ペッパーズ・ゴースト英語Pepper's ghost)は、劇場などで使用される視覚トリックである。板ガラスと特殊な照明技術により、実像と板ガラスに写った「幽霊」を重ねて見せることで、効果を発揮する。実像と「幽霊」はぶつかることなく交差し、照明の調整により「幽霊」を登場させたり消したりすることができる。イギリス王立科学技術会館Royal Polytechnic Institution、現在はウェストミンスター大学University of Westminster))の講師(のちに館長)であったジョン・ペッパー(John Pepper)に由来する。

赤い枠を通して舞台を見ている観客には、テーブルの横に「幽霊」が見えている。この「幽霊」は、観客から隠された舞台にいる実体を、緑の枠に置かれた板ガラスが反射したものである。
隠された舞台が暗いと、板ガラスはなにも反射せず、 「幽霊」のいない舞台が見える。
隠された舞台の「幽霊」にスポットライトが当たると、「幽霊」が出現する。

仕掛け 編集

観客から見えている舞台のほかに、もうひとつの隠された舞台が用意される。隠された舞台の壁、床、天井は光を反射しないよう黒く塗られている。観客と舞台のあいだに45度の角度で板ガラスが設置されており、隠された舞台が暗いときには、板ガラスを通して本来の舞台のみが見えている。ここで、隠された舞台にいる「幽霊」にスポットライトを当てると、板ガラスに反射して観客に見えるようになる。板ガラスの存在に気付いていない観客には、舞台に突然「幽霊」が登場したように見えるのである。

この仕掛けを利用している施設としては、ディズニーテーマパークにあるホーンテッドマンション(Haunted Mansion)、ファントムマナー(Phantom Manor)が有名である。

ダークスとペッパー 編集

この仕掛けを最初に考案したのは、ヘンリー・ダークス(Henry Dircks)で、発明者の名前をとって「ダークスのファンタスマゴリア」(Dircksian Phantasmagoria)と名付けられた。1862年に、ダークスは王立科学技術会館Royal Polytechnic Institution)で展示を行い、これを見たのがペッパーであった。

ダークスの展示を見たペッパーは、仕掛けを改良し、1862年クリスマス・イヴに興行を行った。チャールズ・ディッケンズ原作の『憑かれた男』(「クリスマス・ブックス[1]」の第5作)の舞台である。この興行は好評を博し、翌年、ペッパーとダークスの連名で特許を取得する。やがて、「ダークスのファンタスマゴリア」は「ペッパーズ・ゴースト」として大流行することとなった。

脚注 編集

  1. ^ 以下の5作品:『クリスマス・キャロル』(A Christmas Carol, 1843年)、『鐘の音』(The Chimes, 1844年)、『炉辺のこおろぎ』(The Cricket on the Hearth, 1845年)、『人生の戦い』(The Battle of Life, 1846年)、『憑かれた男』(The Haunted Man and the Ghost's Bargain, 1848年)

関連項目 編集