ペスト流行時の酒宴』(ペストりゅうこうじのしゅえん、: Feast during a plague: Das Gastmahl während der Pest)は、ロシアの作曲家ソフィア・グバイドゥーリナ2005年に作曲した管弦楽作品である。

作品はプーシキン戯曲『黒死病流行時の饗宴』を題材としている。

作曲の経緯 編集

作品はフィラデルフィア管弦楽団ピッツバーグ交響楽団による共同委嘱によって制作された[1]

グバイドゥーリナはプログラムノートにて、作品について次のように述べている。

現代の多くの人々は、人類を覆う災厄、社会の道徳的レベルの低下、魂に蓄積された憎しみを認識し、感じ取っています。このような病的な状況と、多くの人々が宴を楽しみたいと思っているという事実とのコントラストが、逃れることのできない精神状態を作り出している...しかし、これはこの曲の最も表面的なレベルに過ぎない。しかし、これは作曲の最も表面的なレベルに過ぎません。この作品のポイントは、精神の状態を表現することではなく、その状態に匹敵する純粋な音楽的メタファーを創造することにあります。

作品は世界初演を担当したサイモン・ラトルに献呈された。

初演 編集

世界初演は2006年サイモン・ラトル指揮、フィラデルフィア管弦楽団によって行われた[2]

日本初演は2020年1月15日に、下野竜也指揮、読売日本交響楽団の演奏によって行われた[3]

編成 編集

フルート4(ピッコロ持ち替え2)、オーボエ4、クラリネット3 (小クラリネット持ち替え1)、バスクラリネットファゴット4 (コントラファゴット持ち替え1)、ホルン6、トランペット4、トロンボーンバストロンボーン2、テューバティンパニパーカッション3、ハープ2、ピアノ (チェレスタ持ち替え)、エレクトロニクスの録音、弦楽合奏[4]

楽曲構成 編集

演奏時間は約26分。

作中、音数が「1、2、3、4、6、7、9」という順番で増幅し、また反対に収束していくモチーフが主題となる。これらはホルンやチェロ、コントラバス、あるいは打楽器といった低音楽器などを中心に提示され、音楽の緊張感が高まるにつれ、図形譜によって表現されたウィンドチャイムとハープによる音色を皮切りに幻想的な雰囲気に変化する[5]。後半には再び冒頭のモチーフが登場し、緊張感が再び高まると、テクノ調の電子音楽の録音が断続的に再生される。最後は打楽器のみによる冒頭のモチーフがドラムロールのように演奏され、トライアングルのトレモロの中で、シロフォンの和音が何度か打たれて音楽は終了する。

評価 編集

雑誌「ザ・ニューヨーカー」のアレックス・ロスは「一方では悲惨な状況、他方では頭の中が空っぽの快楽を求めるなど、引き裂かれた世界を鋭く見据えることを意図していましたが、彼女は自分のビジョンにふさわしいメタファーを見つけたのです。」と評価した[6]

新聞「フィラデルフィア・インクワイアラー」のデビット・パトリック・ストリーンズは「グバイドゥーリナの終末論的なメッセージは、典型的な音楽の構成方法を消滅させてしまうものだが、この異常に直接的な作品は、古典的な交響曲の形式を数多く参照している...。展開が始まると新しい要素が入ってくる(モーツァルトの古い手法)...。そのような形式的な期待があったので、機械的に録音されたリズム・トラックが作品の他の部分と調整されずに登場したことは、より一層注目を集めました...。最終的にこの作品は、感覚的な錯乱と精神的な変容の間の奇妙なゾーンに生息しています。このようなことができる作曲家が他にいるでしょうか。」と評価した[6]

脚注 編集

  1. ^ Sofia Gubaidulina: “Feast During a Plague”” (英語). www.wisemusicclassical.com. 2021年7月23日閲覧。
  2. ^ Performances” (英語). www.wisemusicclassical.com. 2021年7月23日閲覧。
  3. ^ 第594回定期演奏会 | コンサート | 読売日本交響楽団”. yomikyo.or.jp. 2021年7月23日閲覧。
  4. ^ Feast During a Plague | Sofia Gubaidulina” (英語). www.wisemusicclassical.com. 2021年7月23日閲覧。
  5. ^ 8906278. “Gubaidulina FEAST DURING A PLAGUE” (英語). Issuu. pp. 68-69. 2021年7月23日閲覧。
  6. ^ a b Feast During a Plague | Sofia Gubaidulina” (英語). www.wisemusicclassical.com. 2021年7月23日閲覧。