ^ ファルセット、ハイテナーが特徴のドゥーワップ・グループ
- ^ 「涙のディスコティック」が日本のチャートでもヒット
- ^ http://www.russellthompkinsjr.com/