フラッグ・キャリア
フラッグ・キャリア(英語:flag carrier)とは、特定の主権国家で現地登録されており、国際的な業務を行うために政府から与えられた優先的な権利や特権を享受している航空会社や海運会社などの輸送会社のことである。
歴史的には、この用語は、自国の政府が所有し、その国の国民性に関連する航空会社を指すために使用されていた[1]。このような航空会社は、国によっては法的に異なる意味を持つ場合もあるが、ナショナル・エアラインまたはナショナル・キャリアとして知られている場合もある。今日では、政府所有であるかどうかにかかわらず、自国との強い結びつきを持つ、あるいは自国を国際的に代表する国際航空会社のことを指している[2] [3]。
航空機や船舶にその国の国旗を表示することを義務付ける法律があるため、フラッグキャリアと呼ばれることもある[4]。例えば、米国の法律では、米国旗航空会社(U.S. flag air carrier)とは、1958年連邦航空法第401条に基づく証明書を保有する航空会社(すなわち、米国を拠点に国際的に運航する航空会社[5])のことであり、米国で登録された船舶は米国旗船(U.S. flag vessel)として知られている[6]。
背景編集
「フラッグキャリア」という言葉は、各国が国有航空会社を設立した時代の名残である。その後、航空会社の設立と運営には高い資本コストがかかるため、政府が主導権を握るようになった。パンナム航空、TWA、キャセイパシフィック航空、ユニオン・デ・トランスポート・エリアンズ、カナディアン・パシフィック航空、オリンピック航空はすべて民間企業であった。これらのほとんどは「主要な国営航空会社[7]」であり、しばしば海外での自国の存在感を示すものであったため、フラッグキャリア[8]と考えられていた[9] [10]。
厳しく規制された航空業界はまた、航空権が政府間で交渉されることが多く、航空会社が開かれた市場に参入する権利を否定することを意味していた。バミューダ1号協定やバミューダ2号協定に似た二国間航空協定では、現地で登録された航空会社にのみ与えられる権利が規定されており、一部の政府は外国との競争で不利になることを避けるために、航空会社の活性化を余儀なくされている。また、イスラエルのエルアル航空[11] [12]やレバノンのミドルイースト航空[13]のようなフラッグ・キャリアを設立する国もあり、それらは国粋主義的な理由や、その国の経済、特に観光分野の支援を目的としている[14]。
多くの場合、政府は補助金やその他の財政的インセンティブを通じて、フラッグ・キャリアの成長を直接支援している。国内で登録されている他の航空会社による競合他社の設立は禁止されているか、直接の競争を避けるために厳しく規制されている場合がある[15]。民間の航空会社の設立が許可されても、特に航空権の国内市場または国際市場への配分においては、フラッグ・キャリアが優先的に割り当てられる可能性がある[16]。
しかし過去30年の間に、ブリティッシュ・エアウェイズや日本航空、エア・カナダやカンタス航空などの先進国におけるフラッグ・キャリアの多くは、その後、公開会社や国営企業として法人化されるか、完全に民営化された[17]。
航空業界も徐々に規制緩和と自由化が進み[18]、特にアメリカ合衆国と欧州連合では、オープンスカイ協定の締結により、より大きな空の自由が認められるようになった[19]。このような協定の特徴の一つは、ある国が複数の航空会社を指定して国際路線を運航する権利を持たせることであり、その結果、単一の「フラッグキャリア」は存在しない[20]。
各国のフラッグ・キャリア編集
現存しないもの編集
国 | 航空会社 | |
---|---|---|
日本 | 大日本航空 | 1945年8月に日本が第二次世界大戦に敗北し、日本を占領した連合国により、日本国籍機による全ての航空活動が停止させられたことを受け解散した。 |
満州国 | 満州航空 | 1945年8月に同盟国の日本が第二次世界大戦に敗北し、それに伴い満州国が消滅した為解散した。 |
中華民国 | 民航空運公司 | 航空事故を起こしたことなどから経営不振に陥り1975年に運航を停止した。なお、同社の消滅後は、チャイナ エアラインがフラッグキャリアの役割を引き継いでいる。 |
中国 | 中国民航 | 中華人民共和国国務院直属の民間航空行政機構である中国民用航空総局が運航も行っていたが、1988年に民間航空部門を分割、民営化した。現在でも航空行政を担当する行政機関としては存続している。 |
ベトナム共和国 | エア・ベトナム | 南ベトナムがベトナム戦争に敗北して消滅したため、その混乱の中で消えていった。残った機材は社会主義政権の国営ベトナム航空で使用された。 |
イギリス | 英国海外航空 | 遠距離国際線を担当するイギリスのフラッグキャリアとして、パンアメリカン航空やエール・フランスなどと共に知られていた。国内線と近距離国際線を担当する英国欧州航空と合併し、現在のブリティッシュ・エアウェイズとなった。現在は同社がイギリスのフラッグキャリアである。 |
ベルギー | サベナ・ベルギー航空 | 国営航空会社として旧植民地などへの不採算路線を運航せざるを得なかったことなどから赤字体質が続き、2001年に倒産した。一部の路線や機材、従業員は、子会社のデルタ・エアー・トランスポートが「SNブリュッセル航空」(現在のブリュッセル航空)と改名して引き継いだ。 |
スイス | スイス航空 | サベナ・ベルギー航空と資本提携していたが、共倒れになる形で2001年に倒産した。その後子会社のクロスエアがスイス インターナショナル エアラインズと名を変えて営業を引き継いだ。 |
東ドイツ | ルフトハンザドイツ航空 | 戦前から存在していたルフトハンザドイツ航空の後継を称していたが、西ドイツ側の同名企業に裁判で敗れたため、1963年にインターフルークが事業を引き継いだ。 |
インターフルーク | 東ドイツがドイツ連邦共和国に編入されたため1991年に解散し、乗務員や路線はルフトハンザに、機体はドイツ空軍およびアエロフロートに引き継がれた。 | |
スロバキア | スロバキア航空 | 民間投資家グループが1995年に設立し1998年運航開始。2005年にオーストリア航空傘下に入ったが2007年に倒産。事業と従業員の一部はシーグル・エアー(スロバキア)が引き継いだものの、同社も2009年に事業停止し倒産。 |
アメリカ合衆国 | パンアメリカン航空[21][22] | アメリカの航空会社で唯一全世界に路線を持ち、ボーイング707、ボーイング747をいち早く導入するなど、アメリカの先進性や繁栄の象徴、世界の国際線航空会社の盟主的存在であった。しかし、高コスト体質の改革が進む前に航空自由化が進んだために経営が悪化し、1991年に倒産した。 |
ブラジル | ヴァリグ・ブラジル航空 | かつては南米最大級の航空会社、スターアライアンスの一員であり、ヨーロッパや日本にも就航していたが格安航空会社の台頭によって2005年に破産し、格安航空会社のゴル航空に買収された。 |
メキシコ | メヒカーナ航空 | ワンワールドの一員でありメキシコ2位の航空会社であった、2010年に破産した。 |
ペルー | アエロペルー | 1996年10月2日に起きたアエロペルー603便墜落事故の影響で業績が悪化し、1999年に運航停止に追い込まれた。 |
ナイジェリア | ナイジェリア航空 | 国営航空会社であったが、2003年に経営不振で破産した。 |
ソマリア | ソマリ航空 | 1990年のソマリア内戦勃発によって経営が破綻した。 |
ハンガリー | マレーヴ・ハンガリー航空[23][24] | 2012年2月に全便の運行を停止したのち破産した。なお、同社の運行停止後は、格安航空会社であるウィズエアーが同国で唯一の定期航空会社となっている。 |
スロベニア | アドリア航空[25] | 2019年9月30日に倒産[26]。スロベニア経済発展大臣は、新会社が設立される可能性について言及した[27]。 |
脚注編集
- ^ Morris (2019年3月17日). “The slow death of the flag carrier: Could state-owned airlines become a thing of the past?” (英語). The Telegraph. Template:Cite webの呼び出しエラー:引数 accessdate は必須です。 “Malaysia is the latest nation to see its flag carrier – a label that in times gone by indicated a government-owned airline, and one that embodied a country’s national identity – teeter on the brink.”
- ^ McMurtry (2018年5月25日). “Palestinian Airlines: The Homeless Flag Carrier” (英語). AirlineGeeks.com. 2019年6月12日閲覧。
- ^ Moores (2019年5月24日). “Interview: CEO aims to make Virgin Atlantic UK's second flag carrier” (英語). atwonline.com. 2019年6月12日閲覧。
- ^ “flag carrier definition”. Businessdictionary.com. 2013年10月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年5月22日閲覧。
- ^ “List of U.S. Flag Air Carriers”. www.dartmouth.edu. 2019年6月12日閲覧。
- ^ “USOcean.com – U.S. Flag Carrier” (英語). 2019年6月12日閲覧。
- ^ “flag airline definition”. [MacMillan Dictionary]. 2012年7月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年12月9日閲覧。
- ^ Paul Stephen Dempsey. “Airline Management; Strategies for the 21st Century”. Coast Aire Publication. p. 299
- ^ Henry Ladd Smith. “Airways Abroad; The Story of American World Air Routes”. Smithsonian History of Aviation Series
- ^ Anthony Sampson. “Empires of the Sky; The Politics, Contests and Cartels of World Airlines”. Hodder and Stoughton
- ^ Anthony Sampson. “Empires of the Sky; The Politics, Contests and Cartels of World Airlines”. Hodder and Stoughton. p. 82
- ^ Arnold Sherman. “To the Skies: The El Al Story”. Bantam Books
- ^ Anthony Sampson. “Empires of the Sky; The Politics, Contests and Cartels of World Airlines”. Hodder and Stoughton. p. 82
- ^ Tim Pat Coogan. “Wherever Green Is Worn: The Story of the Irish Diaspora”. Palgrave Macmillan. p. 265
- ^ David Warnock-Smith and Peter Morrel. “Air transport liberalisation and traffic growth in tourism-dependent economies: A case-history of some US-Caribbean markets”. Journal of Air Transport Management 14. p. 230
- ^ R.E.G. Davies. “Rebels and Reformers of the Airways”. Airlife England. pp. 250–254
- ^ M. Staniland. “Government birds: air transport and the state in Western Europe”. Rowman & Littlefield Publishers. p. 68
- ^ Tai Hoon Oum and A.J. Taylor. “Emerging Patterns in Intercontinental Air Linkages and Implications for International Route Allocation Policy”. Transportation Journal, Vol. 34, No. 4 (SUMMER 1995). pp. 5–27
- ^ “Open Skies Partners”. [U.S. State Department]. 2012年12月6日閲覧。
- ^ Joanna Mastalerek. “The Future of the Open Skies Agreements after the ECJ judgements – Legal and Economic Aspects”. GRIN Verlag. p. 12
- ^ 著:アンソニー・サンプソン、訳:大谷内一夫『エアライン 世界を変えた航空業界』早川書房 p66、「南米諸国では、パンアメリカンは、アメリカ国務省の付属物であり、アメリカ帝国主義の道具の一つである」の記述あり
- ^ 柴田匡平『ブリティッシュ・エアウェイズの経営 民営化・国際展開とアエロポリティクス1981-2000』中央書院 p62 中華人民共和国が、パンナムを正真正銘のナショナル・フラッグ・キャリアとみなし、台北(台湾)への再乗り入れを抗議した。
- ^ チャーリー古庄『エアライン年鑑 2009-2010』イカロス出版にフラッグキャリアの記述あり
- ^ ワンワールド
- ^ amadeus
- ^ “Adria Airways files for bankruptcy of the company” (2019年9月30日). 2019年10月1日閲覧。
- ^ Kaminski-Morrow, David (2019年10月1日). “Replacing collapsed Adria could take 'a few months': minister”. Flightglobal.com