ベイクドビーンズ: Baked beans)とは、インゲンマメを甘辛いソースで調理した料理である。名前のとおりオーブンで蒸し焼きにしたものもあるが、通常は名前に反して煮て作られる。英語の発音上は「ベイクト」ビーンズがより近い。

トーストに乗せたスクランブルエッグとベイクドビーンズ

缶詰として販売されるベイクドビーンズの多くは、ネイビービーンズまたはアリコ・ビーンズ(Haricot beans)と呼ばれる白インゲンマメから作られる。アイルランドイギリスのベイクドビーンズにはトマトソース砂糖が最も良く用いられる。アメリカ合衆国ボストンでは、ソルトポーク廃糖蜜から作るソースを用い、街自体が「ビーンタウン」と渾名されるほど人気がある。メイン州ケベック州のベイクドビーンズには、しばしばメープルシロップが用いられる。缶詰のベイクドビーンズは温めて食べたり、手軽なおやつとして缶から直接食べたりもする。

歴史 編集

 
ビーンポット

ベイクドビーンズに使われる豆は全て北アメリカに自生するものであり、1528年にイタリア、1528年にフランスに導入された。

インゲンマメ、カボチャトウモロコシ共栄作物であり、三姉妹英語版という農法によって、アメリカ州の先住民族によって一緒に栽培されてきた。

別の説によると、水夫によってフランス南部からカスレが伝わるか、フランス北部やチャンネル諸島からの豆の煮込み料理が伝わったと言われている。おそらく、様々な地域に由来する類似料理のレシピが北アメリカで融合して混ざり合い、最終的に今日のように親しまれているベイクドビーンズになったものと考えられる。

今日の多くのレシピでは豆を煮込むが、伝統的には焼き物や鋳鉄製のビーンポット英語版で下煮した豆をソースと共に蒸し焼きにして作る。ペノブスコット族英語版の習慣に起源を持つかもしれないメイン州の伝統的な料理法「ビーンホール調理」では、石を敷いた穴に薪を置いて火をつけ、炭になったところに味をつけた豆11ポンド[1] を入れたポットを置き、土をかけて一晩またはそれ以上蒸し焼きにする。こうして調理されたベイクドビーンズはメイン州の伐採キャンプには欠かせないもので、毎食提供された[2]

豚肉を入れた豆の缶詰は、簡易食品の中でも最初に作られたものであり、20世紀初めにイギリスで経営されていたアメリカの会社によって輸出され、広まった。塩漬けの豚肉と豆をトマトで煮た缶詰が1860年代に南北戦争中のアメリカ陸軍兵士に支給された[3]

アメリカ食品医薬品局は1996年に、「'beans with pork'または'pork and beans'という名前の商品にほとんど豚肉が含まれないことが消費者に広く理解されるまでに何年もかかった」と述べている[4]

イギリス 編集

 
イングリッシュ・ブレックファスト

イギリスとその旧植民地では、ベークドビーンズというとトマトソースで煮た缶詰を指す。ベイクドビーンズはフル・イングリッシュ・ブレックファストに欠かせないものだと考える人もいる。近年は他のブランドが追い上げてきてはいるが、伝統的なベイクドビーンズのトップブランドとして、「ハインツ」はそれ自身がベイクドビーンズと同義で使われている[5]。 ハインツのベイクドビーンズは、1886年にロンドンの高級百貨店フォートナム・アンド・メイソンで、高価な舶来品として初めて売り出された[6]

今日ではむしろ安価な食べ物であるが、伝統に則ってハインツのベイクドビーンズは今でも高価な容器に入れて売られている。

イギリスのスーパーマーケットでは、プライベートブランドのベイクドビーンズを1缶当たり30ペンス以下で販売している[7]が、有機農産物ブランドのものでは1缶1.50ポンドを超えることもある。スーパーマーケットでは、ベイクドビーンズはしばしば仕入れ原価を下回る程の古典的な「目玉商品」である。ベイクドビーンズは、ソーセージやベーコンとともに副菜になったり、ピザのトッピングになったり、他の食物と組み合わせて用いられることが多い[要出典]

アメリカ合衆国 編集

 
バーベキューポークサンドイッチとベイクドビーンズ

アメリカ合衆国では、ブッシュ・ブラザース英語版ヴァン・キャンプス英語版、B&M、アレンズ、ハインツ、キャンベル・スープ・カンパニーがベイクドビーンズの大手製造元として良く知られている。ブッシュ・ブラザースとヴァン・キャンプスは様々なベイクドビーンズを作っているが、B&Mのものはほとんどがボストン風である。これらの製品の多くは、自家製のものと比べて、塩味よりも甘味が勝ったソースを使用している。

ハインツのベイクドビーンズは、イギリスで売られているものと、アメリカで販売されている同等品 (Heinz Premium Vegetarian Beans) の間には大きな違いがある。アメリカ向けの製品には、イギリス向けの製品には入っていないブラウンシュガーが含まれ、イギリス向けの製品に含まれる糖分が1缶あたり7gなのに対して、14gもの糖分が含まれる(熱量は、90カロリーに対して140カロリーである)。また、アメリカ向けの製品の方がより柔らかい食感で、色も若干暗い。

長年の間、イギリス風のハインツのベイクドビーンズは、単なる「ビーンズ」という商品名で、「輸入品」という扱いで売られていた。ただし大きさは、本国の415gに対して385gであった。

ニューイングランドでは、北部ではベイクドビーンズに通常は甘みを付け、ソルトポークとともに石窯で6から8時間かけて蒸し焼きにする。

南部東海岸では、ソースにマスタードを入れるため若干辛い。またベーコン挽肉が入ることも多い。

その他 編集

 
ガーンジービーンジャー
 
ポーランドの「ブルターニュ風豆」
 
ベイクドビーンサンドイッチ

多くの地域に、ベイクドビーンズと似た伝統的料理がある。

ベイクドビーンズのサンドイッチ等、ベイクドビーンズを用いた変わった料理が多数存在する。ベイクドビーンサンドイッチ英語版は、その名のとおりパンにベイクドビーンズや溶けたチーズ等の副材料を挟んだものである。

健康 編集

2002年、イギリス栄養士会協会: Guideline Daily Amount)は缶詰のベイクドビーンズの製造者に対して、1日に摂取が望まれる野菜の量の5/6を取ることが出来ると宣伝することを認めた。この譲歩については、砂糖や食塩の過剰摂取を指摘する循環器学者によって批判された。しかし、正常なコレステロール値を示す人でも、ベイクドビーンズの摂取が総コレステロール値と低比重リポタンパク質値を低下させることがわかっている[8][9]砂糖と食塩の使用を控えたヘルシータイプの製品を提供する製造者もいる。

鼓腸作用 編集

ベイクドビーンズの摂取は、ときおり食後にの発生を促すことでも知られている[10][11]。これは多糖(特にオリゴ糖)が腸内細菌メタノブレヴィバクター・スミシー英語版によって発酵させられることが原因である。オリゴ糖はそのまま小腸を通過し、大腸に達すると細菌がそれを分解し、大量の腸内ガスを生成する[12]

脚注 編集

  1. ^ Common Ground's Bean Hole Beans”. Mofga.org. 2012年11月2日閲覧。
  2. ^ Foodways Research: A Taste of Maine Archived 2009年8月18日, at the Wayback Machine., Maine Folklife Center
  3. ^ Conagra Foods
  4. ^ New York Times article That's What and Beans? Pork Defends Its Image published April 1, 1998
  5. ^ Baked Beans - Icons of England”. Icons.org.uk. 2009年2月25日閲覧。
  6. ^ 1815: Our Waterloo”. F&M (2006年5月11日). 09/01/2009閲覧。
  7. ^ Tesco Price Check - Online Shopping Price Comparison for Groceries - Tesco.com”. Tesco.com. 2009年2月25日閲覧。
  8. ^ Susan M. Shutler, Gemma M. Bircher, Jacki A. Tredger, Linda M. Morgan, Ann F. Walker and A. G. LOW (1989). The effect of daily baked bean (Phaseolus vulgaris) consumption on the plasma lipid levels of young, normo-cholesterolaemic men. British Journal of Nutrition, 61, pp 257–265 doi:10.1079/BJN19890114.
  9. ^ Donna M. Winham, Andrea M. Hutchins. Baked bean consumption reduces serum cholesterol in hypercholesterolemic adults. Nutrition research (New York, N.Y.) 1 July 2007 (volume 27 issue 7 Pages 380–386 doi:10.1016/j.nutres.2007.04.017).
  10. ^ “Health | Experts make flatulence-free bean”. BBC News. (2006年4月25日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/health/4943486.stm 2009年2月25日閲覧。 
  11. ^ Flatulence - Overview - Introduction”. Nhs.uk. 2009年2月25日閲覧。
  12. ^ McGee, Harold (1984). On Food and Cooking. Scribner. pp. 257?8. ISBN 0-684-84328-5 

外部リンク 編集