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ベクター (遺伝子工学)

遺伝子工学

ベクター (vector) とは、ラテン語の運び屋 (vehere) に由来し、遺伝子組換え技術に用いられる、組換えDNAを増幅・維持・導入させる核酸分子。 挿入するDNA断片の大きさや挿入の目的によって、それを挿入するために様々な特徴を付加された媒体がベクターとして使い分けられる。また、単なるライブラリーをつくるためのベクターや、ひとまずクローニングするためのベクター、挿入したDNA断片からタンパク質翻訳させる発現ベクターなどがある。

プラスミドベクター編集

プラスミドを改変してベクターとして利用する。

クローニングベクターの例 模式図  

lac promoter: ラクトースオペロンの広義のプロモーター。イソプロピル-1-チオ-β-ガラクトシド (IPTG) 等の存在下でlacZ αとMCSに挿入された配列を転写する。

MCS: マルチクローニングサイト。様々な制限酵素に認識される配列が存在する部位。これを適当な制限酵素で切断し、外来のDNA配列を挿入する。

lacZ α: lacZのα断片。MCSに外来DNAが挿入されると機能するlacZ αタンパク質が翻訳されなくなる。このため、lacZ ωをもつ宿主形質転換した際にブルー・ホワイトセレクションで挿入断片の有無を簡易検定できる。

ampicillin resistance gene: 抗生物質耐性遺伝子の一種。アンピシリン存在下でも宿主の大腸菌が増殖することを可能にする。従って、このベクターをもっている大腸菌のみを選択的に得ることができるようになる。他の抗生物質の耐性遺伝子を持つベクターもある。

ColE1: 大腸菌内でプラスミドを複製するための複製起点。比較的多数のプラスミドを1細胞内に保持する。

pBR322

1977年に構築された、初期型(古典型)クローニングベクターの最終形。アンピシリン耐性遺伝子とテトラサイクリン耐性遺伝子をもち、制限酵素サイトを利用して目的遺伝子のクローニングが可能。ColE1型で、1細胞当たり15–20のプラスミドが保持される。このpBR322をもとに改良型の多くのプラスミドベクターがつくられた。

pUCプラスミドベクター

pUC19/pUC18。アンピシリン耐性。挿入DNA断片の有無をブルー・ホワイトセレクションで判別でき、通常サブクローニング実験やプラスミドの大量調製に利用されている。ColE1型で、1細胞当たり500–700のプラスミドが保持される。

pET系プラスミドベクター

T7プロモーター支配下に目的遺伝子を連結し、T7 RNA polymeraseによるT7プロモーターからの特異的転写を利用した誘導型高発現プラスミドとして主に利用される。アンピシリンあるいはカナマイシン耐性。ColE1型で、1細胞当たり15–20のプラスミドが保持される。

コスミドベクター編集

フォスミドベクター編集

ウイルスベクター編集

ウイルスファージ細菌に感染するウイルス)の複製系を利用する。完全な複製能を持つλファージベクターやRSVベクターなどのウイルスベクターを除き、組換えウイルスは多くの場合、単独ではウイルス粒子へとパッケージングされない。そのため、欠失遺伝子を補う目的でパッケージング細胞を作成し、それに感染させる必要がある。この細胞から生じた組換えウイルスは宿主に感染すると外来遺伝子を発現できるが、パッケージングに必要な遺伝子を持たないので自己複製はできない。この性質を利用して、ヒトに対する遺伝子治療に用いられることもある(レトロウイルスアデノウイルスアデノ随伴ウイルスなど)。

人工染色体ベクター編集

  • YAC (Yeast artificial chromosome) ベクター: 出芽酵母を宿主とする人工染色体ベクター。クローン化できるDNA断片が数 Mbと巨大なので長大なコンティグを作成する際に適するが、キメラクローンを生じやすいこと、クローン化した断片を安定に保持できないことが欠点。
  • BAC (bacterial artificial chromosome) ベクター: 大腸菌を宿主とする人工染色体ベクター。大腸菌プラスミドの一種Fプラスミドの複製系を利用する。最大約300 kbの断片を安定にクローン化することができる。
  • PAC (P1-derived artificial chromosome) ベクター: ファージP1の複製系を利用したクローニングベクター。BACと同様、最大約300 kbの断片を安定にクローン化することができる。

参考文献編集

  • 『生化学辞典 第4版』東京化学同人、2007年。ISBN 9784807906703
  • pUCプラスミドにまつわるエトセトラ 生物工学基礎講座 バイオよもやま話 (PDF) - 日本生物工学会

関連項目編集

外部リンク編集