フルオキセチン (: Fluoxetine) は、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)に分類される抗うつ薬の1つである。商品名プロザック (Prozac) としてアメリカ合衆国イーライリリー・アンド・カンパニーから発売され、後発医薬品も存在する。なお日本では、厚生労働省未承認の処方箋医薬品であり、保険調剤報酬として掲載・販売はない。

フルオキセチン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
  • AU: C
  • US: C
法的規制
  • (Prescription only)
投与経路 経口
薬物動態データ
生物学的利用能72%
6-8時間でピーク
血漿タンパク結合94.5%
代謝肝臓
半減期1-3日(急性); 4-6日(慢性); 活性代謝物のノルフルオキセチンは4-16 日(急性、慢性)
排泄腎臓80%, 腸15%
識別
CAS番号
54910-89-3
ATCコード N06AB03 (WHO)
PubChem CID: 3386
DrugBank APRD00530
ChemSpider 56589
KEGG D00326
化学的データ
化学式C17H18F3NO
分子量309.3 g/mol (345.8 for •HCl)
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フルオキセチンのカプセル剤

主として、うつ病[1]強迫性障害[2]摂食障害に有効とされている。

世界保健機関必須医薬品の一覧に収録されている。

1988年の発売当初は、その効果(重症のうつ病患者には効果が劣るが、軽症から中等症の患者には、三環系・四環系抗うつ剤以上の効果が認められること)から、アメリカ合衆国では「新世代の抗うつ薬」「奇跡の薬」とも言われ、大変な人気を博した。主な副作用としては、吐き気 (21.1%)、頭痛 (20.9%)、神経痛 (14.9%)、自殺リスク[2]である。

適応 編集

うつ病 編集

世界保健機関の『プライマリケア従事者向けガイドライン』では、中等症から重症のうつ病への薬物療法の選択肢の一つとしている[1]。一方で12歳未満への投与は禁止、12歳以上児童青年では第一選択肢であってはならない[3]

強迫性障害 編集

英国国立医療技術評価機構の『強迫性障害ガイドライン』では、成人に対して薬物療法を行う場合の選択肢の一つであり[2]、また児童青年に対しての第一選択肢であるが、その処方は児童青年精神科医の管理下でなければならない[2]

月経前症候群 編集

月経前症候群にも有効なことから、商品名サラフェム (Sarafem) として販売されている。

環境への影響 編集

アメリカ合衆国では抗うつ剤の使用量が増加しており、一般的な下水処理水にも処理し得ない微量のフルオキセチンが含まれている。ポーツマス大学の生物学者、アレックス・フォードは、下水中に含まれる濃度のフルオキセチンがエビ類に与える影響を調査し、行動に変化が生じることを2010年に報告した[4][5]

研究事例 編集

性欲亢進。ゲティスバーグ大学英語版ピーター・フォングは、二枚貝Sphaerium striatinumにフルオキセチンを与えたところ、何も与えない対象群よりも10倍の繁殖力を示したという実験結果を発表している。なお、この実験によってフォングは、1998年にイグノーベル賞を受賞している。

マウスを使った実験で、大脳皮質において神経細胞の再生を促進する例が報告されている[6][7]

脚注 編集

  1. ^ a b 世界保健機関 2010, DEP1.
  2. ^ a b c d CG31 - Obsessive-compulsive disorder: Core interventions in the treatment of obsessive-compulsive disorder and body dysmorphic disorder (Report). 英国国立医療技術評価機構. 2005年11月29日.
  3. ^ 世界保健機関 2010, DEP3.
  4. ^ Guler, Yasmin; Ford, Alex T. (2010). “Anti-depressants make amphipods see the light”. Aquatic Toxicology 99 (3): 397–404. doi:10.1016/j.aquatox.2010.05.019. 
  5. ^ Ravilious, Kate (2010年7月20日). “排水中の抗うつ剤、エビの行動に影響”. ナショナルジオグラフィック ニュース. http://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/2907/ 2016年6月14日閲覧。 
  6. ^ Ohira, Koji; Takeuchi, Rika; Shoji, Hirotaka; Miyakawa, Tsuyoshi (2013). “Fluoxetine-Induced Cortical Adult Neurogenesis”. Neuropsychopharmacology. http://www.nature.com/npp/journal/vaop/naam/abs/npp20132a.html.  accepted article preview 4 January 2013.
  7. ^ 抗うつ薬、脳細胞生成に効果 藤田保健大、マウスで実験”. 2013年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月6日閲覧。

参考文献 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集