ブルーカラー

肉体労働に従事する労働者

ブルーカラー英語: blue-collar[1][2][3][注 1]; blue-collar workers[4][5], blue collar workers[6])とは、賃金労働者のうち、主に製造業建設業鉱業[7]農業林業漁業などの業種[8]の生産現場で生産工程・現場作業に直接従事する労働者を指す[7]概念である[1]。広くは技能系や作業系の職種一般に従事する労働者[8]で、肉体労働を特徴とする[7]。対義語はホワイトカラー[9]

つなぎボイラースーツ)姿の男性
働く肉体労働者(ベネズエラバルキシメト

ブルーカラーは「青い襟」の意で[8]、肉体労働に従事する労働者の制服や作業服の襟などが青系であったことがその語源となったといわれる[6]

概要 編集

雇用者から提供される制服や作業服の襟色にが多いことに由来する。職種としては、土木建築関係(土工鳶職)や、ビルメンテナンス警備員運輸倉庫工員(組み立て作業員、溶接工、旋盤工、塗装工など)・メカニックエンジニア(整備工、修理工、広義の技術者)など多岐にわたるが、狭義では特に「ものづくり」(製造業)の作業に直接携わる工員を指す場合もある。青い藍染めには防虫効果や汗への消臭効果があって昔から広く使われていた。

その一方で、プログラマや営業職などは、外見は「ホワイトカラー」の格好であるにもかかわらず、仕事のスケールやコストが土木などと同様の人月計算による日数と必要人数の掛け算という単純な数式によって算出されており、情報技術業界自体が元請企業であるITゼネコンが下請企業を支配し、仕事と責任を丸投げする産業構造であり、建設土木業界によく似た多層式かつ労働集約型の古色蒼然とした色彩になっている。その末端で従事する従業員は「デジタル土方」と揶揄されるほどにサービス残業(長時間労働)で肉体・精神の両面で大きな負担を負う苛酷な環境で労働していることなどから、ブルーカラーと見なす人も存在する。

また、「ブルーカラー」という語は「中卒(低学歴)でもできる仕事」「頭が悪くて勉強ができないために仕方なく体を使って働く人間」といった下賎なイメージで見られやすい(→3K3D)ため、差別用語ではないかという人もいるが、一部の職業には国家資格を取得しないと就職不可能なものも存在し、冷戦時代のソ連東欧のように、体を使う工員を高貴と見る国も少なからず存在し[10]、アメリカにおいても西部開拓時代に現場で農業や林業を営んでいた先祖たちの精神を「フロンティアスピリッツ」として崇めている面がある。イギリス人も人口の8割が現場のワーキングクラスであるが、それを誇りにしているブルーカラーの人々もいる。そのため、一概に差別用語とは言えない(→レッドネック)。

「青系の制服・作業服」であるが、機械油塗料などの汚れが避けられないため、汚れが目立たないよう青や灰色などの暗い色が好まれる傾向にあった。一方、特に家電電子機器半導体の組み立てなど、埃の飛散が許されないデリケートな環境(クリーンルーム)では、労働者の心理的な環境に配慮し、明るいパステルカラーの作業着を採用していることもあって、必ずしも青や黒や灰色の服装であるとは限らない。

国・地域による差異の例 編集

一般的にブルーカラーとされる溶接工も、中学校か高校を卒業後、見習い期間を通過すれば溶接工の指導や育成にも当たるようになるため、一概に単純な現場作業といいきれなくなり、独立して社長になればスーツを着用する必要も発生しうる。アメリカのホワイトカラーの定義には管理者も入るため、この場合も社長はホワイトカラーとみなすが、イギリスの定義では大学を卒業した技術者はホワイトカラーで、高卒の技術者はブルーカラーなのでこの社長はブルーカラーになる。

日本での動向 編集

リクルート社の発行する現業系・技能系職種専門の求人情報誌ガテン[注 2]の求人情報に掲載されている職種であることから、俗にガテン(系)(がてんけい)とも呼ばれる。なおこの「ガテン」とは「合点がいく」という言葉に由来している。なお職業安定所の求人を除くと、これら職種における現業系職種の求人広告は、『ガテン』誌創刊前はスポーツ紙夕刊紙に大きなウェイトが割り振られていたが、2000年代でもこれらの媒体に頼る傾向も見られる。

労働者階層の分化 編集

日本では、明治時代殖産興業によって工業化が始まり、1910年代になると工業化がより急速に進んだが、この1910年代から次第に「ホワイトカラー(大学院や4年制以上の大学、短期大学、高等専門学校専修学校専門課程は除く)を中心とした高等教育卒業者)」と「ブルーカラー(専修学校専門課程卒業者[11]中等教育卒業者、小学校卒業者)」の区分が明確に意識されるようになり始めた。

この傾向は、第二次大戦後の高度経済成長期以降に加速し、(高校への進学率も低い時代は)中学校を卒業したらすぐに(集団就職などで地方から大都市へ)就職するのが当たり前、とする風潮がまかり通っていたため、雇用者側から「金の卵」と呼ばれて工員になる者が多数いたが、製造業界では合理化の一環としてオートメーション化を推進させ、工員でも高卒以上の学力や技術が要求されるようになった。また、高度経済成長により高校への進学率も上昇し始めたため、それまで担っていた単純労働者の需要が下降すると共に、中学生の就職率が次第に激減し、工員ですらほとんど採用されないほどになった。

3K問題 編集

明治以来の工業社会、なかんずく高度経済成長期以後において、ブルーカラー職種は社会の様々な分野で活躍し、経済を支えてきた。しかし、生活水準が上昇した1980年代頃より、以下の理由から次第に「3K」(汚い・危険・きつい)職種と名指しされ、とりわけ青少年から嫌悪されるようになった。英語圏などの国々でも、「3K」の同義語として「3D」(Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demanding=きつい)が使用されており、「3D」の定義を「Dirty=汚い, Dangerous=危険、Demeaning=屈辱的」とする場合もある。

きつい
  • 重量物(数十kg~100kg以上の資材、家具、家電、工作機械など)の運搬を主(または補助的な作業)として伴うため、肉体的および精神的な負担の大きい作業が多い。
    • マンション高層ビルなどの土木・建築ではクレーンフォークリフトなどで資材の運搬ができるが、引越しなどの作業ではそれらの建設機械が使用できないため、最終的に人力に頼らざるを得ない。
    • エレベーター台車で家具や資材を運搬できれば、肉体的な負担を大幅に低減できるが、5階建以下の集合住宅雑居ビルにはエレベーターが設置されていない[注 3]ため、1階~5階(場合によっては6階以上)まで階段を何度も昇降する必要が発生し、肉体的な負担が非常に大きくなる。
    • 運送業では、扱う荷物の破損などは弁償させられる場合もある。
    • 対象物の形状や重量は、階段を伝っての運搬を考慮していないのもある(運搬用の取っ手がついていないなど)。
  • 物理的に劣悪な環境で作業する必要がある。
    • 高温多湿(あるいは寒冷)な戸外。
    • 粉塵や悪臭など不愉快な環境。
  • 勤務時間や休日が不規則で、長時間労働を強いられる。
    • 24時間体制または年中無休の稼働による2交代ないし3交代の交代勤務
      • 祝日年末年始でも休業できず、毎日稼働する現場もある(運輸業、施設の警備員など)。
      • 年中無休で稼働しているにもかかわらず、完全週休2日制を導入していない企業が多く、休養を十分に取り難い。土・日曜出勤の場合も、半休でない例もある。
      • 年中無休で稼働する(休業日がない)性質上、病気や急用などで欠員が出た場合、非番の労働者に休日出勤を要請されることがある。
    • 始業時刻が厳正なのとは逆に、終業時刻が曖昧で、残業が通常日課、定時退勤が例外になってしまう。
    • 長時間労働や残業や休日出勤を日常的に強いられるため、帰宅しても「飯、浴、寝」しかできず、余暇で学ぶ「人、本、旅」がままならない[12][13]
    • 天候で可能な作業が変化するなど。
  • 知的好奇心や思考力が不要で、動作の速さを要求される。
    • 工場流れ作業は、思考力が弱くても動作が速い人が適切で、思考力が強くても動作が遅い人には不適切。それ故に、「誰でも就ける」と「誰でも務まる」が一致せず、雇用のミスマッチを惹き起こしてしまう。
    • 作業が単調で、独創性に乏しい(マックジョブ)。更に、単純作業一辺倒ではなく、マルチタスクが務まる「多能工」でないと評価されなくなっている。
    • 変化や独創性に乏しい環境で長時間の緊張を強いられ、精神的な負担を伴うことがある。
  • 休憩時間が限られ、作業中は体を清潔にするための時間を十分に取れない。
    • 工事現場、工場、倉庫などではその場で腰を下ろして休憩を取ることができず、所定の休憩所まで移動する必要があり、その分余計な時間をかけることになる。
汚い
  • 機械油や埃(塵埃)の多い場所で勤務すれば、作業服の汚れが避けられない(各自で作業服を持ち帰り、洗濯しなければならない場合もある)。
  • 戸外では土が、雨が降れば泥がある環境では、それらに塗れる場合もある。
  • 作業内容によっては雨天の戸外で活動する必要もあり、業務や納期の必要上、悪天候でも作業を中断できない。
  • 戸外では空調や冷房がないため、必然的に汗まみれになる。
  • 清掃、ゴミ収集や廃品再生など、日常的に汚れを相手にする。
危険
  • 次のような理由から、勤務中に生命に関わる事故(労働災害)の危険を妊んでいる。
    • 工場内の各種工作機械建設機械などの機械類や鋭利な刃物・工具類を扱う、あるいは動作中の機械類の周辺で作業する職種では、機械に巻き込まれたりする事故もある。
    • 職種や作業内容によっては、様々な危険の高い有害物質・大きなエネルギーの使用を必要とする作業もある。
    • 高所・閉所・暗所といった劣悪な環境や、高圧ガスやガスボンベなどを取り扱う環境など、転落・中毒・爆発・火災に巻き込まれる危険を伴う作業が求められる職種もある。
      • 雨天で濡れた階段を上り下りしながら重量物を運搬する場合、一層転落の危険が高くなる。
  • 労働災害や職業病の問題がしばしば発生する。
屈辱的
  • 疲れる割には、ホワイトカラーよりも事故発生時の危険が高く、賃金や身分が低いという不公平感。
    • 賃金の高低はおおむね「技能」や「経験」を基準としており、「肉体的・精神的な負担」「環境の劣悪さ」といった、労働者への負担が考慮されていない。
    • アルバイトや契約社員の場合、「非正規」という理由で正社員より賃金が低く、賞与(ボーナス)も出ない。
    • 土・日・祝日に勤務しても割増賃金が出ない(時給が平日と同額である)ため、モチベーションの維持が困難。
    • 事故が発生した際に、実際に現場で機械の操縦者や法定管理者などとして作業に携わる有資格者にばかり、大きな責任が掛かる。資格取得までの手間や万一の際の資格喪失などのリスクと比べて、賃金や組織内での扱いが見合わず、精神的負担ばかりが大きい。
    • キャリアパス(出世の道)が全く開かれていない。ホワイトカラーのように「自分で方向を決められる者」になれず、工場長などへの昇進も望めない。
  • ブルーカラーが設計や商品開発に参加できない。
    • 他人が描いた見取り図を組み立てる「ジグソーパズル型」能力ばかりが重視され、自分で見取り図を描いて組み立てる「レゴ型」能力が蔑視される[14]。どんなに美しい製品が完成しても、それは自分で描いた見取り図ではない。
    • ブルーカラーは部品の追加や削除といった些細なことすら言う権利が無い(隷従だけを強いられる)のに、設計員や商品開発員は現場作業を全くやらずにブルーカラーに要求ばかり強いている。
  • とりわけ2003年小泉純一郎政権によって製造業への派遣労働が解禁された結果、ブルーカラーの「短期間の大量採用、大量解雇」が頻繁に起こり、ブルーカラーは「短期間の使い捨て要員」と見なされている(→プレカリアート秋葉原通り魔事件派遣切り)。

これらの要因によって、バブル景気の時期には、日払いで10,000円強の高給でもブルーカラーは嫌悪され、社会全般とりわけ学生・生徒・児童の間にも、ブルーカラーを嫌悪してホワイトカラーを志向する傾向や、製造業を嫌悪して製造業以外を愛好する傾向が高くなった。バブル崩壊後、すなわち冷戦後の現在もこのブルーカラーや製造業への嫌悪は変わっておらず、ブルーカラーや製造業への嫌悪は高校・大学の進学率の高さにも現れている。
そして、冷戦後の30年以上に亘る長期の不況や製造業への過剰適応によって、ホワイトカラーになれず、仕方なくブルーカラー(言わば「でもしか工員」)となる大学卒業者も現れた。また、「工業社会情報社会」への変化と、製造業への過剰適応によって社会が硬直している点を指摘し、「脱製造業」を唱える論者(藤原和博出口治明など)も現れている。職種別の賃金格差が小さければ、衛生的で安全そうなホワイトカラー職種のほうが(多少賃金が安くても)「より快適な職場」だと考えられた。

労働者不足 編集

ブルーカラー職種は製造業や土木・建設業、運輸業などを支える労働力として、ホワイトカラー同様に経済成長を支える重要な役割を果たしていることに誤りはなく、これらの地味だが社会に不可欠な職種では、深刻な人手不足も発生した(中卒者にもできる作業であっても、18歳未満では深夜業が禁止されていることと、日雇い派遣によるワンコールワーカーでは建設業への派遣が禁止されているため、なおさら深刻な問題となる)。この時代では、深刻な労働力不足から(一定の条件付きで)中卒者に代わり、外国人労働者の受け入れや高給の保証などの変革も行われた。

また、人手が不足していたバブル期の一頃は、長年にわたって係争も見られた労災や職業病の問題を放置すると労働者が集まらず、退職者の増加や短期離職率の上昇につながりかねないため、労働者の負担を軽減する機器の導入で、「汚い、危険、きつい」の3K問題を少しでも軽減したり、労働者を保護する方策や業務上必要な資格の取得の支援などのキャリアアップ支援を行う企業が散見された。

ブルーカラー職種の再評価 編集

その一方で、バブル崩壊後の1990年代半ばから2000年代初頭にかけての深刻な不況の中で、ホワイトカラーの職種では労働力の供給過剰から、大量リストラも見られるようになった。またホワイトカラー職種の労働環境が往々にしてストレスが多く、精神疾患や過労死が社会問題として取り沙汰されるようになり、必ずしもブルーカラー職種よりも快適だとはいえないと見なされるようになった。しばしば脱サラに絡んで、ホワイトカラー職種への忌避も見出され、相対的に第一次産業とブルーカラー職種の社会的重要度や職場環境も見直される風潮も出ている。

また従来は、ホワイトカラー業種より賎しく労働環境も劣るとして嫌悪されていたブルーカラー職種にも、1991年に創刊された『ガテン』誌の影響もあって、従来の忌むべき労働環境といったイメージも軽減されるようになっている。

しかし、平成不況の折、就職氷河期における深刻な就職難からフリーターが増加したことや不況に伴う仕事量の減少もあり、1990年代後半から単純労働力(→プレカリアート)の不足が解消され、一頃の過当競争的の様に人員の確保に走る必要がなくなったので、現在では手取り賃金がホワイトカラー職種を圧倒的に上回るような状況は見られなくなり、高賃金や従業員の労働環境、キャリアアップ支援の充実を謳う職場も少なくなった。

労働者形態の流動化 編集

なお2000年代に入っては、ワーキングプア問題が取り沙汰される一方、ワンコールワーカーネットカフェ難民などの流動化した労使関係のひずみともいえる社会問題も見え隠れした。これらの現象は2006年頃より社会問題として注目を集め始めたものであり、労働者人口の総数や実態に関しては2007年に調査が始まったに過ぎず、政府側の対応も後手に回った。

偽装請負問題 編集

2006年朝日新聞が製造業の現場における偽装請負を取り上げ始めたことを契機に、ブルーカラーの労働環境が劣悪であることが明らかになった。詳細は該当項を参照。

労働階層と意識 編集

2019新型コロナウイルス (SARS-CoV-2) によって世界的に経済は低迷し、労働市場は明確さを醸し出している。(国を維持する最低限の社会インフラに必要不可欠な労働者とはエッセンシャルワーカーを参照)

脚注 編集

  1. ^ blue-color」(青い色)ではない。
  2. ^ 1991年創刊、2009年「タウンワーク」に統合廃刊。
  3. ^ 5階建以下の建造物(集合住宅、雑居ビルなど)ではエレベーターの設置義務がなく、任意でごく一部の建造物にしか設置されていない。
出典
  1. ^ a b 日本大百科全書(ニッポニカ) - ブルーカラー・ホワイトカラー コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  2. ^ デジタル大辞泉 コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  3. ^ 大辞林 第三版 コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  4. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  5. ^ 世界大百科事典 第2版 コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  6. ^ a b 人材マネジメント用語集 コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  7. ^ a b c 日本大百科全書(ニッポニカ) - ブルーカラー・ホワイトカラー #ブルーカラー コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  8. ^ a b c ナビゲート ビジネス基本用語集 コトバンク. 2018年11月4日閲覧。
  9. ^ 山田俊雄吉川泰雄編 『角川新国語辞典』 角川書店、1990年(94版発行)、1104頁。ISBN 4-04-011600-3
  10. ^ ソ連の社会主義労働英雄を始め、社会主義各国で叙勲や表彰が制定されている。朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の朝鮮民主主義人民共和国労力英雄のように、肉体労働者に限らず、広い層の人民に与えられる例もある。
  11. ^ 一部の企業で短期大学や高等専門学校卒業者もブルーカラーとして扱われている。
  12. ^ 出口治明「働き方改革を進めなければ日本に未来はない」 毎日新聞 2020年11月30日
  13. ^ 出口治明「スティーブ・ジョブズのような人材を」読売新聞 2018年4月3日 05:20
  14. ^ 藤原和博「成長社会から成熟社会のターニングポイントで生き残れる人、生き残れない人の分かれ目とは?」 ダイヤモンド・オンライン 2023年3月19日 3:56

関連項目 編集